日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
小児乳頭癌の臨床
伊藤 康弘宮内 昭木原 実小林 薫廣川 満良宮 章博
著者情報
キーワード: 甲状腺乳頭癌, 小児, 予後
ジャーナル フリー HTML

2013 年 30 巻 4 号 p. 294-298

詳細
抄録

年齢は甲状腺乳頭癌の予後を規定する重要な因子である。特に高齢者乳頭癌が生命予後不良であることは,よく知られている。ただし,生命予後とリンパ節再発予後,遠隔再発予後とは必ずしも一致しない。今回われわれは小児(20歳未満)乳頭癌110例の予後および予後因子について検討した。8例に術前から遠隔転移を認め(M1),これらはM0症例に比べてaggressiveな臨床病理学的所見を示した。M0症例における10年リンパ節および遠隔再発率はそれぞれ16%,5%であった。多変量解析において3cm以上のリンパ節転移,16歳以下が独立したリンパ節再発予後因子であり,3cm以上のリンパ節転移と被膜外進展が遠隔再発予後因子であった。M1症例およびM0症例各1例が癌死した。小児乳頭癌の生命予後は良好であるが,再発率はかなり高い。特に3cm以上のリンパ節転移,16歳以下,被膜外進展のある症例に対しては慎重な治療と経過観察が必要である。

はじめに

年齢は甲状腺乳頭癌における重要な予後因子である。特に高齢者の予後は不良とされ,AMES[],MACIS[],UICC TNM分類[]などの主なclassification systemにも採用されている。われわれの過去の研究においても,高齢であることは,術前術中に判明する臨床病理学的所見の中でもっとも強い生命予後因子であった[]。また,全摘症例術後のサイログロブリンダブリングタイム(Tg-DT)はさらに鋭敏に患者の生命予後を反映するが[],Tg-DTが短い(2年未満)症例は高齢者に多かった[]。

しかし,生命予後とリンパ節再発予後,遠隔再発予後とは必ずしも一致しない。Mazzaferriらは,20歳未満の乳頭癌および濾胞癌症例は再発しやすいことを示している[]。さらにMiyauchiらは乳頭癌全摘後にサイログロブリンが検出されるbiochemically persistent disease(BPD)の頻度は60歳以上の高齢者のみならず40歳未満の若年者でも高く,40~59歳の中年の症例でもっとも低いことを示した[]。これらのことから高齢者の再発予後および生命予後は不良である一方,若年者乳頭癌の再発予後も中年に比べて不良であることがわかる。しかし本邦において,若年者の中でも小児の乳頭癌に対する研究は少ない。

本稿では20歳未満の小児乳頭癌に焦点をあて,当院のデータを中心にその予後および予後因子について述べる。

対象と方法

1987年から2007年まで当院にて初回手術を受けた20歳未満{7~19歳}の乳頭癌110症例を対象とした。図1に患者の年齢分布を示す。110症例中8例(7%)に術前の画像所見あるいは術後短期間での放射性ヨウ素を用いた全身シンチグラフィから遠隔転移が認められ,TNM分類のM1[]と判定された。59例に全摘が,残りの51例に葉峡部切除,亜全摘などの全摘以外の甲状腺切除が行われた。リンパ節郭清は104例に対して施行され,その全例が中央区域郭清を受けている。さらに治療的または予防的外側区域郭清が,91例に行われた。

図1.

小児乳頭癌110例の年齢分布。

表1に110症例の臨床病理学的所見を示す。TNM分類のT4a[]に相当するものを被膜外進展ありとした。N gradeについては術前の画像検査で3cm以上のリンパ節転移が認められるものをN2,3cm未満の転移が認められるものをN1,転移が認められないものをN0とした。

表1.

若年者乳頭癌110例の臨床病理学的因子

術後の経過観察は定期的な超音波検査,胸部レントゲンまたはCT,全摘症例に対してはサイログロブリン値のモニタリングなどによって行い,平均経過観察期間は149カ月(17~296カ月)であった。

2群間の統計学的有意差の検討にはFisherʼs exact testを用いた。予後についての単変量解析にはKaplan-Meier methodを用い,検定はlog-rank testで行った。多変量解析にはCox-Hazard regression modelを用いた。p値が0.05未満のものを有意差ありと判定した。

結 果

M0症例102例のうち,16例(16%)および6例(6%)がリンパ節および遠隔再発を起こした。また,M0症例1例およびM0症例1例の合計2例が癌死した。

表2にM0およびM1症例の臨床病理学的因子の違いを示すが,M1症例はM0症例に比べて有意に被膜外進展がある症例,腫瘍径が4cmを超える症例,N gradeの高い症例の頻度が有意に高かった。

表2.

M0およびM1症例の臨床病理学的因子の違い

M0症例の術後5年,10年および20年リンパ節再発率はそれぞれ11%,16%,20%であった(図2)。単変量解析では腫瘍径(>4cm),男性,N2,若年齢(16歳以下)の症例が有意にリンパ節再発予後不良であり,多変量解析ではN2と16歳以下が独立した予後因子であった(表3)。

図2.

M0小児乳頭癌102例のリンパ節再発率曲線。

表3.

20歳未満のM0乳頭癌のリンパ節再発予後

遠隔再発率は術後5年,10年,20年でそれぞれ1%,5%,11%であった(図3)。腫瘍径,男性,N2,16歳以下,被膜外進展が単変量解析で有意な遠隔再発予後因子であり,多変量解析ではN2と被膜外進展が独立した予後因子であった(表4)。

図3.

M0小児乳頭癌102例の遠隔再発率曲線。

表4.

20歳未満のM0乳頭癌の遠隔再発予後

癌死した2例はいずれも男性であり,初回手術時の年齢は16歳以下であり,腫瘍径も4cmを超え,かつN2であった。M0であった1例は肺および骨に再発し,術後187カ月目に癌死した。M1であった1例は術前からびまん性に肺転移があり,術後アイソトープ治療を施行したが,28カ月目に呼吸不全で死亡した。

考 察

本稿においてわれわれは,1)小児の乳頭癌は被膜外進展以外のaggressiveな臨床病理学的所見のある症例が多い,2)M0症例においてリンパ節再発は術後10年で16%と高率に認められ,16歳以下,3cm以上のリンパ節転移が独立した再発予後因子であった,3)遠隔再発に関しては3cm以上のリンパ節転移および被膜外進展が独立した予後因子であることを示した。

われわれのシリーズにおいてM1症例の頻度は7%であり,これはEnomotoらのシリーズよりは多いが[],Zimmermanらのシリーズとほぼ同じである[]。表2に示すようにM1症例はM0症例に比べてaggressiveな症例が多いが,M0症例においても腫瘍径が4cmを超える症例や3cm以上のリンパ節転移のある症例の頻度は,われわれが以前検討したすべての年齢層を含むシリーズに比べて高い[]。その反面,被膜外進展のある症例は全体のシリーズよりもむしろ少なく,小児乳頭癌の生物学的特性は中高年のものと異なっていると考えられる。

先に述べたように年齢は乳頭癌の重要な予後因子である。われわれはどうしても高齢者の症例が予後不良であることに注目しがちであるが,biochemically persistent diseaseとなる症例は高齢者のみならず若年者にも多い[]。さらに最近のわれわれの研究では腫瘍径1cm以下でリンパ節転移や遠隔転移もないsubclinicalな微小癌は,むしろ若年者ほど増大しやすいことがわかった[10]。これらのことから小児も含めた若年者の乳頭癌は確かに生命予後良好ではあるが,中年の乳頭癌に比べて進行や再発を起こしやすいことがわかる。今回は20歳未満の症例での検討であるが,それでも16歳以下は多変量解析で独立したリンパ節再発予後因子であり,単変量解析のみではあるが,遠隔再発も起こしやすかった。

本解析では症例数も少なく,癌死した症例が2例しかなかったが,2例とも男性で初回手術時の年齢は16歳以下であり,腫瘍径も4cmを超え,かつ3cm以上のリンパ節転移があった。なかなか多数例を用いた検討は困難ではあるが,これらの因子が小児乳頭癌の生命予後をも規定する可能性はある。

手術の術式に関しては,上記のとおりリンパ節再発率,遠隔再発率ともに高く,かつ平均余命の長さを考えれば,家族歴のない単発性のT1N0M0症例以外には甲状腺全摘を勧めたい。ただ,小児の場合,骨格の成長過程にあり,成人の手術以上に永続性副甲状腺機能低下症を回避するための注意と努力が必要である。

おわりに

小児乳頭癌の生命予後は良好であるが,再発率は高い。発見時にすでに進行している症例も多く,特に16歳以下の症例,3cm以上のリンパ節転移のある症例,T4aに相当する被膜外進展のある症例は再発しやすく,慎重な治療および経過観察が必要である。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top