日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
P-NETに対する外科治療と集学的治療
青木 琢國土 典宏
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2013 年 30 巻 4 号 p. 262-265

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抄録

膵原発神経内分泌腫瘍(P-NET)は,他臓器原発NETと比較し悪性例,転移陽性例の頻度が高いため,原則として全例治療適応となる。治療の第一選択は外科切除であり,原発巣の切除術式は腫瘍のサイズ,主膵管との位置関係,悪性の可能性に基づき決定されるが,リンパ節郭清の基準,縮小手術の適応基準はいまだ明確にはされていない。遠隔転移,特に肝転移の制御は予後の観点から臨床的には最重要課題の一つと考えられる。遠隔転移例に対しても切除可能であれば切除が推奨されるが,治癒切除率は高くなく,また切除後高率にみられる再発に対する有効な治療法が開発されていない点が問題となっている。切除単独療法による根治が困難である現在,抗腫瘍治療(ホルモン治療,抗癌剤,分子標的薬)と外科治療のさまざまな組み合わせが期待されており,長期生存から治癒を目指したストラテジーへの転換が求められている。

はじめに

神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor,NET)は神経内分泌細胞に由来する腫瘍の総称であり,近年その発症頻度は増加傾向にあると報告されている[]。NETは体のさまざまな臓器に発生しうるが,消化管・膵はその好発部位であり(GEP-NET),特に膵原発NET(P-NET)は,比較的進行が緩徐とされるNETの中では悪性度が高く,転移の頻度も多いとされている。そのため,膵NETは本質的に悪性疾患と考えるべきであり,全例が治療の対象であると考えられる。一方,NETは非常に多彩な病態を示すため,分泌するペプチドのホルモン活性の有無(機能性NETと非機能性NET),随伴する遺伝性疾患の有無などを考慮して治療法を選択する必要がある。また,遠隔転移例,特に肝転移例は治療後の再発が高率にみられ,根治が非常に得られにくいにも関わらず,病悩期間は長期に亘ることが少なくなく,多数の治療法の組み合わせによる長期のマネージメントが必要とされる例が少なくない。本稿では,P-NETの原発巣,転移巣に対する外科治療と,外科治療を中心とした集学的治療につき概説する。

1.膵神経内分泌腫瘍(P―NET)の特徴

前述の通り,多くの臓器に発生しうるNETの中で,P-NETは悪性度が高く(高分化型の中でもNET G2症例が多い),遠隔転移の頻度も高いと報告されている。我が国と欧米とではNETの発生部位の分布に大きな差異が認められるが,P-NETに関しては本邦の新規発症率は欧米のそれの数倍に相当している(日本の人口10万人あたりのP-NET年間新規発症率は1.0~1.3人であるのに対し,欧米では0.2~0.3人)[]。従って,P-NETの治療は本邦のNET治療成績向上のため非常に重要な位置を占めると考えられる。

P-NETは分泌するホルモンの臨床症状を伴うか否かによって機能性P-NET,非機能性P-NETに分類される。機能性P-NETはインスリン,ガストリン,グルカゴン,ソマトスタチン,VIPなど多彩なホルモンを分泌するが,分泌するホルモンの種類により悪性の頻度,臨床経過が大きく異なるため,病態に即した治療法選択,術式選択が求められる点が特徴となり,根治を目指すと同時に,ホルモン症状のコントロールが治療のエンドポイントの一つとなる。一方,非機能性NETには悪性例,転移陽性例が多いこともあり,予後向上のための,転移巣を含めた腫瘍コントロールを目指した戦略が求められる。

2.P―NET原発巣に対する外科治療

P-NETは転移のポテンシャルを持った悪性腫瘍であるとの認識が必要で,そのため原則として全例が治療対象であると考えられる。その中で,外科切除は原発巣治療のため第一に考慮されるべき治療法であり,数種公表されているNET診療ガイドラインのいずれにおいても,まず切除の可能性が検討されるべきとされている[,]。しかし,至適な切除術式に関しては統一された見解はなく,腫瘍のグレーディング(G1,G2,G3)や腫瘍サイズ,想定される悪性の可能性や,併存する遺伝疾患や患者年齢なども考慮して施設ごとに判断しているのが現状である。ただし,低分化型P-NET(NEC G3,Ki-67>20%)は切除を行ってもその予後は極めて不良であることが報告されており,切除の適応とはせず全身化学療法を行う施設も多く,われわれもNECは切除対象とはしていない。NECの診断を術前に行うためには腫瘍の生検もしくは細胞診,多くの場合超音波内視鏡を用いた腫瘍針生検が必要となり,Ki-67 labeling indexの測定を含めた診断能を上げる必要がある[]。

膵の切除術式としては腫瘍核出,膵切除術(膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除,膵分節切除など)が考えられ,それにリンパ節郭清を行うか,行うとすればどの程度行うか,また膵体尾部病変の場合に脾臓を温存するかなどの判断により術式が決定される[]。術式選択には腫瘍のサイズおよび主膵管との位置関係が最も重要な因子であり,腫瘍の悪性度もそれに加味される。われわれは機能性,非機能性の別によらず主膵管が安全に温存可能であれば核出術をまず考慮するが,核出術の適応を1cmまであるいは1.5cmまでとしたり,適応をインスリノーマなど良性の頻度が高い機能性P-NETに限定したりしている施設もあるようである。ただし,術式の実態が大規模な集計で捉えられているわけではなく,コンセンサスを得るためには今後学会を中心としたサーベイランスが必要である。また,核出術後は膵液漏の頻度が高く,難治性となることもしばしば経験されるため,切除範囲が小さい=侵襲が小さい手術とは必ずしもならないことを強調しておきたい。

P-NETのリンパ節転移を術前画像に基づいて診断することは困難であり,至適なリンパ節郭清範囲の設定は今後の課題である。画像上悪性が疑われる場合,ガストリノーマやグルカゴノーマ,非機能性NETなど悪性の頻度の高いP-NETの場合はリンパ節郭清が広く行われているが,予防的郭清の意義は明らかにされておらず,今後ランダム化試験などで検証される必要がある[]。しかしながら,当科症例の検討では,術前画像でリンパ節腫大が指摘されておらず,術中腫瘍近傍のリンパ節を切除した症例の20%程度に転移を認めており(未発表データ),膵切除が必要なサイズの腫瘍切除に際しては近傍リンパ節郭清を行う意義がある可能性がある。一方,核出例(リンパ節非郭清例)にリンパ節転移再発例は経験しておらず,リンパ節転移の頻度は腫瘍サイズと相関している可能性も考えられる。

一方,遺伝性疾患(multiple endocrine neoplasia(MEN)type1やvon Hippel-Lindau病など)に伴うP-NETの切除には配慮が必要である。特にMEN type1患者の場合,若年患者が多く,同時性多発,異時性多発することも考慮して機能温存手術や,場合により経過観察を選択する場合もあり得る。一方でMEN type1に伴うNETはガストリノーマが多く,従って悪性の頻度も高いため,根治性も両立させる必要があり,術式選択に悩むケースも存在する。

転移を伴わないP-NET原発巣切除後の予後は非常に良好であり,切除後の5年生存率はおおむね80%超,10年生存率も70%前後と報告されている。そのため,近年インスリノーマを中心に腹腔鏡下切除が行われるようになっている。その場合も,良悪性の見極め,リンパ節郭清の必要性の評価が必要になってくるため,術中リンパ節サンプリング,術中迅速組織診の必要性を強調するグループもある[]。

3.P―NET遠隔転移巣に対する外科治療

P-NETの遠隔転移,特に肝転移は重要な予後因子であり,遠隔転移例の予後向上のためには肝転移の制御が最重要課題である。以前の文献では,P-NETの自然経過中,半数以上の患者に肝転移が出現するとあり,肝転移に対し根治的切除が行えた場合の5年生存率が60~80%であるのに対し,手術以外の治療が行われた場合には50%,無治療であった場合は20%まで低下すると報告されている。[]これら従来の報告に基づき,P-NET肝転移に対する第一の治療法として,大腸癌肝転移などと同じくRCTなどによる比較検討はなされていないものの外科切除が推奨されている[1011]。ただし,NETの肝転移は,(1)微小な転移巣が散在し,完全切除が困難であるケースが多い,(2)通常の術中エコーでは検出できない病変が多く,認識できないことによる遺残のリスクがある,(3)切除後の再発が極めて高率である,などの問題を抱えている。(3)は,(1)や(2)などの診断に関する問題点の反映である(完全切除が多くの症例で出来ていない)可能性もあるが,肝移植を行った症例でも移植肝への再発は高率であり,腫瘍本来の性質による可能性も含まれていると考えられる。近年,EOB-MRIやSonazoidを用いた造影超音波が普及し,術前・術中画像診断能は飛躍的に向上しており,より正確な画像診断に基づく治療方針策定が可能となった。これら画像診断能の向上により,腫瘍個数が従来画像で認識できるものの数倍に増えるケースもあり,P-NET肝転移に対する治癒切除の困難性が再認識されることになっている[12]。各学会は画像所見に基づく肝切除適応のアルゴリズムなどを提唱している[13](図1)が,こういったガイドラインも画像診断の進歩に合わせて改正されねばならず,また肝切除を従来積極的に行ってきた我が国の治療方針とかみ合わない部分もある。そのため,我が国の実情に合った肝転移治療アルゴリズムを今後開発してゆく必要があり,今年発足した日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)の最重要課題の一つと位置づけられている。また,切除のみで根治が得られる例は少数であるとの現実認識から,切除(再切除も含む)に抗腫瘍療法(抗癌剤,ホルモン療法薬,分子標的薬)を加えた集学的治療の開発,および治療中最も効果的な減量手段である手術治療をどの段階で行うかの検討が必要となってくる。

図1.

NET肝転移に対する,術前画像診断に基づく治療方針。European Neuroendocrine Tumor Society(ENETS)の2012年版ガイドラインによる(文献13を改変)。

IFN:インターフェロン;LITT:レーザー温熱療法;PRRT:ペプチド受容体放射線核種治療;RFA:ラジオ波焼灼術;RPVE:門脈右枝塞栓術;RPVL:門脈右枝結紮術;SSA:ソマトスタチンアナログ。

当科では,従来積極的な肝切除(減量手術を含む)を最初の治療として行ったのち,切除困難となった症例に対しては全身化学療法を行う方針として,併用薬剤としてStreptozocin(STZ)を中心に据えた治療を行ってきた。NETの場合,肝転移が切除不能となってからも制御不能となるまでに数年SDを保つ症例は多くあり,半数程度が5年生存するとの結果であったが,それ以降10年にかけて生存率は低下してゆく,という結果であった。また,減量手術そのものの効果も残存する腫瘍量が多くなると限定的になる傾向が認められた(図2)。従来の欧米からの報告と比較すると成績の向上を認めてはいるが,5年以上の長期に亘る薬物治療によるQOLの低下といった問題を孕んでいるのも事実である。そのため,あくまでR0切除を目指した治療戦略の再考が必要ではないかと考えており,最近登場した有望な薬剤による前治療がその一つの可能性として挙げられる(後述)。

図2.

減量手術の効果。残存する腫瘍量が多くなると手術の効果は限定的である(東京大学肝胆膵外科データ)。

4.転移を伴うP―NETに対する集学的治療

外科切除と併用されてきた治療としては,局所療法として,肝動脈化学塞栓療法(TACE),ラジオ波焼灼療法(RFA),全身治療として抗癌剤(前述のSTZなど),ホルモン療法薬(ソマトスタチンアナログ),分子標的薬(エベロリムス,スニチニブ)などが挙げられる。特に近年分子標的薬2剤が相次いで保険収載されたことで,NETという疾患そのものの認知が高まり,またこれら有望な薬剤を取り入れることによって新たな治療戦略の糸口が見出せる期待が高まっている[1415]。

外科切除と薬剤による全身化学療法の併用のコンセプトとしては,(1)切除不能例に対し全身化学療法を行い,腫瘍のdownstagingを得て切除適応を拡大する,(2)切除可能例にneoadjuvant療法を行い,術後再発を抑制する,(3)術後にadjuvant療法を行い,再発抑制を目指す,などが考えられ,先行する大腸癌肝転移に対する周術期化学療法適応と同じ発想が,NETに対しても考えられる。すなわち,抗癌剤と分子標的薬のコンビネーション治療などが今後検討されてゆくと思われる。残念ながらこれらのコンセプトに関するエビデンスは現在のところないが,全身化学療法の著効例は時に経験するところであり,多施設が症例を持ち寄って検討してゆく必要がある。

おわりに

P-NETに対する治療に関するエビデンスは,症例数が少ないこともありいまだ少なく,特に集学的治療を要するような遠隔転移症例に対しては各施設がそれぞれの経験に基づき治療を行っているのが現状である。我が国の現状を全国調査によって明らかにするとともに,多施設による前向きの治療法の検証を進めてゆく必要がある。大腸癌肝転移治療の成功をみても窺えるように,新規薬物との併用による治癒手術施行率の向上がまず目指すべき目標であると考える。

【文 献】
 

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