日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
腎性副甲状腺機能亢進症外科治療の現状と今後の展望
中村 道郎
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2014 年 31 巻 3 号 p. 210-213

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抄録

腎性副甲状腺機能亢進症は,いわゆる「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」の一部と捉えられる。その中で副甲状腺組織が結節性過形成にまで進展した病態では,細胞の各種受容体密度の減少が原因で内科的治療に抵抗性を示すようになり,重度のものは外科治療すなわち副甲状腺摘出術が必要となる。病因がCKDであり,手術後に再発・再燃することや,腎移植後に遷延・持続する症例も存在する。手術件数の現状では,日本透析医学会から治療ガイドラインが提示された2006年以降手術数の増加を認めたが,2008年の塩酸シナカルセトの日本発売をうけて手術数は激減しており,シナカルセトの副甲状腺細胞や組織に与える影響などが研究中である。慢性透析療法をうけている患者の生命予後を考慮する時,不可逆性に変化した副甲状腺に対しては,異所性石灰化などの弊害が顕在化する前に,根治的な外科的治療に移行することは大切である。

はじめに

副甲状腺機能亢進症の中で,慢性的な腎機能の低下に起因して生じてくる病態を「腎性副甲状腺機能亢進症(Renal Hyperparathyroidism:RHPT)」と称し,外科的治療が必要となる症例の多くは慢性透析療法をうけている。腎臓と副甲状腺という離れた臓器が関連して引き起こすこの病態はやや複雑だが,外科的治療前後の管理には病態の正確な理解が必要である。RHPTの特殊な病態を解説し,外科的治療の現況と今後の展望を述べる。

腎性副甲状腺機能亢進症RHPTの病態

RHPTは,2012年に日本透析学会からガイドライン[]が発表されたように,慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の一部として捉えるべきである。CKD-MBDの概念は,1)カルシウム(Ca)やリン(P)などの検査異常,2)骨の異常,3)血管石灰化,という3つの要素からなり,その管理目標は患者の生命予後を重視する形でとり扱われている。

従来RHPTの病因は,腎機能低下に伴うP貯留,低Ca血症,腎での活性型ビタミンD産生低下などと説明されてきた(修正Trade-off説)[,]。近年になってリン代謝調節因子としてFibroblast Growth Factor 23(FGF23)のこの病態への関与が注目されるようになった。CKDステージの悪化に伴い血中FGF23濃度は上昇するが,これはP負荷への代償作用(P利尿作用)と考えられる他,活性型ビタミンD産生低下の原因にもなる。それによって副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の分泌が促進し副甲状腺機能亢進状態の引き金となる。

この副甲状腺機能亢進状態が持続的になると,副甲状腺に組織学変化がおこる。図は,RHPTが高度に進展するに従い副甲状腺組織に過形成性変化がおこり,さらにCa感知受容体,Vitamin D受容体の減少を伴い,過形成の形態がびまん性から結節性,さらに単一結節性へと変化するという仮説が明示されている(図1)[]。本来副甲状腺はFGF23の標的臓器であり,PTH合成と分泌を抑制する作用がある。しかし高濃度になっているFGF23が本来の作用を発揮しにくいのは,過形成が進展し,Ca感知受容体やVitaminD受容体のみならず,副甲状腺細胞に存在するFGF23の受容体であるFGFR1や共受容体として作用するklothoが低下していることが原因と報告されている[]。

図1.

腎性副甲状腺機能亢進症における副甲状腺過形成の進展様式(仮説)(文献を一部改変):

慢性腎不全の状態において副甲状腺細胞は,最初びまん性・ポリクローナルに過形成をおこし増殖する。続いて,ある結節内のある細胞にモノクローナルな増殖機転が生じ,ついにはひとつの結節が著明な増殖をおこす。Ca感知受容体やVitaminD受容体などの各種受容体の密度は進展する過程で減少していくと考えられる。

RHPTの内科的治療の原則は,活性型Vitamin D製剤の投与とPのコントロールとなるが,この結節性過形成に進展し各種受容体の減少した副甲状腺組織は不可逆性で内科的治療に抵抗性を示し,外科的治療すなわち副甲状腺摘出術(prathyroidectomy:PTx)が必要となることが多い。高度のRHPTは,検査異常を呈するのみならず,骨密度の低下から骨折のリスクを高めたり,血管石灰化などを介して生命予後にも深刻な影響を及ぼしえる。

副甲状腺摘出術(PTx)の術式・適応・効果

RHPTに対する術式には,大きく分けて全摘術と亜全摘術があり,全摘術には自家移植の有無で2種類の術式がある。全摘術とは文字通り,すべての副甲状腺を摘出することで,過剰腺や異所性腺(縦隔内,甲状腺内,下降不全など)がある場合などは,それらも含めて摘出する。そのために術中PTHモニタリングを利用している施設もある。

腎移植の機会が少なく,透析患者の生命予後が長い日本では,再発・再燃のことを考慮するべきで全摘術+自家移植術が主流となっている。また,献腎移植の待機期間の長い日本では,PTx後に献腎移植の機会が訪れることがある。腎移植後の副甲状腺機能低下症は低Ca血症の管理が難渋することから,将来腎移植をうける可能性がある患者には自家移植をした方がよい。

日本透析学会による「慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常に対する診療ガイドライン」[]は,心血管イベントの低下など,生命予後の改善に目標がおかれている。その中でPTxの適応は下記となっている。

<ステートメント>

1.内科的治療に抵抗する高度の二次性副甲状腺機能亢進症1に対しては,PTxを推奨する(1B)。

2.腫大副甲状腺が1腺のみで穿刺可能な部位に存在する場合,PEITを考慮することは妥当である(グレードなし)。

補足:1高度の二次性副甲状腺機能亢進症とは,intact PTH 500pg/ml,あるいはwhole PTH 300pg/mlを超える場合とする。ただしこれ以下の値であっても,管理目標値を上回る高P血症あるいは高Ca血症が是正困難な場合,PTxの適応を検討することは妥当である。

上記のPTx適応基準に加え,⑴自覚症状,⑵骨回転の亢進,⑶X線画像検査での骨変化(頭蓋骨のsalt and pepper像,椎体のrugger jersey像,中手骨の骨膜下吸収像など),⑷進行性の異所性石灰化(血管,心臓の弁,腫瘤状石灰化)を認める場合は,より積極的にPTx適応を考えるべきだと述べられている。

PTxが成功すれば,PTH値は劇的に低下し,血清P,Ca値の管理が改善されるとともに,自覚症状,高回転型骨病変の組織所見も改善し,骨密度の上昇が期待できる。さらに観察研究では,PTxの実施が透析患者の骨折リスクの低減[],心血管事故の減少[],生命予後の改善[,]につながる可能性が示されている。

また,貧血,高血圧,心機能の改善が認められることも稀ではない。異所性石灰化に関しては,軟部組織のように石灰化が消退する部位もあるが,血管や心臓弁のように不可逆性の部位もあり,PTxの適応時期が遅れないよう配慮する必要がある。

ここ数年塩酸シナカルセトや新しいリン降下薬が登場し,中等度以上のRHPTにおいても,PやCaの管理が一時的には可能な場合もある。しかし,副甲状腺組織が結節性過形成に進展していると,管理不能となることも多く,特に塩酸シナカルセト抵抗性症例の手術適応の時期を見逃してはならない。

経皮的エタノール注入療法(PEIT)は,活性型Vitamin D製剤と併用し効果的な症例もあるが,結節性過形成腺が2腺以上認められている症例には長期的な管理は困難と報告[10]されており,適応は限定的にすべきと考える。

全国調査からみるPTxの現状

「二次性副甲状腺機能亢進症に対するPTx研究会」が発足し,全国の主要施設へのアンケート方式によって登録集計が行われるようになった。年次的変化を表1に示す。日本の主要106施設中77施設からの集計が行われたが,2006年に日本透析医学会からのRHPTに対する治療ガイドラインが示され,2007年にはPTx数はピークを迎え1754件にまで達した。その後2008年に塩酸シナカルセトの日本発売をうけて2010年には458件にまで減少し,その後も減少傾向である。

表1.

副甲状腺摘出術数の年次推移

CKD-MBDからみたRHPT外科治療の考え方:PTxと腎移植

RHPTは,CKD-MBDの一部として捉えるべきである。多くの場合PTxが成功するとPTH値が急激に低下し,PやCa,PTH値は良好にコントロールされる。しかし慢性透析療法を継続する必要がある以上,稀にRHPTの再発・再燃がおきることがある。自家移植腺や遺残腺の機能亢進状態を予防するためにPTx後もMBD管理が肝要になってくる。すなわち活性型Vitamin Dを中心とした内科的治療とPのコントロールは必要である。

腎移植によって腎機能が回復した場合のRHPTについてすべてが判明しているわけではない。RHPTの合併した慢性透析患者においても腎移植をすることで,亢進した副甲状腺機能が低下することはよく経験する。腎移植後,PTHが低下・正常化し,ミネラル代謝異常も改善する症例は確かに存在するが,すべての症例ではなく,中~高度に進展したRHPTに対しては腎機能が回復しても亢進状態が遷延する[11]。腎移植後の遷延性副甲状腺機能亢進症あるいは三次性副甲状腺機能亢進症といわれる病態である。どの程度までなら回復し,どこからが回復しないのか,明確な境界は難しいが,結節性過形成にまで進展した副甲状腺組織は各種受容体数の回復が望めず,増殖能が持続するという報告がある[12]。副甲状腺が自働性を獲得し機能亢進状態が継続するのである。また一方で腎移植後の腎機能を考えると,腎移植が成功しても成人の場合,回復する腎機能の程度はほとんどがCKDのstage3~4であり,しかも様々な要因で年次的に低下していくことが多い。腎移植後の慢性期にde novoのRHPTをおこすこともある。

腎移植予定患者のPTxに関しては,腎移植後のPTxが移植腎機能の低下を招くリスクを指摘する報告[13]もあるので,腎移植を予定している(あるいは希望している)患者は,移植の前に積極的にPTxを行っておくことが推奨されている[]。

また腎移植後に遷延するRHPTに関して,移植腎間質への石灰化沈着[14]や,尿路結石[15],骨折頻度の増加[16]などの悪影響が報告されており,高度の高Ca血症を伴うものはもちろん,持続的な高Ca血症を呈する症例にもPTxが必要と考えている。

今後の展望

RHPTにおける外科的治療の今後の展望を考えるにあたって,新しい薬剤の開発などで内科的治療の限界が広がっていく可能性がある。現在の治療薬の中では塩酸シナカルセトが期待されている。

塩酸シナカルセトは,新しい作用機序をもつ内服薬であるが,Ca値やPTH値を低下させるという臨床的なデータの改善の他に副甲状腺組織自体に影響を及ぼす可能性が報告されるようになった。

塩酸シナカルセトを投与されていた患者の摘出副甲状腺組織からの検討では,組織学的変化としては,囊胞性変化や出血性変化の頻度が増加する可能性が示唆されている[17]。また,細胞レベルにおいては好酸性細胞の増加や,Ca感知受容体の増加[18],さらにはアポトーシスの増加[19]も報告されている。実際の内服量で副甲状腺組織や細胞が質的な変化をおこす可能性が示唆されてはいるが,結節性過形成を呈した副甲状腺組織の質的改善はやはり難しいと考えられている。MBD管理が不完全で血管石灰化などの弊害が生ずる前にPTxなどのインターベンションを考慮すべきである。今後,過形成がさほど進展していない軽度のRHPTから塩酸シナカルセトが投与されることで,組織学的進展が抑えられる可能性はある。長期透析期間を経ても副甲状腺組織が結節性過形成に進展しないならばPTxをせずに内科的治療が奏効し続けるかもしれない。今後の検討が必要である。

おわりに

一般的にRHPTの外科治療は内科的治療に抵抗する症例に施されるわけだが,将来薬剤の進歩で内科的治療の限界が広がる可能性はある。しかしPTxを躊躇することで,血管や心臓弁の石灰化,骨密度の低下など患者にとって生命予後に直結する不可逆性変化をおこしてしまうこともあり,PTxへタイミングよく移行することと,質の高いPTxを行うことがわれわれ医療者にとって大切だと思われる。

【文 献】
 

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