米国甲状腺学会(ATA)が,小児甲状腺結節・分化がんの取扱いについて,診断の進め方と手術の選択方法,術後管理の詳細について405編におよぶ論文精査と専門家の意見を反映し,欧米の現時点でのコンセンサスを取り纏めた。既報の成人甲状腺がん治療ガイドラインと比較すると,発見された小児甲状腺がんの治療手順が中心であり,原則成人版と大差はない。すなわち,予後良好な小児甲状腺結節・分化がんの術前のリスク推定による治療選択ではなく,術中所見と術後リスクを考慮した術式(全摘中心)の議論と,術後フォローアップ時における血中サイログロブリン(Tg)濃度を,再発癌マーカーとし,全摘後も高リスクと評価される患者への放射性ヨウ素内用療法を推奨した管理ガイドラインとなっている。小児甲状腺がんの前向き調査がなく,自然経過を考慮した議論の余地もあり,現在実施されている福島県の約38.5万人を対象とする甲状腺超音波検査の今後が重要となる。
Thyroid2015年7月号に,小児甲状腺結節・分化がんの取扱ガイドラインが公表された[1]。5年間にわたるATAガイドライン作成委員会での準備では,主として欧米の405論文が参考とされ,小児内分泌科,腫瘍外科,内分泌内科以外に,核医学,甲状腺学など異なる領域の専門家14名が自らの知見を元に,小児甲状腺がん(18歳以下)の病態生理,臨床像さらに長期予後の特徴を共通理解の基盤として協議してきたものである。
既存の成人甲状腺がん取扱(治療)マニュアルは,ATAの改訂版ガイドライン以外にも[2],欧州甲状腺学会ETAが他の関連学会(米国臨床内分泌医会AACEとイタリア臨床内分泌学会AME)と共同で出版し[3],National Comprehensive Cancer Network(NCCR)も,がん治療指針を報告している[4]。
我が国でも,甲状腺超音波診断ガイドブック改訂第2版に,日進月歩の技術革新に沿った診断基準が整備され[5],日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会が,甲状腺腫瘍診療ガイドラインを[6],日本甲状腺学会が,甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013をそれぞれ出版している[7]。いずれも成人発症における甲状腺結節や分化がんの治療指針がまとめられているが,唯一日本甲状腺学会では,その特論の項目で,小児甲状腺結節・甲状腺がんの診断・治療のポイントと,術後の予後良好についても言及している。
今回のATA小児甲状腺がんの治療ガイドラインでも,また他の成人向けガイドラインいずれも,小児甲状腺ラテント癌(無症候性の微小潜在癌)の取扱いや対応については,手術後の偶発癌の発見以外では,取上げていない。その上で,成人例とは異なり,小児がん領域全般に共通する特別な配慮として,精神心理的ケアの重要性が述べられているが,具体的な医療体制,すなわち移行期医療の円滑な実践などは今後の課題である。
稀で予後良好な小児甲状腺がんについては,体系的な治療マニュアルがなく,成人向けのガイドラインが踏襲され,以前から過大治療ではないかとの議論が背景にあった。しかし,小児甲状腺結節のがん診断の基準においても結節の大きさだけではなく,超音波所見を加味した穿刺針吸引細胞診の適応と診断が重要であることに変わりはない。病理組織学的に,年齢別での特異的な乳頭癌亜型の特徴の存在に加えて(10歳以下では被膜なしが多く,思春期以降典型的な乳頭癌の発見頻度が増加),小児甲状腺分化がんの多局在性と局所リンパ節転移の陽性頻度の高さ,さらに濾胞癌の場合においては,血行性転移のリスクに対して注意が払われた。また,小児甲状腺がんの場合,家族性・遺伝性がんの一部としての早期診断と適切な外科治療が求められたが,過剰診療への配慮も言及されている。本ガイドラインでは,エビデンスベースの論拠に沿ってランク付けされているが,定量化できなものは,総合的な判断と同時に,専門家のコンセンサスとして,推奨するか否かという判断基準を明確にすることで,治療における不確実性を最小限とするように配慮されている。
ガイドラインの推奨レベルの定義はAからIまでの7ランクあり,A>B>Cが推奨順,F>E>Dが反対する強さの順であり,Iは推薦も反対もできないという立場である。いずれも患者への便益と不利益のバランスが考慮されている。本推奨・反対のランク付けを基本として,表1に示すAからGまでの34項目について検討し,それぞれに対して7つのランク付けをしているが,C16項目,D10項目,E1項目の合計27項目が甲状腺外科に関する手術適応,術式,術後アイソトープ治療とフォローアップに密接に関連するものである。項目とランク分けのA,B,C順の列びを混同しないという注意が必要である。

ATA小児甲状腺結節・がんの治療ガイドラインの検討項目一覧
本稿では,AからGまでの各項目において,診療上重要と思われる項目を抽出して紹介するが,原著全文を読まれ,小児甲状腺がんの手術適応とフォローアップの注意点を正しく理解されることを切望する。なお,欧米の考え方が中心であり,甲状腺がん全摘が,その後の再発監視の視点から小児ガイドラインの基本指針となっている。
小児甲状腺がん(概ね18歳以下)は,手術症例が少なく,一般に発見頻度も低いため,適切な診断・治療ガイドラインに資するエビデンスが少ないのが現状である。そのため,手術症例から年齢区分での細かな治療指針の策定は実践的ではない。但し,術前高リスクグループへのアプローチとして,下記の注意点が喚起されている。
(1)家族性・遺伝性甲状腺がんの家族歴を有する場合
(2)甲状腺がんの前がん状態(自己免疫性など)を有する場合
(3)小児がん患者で放射線治療を受けている場合
(4)放射性ヨウ素の内部被ばくの可能性がある乳幼児~小児の場合
これらに対する診断法としては,年一度の診療を推薦し,理学的所見が明らかな場合に追加画像診断を推奨する。但し,過去に被ばく歴がある場合に,一律な超音波画像診断検査の必要性は,どちらとも言えないとしている。
特に,家族性・遺伝性甲状腺がんが疑われる場合には,甲状腺専門病院への紹介と適切な評価,フォローアップとともに,遺伝カウンセリングをベースとした治療指針を立てることが重要である。
甲状腺に病変がある場合(結節や左右比対称,自己免疫性疾患)に加えて,特に,局所リンパ節腫脹の理学的所見がある場合には,精査が推奨される。しかし,ATA2009成人甲状腺がんの取扱いガイドラインと同様に,1cm以下の結節では,例外を除いて(悪性所見が高い場合のみ),吸引針細胞診(Fine Needle Aspiration cytology;FNA)は施行しないとの同じ原則で,小児においても例外はあるもののFNAは施行しないことを推奨している。なお,甲状腺髄様がんについては,血中カルシトニン測定をスクリーニングに用いるという有用性は,成人の場合と同様に認められていない。
欧米では,機能性甲状腺結節の診断機会も多く,結節の鑑別として,第一に血中TSHの抑制の有無が挙げられている。すなわち,機能亢進の結節の場合には,FNAは推奨されず,成人同様に即手術の適応となる(多くは半葉切除)。一方,はるかに頻度が高い機能正常な結節の場合には,当然のことながら単なる大きさではなく,超音波画像診断での悪性所見の有無を総合的に判断し,エコーガイド下でのFNAの適応を決めることとなる。この場合,Bethesda細胞診診断基準に準じるが,小児の場合のエビデンスは少なく,び漫性硬化型乳頭癌の病理診断には注意が必要である。また悪性疑い例でのルーチン作業的な遺伝子診断は推奨されない。
良性結節では,半年から1年ごとに超音波画像診断が推奨され,結節の増大傾向がその後の治療指針の参考とされる。結節に変化がなければ,1ないし2年の間隔でのフォローが推奨される。一方,悪性が疑わしい結節に関しては,3ないし6カ月ごとのフォローが推奨され,その後画像上変化がなければ,6カ月から1年ごとのフォローとなる。なお,良性結節に対するLT4投与(TSH抑制療法)の妥当性は評価できず,推奨されていない。
いずれにしても,小児甲状腺結節に対しては外科手術が目的ではなく,また,個々の症例の吟味を画一的に推奨するものではなく,あくまでも原則論であることを念頭に,経過観察の参考にするべきだと考える。
初めて甲状腺乳頭癌と診断された小児患者に対しては,術前に,手術の適応とその結果,そして術後対応のリスク・ベニフィットに配慮した,適切な評価をすることが決定的に重要なことである。術前の詳細な超音波画像診断がFNAの前に不可欠であり,病巣の広がり,局所リンパ節転移の有無や遠隔転移の検索が必要である。症例ごとに,胸部X線,CTやMRIなどの画像診断が求められるが,18FDG-PET/CTは推奨されない。
ひとたび甲状腺乳頭癌と確定診断が下されると,小児の場合も成人同様に外科手術の適応となり,手術合併症の回避が不可欠という条件下での全摘を中心とした治療指針が立てられることになる。そのため,思春期以降からの無症候性微小乳頭癌の多さなどへの配慮は今回はなされず,インフォームドコンセントを得た上での経過観察(注意深いフォローアップ)と言う項目は含まれていない。すなわち,福島県で行われている県民健康調査事業での小児甲状腺超音波検査のようなスクリーニング効果で発見された小児甲状腺がんの取扱いについては,今回のガイドラインでは取上げられていない点には注意が必要である。
小児甲状腺がんのリスクとは,熟練した甲状腺外科医による初回手術(全摘+リンパ節廓清)後に引き続き,頸部所見や遠隔転移の可能性を確率的に評価しようとするもので,成人ガイドラインと同様に,術中のTNM分類を基本としている。そのため,手術時のリンパ節廓清範囲や手術内容について詳述され,手術合併症(副甲状腺機能低下症や反回神経麻痺など)の最小化に向けた努力と熟練が求められている。
小児甲状腺がんのリスク評価では,成人例と同様にTNM分類が適応されるが,たとえリンパ節転移が存在しても予後が良好なことから,ステージ(病期)分類では,原則すべてがⅠの段階と評価され,遠隔転移がある場合のみⅡと判定される。術後12週間以内に全摘後の血中Tg濃度を測定し,その評価を厳密にすると同時に,その後のフォローアップのリスク基準としている。表2に示すように,ATA小児甲状腺がん(乳頭癌)の低リスク,中間リスク,高リスクの3分類が,初回全摘術後の基本管理とその後のフォローの方針決定に推奨されている。それぞれ術後甲状腺ホルモン補充療法において,血中TSH濃度を,リスク段階に応じて厳しく抑制する0.5~1.0mIU/L,0.1~0.5mIU/L,<0.1mIU/Lの3段階を目標として,半年ごとのフォローとその後の病勢に応じた観察期間を推奨している。特に,高リスク患者に対しては,厳密なTSH抑制が求められる。しかし,全摘されない症例のフォローへの言及はなく,最終的には血中Tg濃度を指標とした残存あるいは転移病巣の消滅戦略が中心となっている。

ATA小児甲状腺がん(乳頭癌)術後リスクレベルと術後管理の在り方について
すなわち,甲状腺ホルモン補充療法中での血中TSH濃度,さらに後述するTg濃度の値を指標に,甲状腺超音波画像診断,放射性ヨウ素全身スキャンなどの結果を参考として,再手術やアイソトープ内用療法が推奨されると言う成人ガイドラインと同一な図式である。
術後甲状腺がんフォローでの血中Tg濃度が,再発がんマーカーとして利用出来る限界を正しく理解することが必要である。高感度高精度アッセイがあるとしても測定キットや測定施設間でのばらつきもあり,同一施設内での同一アッセイキットでの長期フォローが重要となる。成人ガイドラインと同様な注意が,手術の実態,測定時の自己抗体の影響,さらに再発指標としての他の画像所見との組合わせなどから総合的に求められる。
全摘後の血中Tg濃度としては,rhTSH刺激後でも2ng/ml以下であれば,低リスクと評価し,はじめは半年に一度,病状が安定すれば5年に一度のフォロー期間で,甲状腺ホルモン補充療法を継続する。一方,10ng/ml以上の血中Tg濃度の場合には,アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)の対象となり,その後も全身スキャンと併用して注意深いフォローアップが推奨される。血中Tg濃度が2~10ng/mlの場合にはその経時的な濃度の変化から繰返すアイソトープ治療か,フォローアップのみかが判断される。成人例と異なり,小児甲状腺がんの肺転移などの遠隔転移には,アイソトープ内用療法の治療効果が高く,将来の副作用を考慮して,アイソトープの総量や投与間隔などを決めて治療戦略を立てる必要がある。注意点としては,術後監視期間における血中Tg濃度の変化と,各種画像診断所見,特に放射性ヨウ素全身スキャンの結果との乖離がある場合,微小転移巣や浸潤が可視的に検出されない場合だけではなく,放射性ヨウ素を取込まない病巣への変化による偽陰性所見を念頭にフォローして行く必要がある。しかし,全身スキャン陰性の患者に,繰返しスキャンを行う必要はない。小児甲状腺がんの治療抵抗症例への全身化学療法や,分子標的治療剤の効果は未定である。
最近,成人発症甲状腺がんの低リスクから中間リスク群に対して,再発予防策としてのアブレーションの選択とその有効性,そして副作用などが,包括的にレビューされている[8]。この中では,低リスク群での有用性は認められていないが,45歳未満のアブレーション適応項目を参考にしつつ,小児甲状腺がんの術後リスク管理もさらなる検証が求められる。
成人例の経験を参考に推奨レベルが検討されているが,症例数が少なく,また予後が良好であるため,基本的な考えは小児乳頭癌と同じである。大きさで4cm以上での全摘と,4cm以下での微小浸潤型濾胞癌でのケースバイケースでの手術手法の選択(半葉切除か全摘)がCレベルと推奨されているが,エビデンスに乏しいと考えられる。
小児がんの生存者に対する対応と同じように,小児甲状腺がん患者の術後では,生活の質の保障と不安への対応,とりわけ自立自活の支援,術後甲状腺ホルモン補充療法の継続と,リスクの程度に沿ったフォローアップが必要である。特に,精神心理・社会的な課題への支援体制と,カウンセリングなどが長きにわたり不可欠となる。術後小児甲状腺がんの再発率は約30%であり,術後7年間に約半数近くの再発が報告され,その後も再発リスクが継続するため,40年間はフォローアップする必要があるとしている。
小児甲状腺分化がんの治療戦略は,成人ガイドラインと同様に,全摘と術後放射性ヨウ素内用治療の併用による強化療法が中心であるが,術前,術後の最適なリスク評価の開発に基づく個別治療法の選択については改善の余地がある。現状では,最善と考えられる小児甲状腺がんの治療ガイドラインではあるが,ケアと言う面では,術者,患者,両親らに不確実なこともある。特に,術後放射性ヨウ素の適切な使用法,血中Tg濃度,Tg自己抗体の評価,術前無症候性結節(がん)の予防的(予知的)な超音波画像診断検査の意義,放射性ヨウ素治療抵抗性症例への分子標的治療の是非,長期フォローアップにおける患者と家族への精神心理的影響への課題など,解決されなければならない問題も多く,多施設共同研究なども含めて,専門機関の協力が不可欠である。
従来から頻度が低いと考えられていた思春期前の小児甲状腺がんと,思春期以降の偶発的,あるいは,超音波画像診断の導入による無症候性甲状腺がんの発見頻度の増加は,成人例と同様に,確定診断や外科治療方針の在り方そのものにも影響を与えると予想される。今後,小児甲状腺がんの発見機会も増加し,甲状腺がんの罹患率が年齢とともに増加することも考慮し,他方では甲状腺がんによる死亡例の年次別増加傾向が報告されていないことから,総合的な対策を講じる必要がある。
一方,国内の核医学診断施設では,30mCi外来アブレーションに合わせて,rhTSH製剤の利用が本邦でも可能となり,高リスクと評価される小児甲状腺分化がんの遠隔転移例には,全摘後のアブレーションと放射性ヨウ素内用療法が推奨される。しかし,実際のアイソトープ治療に際しては,病院の採算面での課題を克服しつつ,全国RI病棟の整備と専任スタッフの確保が強く求められる。小児甲状腺がんの診断と治療においても,日米両国間にある医療文化・経済の違い,さらに基本的な考え方の違いなどを理解した上で,今回のATAガイドラインを読み解く必要がある。
ATAが初めて小児甲状腺がんの取扱い,特に治療戦略に関するガイドラインをとりまとめたのを機会に,その概要と課題について私見を交えて紹介した。成人向けのガイドラインと原則同じ内容であり,最善の治療策については,経験豊富な外科医による全摘と,TNM分類によるリスク評価を基本とする術後放射性ヨウ素内用療法が推奨され,甲状腺ホルモン補充療法期間中における血中Tg濃度のモニタリングが,リスク管理の中心となっている。術後長期フォローが必要な患者に対しては,多職種医療チームによる包括的な取組み体制の構築維持が,重要なポイントである。
最後に,小児甲状腺がんの自然史が不明である現状では,スクリーニングなどで偶然発見された無症候性微小がんの手術適応そのものに関する調査研究や,予後予測に資するマーカーの探索などが急務である。福島県においては原発事故後,甲状腺超音波検査が行われているが,精度管理されたエビデンスの蓄積から,より適切な小児甲状腺結節・がん治療ガイドラインの改訂へと繋がることが期待される。