日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
「特集2.がん登録の歴史・現状・将来展望」によせて
今井 常夫岡本 高宏
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2014 年 31 巻 1 号 p. 27-28

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抄録
日本甲状腺外科学会の事業として行われていた甲状腺癌登録は,個人情報保護法の制定後休止している。甲状腺癌登録の歴史・現状については,この特集において伊藤公一先生が詳しく記載されている。がん登録は必要だけれど,誰がイニシアチブをとってどのように継続し推進していくかは,非常にむつかしい課題である。この特集は,学会として甲状腺癌登録の再開を考える上で参考となるのではないかと考えられる分野について執筆をお願いした。がん登録の「専門家」というものは存在しないため,おのおのの執筆者の方には無理を承知でお願いしたところであり,それでも各分野の歴史・現状をはじめ,将来展望についてもしっかり書いていただいており,読み応えのある内容となっている。特集は甲状腺癌について日本甲状腺外科学会で甲状腺悪性腫瘍登録委員会委員長である伊藤公一先生に執筆いただいた。乳癌は日本乳癌学会登録委員会副委員長で,がん登録の総本山である国立がん研究センター中央病院の木下貴之先生に,泌尿器科の癌登録は日本泌尿器科学会がん登録推進員会委員長である徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部泌尿器科学分野の金山博臣先生に執筆いただいた。またNCDとがん登録について東京大学の友滝愛先生にご執筆いただいた。NCDについてなじみの薄い会員も多くおられることと思う。NCDとはNational Clinical Databaseの略で,外科専門医制度と連動した日本外科学会主導の臨床データベース事業である。専門医の申請・更新にはNCDによる症例登録が必須であるため,外科専門医はNCDについて知っているが,泌尿器科や耳鼻咽喉科・内科系の医師にはほとんど知られていないのが現状と考えられる。外科医も専門医申請や更新に必要なため登録しているという程度の認識であることも多いかもしれない。しかし年間120万件のデータが登録されるビッグデータであり,今後これらのデータを最大限に利活用したフィードバックが期待される。現在NCDに登録されている内容には,甲状腺手術症例はがん情報も収集されている。すなわちがん登録として利用することもこのシステムを使えばすでに可能である。実際乳癌や膵癌はNCDでがん登録を行っている。しかし甲状腺癌の場合は,耳鼻咽喉科で行われた手術はNCDで登録されないため,現時点でNCD登録だけでは片手落ちとなる。また未分化癌など手術不能例,甲状腺微小乳頭癌の非手術例の登録も行われない。個人情報保護法が発令されたときの対応は学会によって大きく異なった。乳癌登録は,乳癌学会が資金を出して独自のシステムを作成し個人情報保護法に抵触しないシステムを新たに作成し乳癌登録を継続した。そのシステムは現在NCDに移行し年間5万例の乳癌が登録される大規模なデータベースに成長した。甲状腺外科学会は,資金的なこともありがん登録は中断したが,NCDのシステムを利用すれば学会が独自に登録を再開するよりは少ない予算で登録が可能となることが考えられる。米国は法律に裏付けされたSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)という地域がん登録システムを持っているが,全国登録ではなく,米国人口の28%を収集しているサンプル調査である。日本で従来行われてきた地域がん登録も同様のサンプル調査となっており,乳癌学会で登録されているような年間5万件という全例登録にせまる乳癌登録には遠く及ばない。しかし学会主導である限界か,2010年に行われた予後調査における予後判明登録率は48.9%にとどまった。2013年12月に制定された「がん登録推進法」では,住民票による生存確認・死亡情報との突合が明記されており,学会主導のがん登録にも「がん登録推進法」の予後調査が適用できれば,予後調査が飛躍的に正確になることが期待される。がん登録を学会主導で今後も行っていくのか,国主導のシステムにまかせるのか,両者をうまく合体させることが可能なのか,これからの検討課題である。
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