日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
内視鏡外科手術の経験からみたロボット支援手術の将来性
高見 博池田 佳史
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2014 年 31 巻 2 号 p. 95-97

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抄録

著者らが考案した完全内視鏡手術である腋下アプローチについて論説した。さらに,ロボット手術の長所・短所について記した。甲状腺におけるロボット手術は腋下アプローチが基盤となっているが,なぜ著者らが考案したCO2ガスを用いた方法を用いることなく,“gasless”に走ったのであろうか。手技的にはgaslessの方が優しいが,究極の整容性を求めるなら,CO2ガスで充満させる方法の方が明らかに優れている。

はじめに

甲状腺の手術は,前頸部に手術瘢痕が残るのが当然と考えられていた。しかし,近年の内視鏡手術の進歩により,甲状腺疾患でも限られた施設では内視鏡手術が行われている。

頸部の内視鏡手術は欧米では“minimally invasive surgery”,すなわち「低侵襲性内視鏡手術」と位置づけられている。頸部の美容上の問題以上に,内視鏡使用による術後の疼痛・種々の愁訴の減少,手術時間・入院期間の短縮,医療費の軽減,などが要求されている。しかし,日本では頸部に傷を作らないという美容上の点に関心がよせられている。

頸部の内視鏡手術の各種方法

頸部の内視鏡手術はアプローチ別にみると,頸部,前胸部,腋窩,乳腺,などに大別される。頸部からのアプローチが最も侵襲は少ないが,頸部に傷が残る。腋窩からのアプローチは著者らが開発した術式であり,術直後の侵襲は頸部,前胸部より大きいが,美容上優れ,術後3カ月目には愁訴はほとんどない[,]。術式別にみると,完全に内視鏡下に行う手術と内視鏡補助下に行う手術に大別される。著者らは前者の方法を用いている。前者は高度な技術を要するが,手術侵襲は少ない。後者は通常の開放手術に近い分だけ,手術は普遍化しており,手術時間も短い場合が多い。

低侵襲性内視鏡下甲状腺手術の適応

内視鏡手術は,頸部に傷がなく,美容上非常に満足できる。特に若い女性のケロイド体質の患者には良い。頸部を切開しないため「首をさわった感じが分からない」,「皮膚がチクチクする」,「物を飲む時に首の皮膚がひきつれる」などという不快な不定愁訴も減少する。また,頸部に傷がないことにより,患者が頸部の手術を受けたという嫌悪感からも解放され,精神的にもいい結果が得られる。

内視鏡手術の適応として,細胞診で良悪性の鑑別困難な甲状腺腫(濾胞性腫瘍),微小癌,バセドウ病などがあげられる。筆者らの行っている完全内視鏡下手術では,腋窩アプローチはCO2ガスを用いて片葉切除まで(腫瘍径は数cm以下),前胸部アプローチでは全摘術まで行える。内視鏡補助下手術は通常,鎖骨下の前胸部に傷を作るため,大きな腫瘍になるとその摘出に大きな傷が必要となり,「頸部に傷を作らない」という点がメリットとなる。

われわれの内視鏡手術の実際

著者らが行っている内視鏡手術は侵襲性と整容性を兼ねそなえ,高度なQOLを達成した手術法である。術式は完全に内視鏡下に行い,アプローチには2種ある。第1の前胸部法は鎖骨下,約5cmの部位に甲状腺手術なら径12mmの切開創を,副甲状腺手術なら径5mmの切開創を1カ所作製(内視鏡用),さらにその左右に径5mmの切開創を2カ所(術者の左右の鉗子用)作り,甲状腺切除を行う。甲状腺腫では,摘出にあたり,その大きさに相応した切開創が必要である。頸部の傷よりも前胸部の傷は瘢痕が残りやすく,かつ皮膚が硬いため摘出するときに腫瘍の短径に近い切開創の長さが必要である。そのため,甲状腺腫の大きさにも限界がある。副甲状腺摘出術では元来小さい腫瘤であるので良い適応となる。第2の腋窩法は腋窩に30mmと5mmの切開創を作り,そこから内視鏡と鉗子を入れる(図1)。この方法は高度な技術を必要とするが,腋窩の傷は周りの人は勿論のこと,本人でさえほとんど見えず,術後3カ月目頃には手術による愁訴が消失し,手術したこと自体を忘れてしまう患者もいる。腋窩は皮膚が軟らかくぶよぶよしているため,3cmの切開創でもかなり大きい腫瘍まで摘出可能である。

図1.

腋窩法。腋窩に12mmと5mmのトロッカーから内視鏡と2本の鉗子を挿入する。

右側の胸骨舌骨筋を胸鎖乳突筋と剝離し,胸骨甲状腺筋を露出する。図2は右側の反回神経,ベリー靭帯,右上副甲状腺がみられ,甲状腺手術で最も繊細な技術を要するところである。図3は摘出した長径45mmの濾胞性腫瘍である。

図2.

右側の反回神経,ベリー靭帯,右上副甲状腺がみられる。

図3.

腋下の3cmの傷から摘出した長径45mmの濾胞性腫瘍。

手術合併症はほとんどなく,患者の満足度はきわめて高かった。

ロボット手術が内視鏡手術の限界を超えるか

2005年に日本に初めて導入された内視鏡下手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」は世界的な普及と低侵襲手術の流れに乗り,導入する病院が増えている。国内でのダ・ヴィンチ保有台数は2014年2月の時点で162台である。アメリカに次いで世界第2位である。特に,前立がん全摘手術が2012年4月に保険適用となったため,最近では急増している。しかし,購入費用が高額なうえ,ランニングコストも異常なほど高いが,ダ・ヴィンチによる集患効果を期待して,手術件数も右肩上がりである。たしかに,前立腺は骨盤の奥にあり手術中に見える範囲が狭い。ダ・ヴィンチでは狭い空間でも良好な術野が得られるため鉗子を正確に操作できる。アメリカではダ・ヴィンチ手術が前立腺がん手術の約8割を占めるという。

ダ・ヴィンチで代表されるロボット手術で,内視鏡手術と明らかに違うのは,画像の見え方である。内視鏡手術は視野が2次元であるが,ロボット手術は3次元のハイヴィジョン画像である。内視鏡手術では手の動きと画面上の鉗子の動きが逆になるが,ロボット手術では見た通りに操作できる。また,内視鏡鉗子は直線的な動きに限られるが,ロボット鉗子はアームに自由度があるため,術者の手首のように上下,左右に回転して動く。また,実際の手の動きを5分の1までゆっくりと動かしたり,手振れを補正する機能,最大15倍まで拡大できるズーム機能ももっている。しかし,準備に時間がかかり,手術時間は明らかに内視鏡手術より長い。

このロボット手術は前立腺をはじめ,婦人科,心臓,呼吸器,消化器などで幅広く行われ,アメリカでは婦人科の手術が泌尿器科の手術を追い越している。心臓では,冠動脈バイパスに代わり,増帽弁形成術が増えてきている。

しかし,ロボット手術がどのくらい内視鏡手術に比べ有意性をもっているだろうか。当面はダ・ヴィンチの独壇場だが,アメリカでは2014年4月にXiが第4世代の機種として登場した。2015年に基本特許が切れるにあたり,次世代ロボットの開発も進む。日本の匠の技術も頑張ってもらいたい。日本人の体格に合った機械,鉗子が欲しい。

さて,甲状腺ではロボット手術の役割はどうであろうか。丁度,2000年を前後して,私たちは幾度となくYonsei大学などに招かれて,Cheong Park教授やWoong Chung医師に腋下アプローチを指導してきた。また,欧米でもしかりであり,当時は腋下アプローチが認知されず,アメリカ内分泌外科学会も3年連続してrejectされたのを覚えている。しかし,歳月を重ねた今,腋下アプローチは堂々とロボット手術の一員として市民権を得るに至った。今後も限られた患者層には有用な手技であると考えている。しかし,一つ疑問なのは,なぜ彼らはCO2ガスを充満させることなく“Gasless”を用いているのであろうか。Gaslessで皮膚を牽引した方が,甲状腺まで直視でき手術操作はやさしいが,腋下の傷はやや前面(腹側)に作られ,牽引により傷が汚くなるのは間違いない。

【文 献】
 

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