日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
当科における上皮小体温存の実際
福島 俊彦鈴木 眞一
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2014 年 31 巻 1 号 p. 24-26

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抄録

永続的上皮小体機能低下症は,甲状腺手術において避けるべき合併症の一つである。本稿では,当科で行っている上皮小体温存手技の実際を解説する。

1.Capsular dissection:要点は,膜解剖の正確な把握である。Surgical thyroid fasciaとtrue thyroid fasciaを確認し,その間で,剝離操作を行う。これにより,自ずと上皮小体はin situに温存できる。加えて,反回神経はsurgical thyroid fasciaと同じ層で温存されることになる。

2.上皮小体の自家移植:中心領域のリンパ節郭清を併施する場合,下腺の血流は犠牲にせざるをえないことが多いので,摘出しmincingしたものを胸鎖乳突筋内に自家移植する。胸腺舌部に迷入している下腺も可及的に確認し,同様に自家移植する。

3.Surgical loupeの使用:高解像で明るい2.2倍レンズのloupeとloupe装着型のLEDライトを好んで使用している。これにより,明視野下に膜解剖の認識が可能である。

はじめに

永続的上皮小体機能低下症は,甲状腺手術において避けるべき合併症の一つである。本稿では,当科で行っている甲状腺手術における上皮小体温存手技について解説する。

上皮小体の温存を行う際の要点は,頸部膜解剖の正確な認識,いわゆるcapsular dissectionの励行,surgical loupeの使用である。

頸部の膜解剖

頸部膜解剖の大原則は,「筋肉を包む膜,内臓を包む膜,血管を包む膜,脊柱を包む膜,これらはお互いに独立して存在する」ということであり,被包葉;investing layer,気管前葉;pretracheal fascia,頸動脈鞘;carotid sheath,椎前葉;prevertebral layerが,それぞれに相当する[](図1)。pretracheal fasciaは,甲状腺固有被膜;capsula propriaあるいはtrue thyroid fasciaに対して,visceral fascia, surgical thyroid fasciaあるいはfalse thyroid fasciaと呼ばれる。膜解剖の視点に立つと,上皮小体は,true thyroid fasciaとsurgical thyroid fasciaの間に存在することになる。

図1.

頸部の膜構造概略

Capsular dissection

上述の,両fascia間で剝離操作を行えば,自ずとin situで上皮小体は温存されることになり,これがいわゆるcapsular dissection法の根本原理である[](図2)。この両fascia間は,粗な繊維性の癒合のものから,胼胝状の癒着があるものまで,個体差があり,時にfascia間での剝離が困難なこともある。surgical thyroid fasciaのmuscular layerは,investing fasciaと連続しているため,central approachで甲状腺に到達した場合,前頸筋群を筋鉤で外側に圧排すると,surgical thyroid fasciaが粗な膜様構造として認識できる(図3)。capsular dissectionは,この膜様構造を,true thyroid fasciaから剝離していく作業と言い換えることも出来る。上皮小体に向かうfeeding arteryは,surgical thyroid fasciaに包まれた上皮小体から内側のtrue thyroid fascia側に向かって,外から内へ連続するため,結紮処理する(図4)。これにより,自ずと上皮小体はin situに温存できる。加えて,反回神経はsurgical thyroid fasciaと同じ層で温存されることになる(図5)。このように,capsular dissectionは,解剖学的にも,外科腫瘍学的にも合理的なアプローチ法である。さらに,上皮小体機能低下,反回神経損傷を回避するという観点から,低侵襲な方法であり,われわれは,良性結節に対しても,乳頭癌に対しても,本術式を採用し,上皮小体の可及的温存を行っている[]。

図2.

capsular dissection

図3.

surgical thyroid fascia (STF)

→は,上皮小体を示す。

図4.

上皮小体のin situでの温存

太矢印は上皮小体,細矢印は下甲状腺動脈からの分枝を示す。STF:surgical thyroid fascia

図5.

反回神経とsurgical thyroid fasciaの関係

矢印は反回神経を示す。STF:surgical thyroid fascia

上皮小体の自家移植

中心領域のリンパ節郭清を併施する場合,特に下腺の血流は犠牲にせざるをえないことが多いので,摘出しmincingしたものを胸鎖乳突筋内に自家移植する。胸腺舌部に迷入している下腺も可及的に確認し,同様に自家移植している。上皮小体機能温存を考える際,in situの温存ではなく,routineに自家移植を勧める意見もあるが,詳細は他稿に委ねる[]。

Surgical loupeの使用

微細な膜構造や正常大の上皮小体,反回神経,上喉頭神経外枝を明視野下に視認するためには,surgical loupeの使用が有効である。われわれは,高解像で明るく,視野が広く,視野深度も深い2.2倍レンズのloupeとloupe装着型のLEDライトを好んで使用している。現在使用しているものは,Surgitel社のもので,ルーペとライトを合わせても60g程度の重量で,長時間でも異和感なく使用できる。ルーペマウント型のLEDライトは,通常の照明が届きにくい,小切開下手術では特に重宝する。

【文 献】
 

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