日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
32 巻, 2 号
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会告
巻頭言
目次
編集委員会
特集1
  • 藤森 実, 山下 啓子
    2015 年32 巻2 号 p. 67
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    乳癌の内分泌療法(ホルモン療法)はエストロゲンレセプターを標的とする分子標的治療であり,1896年のBeatsonによる卵巣摘出術以来120年の歴史を持つ。また,トラスツズマブ(ハーセプチン®)はHER2を標的とする分子標的治療薬であり,近年の分子標的治療薬の先駆けである。内分泌療法と抗HER2療法剤のトラスツズマブは,再発予防目的の手術前後の薬物療法,および進行再発乳癌の薬物療法の第一選択として推奨され,予後を著しく改善してきた。分子標的薬の開発においては,標的となる分子が癌の進展にとって重要なdriverであり,また正常細胞での働きに影響せず副作用が生じないことが望ましい。しかし,特に最近開発中である細胞膜に存在する増殖因子受容体や細胞質のシグナル伝達経路の因子を標的とした分子標的薬の多くは,副作用や,効果予測のバイオマーカーが開発されていないため有効な患者を選択できないことなどの問題がある。さらに内分泌療法やトラスツズマブ抵抗性となるメカニズムは同一腫瘍内においてもすべての癌細胞で均一とは限らず,heterogeneityが存在して個々の細胞で異なるメカニズムの抵抗性が生じていると考えられている。最近,内分泌療法,およびトラスツズマブに対する耐性メカニズムの研究の成果により,新規の分子標的薬が開発され使用されるようになっている。すなわち,内分泌療法抵抗性の克服を目的とした内分泌療法剤と併用する分子標的薬(mTOR阻害剤)であるエベロリムス,および新規の抗HER2療法剤であるペルツズマブとT-DM1である。本特集では,内分泌療法の耐性メカニズムの基礎を東北大学の林慎一先生に解説していただき,また,抗HER2療法を中心とした分子標的薬のメカニズムについて兵庫医科大学の三好康雄先生に執筆していただいた。また新規の分子標的薬については,mTOR阻害剤であるエベロリムスについて大阪医療センターの増田慎三先生に,抗HER2療法剤であるペルツズマブとT-DM1についてがん感染症センター都立駒込病院の山下年成先生に執筆していただいた。本特集が,乳癌診療に携わる方々のみならず,癌診療に携わる方々にとって役立つものとなれば幸いである。
  • 林 慎一, 木村 万里子
    2015 年32 巻2 号 p. 68-73
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌ではホルモン療法が有効であるものの,およそ3分の1は再発する。再発のメカニズムは数多く研究されてきたが,完全に解明されたわけではなく,ホルモン療法耐性,特にアロマターゼ阻害剤(AI)耐性は代替的な細胞内ERシグナルの獲得が関係すると考えられている。筆者らは癌組織検体と癌細胞株でERの転写活性をモニタリングすることでそのメカニズムを研究してきた。エストロゲン応答配列(ERE-)GFPアデノウィルス試験ではAI無効例は多様なER活性を示し,抗エストロゲン剤への感受性も様々であったが,これは耐性には複数の機序が存在することを示唆している。また,ERE-GFP導入ER陽性乳癌細胞株からAI耐性を模倣する6種類の異なるタイプの耐性株を樹立し,リン酸化依存性やアンドロゲン代謝物依存性など,複数の代替的なER活性化経路がAI耐性に関わることを明らかにした。フルベストラントやmTOR阻害剤への反応も個々の耐性株で異なっていた。これらの結果はER陽性乳癌の分類をさらに細分化することが,ホルモン療法だけでなく新しい分子標的薬などの治療選択に極めて重要であることを示唆している。
  • 樋口 智子, 三好 康雄
    2015 年32 巻2 号 p. 74-79
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    乳癌の分子標的薬は,PI3K/AKT/mTOR経路,HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型),血管新生因子などを標的に開発されている。ER(エストロゲン受容体)陽性乳癌の内分泌療法耐性機序にmTORの活性化が関与しており,すでにmTOR阻害薬のeverolimusは臨床の場で用いられている。また,PIK3CAには高頻度で遺伝子変異が生じており,PI3K阻害薬も開発段階にある。mTORとPI3Kでは阻害効果に差が認められることから,どの分子が治療標的か,バイオマーカーの同定は重要である。抗HER2抗体医薬のtrastuzumabに対する耐性機序にはリガンド依存的なHER2-HER3シグナルの活性化が関与しており,HER3との結合部位を認識する抗体医薬のpertuzumabはこのシグナルを阻害する。また,trastuzumabに抗癌剤を結合したtrastuzumab emtansine(T-DM1)は,細胞膜のHER2と伴にインターナリゼーションによって取り込まれ,リソソームで分解されることで遊離したemtansineが抗腫瘍効果を発揮する。このようにeverolimusやpertuzumabは活性化シグナルの阻害で治療効果を得るのに対し,T-DM1は細胞内への取り込みと分解効率が効果に影響すると推測される。
  • 増田 慎三
    2015 年32 巻2 号 p. 80-85
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    PI3K/AKT系のgrowth factorシグナルの中心位置に存在するmTORは,乳癌増殖において重要な役割を担っている。その作用を阻害するエベロリムスの登場により,特に進行再発ホルモン陽性乳癌の治療体系のダイナミックな変化が生じている。比較的緩やかな増悪傾向を有するホルモン陽性乳癌の治療経過において,ホルモン感受性と耐性,その機序を考察しながら,エベロリムス+エキセメスタン併用療法(BOLERO-2試験)によるホルモン療法耐性解除のベストタイミングを探る必要がある。本剤はHER2陽性乳癌領域においても,トラスツズマブ+抗ガン剤に併用する効果の検証が大規模試験で継続中である(BOLERO-1,BOLERO-3試験)。薬剤コスト,口内炎や間質性肺炎などの副作用と,有効性とのバランスを上手に担保できるようなバイオマーカー,コンパニオン診断薬などの開発が今後期待される。
  • 山下 年成
    2015 年32 巻2 号 p. 86-90
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    進行・再発HER2陽性乳癌に対してトラスツズマブとは異なるHER2タンパクに結合するペルツズマブ,トラスツズマブに抗癌剤の一種であるDM1を結合したT-DM1が使用可能となった。ペルツズマブは1次治療を対象としたトラスツズマブ,ドセタキセル併用療法に加えることにより,PFS(progression free survival),OS(overall survival)ともに延長した。現在,このトラスツズマブ,ペルツズマブ,タキサン治療が進行・再発HER2陽性乳癌の1次治療として推奨される。T-DM1についてはトラスツズマブ,タキサンの治療歴を有する再発乳癌患者を対象にラパチニブ,カペシタビン併用療法と比較した試験でPFS,OSともに延長したことから2次治療以降で使用されるべき薬剤と考えられる。両薬剤とも術前,術後治療などの試験が進行中である。
特集2
  • 絹谷 清剛
    2015 年32 巻2 号 p. 91
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    FDG-PETは種々の内分泌腫瘍性疾患に用いられており,乳癌,甲状腺癌ではルーチン検査となっていることと推察する。原理は,悪性腫瘍のグルコース利用亢進をターゲットとしたものであり,一般に集積の強いものほどaggressiveである。そのため,半定量評価指標であるSUV(standardized uptake value)が一人歩きしてしまい,臨床医がこの値に振り回されている現場を時に経験する。また,あらゆる検査と同様に,有用性と限界点を持っている。乳腺,甲状腺の項目を書いていただいた立石宇貴秀先生,中駄邦博先生は,それぞれ深い造詣をお持ちであり,これらの臓器におけるFDG-PETの使い方をわかりやすく解説していただけたと思う。副甲状腺はPET検査ではないが99mTc-MIBIシンチグラフィや201Tl/99mTcシンチグラフィサブトラクション法が用いられており,USで検出できない異所性副甲状腺腫大の検出などに有用性が高いことは周知であろう。しかし,通常のシンチグラフィは分解能などの問題で検出能に限界があるため,種々のPETトレーサが検討されている。むろん,この目的に対するPET検査は研究レベルのものであるので,通常の医療現場で用いることはできないものの,困難な症例に遭遇した場合に打開策となりえると考え,知識をインプットしておくことは無駄ではないと考える。この項目はメチオニンPETの経験をお持ちの中本裕士先生にお願いした。我が国における神経内分泌腫瘍の画像診断は,形態診断であるUS,CT,MRIで行われるが,欧米ではソマトスタチン誘導体トレーサが効果的に用いられている。存在・部位診断のみならず,潜在的に悪性である可能性のあるこの疾患の全身検索にも応用されている。古くは111In-オクトレオシンチが,最近はPETトレーサである68Ga-ソマトスタチン誘導体が応用されている。特に後者の本疾患における有用性は非常に高いものである。また,悪性神経内分泌腫瘍で手術不可能な症例に対する90Y/177Lu-ソマトスタチン誘導体内照射療法の適応・効果判定に意義が高い。この治療は現状では国内では実施されていないが,現在国内への導入が検討されている段階である。窪田和雄先生は,このような流れの中で,積極的に取り組んでおられる。褐色細胞腫における123I/131I-MIBGシンチグラフィ,131I-MIBG内照射療法は本誌をお読みの先生方はご存じであると思う。一方で,FDG-PETの意義はあまり知られていないかもしれない。確定診断を進める過程ではFDG-PETを行う必要性は乏しいが,再発例や転移例などの悪性褐色細胞腫と判断された段階で意義を有する。すなわち,MIBG集積とFDG集積は相補的関係を有するようであり,一方のみが集積することがよく経験される。これは,各病巣の生物学的性格の相違に基づくものと考えられる。131I-MIBG内照射療法を含め,これらの経験が豊富な吉永恵一郎先生に解説をお願いした。本特集が,今後の診療の参考となることを祈念する。
  • 久保田 一徳, 鳥井原 彰, 藤岡 友之, 立石 宇貴秀
    2015 年32 巻2 号 p. 92-97
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    現在の乳腺診療において,FDG-PET/CTは乳癌転移の検出について高い診断能を有している。リンパ節転移診断の特異度の高いことや,網羅的に全身を検査できる点での意義は高い。現状では,乳腺腫瘍の良悪性判別や乳癌の検出においての限界があるが,局所の評価においても有用性が示されてきている。乳癌サブタイプや組織型ごとにFDG集積に特徴があり,ホルモン陽性乳癌ではFDG集積は弱く,トリプルネガティブ乳癌やHER2陽性乳癌において高いSUVを示すことが報告されている。また組織学的グレードや予後との関連も報告されている。術前や術後の薬物療法の効果判定においてもPETが用いられ,PETを用いた早期の効果判定の試みが行われている。現状では小さな乳癌や非浸潤性乳管癌などの病変検出能は低いものの,PEM(Positron Emission Mammography)やPET/MRIといった新しい装置が導入されることやPET/CTの進歩によって,あるいは新しいトレーサーの導入によって,さらに乳腺診療にPETが寄与できると思われる。
  • 中駄 邦博
    2015 年32 巻2 号 p. 98-105
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    F-18 fluorodeoxyglucose(FDG)を用いたPET/CTの甲状腺腫瘍の術前評価における意義は限られている。FDG集積の有無や程度に基づいた甲状腺腫瘍の質的診断は困難であり,細胞診の結果がindeterminateの結節にFDG-PET/CTを行っても追加情報は得られ難い。低リスクの分化癌の病期診断においてUSや造影CTを上回る感度は得られない。一方,悪性度の高い腫瘍の病期診断や高リスク分化癌の術後の病期再評価,甲状腺全摘術後でI-131シンチグラフィ陰性かつサイログロブリン(Tg)陽性の症例,自己抗体陽性でTg値が腫瘍マーカーとならない症例などにおける病巣の局在診断や経過観察にFDG-PET/CTは有用である。しかし,偽陽性,偽陰性が少なからず認められるのでCT所見も参考にして慎重に解釈しなければならない。FDG-PET/CTの新しい役割として放射性ヨウ素内用療法(RAI)抵抗性の判定,分子標的治療薬の適応や効果判定,術後甲状腺癌の予後推定における有用性が期待される。
  • 中本 裕士, 早川 延幸
    2015 年32 巻2 号 p. 106-111
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    副甲状腺疾患に対する画像診断としては,副甲状腺腺腫や過形成の検索を目的とする超音波検査や核医学検査が用いられる。核医学検査では99mTc-MIBIを投与して,頸胸部の早期像と後期像を撮像するシンチグラフィが中心となり,複合型SPECT/CT装置の普及に伴い,形態画像と代謝画像を重ね合わせて診断する機会が増えている。放射性薬剤としてFDGを投与し,糖代謝の亢進をPET/CTによって可視化する画像診断法が悪性腫瘍に対する画像診断としてこの10年で広く普及したが,副甲状腺腺腫・過形成検索目的には十分な感度を有していない。一方で,アミノ酸代謝の亢進を画像化するメチオニン-PET検査の診断精度に関する報告は多い。99mTc-MIBIを用いた通常のシンチグラフィで結論が出ない場合のオプションとして,今後はメチオニンやコリンなどを検査薬としたPET/CTが考慮されるものと期待される。
  • 窪田 和雄
    2015 年32 巻2 号 p. 112-115
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    ソマトスタチン受容体に結合する標識オクトレオチドを用いたPET/CTおよびSPECT/CTは,膵・消化管の神経内分泌腫瘍(NET)の病巣診断・転移診断に有用である。また,ペプチド受容体放射性核種治療の適応判定や,オクトレオチド製剤の治療効果予測にも利用される。ソマトスタチン受容体イメージングがNETの高分化な特質を評価するのに対し,FDGPET/CTはNETの増殖や悪性度を評価するのに有用であり,相補的な機能画像情報を提供する。
  • 吉永 恵一郎, 真鍋 治, 玉木 長良
    2015 年32 巻2 号 p. 116-120
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    ポジトロン断層撮像法(PET)は腫瘍の増殖性や交感神経機能活性を評価することが可能な生理的な画像診断法である。近年ではコンピューター断層撮像装置(CT)が組み込まれた撮像装置となり,形態・機能を同時に評価することが可能である。褐色細胞腫へのPET/CTの適応は術前に転移病変の有無を評価することおよび転移病変が存在する悪性褐色細胞腫の治療指針の選択である。特に悪性褐色細胞腫の病型は多彩であり,最適な治療法の選択には情報量の多いPET/CT検査は有用である。
原著
  • 末延 成彦, 宮脇 利果, 福田 昌弘, 小川 悦代, 安立 憲司, 川上 淑子, 伊藤 雄一郎
    2015 年32 巻2 号 p. 121-124
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    悪性腫瘍の中でも,稀な疾患である甲状腺癌は予後が良好であることから患者を対象とした意識調査は実施されていなかった。今回,われわれは分子標的治療薬であるソラフェニブの分化型甲状腺癌への適応承認を2014年6月に取得したことで,治療成績の向上に資するために,甲状腺癌を罹患している,または罹患していた患者を対象として2014年10月に外部の調査会社に委託し,インターネットによるアンケート調査を実施した。複数の調査会社に登録されている患者パネルを用いて計565名の回答を得た。回答者の71.0%(401名)が女性で,年代(男女計)は40代165名(29.2%),50代157名(27.8%),60代133名(23.5%)が多くを占めた。罹患してからの期間別では,5年未満217名(38.4%)5年以上348名(61.6%)であり,甲状腺癌の長期予後を反映する回答結果であった。多くの患者が上司や同僚らを含む家族などの近親者に伝えていたものの,正しい理解を得られないなどの課題も浮かび上がった。
症例報告
  • 橘 智靖, 折田 頼尚, 近藤 有, 小川 隆義
    2015 年32 巻2 号 p. 125-129
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    気管壁浸潤,頸部から縦隔にかけてのリンパ節転移を伴う甲状腺乳頭癌の術後に認めた肺病変を,当初甲状腺乳頭癌肺転移と考え治療を開始したが,副腎に病変が出現したことを契機に精査を行い,以前に手術治療を施行していた腎癌の肺転移の可能性が高いことが判明した症例を経験した。Sunitinibを投与開始後,肺病変は縮小傾向にある。特に他種の癌の既往がある患者においては,そちらからの転移の可能性も常に考慮することが大切と考えられた。
  • 大石 一行, 澁谷 祐一, 高畠 大典, 伊達 慶一, 藤原 聡史, 尾崎 和秀, 小野 憲昭, 西岡 豊, 堀見 忠司
    2015 年32 巻2 号 p. 130-135
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    近年腎移植後の生着率や生存率が増加するとともに移植後の悪性腫瘍の発生が問題となっている。皮膚癌,腎癌などが多いとされる一方,甲状腺癌の報告も散見する。移植後悪性腫瘍の発生機序として様々な報告があるが,その中の一つとして免疫抑制薬の関与も示唆されている(FK506:Tacrolimus,MMF:Mycophenolate Mofetil,CYA:Cyclosporin A,AZ:Azathioprineなど)。また悪性腫瘍の種類により治療方針も変わってくる。腎移植後甲状腺癌についての治療方針についてはこれまでまとまった報告もなく,今後の症例の積み重ねが必要である。
  • 和久 利彦, 瀬崎 伸夫, 園部 宏, 田中 健大
    2015 年32 巻2 号 p. 136-140
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    症例は78歳男性。18年前に上咽頭癌で化学療法+放射線療法施行。5年前びまん性甲状腺腫大を指摘されて当科を受診し,穿刺細胞診で悪性リンパ腫が疑われた。Ann Arbor分類IEの甲状腺悪性リンパ腫の疑いとして,診断目的にて甲状腺峡部部分切除を行った。病理組織結果は甲状腺MALTリンパ腫であり,術後に36Gyの放射線治療を行った。外来経過観察中,突然に汎血球減少を認め,当院血液内科で放射線療法が原因と考えられるAPLと診断された。ATRA,ATOの治療で完全奏効が得られ,加療後1年6カ月の現在再発の兆候はない。限局期における甲状腺原発MALTリンパ腫では,甲状腺全摘単独治療が推奨される。特に放射線療法の既往を持つ患者に対しては治療関連悪性腫瘍の危険性を考慮して外科的治療を優先することが推奨される。また生検診断後に放射線療法や化学療法などの追加治療を行った場合は二次癌発生の可能性を念頭においた経過観察を要する。
  • 高橋 大五郎, 平松 和洋
    2015 年32 巻2 号 p. 141-147
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/02
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    症例は66歳の男性で,右頸部の腫脹を主訴に受診し,頸部超音波検査で甲状腺右葉に60mm大の腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診で悪性(低分化癌の疑い)と診断し,甲状腺全摘術,右頸部リンパ節郭清を施行した。術後2カ月目のCTで多発肺転移,上大静脈内に腫瘍栓,右頸部リンパ節腫大を認めた。当初,病理組織学的には血管肉腫が疑われ,外部施設にコンサルト中であったため,化学療法としてパクリタキセルを投与した。術後4カ月目のCTでは多発肺転移,頸部リンパ節は増大しPDとなった。この時点で甲状腺平滑筋肉腫と確定診断されていたため,MAID療法へ変更した。術後6カ月のCTでは肺転移,静脈腫瘍栓,頸部リンパ節は縮小しPRとなったが,腎機能の悪化を認めたため化学療法は減量して投与を継続した。術後1年2カ月まではPRを維持でき,その後腎機能がさらに悪化したため,化学療法を中止し経過観察中である。
投稿規定
編集後記・奥付
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