日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
神経内分泌腫瘍のPET・SPECT
窪田 和雄
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2015 年 32 巻 2 号 p. 112-115

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抄録

ソマトスタチン受容体に結合する標識オクトレオチドを用いたPET/CTおよびSPECT/CTは,膵・消化管の神経内分泌腫瘍(NET)の病巣診断・転移診断に有用である。また,ペプチド受容体放射性核種治療の適応判定や,オクトレオチド製剤の治療効果予測にも利用される。ソマトスタチン受容体イメージングがNETの高分化な特質を評価するのに対し,FDGPET/CTはNETの増殖や悪性度を評価するのに有用であり,相補的な機能画像情報を提供する。

1.はじめに

膵・消化管の神経内分泌腫瘍(NET)に特徴的なソマトスタチン受容体に結合する標識オクトレオチドを用いたPET/CTおよびSPECT/CT診断について,およびFDGPET/CTによるNETの診断について解説する。

2.ソマトスタチン受容体と神経内分泌腫瘍

ソマトスタチンは14個のアミノ酸からなる環状ペプチドで,膵・脳・消化管など全身に分布し,神経伝達物質としてホルモン分泌抑制や細胞増殖抑制などの作用を有している。ソマトスタチンは,特異的な受容体により細胞内に取り込まれて作用を発揮するが,膵や消化管などの神経内分泌腫瘍(NET)の細胞膜には5種類の受容体のサブタイプ(SSTR1~5)のうちSSTR2と5が発現増加し,診断・治療に応用されている。ソマトスタチン自体は血液中の生物学的半減期が2~3分と短時間で分解され薬剤としての利用が困難なため,血中で安定な様々の類似体が開発されている(図1)[]。

図1.

十二指腸原発,Grade2 NETの肝転移症例。肝の両葉への転移巣に高いSRS集積がみられるが,FDG集積は低く,良くわからない。

オクトレオチドはSSTR2と5に強い親和性を持ち,生体内で安定性の高いソマトスタチン類似体として開発され,NETの増殖抑制を図るため,また機能性NET(ガストリノーマ,インスリノーマ,カルチノイドなど)のホルモン分泌抑制のため,治療薬として使用されている(サンドスタチン®など)。また,ガンマ線放出核種であるインジウム111で標識され,SPECTやシンチグラフィーで検出する核医学診断薬として利用されている。さらにポジトロン核種68Gaで標識され,PET/CT診断薬として近年欧米で利用が拡大している。オクトレオチドを,治療用のβ線放出核種ルテチウム177やイットリウム90で標識して注射し,NETの病巣に集積させ体内から照射し放射線治療するペプチド受容体放射性核種治療(PRRT:Peptide receptor radionuclide therapy)もヨーロッパを中心に盛んに行われている。

3.ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)

インジウム111標識ペンテトレオチド(オクトレオスキャン®)によるソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)は,膵・消化管NETにおいて高い検出感度と臨床的有用性を示し,世界ではNET診断の標準的な検査である[]。

日本では1994年に“シンチグラフィーによるSSTRを有する消化管ホルモン産生腫瘍の診断”の効果・効能で希少疾患用医薬品の指定を受け,治験を経て1999年に承認申請が行われたが未承認のままである。2010年には厚労省により“医療上の必要性の高い未承認薬”と認定された。最近,企業による新たな承認申請が準備中とのことである。

SRSによる検出感度が高い(>75%)腫瘍として,膵・消化管NETとくにガストリノーマ,非機能性NET,カルチノイド,パラガングリオーマ,他に下垂体腫瘍,肺小細胞癌,髄膜腫などが,中等度の検出感度(40~75%)の腫瘍としてインスリノーマ,他に甲状腺髄様癌,分化型甲状腺癌,乳癌,リンパ腫,褐色細胞腫,星状細胞腫などが知られている。ただし,SSTR2を強く発現しているNET以外の腫瘍や,サルコイドーシスなどの肉芽腫,関節リウマチなどの炎症性疾患でも陽性となり,NET特異的ではない[]。

SRSの診断能についてのSystematic reviewでは,腸管のNETの検出感度は46%~100%,膵NETの感度は67%(46~93%)と報告されたが,これは様々な臨床状況および様々な撮影プロトコールが混在したものである。また,小腸NETの感度(78%)よりも膵NETの感度(67%)の方が,さらにインスリノーマの感度(~60%)の方が低いと言われている。撮影方法についてもプラナー像(平面撮像)よりSPECT(断層撮像)の方が精度が高く,さらに最近のSPECT-CTでは,CTとの融合画像による診断精度の向上,CTによる吸収補正による感度の向上によりクリニカルインパクトの向上に貢献したと報告されている。

欧米のガイドラインなどでは,膵・胃・小腸・直腸などのNETの診断に際し,CTやMRIと共にSRSによる病巣診断,リンパ節転移や肝転移の診断が推奨されており,SRSにより新たな病変の発見も少なくない[]。術前評価として,転移病巣の診断のためにCTやMRIにSRSを追加すべきであるとされている。SRSによりPRRTの治療効果(腫瘍集積が高いほど治療効果も高い)ならび腎障害の発生(腎集積が高いほど腎障害が起きやすい)が予測できると報告されており,適応の判定に,SRSまたはSR-PET/CTが必須である。また,ソマトスタチン受容体の評価により,オクトレオチド製剤への治療反応性が予測できることが報告され,海外ではコンパニオン診断薬としての利用が始まっている[]。図1にSRSとFDGPET/CTを比較した症例を示す。

4.ソマトスタチン受容体PET/CT(SR-PET/CT)

オクトレオチドをDOTAなどのキレート剤を介してポジトロン核種であるガリウム68で標識した,68Ga-DOTATOCなどによるSR-PET/CTが注目されている。Tregliaらによる消化管・膵・肺のNET567例のメタ解析では,感度93%(91~95%),特異度91%(82~97%)と報告され,SR-PET/CTの高い診断精度が明らかとなった[]。SR-PET/CTによりSRSよりも精度の高い診断が可能になり,欧米の先進的な施設で利用が広がっている。SRSと比較した時,SR-PET/CTのメリットはPET/CT画像による診断精度の向上と共に,定量的な評価が容易な点である。これに着目しPRRTの際の吸収線量のシミュレーションと治療計画に応用する研究も行われている。68Ga-DOTATOC-PET/CTの症例を図2に示す(京都大学中本祐士先生ご提供)。

図2.

68GaDOTATOC-PET/CT画像(京都大学中本祐士先生症例)。

MEN-1型,膵尾部ガストリノーマにて経過観察中の女性。肝内に多発腫瘍あり,S3の早期濃染を示す結節(青矢印)や右肺中葉の結節(赤矢印)に一致してDOTATOCの高集積を認め,それぞれガストリノーマの肝転移,肺転移に矛盾しない。白抜き矢印は脾臓への生理的な集積。

68Gaは半減期68分のポジトロン放出核種で,サイクロトロンではなく68Ge/68Gaジェネレーターにより製造する。親核種の68Geの半減期は271日と長く,比較的長期間使用できるもののジェネレーターは高価である。また製造した68Gaによる標識・精製技術,専用機器が必要になり,オクトレオスキャンの標識キットのように混ぜるだけではない。多数の検査を実施すれば,1検査あたりの費用は抑えられるかもしれない。

5.FDG-PET/CTと膵・消化管NET

FDG-PETの陽性率は,高分化のNETにおいては一般的に低く(13~53%),増殖の速い腫瘍においては陽性率が高くなり,増殖の指標であるKi67インデックスと相関し,SRSが陰性になるような神経内分泌癌(NEC)の診断に有用と報告されている。これは2010年のNETのWHO分類を参照すると理解しやすい(図3)。グレード1~2の高分化なNETにおいて,SRSの陽性率が高く,グレード3の増殖能の高い,より未分化な神経内分泌癌(NEC)においては,SRSよりもFDGPETの陽性率が高くなる。Binderupらの96例のNET(消化管51,膵29,肺その他16)の比較では,全体の検出感度はSRS:89%,FDGPET:58%,123I-MIBG:52%とSRSの検出感度が最も高い。これを,Ki67 indexで分類すると,2%未満のグレード1ではSRS:87%,FDG:41%,2~15%のおよそグレード2相当ではSRS:96%と最も高くなりこの時FDG:73%であった。15%より高値のグレード3相当ではSRS:69%に対しFDG:92%とFDGが最も高くなる[]。Garinらの38例の転移性のNET(膵9,消化管14,原発不明他15)の予後予測についての報告では,SRS陽性の12カ月後の無増悪生存率(PFS)は70±9%,SRS陰性は18±12%と明らかな差があり,逆にFDGPET陽性は7±6%,陰性は87±7%であった。つまり,NETにおいてSRS陽性は予後良好,FDG陽性は予後不良を示唆する所見と考えられる[]。われわれのNETの病変ごとの解析でも,図3の模式図のように,転移病巣へのSRSの集積とFDG集積が逆相関関係にあり,多発転移の患者では,病巣毎に非常に不均一な集積であることが示された[]。

図3.

2010年NETのWHO分類およびFDG集積,SRS集積の関係

2013年11月に公表された初めての日本の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは,クリニカルクエスチョン1-5.NETの転移の検索に推奨される画像検査は何か,が取り上げられている。FDG-PET,SRSの記載は上記とほぼ同様なので詳細はインターネットを参照されたい[1011]。

6.おわりに

膵・消化管の神経内分泌腫瘍のソマトスタチン受容体をターゲットとした,オクトレオチド製剤による核医学診断は,単なる転移診断ではなく,病態診断薬として治療や予後の指標となる画像情報を提供する。普及により,治療の精度の向上に貢献すると予測されており早期承認・普及を期待する。

(注:本解説記事の一部は,「肝胆膵」誌70巻4号621-628,2015に既発表の解説記事を引用しました。)

【文 献】
 

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