日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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Print ISSN : 2186-9545
特集1
「特集1.甲状腺外科診療における医療安全と危機管理」によせて
伊藤 公一
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2016 年 33 巻 1 号 p. 1

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抄録

昨年秋に主催した第48回日本甲状腺外科学会よりシンポジウム内容で特集1を構成した。テーマは「甲状腺外科診療における医療安全と危機管理」である。医療事故が頻発しマスコミ報道をされるようになり久しいが,そのなか,一旦は減少をたどっていた医療訴訟が,近年再び増加傾向にある。無論,手術操作で神経や気管,血管を扱う甲状腺外科医にとっても切迫する問題であり,医療事故の危険性にさらされる場面は,しばしば存在する。そこで全ての学会員が独自の医療安全を意識し,日々,危機管理に励むことが重要と考え,4人の先生方に発表内容の執筆依頼を申し上げた。まずは我が国の医療訴訟の現状を知り,医事紛争の実際を把握することを目的に,医療機関側の守護神として活躍する岩井完弁護士(伊藤病院顧問)に総論から対策までをレビュー頂いた。引き続き実際に,自ら甲状腺外科診療を実践しつつ,ユニットの最高責任者として後進の若手外科医を指導,さらには,それぞれの施設内で医療安全対策の中核で任務に当たる東京女子医科大学・岡本高宏教授,あかね会土屋総合病院・杉野圭三先生,大阪警察病院・鳥正幸先生に,自院における安全対策と危機管理,合併症対策までを紹介頂いた。いずれの論考も入院外科診療にフォーカスを当てたものであるが,甲状腺疾患診療に緊急手術は少なく,圧倒的多数は周到にインフォームドコンセントが成されたうえで施行される予定手術である。そして専門医と標榜があれば,当然のこと,完璧な診療成果が求められる。それだけに医療事故なく,円滑に任意契約が成されるものと提供者側も患者や家族も信じられている場合が多い。とはいえ実際には100%の診療が教科書通りに遂行出来るわけではない。おりしも昨年秋より新事故調査制度が始まったわけだが,本特集を介して,全ての読者が甲状腺外科領域独特の医療安全と危機管理を認識することに繋がれば,企画者として望外の喜びである。

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