2015 年 32 巻 3 号 p. 175-178
家族性甲状腺癌の中でもっとも有名なものはRET遺伝子変異を伴う髄様癌である。しかし,日常臨床ではあまり留意されていない甲状腺分化癌も,原因遺伝子は同定されていないものの家族内発症が知られており,その臨床的意義が議論の的になっている。本稿では家族性乳頭癌を中心に,その頻度,臨床病理学的因子,予後について散発性乳頭癌との差異について検討した。その結果,家族性乳頭癌は家族歴のない症例に比べて腫瘍が単発性ではなく,多発性のものが多い以外に大きな特徴がなく,予後についても家族歴の有無は関係しなかった。従って手術術式としては全摘を行うことが望ましい以外,家族歴があるからといって特別に留意すべき点は見いだせなかった。また,low-riskな微小癌の経過観察を行ったシリーズでも家族歴の有無は,経過観察の妨げにならないことも判明した。