日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
放射性ヨウ素内用療法(アブレーション)の適応
野口 靖志
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2015 年 32 巻 4 号 p. 264-266

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抄録

米国甲状腺学会の新しいガイドラインでは,ablationをriskの低い症例では推奨しないとされており,従来のようにriskを問わず,全ての甲状腺癌患者に全摘術を施行してablationを行う方針から大きな方向転換を示している。また,adjuvant therapyという新しい考え方も示されており,今後の更に変化を示そうとしている。この様なablationの考え方の変化と,我が国の現状,更には我が国とのヨード制限の差異についても解説し,今後,われわれに求められるevidenceについて述べる。

米国甲状腺学会の新しいガイドライン(以下:新ATAガイドライン)の中で放射性ヨウ素内用療法のablationの項目は特に大きな変化があった項目の一つであったといえる。新しいガイドラインをご覧頂けると多くの方が聞き慣れない“adjuvant therapy”という用語を目にされると思うが,この用語の説明に入る前に,最も大きく変化したablationそのものの適応について記しておきたい。従来からいわれているablationの目的は「残存する正常甲状腺組織の焼灼」である。したがって,これまでのATAガイドラインでは甲状腺癌であれば,基本的に甲状腺全摘術を行い,ablationを施行することが“routine”となっていた。このことによって,抗サイログロブリン抗体が陽性でなければ,経過観察に際してサイログロブリンを腫瘍マーカーのように扱うことが可能となるという,かなり明快な理屈によるところであった。しかし,今回の新ATAガイドラインでは症例のriskによってablationの適応が分かれている。具体的には,riskの低い症例についてablationを行わなくても良いことになっており,更にriskの中等度の症例については,全摘術施行後にablationを施行することになっているものの,これはあくまでもweak recommendationにとどまっている。言い換えるならば,riskの低い症例については全摘術を行う必要性がないことを示唆し,riskの中等度の症例についても,必ずしも全摘術を施行する必要がなく,全摘術が施行された場合であっても症例によってはablationを施行する必要がないと解釈できる。そしてriskの高い症例にのみstrong recommendationとしてablationが推奨されている。このことはablationの適応に止まらず,術前診断の重要性が大きくなっていることを示唆すると伴に,術後の経過観察の手法に変化が生じることを意味していると考えるべきである。特に術後の経過観察についてはサイログロブリンを腫瘍マーカーのように扱うことが可能となるというメリットがあったが,今後はablationを実施しない際のサイログロブリン測定の精度が如何なるものであるかが議論されて行くであろう。

しかし,我が国の現状とこの新ATAガイドラインを照らし合わせてみた場合,新ATAガイドラインにあるriskの低い症例やriskの中等度の症例に対して,われわれのガイドラインではそもそも全摘術を推奨しておらず,この適応の変化自体が大きな影響を与えるとは考えない。むしろ,ablationを実施しない際のサイログロブリン測定の有用性については,我が国に一日の長があり,今後,我が国からevidenceが出てくることが期待される。

我が国では未だ一般的ではない“adjuvant therapy”という聞き慣れない用語が新ATAガイドラインにはお目見えしている。これは明らかな転移を有さず,顕微鏡学的な悪性細胞の残存が疑われた際に,残された悪性細胞を放射性ヨウ素で焼灼する放射性ヨウ素内用療法のことを意味している。この説明では“ablation”との違いが明確ではないとお考えになる方も多いと思うが,実は大きな違いが存在している。それは焼灼するtargetが,正常の甲状腺組織か,悪性の甲状腺組織かという点である。常識的なこととは思うが,正常の甲状腺組織と悪性の甲状腺組織では放射性ヨウ素の集積に格段の違いがあり,そもそも同じ土俵で議論すべき内容ではなかったのである。しかし,歴史的な変遷などがあり,従来ablationといえば,「残存する正常甲状腺組織の焼灼」とともに「残存する悪性甲状腺組織の焼灼」が同じ次元で長年議論されていた。新ATAガイドラインでは,従来の考え方とは異なり,ablationのtargetを正常の甲状腺組織と悪性の甲状腺組織の2つに分け,悪性の甲状腺組織に対するablationに“adjuvant therapy”という新しい名称を与えている。ここで誤解のないように記しておくが,“adjuvant therapy”自体,既に米国を中心に10年近く前から存在する考え方であって,決して新しいものではない。しかし“adjuvant therapy”という考え方自体は決して古いものではないものの,ガイドラインに記載されているからといって決して万人に受け入れられた考え方ではない。そのことはlow-quality evidenceであって,推奨レベルもweak recommendationであることからもくみ取れる。しかし,現在“ablation”の必要性の議論がなされているなかで,最も重要な要素とされていることが予後の改善があるかどうかである。ここでも過去の歴史的な変遷から来る矛盾が少なからず見え隠れするが,今後“adjuvant therapy”にどの様な意味を見いだせるevidenceが出てくるかが課題となってくると思われる。

“ablation”や“adjuvant therapy”に対する放射性ヨウ素の投与量であるが,riskの低い症例やriskの中等度の症例に対するablationにおいては30.0mCiあるいはそれ以下の投与量が推奨されている。その一方でriskが比較的に高いと考えられる症例に行うことが想定されている“adjuvant therapy”では30.0~150.0mCiと投与量に幅を持たせてあり,このことからも“adjuvant therapy”の有用性や手法について,依然として議論が煮詰まっていないことがわかる。ただ,「残存する正常甲状腺組織の焼灼」には30.0mCiで十分であり,「残存する悪性甲状腺組織の焼灼」には30.0mCi以上が必要であると示唆されているといえるものと考える。

ここで我が国におけるガイドラインと新ATAガイドラインを比較すると,われわれが“グレーゾーン”としている症例は新ATAガイドラインでは中等度から一部高いriskの群が含まれることがわかる。我が国においては新ATAガイドラインのriskの低い症例やriskの中等度の症例に対しては全摘術を推奨していない状況にあり,病態のriskに対する考え方に少しばかりズレがあることに気づく。また,現在われわれの多くが“ablation”と称し行っている放射性ヨウ素内用療法の目的を思い返してみると,そのほとんどが今回の新ATAガイドラインでいうところの“adjuvant therapy”と表現されているものであることがわかる。しかし,我が国における放射性ヨウ素内用療法の現状をみると,治療施設の年間稼働病床数は極めて少なく,全摘後の放射性ヨウ素内用療法は30.0mCiが投与量となる外来ablationに頼らざるをえない状況である。この様に“ablation”という同じ言葉であっても,われわれが考え,実施している“ablation”と新ATAガイドラインにある“ablation”とは異なるものであり,新ATAガイドラインを読み解く上で十分にこの点を認識しておくことが重要となる。

この様に新ATAガイドラインは,従来われわれが考えられてきた甲状腺癌の治療に近づきつつあるものの,その内容を詳細に吟味するとまだまだ違いが大きいといわざるをえない。

今回の新ATAガイドラインとしては新しい項目ではないが,ヨード制限の項目についても少し述べておきたい。それは我が国で考えられているヨード制限とかなりのズレがあるからである。

新ATAガイドラインには,放射性ヨウ素を用いた画像検査あるいは治療を行うに際して,3~4週間のlevothyroxineの休止が必要であるとしている。その一方で,放射性ヨウ素内用療法を行うに際して1~2週間のヨード制限食の実施が適当であるとしている。我が国においては,多くの場合,ヨード制限期間としてはlevothyroxineの休止とヨード制限食はセットと考えられており,levothyroxineの休止期間よりヨード制限食の実施期間が短いということは考えられない。それでは何故この様なことになっているのかというと,これは平常時に摂取するヨード量の違いとヨード制限食の基準の違いによるところである。一般的に米国では成人の平常時のヨード摂取量は350μg/day[]程度であるが,これに対して我が国においては1,500μg/day[]程度といわれている。また,欧米でのヨード制限食に基準が50μg/day以下であるのに対し,我が国では150~200μg/day程度といわれている。つまり,平常時のヨード摂取においても,ヨード制限食の基準においても,米国は我が国のおおよそ1/4と極めて大きな違いがあり,用語としては同じ“ヨード制限食”であるが,その内容には大きな違いが存在している。そもそも平常時に少量しかヨード摂取がなく,厳しいヨード摂取制限が実施されるのであれば,ヨード制限食の期間が短くなることは至極当然である。これに対し,levothyroxineの休薬期間は薬剤の血中半減期によって定められるため,平時のヨード摂取量とは無関係となる。以上の事柄がlevothyroxineの休止期間とヨード制限食期間に違いを生じさせてしまっている要因である。

この様な平常時に摂取するヨード量の違いやヨード制限食の基準の違いといった各国のヨード摂取に関わる環境的違いを考慮すると,この分野においては我が国のようなヨード過剰摂取国がヨード欠乏地域であった諸外国からのevidenceを鵜呑みにしてしまうことにはかなりの問題があるといわざるをえない。したがって,ヨード制限食の実施期間に関して,ヨード過剰摂取国である我が国独自のevidenceが必要となるであろう。ただし,levothyroxineの休止期間に関しては,薬剤の血中半減期自体が米国人と日本人で大きな違いがあるわけではなく,ATAガイドラインに沿うことに問題はないものと考える。

今回の新ATAガイドラインのablation関連の項目において,我が国からのevidenceは唯一検査機器の技術的進歩から来るSPECT-CTの有用性に止まっていた。このことはablationに対しての適応や実際に投与出来る放射性ヨウ素量の制限などに帰院するところが大きいと思われる。しかしながら,特にriskの低い症例やriskの中等度の症例に関しては,今後ablationを実施しない可能性が高く,我が国からも十分にevidenceを導き出せるものと考える。そのためには我が国の現状と諸外国の状況に如何なる違いがあるのかという部分を十分に理解していくことが重要になってくると考える。

【文 献】
  • 1.   Murray  CW,  Egan  SK,  Kim  H, et al.: US Food and Drug Administrationʼs Total Diet Study:dietary intake of perchlorate and iodine. J Expo Sci Environ Epidemiol 18: 571-580, 2008
  • 2.  厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2010年版) 報告書Ⅱ各論6.2微量ミネラルヨウ素  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4al.pdf 平成27年9月18日参照
 

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