2014 年 31 巻 3 号 p. 180-183
内分泌非機能性副腎腫瘍とは,内分泌学的検査にて内分泌活性がないと判断された副腎腫瘍のことである。その分類は内分泌非機能性腺腫,骨髄脂肪腫,神経節腫,囊胞,転移性腫瘍などがあるが,副腎皮質癌の中にも内分泌非機能性のものが存在する。系統的な内分泌学的検査により内分泌非機能性副腎腫瘍の診断を行い,CT,MRI検査などの画像診断で良性悪性腫瘍の鑑別を行うことが重要である。内分泌非機能性副腎腫瘍の手術適応は悪性を疑わせる画像所見を認めるもの,あるいは腫瘍径4cm以上の腫瘍と考えられている。腫瘍径4cm未満においては定期的に画像検査,内分泌学的検査を施行し,増大傾向を認めるもの,内分泌活性を認めるものは外科的切除を検討する。
副腎より発生する腫瘍において,鉱質コルチコイドであるアルドステロンが過剰産生される原発性アルドステロン症,糖質コルチコイドであるコルチゾールが過剰産生されるクッシング症候群,カテコールアミンが過剰産生される褐色細胞腫がよく知られている。一方で,これらのホルモン産生腫瘍と比べ,検診などの際に超音波検査,CT検査,MRI検査などの画像診断により偶然に発見される副腎偶発腫瘍の中で,内分泌検査にて異常を呈さない非機能性副腎腫瘍も少なくない。副腎腫瘍の臨床的分類として「副腎腫瘍取扱い規約第2版」では原発性アルドステロン症,クッシング症候群,プレクリニカルクッシング症候群,副腎皮質癌,褐色細胞腫,神経芽腫,内分泌活性腫瘍,内分泌非活性腫瘍に分類されている。副腎腫瘍を認めるもののホルモン値に異常がない場合,内分泌非活性腫瘍と定義される。非活性副腎腫瘍のほか,非機能性,非活動性,無機能性なども用いられ,我が国において非機能性副腎腫瘍,非活性副腎腫瘍はほぼ同程度使用されているため,本稿では「非機能性」に統一して用いることとする。「副腎腫瘍取扱い規約第2版」に記載されている非機能性副腎腫瘍の分類を表1に示した。このほか,副腎皮質癌の中でも約20%に内分泌非機能性腫瘍が存在するため[1],副腎皮質癌を含めて内分泌非機能性副腎腫瘍を取扱う必要がある。さらに非機能性副腎腫瘍と鑑別を要する疾患として身体所見はまったく正常であるにも関わらずsubclinicalにコルチゾールの自律産生を認めるサブクリニカルクッシング症候群や褐色細胞腫の診断が重要と考える。これらの疾患の詳細は他項を参照していただきたい。本項では非機能性副腎腫瘍について概説する。
非機能性副腎腫瘍の分類
副腎ホルモンの産生過剰に伴い,中心性肥満,高血圧,糖尿病,電解質異常などの兆候を認める副腎腫瘍のほとんどが内分泌機能性腫瘍である。臨床症状を呈さず,検診などで偶然発見される副腎腫瘍を副腎偶発腫瘍と呼んでおり,超音波検査,CT検査,MRI検査の普及により,臨床上重要な鑑別疾患となった。
本邦で平成11年度より厚生労働省「副腎ホルモン産生異常に関する研究班」において,副腎偶発腫瘍について疫学調査が5年間行われた。5年間で3,678例の報告を受けており,その病因は,ホルモン非産生腺腫が50.8%と半数以上を占め,サブクリニカルクッシング症候群を含むコルチゾール産生腺腫10.5%,褐色細胞腫8.5%,アルドステロン産生腺腫5.1%,過形成4.0%,悪性腫瘍転移3.7%,副腎癌1.4%であった[2]。また2009年にAnagnisitsらによって報告された副腎偶発腫瘍のreviewにおける副腎偶発腫の分類,頻度を表2に示した[3]。良性非機能性副腎皮質腺腫が71~84%,サブクリニカルクッシング症候群が9%,アルドステロン産生腺腫が1.6~3.3%,副腎皮質癌が4%と報告されており,我が国の報告よりもホルモン非産生副腎皮質腺腫の割合が多い結果であった。
副腎偶発腫瘍の頻度
内分泌非機能性腫瘍は,内分泌検査,画像診断にてホルモン非機能性であると診断された副腎腫瘍であるため,除外診断となる。内分泌非機能性腫瘍は必ずしも外科的切除が必要になるわけではなく,内分泌機能性と非機能性を鑑別することが重要である。原発性アルドステロン症,クッシング症候群,褐色細胞腫などの外科的切除が基本となる内分泌機能性腫瘍を除外し,サイズや既往によっては,副腎皮質癌や副腎転移といった悪性腫瘍の除外診断を行う必要がある。
1)内分泌検査まず病歴や身体所見,血液生化学検査でホルモン産生腫瘍を除外する。①クッシング症候群を除外するために,血中コルチゾール値,血中adrenocortical hormone(ACTH)値,尿中17-OHCSと17-KSの測定は必須である。サブクリニカルクッシング症候群の除外のため血中コルチゾールの日内変動,デキサメサゾン抑制試験(0.5mg/8mg)などを施行する。②原発性アルドステロン症を除外には,血清カリウム値,血漿アルドステロン値に加え血漿レニン活性を測定し,血漿アルドステロン濃度/血漿レニン活性の比(A/R比)を測定する。A/R比が20以上あれば原発性アルドステロン症が疑われる。③褐色細胞腫においては血中,24時間畜尿でのメタネフリン,カテコラミン(アドレナリン,ノルアドレナリン),バニリルマンデル酸などを測定する。そのほか男性化腫瘍の鑑別のため血清DHEA-S(dehydroepiandrosterone sulfate)値の測定を行う。
これらの内分泌検査で機能性副腎腫瘍の除外を行うが,さらに非機能性副腎腫瘍の良性,悪性の鑑別が重要になってくる。厚生労働省の副腎腫瘍の全国調査においては副腎癌が1.4%,悪性腫瘍転移が3.7%存在し[2],副腎偶発腫瘍の約5%は悪性腫瘍であった。またFassnachtらの報告では副腎皮質癌の約2割が非機能性であり[1],非機能性副腎腫瘍において悪性疾患を的確に診断する必要がある。良性,悪性の鑑別は画像診断が中心となってくる。
2)画像診断CT,MRI検査にて腫瘍径,局在,内部構造,血管構造を確認する。一般的に内部構造が均一であれば良性腫瘍の可能性が高く,辺縁不整,内部不均一であれば悪性腫瘍を疑う。腫瘍径も重要な指標であり,充実性腫瘍であれば腫瘍径が大きいほど悪性の頻度が高くなる[4]。Manteroらは1,004例の偶発腫瘍において4cmをcut off値にすると悪性腫瘍と診断する感度が93%,特異度が42%であったが,6cmをcut off値にすると特異度が73%に上昇するものの,感度は74%まで低下したと報告している[5]。
次に非機能性副腎腫瘍の鑑別におけるCT検査,MRI検査,PETCT検査について概説する。
①CT検査
副腎腺腫の多くは細胞内脂質を含む淡明細胞腺腫であり,悪性との鑑別は腫瘍内に脂肪を含有するか否かで大きく異なってくる。単純CTにて腫瘍に脂質成分に相当する10 Hounsfield Units(HU)未満の部位を確認できればおおむね腺腫と診断できる[6]。しかし,塊状に存在する脂肪を認めた場合は骨髄脂肪腫を考える。造影CTにおいても吸収値30HU未満の腫瘍の多くは良性といわれている[7]。その他,腺腫と癌との鑑別に有用な指標として腺腫の方が癌よりも造影CTでのwashoutが早いことを利用したAPW(absolute percentage washout:絶対的流出率=(早期相CT値-遅延相CT値)÷(早期相CT値-単純CT値)×100)やRPW(relative percentage washout:相対的流出率=[1-(遅延相CT値)÷(早期相CT値)]×100)などが用いられる。通常,腺腫においてAPWは60%以上,RPWは40%以上になると報告されている[8]。
②MRI検査
CT値が10HU以上の腫瘍にはMRIによる化学シフト画像が有用であると報告されている[9]。副腎皮質癌では内部の出血や壊死を反映してT1強調像,T2強調像ともに不均一な高信号を呈することが多い。
③PET/CT検査
近年副腎腫瘍において良性,悪性の鑑別にPET/CTの有用性を示唆するエビデンスが報告されている。18F-fluorodeoxygulucose(18F-FDG)PETを用いると副腎皮質癌,副腎転移を含めた悪性腫瘍の診断における感度は93~100%,特異度は80~100%であると報告されている[10~12]。しかし副腎の生理的FDG集積は70%程度に認められ[13],副腎の良性褐色細胞腫,腺腫,過形成,副腎結核,副腎出血もFDG集積を示し[14],鑑別に注意を要する。
前述の検査によって内分泌非機能性腫瘍と診断された場合,臨床上重要な問題となってくるのが,外科的治療を行うか経過観察するのかを決定することである。この方針決定の根拠は腫瘍が良性か悪性か,増大傾向を示すか,今後ホルモン自律産生能を有するのかどうかの3点である。
腫瘍が悪性と診断された場合,副腎癌,転移性副腎腫瘍を考える。副腎癌の場合,限局癌であれば外科的切除が選択される。発見時すでに転移を有しており,手術適応とならない場合もある。副腎癌の5年生存率は16%と予後不良であるため[15],副腎癌の鑑別は早期に行うことが重要である。転移性副腎腫瘍の場合は原発腫瘍の治療方針に従い,治療が行われる。一般的には外科的切除は行わず,全身化学療法が施行される。原疾患としては肺癌が最も多く,胃癌,乳癌,大腸癌などが続く[16]。
非機能性副腎腫瘍のうち,腺腫や骨髄脂肪腫などの良性腫瘍と診断された場合,腫瘍に伴う圧迫などの症状を認める場合手術適応となる。副腎囊胞においては7%に悪性所見を認めるとの報告があり[17],7cm以上の囊胞,内部不均一,壁肥厚を認めるものなどの悪性所見を認める場合は手術適応となる。
しかし画像診断にて良性腫瘍,悪性腫瘍の特徴的な所見を得られない場合もあり,臨床的には腫瘍径を用いて手術適応を決定するのが一般的である。先に述べたManteroらの4cmをcut off値としたときの偶発腫瘍における良悪性の鑑別の感度,特異度が93%,42%であったとの報告を踏まえ,現在は4cmがcut off値として推奨されている[16]。
Campbell-Walsh Urology 10thに記載されている副腎偶発腫瘍の診断アルゴリズムを図1に示す。4cm以上の副腎偶発腫瘍は外科的切除を推奨している。Brazonらは腫瘍径4cmを基準とし,平均2.5cmの75例の副腎偶発腫瘍を経過観察した。1年後,5年後,10年後に腫瘍径の増大を示した症例はそれぞれ8%,18%,22.8%,内分泌機能性を有した症例はそれぞれ4%,9.5%,9.5%であり,悪性化した症例はなかったと報告している[18]。さらに3cm以上の腫瘍が内分泌活性を示しやすいと報告している。4cm未満の非機能性腫瘍に関しては図1のごとく定期的な画像検査,内分泌検査を施行したうえで,増大傾向を認める腫瘍,内分泌活性を有した腫瘍は外科的切除を検討するべきと考える。4cm未満の非機能性副腎腫瘍のフォローアップの期間や時期に関して定まったものはないが,図1のごとく6,12,24カ月時の画像診断と年1回の内分泌学的検査を4年間という考え方[16]や,米国のガイドラインで推奨する最長2年間の画像検査と5年間の内分泌学的検査という考え方が多いようである[19]。
以上,内分泌非機能性副腎腫瘍に関して診断および治療方針を中心に述べた。非機能性副腎腫瘍と診断された場合,良性,悪性の鑑別と増大傾向を示すのかが重要となってくる。腫瘍径が4cm以上であれば手術適応とし,4cm未満であれば画像検査と内分泌学的検査を併せて経過観察する必要がある。
副腎偶発腫瘍の診断アルゴリズム
Campbell-Walsh Urology 10th Edition p1736, 2012を一部改変。