日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
甲状腺癌の診療におけるFDG-PET/CTの意義
中駄 邦博
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2015 年 32 巻 2 号 p. 98-105

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抄録

F-18 fluorodeoxyglucose(FDG)を用いたPET/CTの甲状腺腫瘍の術前評価における意義は限られている。FDG集積の有無や程度に基づいた甲状腺腫瘍の質的診断は困難であり,細胞診の結果がindeterminateの結節にFDG-PET/CTを行っても追加情報は得られ難い。低リスクの分化癌の病期診断においてUSや造影CTを上回る感度は得られない。一方,悪性度の高い腫瘍の病期診断や高リスク分化癌の術後の病期再評価,甲状腺全摘術後でI-131シンチグラフィ陰性かつサイログロブリン(Tg)陽性の症例,自己抗体陽性でTg値が腫瘍マーカーとならない症例などにおける病巣の局在診断や経過観察にFDG-PET/CTは有用である。しかし,偽陽性,偽陰性が少なからず認められるのでCT所見も参考にして慎重に解釈しなければならない。FDG-PET/CTの新しい役割として放射性ヨウ素内用療法(RAI)抵抗性の判定,分子標的治療薬の適応や効果判定,術後甲状腺癌の予後推定における有用性が期待される。

1.FDG︲PET/CTの甲状腺悪性腫瘍の診療における意義(図1

甲状腺腫瘍の術前評価

この目的でFDG-PET/CTの意義は限定的である[]。がん検診や他の悪性腫瘍の経過観察で施行されたPET/CTで甲状腺へのFDG集積を認めた場合,限局性集積は悪性腫瘍の可能性があるので超音波検査と穿刺吸引細胞診の対象となる。びまん性の集積も橋本病やバセドウ病の他に,甲状腺原発悪性リンパ腫や悪性腫瘍を合併した橋本病のことがあるのでFDG集積の形状や程度から良性腫瘍と悪性腫瘍を鑑別することはできない(図2,3)。また,穿刺吸引細胞診で“鑑別困難”と判定された結節を外科的に切除するかどうかの判断のためにFDG-PET/CTを施行しても,陰性的中率は高いが陽性的中率が低いので妥当ではない。甲状腺癌の術前のリンパ節転移検索において,FDG-PET/CTに超音波検査や造影CTを上回る有用性は確認されていない(図4)[,]。一部の低分化癌や未分化癌など悪性度の高い腫瘍は甲状腺内に留まっているか否かが治療方針決定や予後に関わるので,迅速な病期確定のためPET/CTは積極的に活用されて良い。

図1.

甲状腺癌の診療におけるFDG-PET/CTの意義

図2.

PET/CTで発見された偶然腫

a)60歳代,男性。検診FDG-PET/CTで発見された右葉の瀘胞性腫瘍。左から順にPETの全身Maximum Intensity Projection(MIP)像,PET/CT融合画像,超音波(右葉長軸)Bモード,およびパワードップラー画像。

細胞診の結果はIndeterminate A-1で,経過観察となった。

b)60歳代,女性。右肺上葉の腺癌(右肺のFDGの集積は肺癌へのもの)の術前病期診断で施行されたFDG-PET/CTで発見された甲状腺左葉の乳頭癌。左から順にPET MIP像,PET/CT融合画像,超音波(左葉横断像)Bモードおよびパワードップラー画像。細胞診の結果はmalignantであった。甲状腺癌はT1bN0の評価で,今後手術が行われる予定。

図3.

腫大した甲状腺に瀰漫性のFDG集積を示した症例。左より順に,a)橋本病に合併した右葉の低分化癌,b)肺癌の放射線治療の照射野に右葉が含まれていたために左葉のみが腫大をきたした橋本病,c)甲状腺原発MALTリンパ腫,d)甲状腺機能低下症を伴った橋本病のFDG-PET MIP像と甲状腺CT画像

aは細胞診,b,c,dはcore needle biopsyにより診断が確定した。

図4.

70歳代,女性。甲状腺左葉の乳頭癌(pT4apEx2pN1b M1)

増大する前頸部腫瘤を数年以上放置していた。初診時は前頸部皮膚の変色と毛細血管拡張がみられた。腫瘍は左葉から峡部を占め表面側で突出して多房性囊胞形成を伴っているが,摘出標本では一個の腫瘍であった。

FDG-PET MIP像,頸部および胸部のCT画像とPET/CT融合画像

原発腫瘍の充実性の部分と両側頸部リンパ節転移へのFDG集積がみられる。MIPでは両側肺門部への集積を認めるが,反応性変化と考えられた(a)。

なお,CTでは原発腫瘍の背側で食道への浸潤が疑われ(b),右肺中葉に転移を疑う小結節がみられる(c;→)が,これらの所見はPET/CT融合画像での指摘は困難である(d,e)。

2.分化癌の術後のマネージメントにおけるFDG-PET/CT

甲状腺分化癌にはヨードシンポーター(sodium/iodide symporter;NIS)が発現しヨウ素接取能が保たれているが,NISの発現は同一の個体内でもheterogeneityがあり,RAIを施行した患者の3割前後は,全て,あるいは一部の病巣に治療後のシンチグラフィで131I集積を示さない。一方,悪性腫瘍へのFDG集積は主に細胞膜上のグルコーストランスポーター(GLUT)の発現と,細胞内の解糖系酵素のヘキソキナーゼⅡ(HKⅡ)活性が関与し,甲状腺癌ではGLUTの発現とNISの発現は相反することが知られていて,131I集積性に乏しい腫瘍ではFDGが高集積を示すと理解されている[,]。甲状腺全摘ないし準全摘術と残存組織のアブレーションが追加された後もTgが持続的に上昇し,131Iシンチグラフィでは有意な集積を認めない患者群はTENIS(Thyroglobulin-elevated negative Iodine scintigraphy)症候群と称されるようになった[]。TENISにおける腫瘍の検索にPET/CTは有用である。またTgAbが陽性で,Tg値による病勢の評価が困難な症例,何らかの理由で全摘術やRAIの実施が困難な症例における病巣の検索にもしばしば有用である。

PET/CTによる腫瘍の検出感度が検査時のTSH値やTg値に影響されるという報告がある[1012]。コスト的に許容されればrhTSH刺激下で131Iシンチグラフィ,Tgテストと組み合わせてFDG-PET/CTを撮影できれば理想的であるが,TSHによってSUV値に影響がみられても,TSH刺激をしないため病期や病勢が有意に過小評価される訳ではない。また,Tg値は体内の腫瘍量と相関するので,Tgが高値の場合にFDG-PET/CTが陽性所見を呈しやすいと考えられるが,Tgが低値でもFDG-PET/CTで異常を認めることは経験されるので,Tgのカットオフ値を設けて,一律にFDG-PET/CTの適応を決める必要はなく,個々の患者の臨床経過を踏まえて判断すべきである。遠隔転移は分化癌の重要な予後因子であるが,骨転移では骨シンチグラフィ陰性の病変がしばしばFDG-PET/CTで検出される。一方,肺転移は微小結節影を呈することが多くFDGの集積を示さないことも少なくない。甲状腺分化癌の肺転移と原発性肺癌が混在することもあるので,CT所見は重要である。

脳転移の頻度は低いが,他臓器の遠隔転移を有したまま長期生存した症例でみられる。いったん,多発性脳転移を生じると予後が悪い(図5)。脳の生理的FDG集積のためにPET/CTの検出感度は高くないので,臨床的に脳転移が疑われる場合は造影MRIも撮影する。

図5.

70歳代,女性。頸部リンパ節転移と多発肺転移に対するRAI無効の甲状腺乳頭癌RAIは3回行われた(総投与量400mCi)が転移巣への集積はみられなかった。3回目のRAI後の131Iシンチグラフィの全身像(a)。その直前に行われたFDG-PET/CTのMIP画像(b)。最終のRAI後5年目頃より,癌性リンパ症の発現するようになった,7年4カ月目に癲癇発作をおこして救急外来を受診,その際に撮影されたCTでは,肺転移と癌性リンパ症の進行(c,d)に加えて多発脳転移をきたし(e),その4カ月後に死亡した。PET陽性の時点で予後不良と判断できた可能性がある。

3.FDG-PET/CT所見を解約する上での注意点

FDG-PET/CTの所見を解釈する際には常にFDG集積の偽陽性と偽陰性に注意する必要がある(図6)。頸部では舌下腺や口蓋扁桃,食道,筋肉,褐色脂肪などへの生理的集積,一側の反回神経麻痺による反対側の声門部への集積,注射側の三角筋への集積などが良く知られている。TENIS症候群の患者におけるFDGの集積の原因が良性疾患であったり,甲状腺癌の転移と他の悪性腫瘍が混在して紛らわしい所見となる場合が経験される。従って,FDG集積のnormal variationやpitfallを理解しておくとともに[1314],TENIS症候群においてFDG集積を示した病変は,可能な限り,次のステップに進む前に細胞診,生検などで病理診断を確認しておくことが重要である。

図6.

FDG-PET/CTの偽陽性例(良性疾患のFDG集積)

50歳代,女性。3年前に甲状腺乳頭癌で甲状腺全摘術が施行されている。残存組織のアブレーションは行われていない。その後の経過観察中に縦隔リンパ節の腫大が認められFDG-PET/CTを施行した。PETの全身MIP像(a)と胸部および大腿部のCT(b,c),胸部および大腿部のPET/CT融合画像(d,e),右頸部,縦隔,腹腔内に多発する異常集積がみられ,更に左大腿部にもFDG集積が認められる。TSH<0.1(正常0.4~4.0μU/ml),Tg 1.0(正常値32.7ng/ml以下)であった。

縦隔と左大腿の腫瘤からの生検でサルコイドーシスと判明した。

4.術後の甲状腺癌の予後推定と分子標的治療薬の適応判定

甲状腺癌の予後因子はTNMを始めとして幾つかのscoring systemが提唱されているが,術後の甲状腺分化癌のリスク評価法は確立していない。最近,サイログロブリン倍加時間(Tg-DT)が術後分化癌の有用な予後因子であることが判明し,臨床の場で広く用いられている[15]。これまでもFDGの集積と甲状腺癌の予後を検討した報告がみられるが[1618],Randomized Controlled Trialでなかった。自験例ではTENISを呈する術後乳頭癌においてFDGの集積性とTg-DTの間には相関性がみられ[]FDG-PET/CTが予後指標となりえることが示唆される。また,2014年夏から2015年春にかけて経口分子標的治療薬のsorafenibとlenvatinibが相次いで保険適応となり,今後,術後甲状腺癌の診療は大きな転機が訪れると予想される。これまでは,131Iの集積性の低い腫瘍にもRAIを繰り返し行わざるをえなかった結果,腫瘍は進行して唾液腺障害が残ってしまう例や131I集積のない遠隔転移が,数年以上の経過の後に急速に進行し始め不幸な転機をたどる例が経験されていた(図5,7)。このような症例には,今後,適切な段階で分子標的治療薬を導入することで予後の改善が期待できるかもしれない。分子標的薬を用いるときに“RAI治療抵抗性”と“病勢の進行”の評価が重要である[1920]。たとえば,sorafenibの第3相試験のDECISION試験では,累積線量で22.2Gbq(600mCi)以上のRAI治療を受けているにもかかわらず,進行が認められる場合をRAI抵抗性としていて,少なくとも3~4回RAIを実施してから治療抵抗性を判断することになる。前述したように甲状腺癌において131Iの集積とFDGの集積は逆相関すると考えられる。実際にはFDGと131Iの両方を取り込む病巣も少なくないが,経験的にはFDG集積の強い腫瘍は131Iの集積程度に関わらず,RAIが奏効し難い傾向にある。一方で,FDG集積を示さない病巣はTg-DTも長く,病勢が不変ないし安定している場合が少なくない(表1)。従って初回のRAIの時点でFDG-PET/CTを撮影すると,より早期に治療抵抗性や短期ないし中期的な予後を予測できるようになるかもしれない。近年,悪性腫瘍の病勢の推移や治療効果の判定にはRECISTが用いられる[21]。これまでのところPETはRECISTで実施すべき項目に含まれていないが,悪性リンパ腫の治療効果判定の場合のように形態的な反応にFDG集積性の変化を加味して評価することで,客観的に分子標的治療薬の治療効果が評価できるようになるかもしれない。今後の検討が期待される。

図7.

70歳代,女性。RAI無効で唾液腺機能低下をきたした術後乳頭癌の症例

a)左:初回のRAI(100mCi)施行後の131Iシンチグラフィの全身および頸部正面像。両側の耳下腺(特に左)と顎下腺に強い集積がみられ,この他に頸部正中と右顎下腺の下方にも局所的集積がみられる。

右:その2年後の2回目のRAI(100mCi)施行後の131Iシンチグラフィの全身および頸部正面像。全身に有意な集積はみられない。

b)2回目の治療の4カ月前に撮影されたFDG-PET/CT MIP像とPET/CT融合画像。左上内深頸リンパ節と右中咽頭,右傍気管部などにFDGの異常集積を認める。これらの集積部位に初回のRAI後のシンチグラフィで131I集積を認めておらず,この時点で2回目のRAIは効果が期待し難いと予測できた可能性が高い。

c)2回目のRAI後1年半後のFDG-PET/CT MIP像とPET/CT融合画像。既知の病変の増大を認め,新たに右上内深頸リンパ節転移の出現がみられる。頸部リンパ節からの細胞診で乳頭癌の転移が証明されて,現在放射線外照射治療中。

d)2回目のFDG-PET/CTの2カ月後に施行された唾液腺シンチグラフィ。30分までの経時的画像(上)と顎下腺および耳下腺の時間放射能曲線(下)。両側の耳下腺,顎下腺は無機能になっている。RAI後のxerostomiaは日本ではあまり関心がもたれていないが,少ない総投与量(100~200mCi)でも生じ,患者のQOLを著しく損なうので十分注意が必要である。

表1.

FDG集積陰性のTENIS症候群におけるサイログロブリン倍加時間

【文 献】
 

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