日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
副腎皮質癌
柴田 雅央 稲石 貴弘宮嶋 則行安立 弥生大西 英二武内 大中西 賢一林 裕倫菊森 豊根
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2016 年 33 巻 1 号 p. 36-40

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抄録

副腎皮質癌は,副腎皮質に発生する稀な悪性腫瘍で,その予後は不良である。

機能性腫瘍の場合,Cushing徴候や男性化徴候,尿中17-KS・血中DHEA-S値の上昇は副腎皮質癌を疑う所見である。一方,約30%は非機能性のため自覚症状が乏しいこともある。画像検査ではPET-CTの有用性が報告されているが,偽陽性があり確実な診断は難しい。

術中は,腫瘍の治癒切除の可否が重要な予後規定因子となることに留意しなければいけない。副腎皮質癌は腫瘍径が大きいことが多く,隣接する臓器へ浸潤をきたす腫瘍では他科と連携をとって手術に臨むことが必要となる。開胸開腹アプローチは良好な視野を確保するのに有用である。

術後管理は,通常の副腎腫瘍摘出後に準じて行う。副腎皮質癌は治癒切除後であっても再発リスクが高い。腫瘍径が大きい・他臓器への浸潤を認める・リンパ節転移陽性・Ki-67標識率>10%・腫瘍の遺残が疑われるような症例では術後ミトタンによる薬物療法や放射線照射を考慮する。

はじめに

副腎皮質癌は,副腎皮質に発生するホルモン産生性あるいは非産生性の悪性腫瘍である。その発生頻度は100万人あたり0.7~2人程度と非常に稀であり[,],全ステージでの5年生存率は35~50%と予後不良な疾患である[]。本邦における副腎偶発腫瘍3,678例の疫学調査で副腎癌は1.4%にみられた[]。本項では副腎皮質癌に対する術前・術中・術後管理や術後ミトタン療法・放射線療法について解説し,当院で経験した副腎皮質癌の症例を提示する。

術 前

副腎腫瘍を認めた際には,1.機能性か非機能性かという内分泌学的側面と2.良性か悪性かという腫瘍学的側面の2つを評価する必要がある。内分泌学的には,副腎皮質癌は約70%が機能性であり,ステロイド合成酵素が不均一に発現しやすいこと(disorganized steroidogenesis)から約30%は複数のホルモンを産生している[]。その中でもコルチゾールや男性ホルモン作用を有する中間産物が産生されることが多く,Cushing徴候や男性化徴候(多毛・ざ瘡)をしばしば呈する。ステロイドホルモンの産生過剰を反映して,尿中17-KSや血中DHEA-S値の上昇を認める。一方,約30%は非機能性であり,画像検査で偶発的に発見されたり,腫瘍による腹腔内臓器の圧迫に伴い腹部膨満感や腹痛などの自覚症状を契機に発見されることがある。このような腫瘍では採血・尿検査により機能性の検索,特に褐色細胞腫を除外しておくことが必要である。

腫瘍学的には,副腎皮質癌は腺腫と比べて腫瘍径が大きく,Manteroらは4cmをcut off値とすると良悪性の鑑別の感度・特異度が93%・42%であったと報告している[]。またAubertらは,重量50g以上の症例では感度100%・特異度90.9%,腫瘍径6.5cm以上では感度100%・特異度91.7%であったと報告している[]。画像所見では,CT・MRIにおいて内部構造が均一であれば良性腫瘍の可能性が高く,辺縁不整・内部不均一であれば悪性腫瘍を疑う。またPET-CTの有用性も報告されており,副腎皮質癌・副腎転移を含めた悪性腫瘍における感度は93~100%・特異度は80~100%と報告されている[10]。しかし悪性腫瘍以外に良性褐色細胞腫や腺腫などでもFDG集積がみられるため,PET-CTのみで良悪性を鑑別するには注意を要する。現在のところ画像所見のみで術前に良悪性を判定することは困難である。また,腫瘍に対するCTガイド下生検は,切除を予定している症例では播種の恐れがあるため禁忌である。こうしたことから,術後の病理結果ではじめて副腎皮質癌と判明することがある。

以上より,術前は内分泌学的検査・腫瘍径・画像所見を総合して良悪性どちらの可能性が高いかを評価して手術適応を決定し手術に臨むことが求められる。また後述するように,副腎皮質癌は他臓器への浸潤をきたすことがあり,CT(特に造影CT)・MRIは腫瘍の進展度と周囲臓器への浸潤の有無を評価するのに有用である。

術 中

副腎皮質癌の治療としては,遠隔転移を伴っていなければ外科的切除を第1に考慮すべきであり,腫瘍の治癒切除の可否が予後規定因子となる[1112]。Margonisらは,顕微鏡的に遺残のない症例(R0群)と肉眼的には遺残がないものの顕微鏡的に切除ラインに腫瘍を認める症例(R1群)を後ろ向きに比較検討したところ,R0群で有意に5年生存率が良好であり(64.8% vs 33.8%),R0切除の可否が手術後の予後に大きく影響すると報告している[13]。

術式については,近年腹腔鏡手術が主流となってきており,腫瘍径6cm前後がその境界ラインとされている[1415]。副腎腫瘍取扱い規約第3版では,副腎皮質癌と考えられる場合は開放手術を選択した方がよいとしている[16]。European Society for Medical Oncology(ESMO)のガイドラインでも開腹手術を標準術式としている[17]。前述のように,副腎皮質癌は腫瘍の治癒切除が重要な予後因子となるため,術中の操作による腫瘍損傷は厳に慎まなければいけない。よって術前に副腎皮質癌を疑う腫瘍に対する腹腔鏡手術の適応は良性腫瘍に比べて慎重に判断すべきである。術前の画像検査で腫瘍径が大きい症例や,隣接する臓器への浸潤が疑われる症例では当初より開放手術を選択するべきであり,腹腔鏡下で手術を始めた際でも術中所見によって常に開放手術へ切り替えられるように準備しておくことが必要である。リンパ節郭清についてReibetanzらは,後ろ向きの比較検討で,リンパ節郭清が予後を改善しうると報告している[18]。現時点での予防的郭清の意義は不明であるが,術前に転移を疑う腫大リンパ節を認める際にはリンパ節郭清を行うことが勧められる。

副腎皮質癌は隣接する臓器へ浸潤をきたすことがあり,右側では下大静脈・肝臓・右腎臓,左側では膵臓・脾臓・左腎臓への浸潤を認めることがある。このうち術式の決定を最も慎重に行う必要があるのが下大静脈浸潤を疑う症例である[19]。術前に下大静脈への浸潤を評価するには造影CTが最も有用であるが,腫瘍により下大静脈が圧迫されている場合は浸潤の有無の評価が困難なことがある。近年,体外超音波検査は機器の進歩により,下大静脈壁への浸潤の評価能は向上している。他臓器・下大静脈への浸潤を疑う症例では周囲臓器の合併切除や血管バイパス術が必要となるため事前に血管外科・消化器外科・泌尿器科・麻酔科と連携をとって手術に臨む必要がある。当科では,良好な視野を確保するためにそのような症例に対しては高位(第5もしくは第6肋間)開胸開腹アプローチにより術野を展開している[19]。一方,隣接臓器へ腫瘍の明らかな浸潤がみられなければ拡大切除を行うことは勧められない[12]。

また術前の内分泌学的検査から,コルチゾール産生能を有する際には腫瘍摘出時にヒドロコルチゾン100mgを静脈投与する。

手術終了時にはinformationとして腫瘍摘出部位にドレーンを留置する。当科ではJ-VAC® 15Frもしくは19Frを使用している。また開胸した際には横隔膜を吸収糸で縫合して閉胸し,胸腔内にソラシックドレーン® 20Frを1本留置して-10cmH2O程度で胸腔内に持続吸引をかける。

術 後

コルチゾール産生腫瘍の術後のステロイド補充については割愛する。術後管理は,他臓器の合併切除を行わなければ通常の副腎腫瘍の術後に準じて行う。手術翌日から経口摂取を開始し離床を勧める。留置したドレーンは出血や膵液漏のないことを確認して抜去する。

副腎皮質癌は,腫瘍を切除しえても再発率は50~70%と高率である[]。Kimらは,多施設の症例を集積し,副腎皮質癌治癒切除後の無再発生存率・全生存率を予見するノモグラムを作成した[20]。それによって,腫瘍径(cut off値:12cm)・リンパ節転移の有無・ステージ・コルチゾール分泌の有無・被膜浸潤の有無から無再発生存率・全生存率を算出することができる。

病理結果で副腎皮質癌と診断された場合,その再発リスクに応じてミトタンによる補充療法を検討する。Terzoloらは177例の副腎皮質癌患者について術後ミトタンを投与群と投与していない群を後ろ向きに比較検討し,ミトタン投与群で無再発生存期間の有意な延長を認めたと報告している[21]。後ろ向きの比較検討であるが,副腎皮質癌は稀な疾患であり,前向きの無作為化試験を行うことは非常に困難である。Fassnachtらは,それまでのエビデンスと自身の経験をふまえて,StageⅠ~Ⅲの完全切除後の症例についてKi-67標識率>10%をhigh riskとして少なくとも2年間のミトタンの投与を推奨し[22],ESMOのガイドラインにも記載されている[17]。腫瘍径が大きい・他臓器への浸潤を伴う・リンパ節転移を有する・Ki-67標識率>10%・腫瘍の遺残が疑われるような症例では術後にミトタンの投与を考慮すべきである。ミトタンはステロイド合成阻害作用があるため,両側副腎切除後の症例では通常よりもヒドロコルチゾンの補充量を増量する必要があることを留意しておかなければいけない。またミトタンは副腎皮質の萎縮や壊死性変化を生じることがあり,副腎不全などの副作用が生じうる。ミトタン投与中は,その血中濃度を14~20mg/mlに保つことで副作用が少なく抗腫瘍効果を得られやすいとされており[17]血中濃度の測定は重要であるが,本邦では保険未承認である。

Fassnachtらは,術後ミトタン治療の他に,StageⅠ~Ⅲで顕微鏡的あるいは肉眼的遺残を疑う症例においては術後腫瘍床に対する放射線照射を行うことを勧めている[22]。Polatらは自験例を含めたreviewで,不完全切除で局所再発のリスクが高い症例には腫瘍床へブースト照射を含めた50~60Gyの照射を推奨しており,完全切除できた症例でも腫瘍径が8cmを超えており,脈管侵襲陽性かつKi-67>10%の症例には放射線照射を考慮すべきとしている[23]。

当科における症例

1994年から2015年までの間に当科で10例の副腎皮質癌の手術を施行した( 表1 )。手術時平均年齢は53.2歳(26~72歳),男性2例・女性8例,右8例・左2例であった。手術時に機能性であったものは5例で,非機能性は4例,不明1例であった。手術は全例開放手術で行っており9例は開胸開腹アプローチであった。最大腫瘍径の平均値は10.3cm(4.5~17cm)であった。

表1.

当科における副腎皮質癌の症例の一覧(1994年~2015年)

術後ミトタンの投与は5例に行われており,うち2例は2年間内服して終了,3例は再発と副作用により中止している。いずれの症例も副腎不全・精神症状といった副作用を認めており,特に副腎不全はミトタン投与終了後も継続している。ミトタンを2年間内服した2例は無再発生存中である。術後,腫瘍床への放射線照射を行った症例はこれまでないが,局所再発を10例のうち2例に認めており,今後は顕微鏡的あるいは肉眼的遺残を疑う症例に対して,術後腫瘍床への照射を考慮する必要がある。予後については,10例のうち6例に再発を認めており,やはり予後不良な疾患であることがうかがえる。

おわりに

副腎皮質癌の周術期管理について自験例を含めて解説した。副腎皮質癌は稀な悪性腫瘍であり,遭遇する頻度は少ない。しかし,予後不良な疾患であり適切なマネージメントが求められる。内分泌学的側面と腫瘍学的側面双方からのアプローチが必要であり,内分泌外科医・泌尿器科医がリーダーシップをとって他領域と連携をとりながら治療を進めなければいけない。

手術については腫瘍の遺残がないよう治癒切除を目指し,病理結果から再発リスクが高いようであれば術後のミトタン投与・放射線照射を行う。腹腔鏡手術は低侵襲で有用な術式であるが,良性腫瘍と比べてその適応は個々の技量に応じて慎重に決めるべきである。

【文 献】
 

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