日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
症例報告
20年を経過した肺転移を伴う小児甲状腺分化癌の放射性ヨウ素治療の1例
小林 哲郎松田 泰樹安座間 隆
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2014 年 31 巻 1 号 p. 59-63

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抄録

小学5年生の男子の小児甲状腺癌肺転移症例について,放射性ヨウ素治療後20年の経過を報告する。

労作時の呼吸困難が強く,小学校の階段を2階の踊り場まで辛うじて上がっていた。胸部写真では,両側肺野に結節状の陰影が多数みられた。数年にわたり,計400mCiのI-131が投与された。現在成人男子に成長し,社会人となっている。

小児甲状腺癌の予後は良好といえども,労作時呼吸困難が出現するほどの肺転移に,放射性ヨウ素治療なくして,病勢を食い止めることはできなかったであろうとその治療効果を評価する一方,晩期障害も認められ,注意してフォローしている。

はじめに

甲状腺分化癌は発生頻度が低く,その増殖も緩徐で,一般的に予後が良い[]。臨床経過が長く,したがって,手術を含めた治療法の優劣を決めるのは難しい。呼吸困難を伴う肺転移で来院し,甲状腺腫瘍も術後一部頸部に遺残した小児甲状腺分化癌に対して,放射性ヨウ素(I-131)治療を行った。20年が経過したので,放射性ヨウ素の治療効果および副作用について報告する。

症 例

患 者:11歳,男子。

主 訴:労作時呼吸困難。

既往歴,家族歴:特記すべきことなし。

現病歴:小学5年生(11歳)の時,息切れが激しく,学校の2階の踊り場までしか上がることができなかった。胸部X線写真で異常陰影を指摘され,大阪大学第二外科を紹介された。

初診時現症:前頸部に腫瘤を触知し,肺転移を伴う甲状腺癌と診断された。身長141cm,体重49kg。

初診時胸部X線図1):気管は左側より圧排され,両肺野に結節状陰影を多数認めた。

図 1 .

術前胸部X写真

両側肺野に著明な結節影を認める。気管は甲状腺左葉の腫瘍に圧迫され,変位している。

動脈血ガス分析:(room air)pH 7.414,pO2 54.5mmHg, pCO2 33.7mmHg,SO2 96.3%,pO2の著しい低下を認めた。

呼吸機能:FVC 1.48L,%VC 64,FEV1.0 1.22L,FEV 1.0% 83,拘束性の換気障害を認めた。

手術所見:甲状腺左葉の腫瘤は前頸筋,左反回神経を巻き込み一塊となる。気管および食道壁に浸潤し,特に左椎骨動脈,前斜角筋への浸潤は高度でこの部の剝離は困難であった。甲状腺全摘および左反回神経,左内頸静脈を合併切除。左椎骨動脈周囲には一部腫瘍が遺残した。

病理所見:甲状腺乳頭癌,リンパ節転移を伴う。

術後I-131治療:70,70,112そして150mCiと4回,2年にわたり計400mCiが投与された。血中サイログロブリン値は,治療前6,860ng/mL(TSH 149μU/ml)から,1回目治療後685(TSH142)と,4回目の治療後175(TSH0.15)と低下した。

胸部X線変化図2):放射性ヨウ素投与前,中央I-131,70mCi投与後:結節状陰影がやや改善。400mCi投与後:結節状陰影は消失している。

図 2 .

胸部X写真 放射性ヨウ素の治療の効果

左 投与前(11歳),中央 投与中(13歳),右 投与後(14歳)

2年にわたり,計400mCi(70,70,112,150mCi)のⅠ-131が投与され結節影が消失してゆく。

肺機能変化表1):17歳になると,pO2は96.6mmHgまで改善しているが,%VC,FEV1.0%は,それぞれ65.3,72と拘束および閉塞障害を認めた。

表1.

呼吸機能の変化

pO2はI-131投与後徐々に改善し,17歳時96.6mmHgまで回復した。%VCは投与後41まで低下したが,現在70.4と改善している。しかし,拘束障害は続いている。

現在(32歳)の胸部X線図3):肺紋理が増強している。

図 3 .

現在の胸部X写真

紋状影が遺残している。また,気腫様の変化もみられる。

成人後のPET(Positron Emission Tomography)-CT図4):(25歳および32歳)両側胸膜下に索状影。両側肺野に瀰漫性の結節影を認める。両側肺野の背側に炎症瘢痕を認める。FDGの異常集積は認められない。肺野の結節影は,FDG集積が認められないことからindolentな性状と考えられる。

図 4 .

胸部CTの変化

左 5年前,右 現在,ほとんど変化はみられない。

臨床経過:術後21年が経過し,社会人となり,現在日常生活に支障はない。血中サイログロブリンは,2.79ng/mL(TSH 0.01μU/ml)であった。甲状腺ホルモンとビタミンDの服用を続けており,尿路結石の既往があった。

考 察

成人甲状腺分化癌,中でも多数を占める乳頭癌では約一割に遠隔転移がみられる。そして,その半数の症例では初診時にすでに遠隔転移が出現しているという。遠隔転移の半数は肺転移であり,肺転移の占める割合は高い。甲状腺分化癌の発育は緩徐といわれているが,遠隔再発を伴う症例の予後は,5年生存者が半数と低い[]。小児甲状腺癌は甲状腺分化癌全体の約3~10%をしめると報告されている[,]。小児の場合成人と比べてより進行例や転移例が多い傾向にあるが,予後は成人より良いといわれている。われわれも小児甲状腺癌について報告しているが,P53の発現異常はみられず,腫瘍の増殖が緩徐であることと符号する結果であった[]。成人に比べて小児甲状腺癌は患者数も限られており,また前向きな比較試験のデータもないが,Cohort研究から予後の良さが報告されている。しかし,10歳以下の若年の小児甲状腺癌は,より年齢の高い小児甲状腺癌よりも再発の頻度が高いとの興味深い報告もあり,小児甲状腺癌も一様ではない[]。さらに,予後が良いというものの,術後の再発を含めた有症状の率が小児甲状腺癌に高いという報告もみられる[]。確かに体と心の成長過程にある小児にとって,生存率だけで予後を判定することはできない。

甲状腺疾患の治療において放射性ヨウ素の果たす役割は大きい。腫瘍部に放射性ヨウ素の取り込みがみられれば,当然頸部遺残腫瘍にも照射効果が期待できる。本症例は局所進行例でもあり,前斜角筋・椎骨動脈付近に腫瘍が遺残したが,遺残腫瘍の再燃・増大はみていない。残存腫瘍に外照射治療を先行させ,あとで肺転移に対して,放射性ヨウ素を複数回投与している小児甲状腺癌治療症例もある[]。予後の良い小児甲状腺癌に対して,手術損傷,術後副作用の危険性も高い積極的な頸部手術を選択することは抵抗があるところであり,遺残腫瘍に対して術後の放射性ヨウ素を用いて追加治療することは理解できる。一方,甲状腺機能亢進症と異なり,遠隔転移をきたした甲状腺癌では放射性ヨウ素以外に根治治療はない。中でも微小肺転移は放射性ヨウ素を取り込む確率が高く,治療効果が良いことが知られている。通常小児甲状腺癌の肺転移巣は放射性ヨウ素を取り込むが,これら症例の3分の1はX線では結節を確認できない早期のレベルの病変であったという[]。早期発見を念頭に積極的な術後の放射性ヨウ素uptake検査の重要性が指摘されている理由である。本症例では肺病変が胸部X写真で確認できる大きさまで増殖していたが,数回の放射性ヨウ素の投与により結節影が著明に減少し呼吸機能が改善した。しかし,肺転移巣が微小結節からだんだん大きくなって1cmを超えるようになると,10年生存率が40%から15%低下すると予後の悪さを指摘する報告もある[]。

本症例では,呼吸困難を伴う結節状肺転移に対して放射性ヨウ素を投与したが,20年を経た現在でも肺の拘束障害が持続している。これは肺転移病巣の影響もあり,一概に放射性ヨウ素の副作用とはいえないだろう。転移巣の消失を目指して,いつまで放射性ヨウ素の投与繰り返すのか,その投与間隔は,そして副作用は,などいろいろ問題があるが,安全な累積線量,投与量の限界をしめすマニュアルはない。小児の場合は特に慎重に投与をせざるをえないが,累積線量が1,700mCiにも及ぶ高用量の投与の報告例もみられる。当然高用量投与による呼吸障害を生じている[10]。微小転移巣に対する早期例の放射性ヨウ素治療症例が多いこともあり,副作用としての肺線維症や拘束障害の報告は少ない。生命予後の良い小児肺微小転移に対して,どこまで放射性ヨウ素を投与するのか難しい問題である。MD Anderson癌センターからは,小児甲状腺癌肺転移症例の30年に及ぶ治療経過を報告している。10年経過して,呼吸機能障害が出現してきたため,2度の102,200mCiの放射性ヨウ素が投与されている。小児甲状腺癌のindolentな性質に対して,慎重な治療を提唱している[]。

この患者に対して,これからは放射性ヨウ素の晩期障害に注意してフォローしてゆかねばならない。睾丸機能への影響,白血病などの血液疾患や膀胱癌の発生報告もみられる[1112]。肺転移巣の再増大に十分注意して,そして呼吸予備機能が少ないだけに,呼吸機能障害が増悪しないように,上気道の感染などに注意してゆかねばならない。PETでFDG集積が認められないことからindolentな性状であると思われるが,CTで結節影がみられることは,晩期障害の間質病変がすでに出現していると考えるべきであろう。明らかな結節影まで増大した小児甲状腺癌肺転移症例の予後はいかがなものか,これから先,十分な注意を持ってフォローが必要である。

おわりに

今回の症例は,頸部に腫瘍が遺残し,一側反回神経も合併切除された局所進行症例であり,肺転移も進行していた。RI治療が積極的に検討された症例であった。治療後20年以上が経過し元気に社会人として働いているが,晩期障害も認められ,注意深いフォローが必要である。

謝 辞

今回の報告にあたって,関西電力病院内科 永田 格先生,同RI治療室 長野圭司先生に多大なご尽力をいただきました。感謝の意を表します。

【文 献】
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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