日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
副腎皮質癌のマネージメントおよび治療標的因子について
山﨑 有人中村 保宏佐藤 文俊笹野 公伸
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2015 年 32 巻 4 号 p. 239-242

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抄録

副腎皮質癌は悪性度の高い腫瘍である。副腎皮質癌の約半数はホルモン産生を伴い内分泌腫瘍としての側面も有する。現在,局所の副腎皮質癌では外科的切除が最も有効とされているが,術後の再発率も高く,術後補助化学療法の必要性が示唆されている。副腎皮質癌における化学療法のkey drugとしてはmitotaneが以前より使用されているが,これに勝る治療薬は現時点ではない。しかしmitotaneは有害事象も多岐にわたり慎重な投与および経過観察が必要とされる。それゆえ,使用例も限られることから経験のある専門施設での治療が望まれる。

加えて昨今では数多くの悪性腫瘍において,driver mutationsの原因遺伝子の解析が進み分子標的薬が導入されてきている。副腎皮質癌においても,driverとなる原因遺伝子の候補が報告されてきているものの,未だ有効な分子標的薬はない。今後の更なる展開が望まれる。

本稿では,このような副腎皮質癌の診療の現状および今後の治療標的因子の展望について述べる。

1.副腎皮質癌について

副腎皮質癌は0.7~2人/100万人程度と極めて稀かつ悪性度の高い腫瘍である。発生頻度は全悪性腫瘍の0.05~2%程度とされている。好発年齢は二峰性であり,5歳以下の小児と40~50歳台に多いとされている[,]。小児例では,Beckwith-Wiedemann症候群やLi-Fraumeni症候群などの先天性疾患での合併例が多く報告されており,p53遺伝子のgermline mutationなどとの関連性が解明されている[]。また,平均生存期間は約14.5カ月であり,5年生存率は約16~38%とされており,予後は不良である[,,]。術後の再発率も75~85%と高く,術後補助化学療法の必要性が検討されている[]。しかしながら,現時点で術後補助化学療法に有用な治療薬は未だ解明されていない。

副腎皮質癌は腫瘍径が大きく,intratumoral heterogeneityが顕著であることが特徴である。内分泌学的には,約60%程度が機能性であり,このうちの約2/3程度がホルモン産生過剰に伴う症状を有する[,]。最も頻度の多い産生ホルモンはcortisolであるが,約30%程度は複数のホルモン産生(steroid hormone precursorsを含む)を行っており,副腎皮質癌における特有のステロイドホルモン産生であり,“Disorganized steroidogenesis”と呼ばれる[,]。副腎皮質癌におけるステロイドホルモン産生動態については表1a,bに纏めた(表1a,b,[,,]より引用)。このように臨床上はCushing症状や男性化徴候により発見される例が少なくない。

表1a.

機能性副腎皮質癌のホルモン産生能

表1b.

ホルモン産生能の詳細(Disorganized steroidogenesis)

以上より,副腎皮質癌におけるマネージメントでは1)ホルモン産生過剰に伴う内分泌学的側面,および,2)悪性腫瘍としての管理,の二つの側面に留意しなければならない。

2.副腎皮質癌の診断

(副腎皮質腫瘍における良悪性の病理学組織学的鑑別診断)

前述のとおり,副腎皮質癌は腺腫に比較して腫瘍径が大きく,腫瘍径6.5cm以上,重量50g以上の症例において,感度90%・特異度100%とされている[10]。従って,これらを越える大きな副腎皮質腫瘍では悪性の可能性を十分に考慮しなければならない。しかしながら,画像上,腫瘍中心部の壊死や,周囲組織への明らかな浸潤傾向,および,遠隔転移などの所見がない限り,臨床的に良悪性の鑑別をすることは容易ではない。

現在,最も汎用されている副腎皮質癌の診断基準は1984年に提唱されたWeiss criteria(表21112]参照)であり,全9項目中3項目以上満たすことを条件としているが,診断者間による相違が問題視されている。また,小児例やoncocyticな腫瘍ではoverdiagnosisになる点や,逆にmyxoid variantではunderdiagnosisになる点など,確実性が疑問視されているが,現時点で簡便性や信頼性において,これに勝る基準は確立していない。2002年にAubertらがmodified Weiss criteriaを提唱し,oncocyticな腫瘍に対しても適応できる指標を示したが,その他の問題点は未だ解決されていない[10]。

Weiss criteriaは形態に基づく基準だが,この他にも,免疫組織化学的マーカーとして,Ki67 labeling index,p53,IGF-(Insulin-like growth factor),cyclin E,β-catenin,Topoisomerase-Ⅱなどが数多く報告されている[1315]。IGF-は副腎皮質癌の60~90%において過剰発現しており,腺腫での発現は稀とされている[16]。また,Ki67標識率はWeiss criteriaと並び日常診療において最も汎用されている。副腎皮質癌と腺腫との鑑別において,Ki67標識率のカットオフ値は約2.5~5%程度とされており,カットオフ値を5%に設定すると感度87.5%,特異度97.5%の精度が得られるとの報告もある[17]。形態学的診断基準であるWeiss criteriaとこれらの免疫組織化学的マーカーを併せ,総合的に診断することが現代の主流となっている。

また,副腎皮質癌を他の転移性悪性腫瘍(肺の大細胞性内分泌癌,肝細胞癌,腎細胞癌,褐色細胞腫など)と鑑別することも必要である。SF-1(Steroidogenic factor-1)やMelan A,α-inhibinなどは副腎原発を示唆するマーカーとして有用である。副腎皮質癌の場合はEMAやCytokeratinなどの上皮系のマーカーは陰性であることが多く,他の転移性悪性腫瘍との鑑別に有用である。また,副腎皮質癌では神経内分泌系のマーカーについては,Synaptophysinが陽性となる一方,Chromogranin Aが陰性となることが神経内分泌腫瘍(肺の大細胞性内分泌癌や褐色細胞腫など)との鑑別において有用となることがある[15]。

表2.

Weiss criteria

3.副腎皮質癌のマネージメント

3-1.ENSAT(European Network for the Study of Adrenal Tumors)の診療ガイドライン

1にFassnachtらの提唱する診療アルゴリズムを示した[18](図1:[18]より引用)。局所進行の副腎皮質癌の治療に当たり,対象が欧州での患者に限定されている限界はあるものの現時点で外科的治療が最も優れた唯一の根治的治療であるのは議論を待たない。ヨーロッパのガイドラインでは腫瘍径8~10cm以下であり,周囲への浸潤傾向のない症例に対しては腹腔鏡による術式を推奨している。しかしながら,前述のとおり術後補助化学療法や内分泌学的管理も必要であることから,副腎皮質癌の治療は専門施設で行うことが望ましい[19]。

2007年に発表されたENSAT(European Network for the Study of Adrenal Tumors)の診療ガイドラインでは,StageⅠ~Ⅲの局所の副腎皮質癌に対して,完全切除後の術後化学療法の選択においてKi67標識率が10%以上の症例(high risk)に対しては,mitotane(opʼ DDD)の投与を推奨している。Ki67標識率が10%以下の症例(low/intermediate risk)に対しては,現在,ADIUVO trialが進行中であり,術後化学療法としてのmitotaneの有効性が見直されている[1819]。現時点で,mitotaneは副腎皮質癌の化学療法においてkey drugに位置付けられており,最も汎用されているが,その作用機序の全容は未だ明らかになっていない。mitotaneを使用する際には,血中濃度のモニタリングが推奨されており,血中濃度を14~20mg/dlに維持することで良好な予後が得られることが報告されている[2021]。また,mitotaneによる有害事象は消化管や神経など,多種多様であり,慎重な投与が必要である。Advancedな症例に対しては,PS(performance status)を考慮したうえで,M-EDP(Mitotane+etoposide-doxorubicin-cisplatin)療法が最も奏効するとされている[1920]。しかしながら,負担の大きい治療であることから,今後の新しい分子標的薬の登場が待たれる。

図1.

局所進行の副腎皮質癌に対する診療アルゴリズム([18]より引用)

局所進行の副腎皮質癌において,Ki67標識率<10%の症例のうち,腫瘍径<8cmかつ病理組織所見上,脈管侵襲や被膜浸潤がない場合はlow riskに分類され,術後化学療法(mitotane投与)をしないことも考慮される。

3-2.副腎皮質癌の治療標的因子

副腎皮質癌は症例数が少ないため,現時点において有用なガイドラインは前述のENSATより提唱されているものである。治療選択に当たり,遠隔転移の有無やPS(performance status)の評価は勿論であるが,術後補助化学療法の必要性につき,重要なポイントとなるのはKi67標識率によるrisk分類と考えられる[18]。

Ki67標識率は良悪性の鑑別だけでなく,予後にも関係していることが明らかにされている。しかし,Ki67標識率の解釈については注意が必要であり,以下の点に留意する必要がある。特にheterogeneityの顕著な副腎皮質癌では,測定場所によっても値が大きく異なる。Hot spotで計測するべきか,平均的な視野で計測するべきかなど,測定場所およびカウントすべき細胞数や視野数などのコンセンサスは得られていない。また,観測者間の相違や同一観測者での再現性の低さが問題である。近年では,自動解析装置による計測も有用視されており,乳癌や神経内分泌腫瘍などでは予後との相関性も報告されている。しかしながら,非腫瘍成分である間質細胞をovercountしてしまう点や細胞密度の高い領域ではundercountしてしまう点などの問題点が残る。このようにKi67標識率を左右する要素は多く,陽性所見の閾値だけでも容易に値が変動しえることを知っておくべきである。今後,副腎皮質癌における測定方法の均霑化が望まれる。

また,前述のとおり分子標的治療については,海外においてIGF-2過剰発現症例に対して,IGF-1R(Insulin growth factor 1 receptor)およびIR(Insulin receptor)の臨床試験が進行中である[2223]が副作用の点で必ずしも期待するような成果はあげてはおらず,現時点で副腎皮質癌に対する有効な分子標的治療薬はないのが現状である。以上より今後の新たな治療薬の登場が望まれる。

【文 献】
 

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