日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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症例報告
マンモグラフィの集簇性石灰化が一時消失後同じ部位に再度出現した乳癌の1例
西川 美紀子 佐々 実穂大畑 麗子立松 輝菊森 豊根今井 常夫
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2016 年 33 巻 1 号 p. 50-54

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抄録

乳腺微細石灰化が一度消失し,その後同部位に再び出現した稀な乳癌症例を報告する。症例は66歳女性。既往歴;39歳 クモ膜下出血(SAH)のためクリッピング術施行。マンモグラフィ(MMG)検診で左の集簇性微細石灰化を指摘された。精査:視触診異常なし,乳房超音波検査(US)で明らかな異常所見なし,乳房MRIはSAHによるクリッピングのため施行できず経過観察となった。6カ月後のMMGおよび拡大撮影で石灰化は消失し,USも異常所見は認められなかったため,次回は検診受診と指示された。初回時より14カ月後のMMG検診で再び同部位に集簇性の微細石灰化が出現し初回より増悪と判定された。ステレオマンモトームを施行しductal carcinoma in situ(DCIS)と診断された。手術は左乳房切除術を施行。最終病理結果はDCISを伴う微小浸潤がんであった。

はじめに

マンモグラフィ(MMG)で石灰化が減少あるいは消失する症例は精査不要のものと考えられている。検診MMGで発見された石灰化が6カ月後に一時消失したのち14カ月後に同部位に明らかな石灰化所見の増悪を認め石灰化部位が乳癌と診断された稀有な1例を経験したので報告する。

症 例

症 例:66歳 女性。

既往歴:39歳 クモ膜下出血(SAH)のためクリッピング術施行。

家族歴:特記すべきことなし。

現病歴:64歳のとき初めて受けた中日病院のMMG検診で左中部外側の集簇性石灰化を指摘され精査となった。中日病院乳腺科での二次精査時,乳房超音波(US)検査で明らかな異常所見なく,乳房造影MRI検査はSAHによるクリッピング術のため施行できず経過観察とした。6カ月後経過観察目的にて同病院乳腺外来受診し,再度MMG検査(拡大MMG含む)を施行した。6カ月前に指摘された石灰化は消失しており,USで同部位をはじめ異常所見は認められなかったので,石灰化は軽快と考え次回は検診受診で良いと指示した。初回検診より14カ月後同病院でMMG検診を受けたところ再び同部位に集簇性の石灰化が認められ初回より石灰化所見の増悪と考えられたため精査となった。

現 症:両側乳房に疼痛・圧痛や腫瘤を認めず,領域リンパ節も触知しない。

MMG検査:

初 回:左中部外側に集簇性微細石灰化あり(形態;微小円形) カテゴリー3(図1)。

図1.

初回の検診MMG。左中部外側に集簇性微細石灰化あり(形態;微小円形)。カテゴリー3と判定。

6カ月後:左中部外側の集簇性微細石灰化は消失 カテゴリー1(図2)。

図2.

初回検診から6カ月後の経過観察時のMMG。左中部外側の集簇性微細石灰化は消失。カテゴリー1と判定。

14カ月後:左の集簇性微細石灰化の数が増えてより明瞭に認められた(形態;多型性) カテゴリー4(図3)。

図3.

初回検診から14カ月後の検診MMG。初回検診MMGで認められた石灰化部位と同じ左中部外側に集簇性微細石灰化の数が増えてより明瞭に認められた(形態;多型性)。カテゴリー4と判定。

US検査:

初回時,6カ月後の経過観察時:明らかな異常所見は認められなかった。

14カ月後:左4時方向に微細点状高エコースポットを伴う境界不明瞭な低エコー域を認めた(図4)。

図4.

初回検診から14カ月後の乳房US。左4時方向に微細点状高エコースポットを伴う境界不明瞭な低エコー域を認めた。

乳房造影CT検査:左乳腺D領域に区域性早期斑状濃染が認められた(図5)。

図5.

乳房造影CT検査で左乳腺D領域に区域性早期斑状濃染が認められた。(丸で囲んだ部分)

穿刺吸引細胞診:C5悪性と判定された(図6)。

図6.

穿刺吸引細胞診はC5悪性と判定された。

ステレオマンモトーム生検:ductal carcinoma in situ(DCIS)と診断された。

手 術:左乳房切除術(Bt)およびセンチネルリンパ節生検(陰性)を施行。

最終病理診断:背景にDCISを伴う微小浸潤がん(浸潤径2mm)ER-,PgR-,Her2 3+DCIS部の広がりは約15×18mm。

石灰化はDCIS(非浸潤癌)内に存在する壊死型の石灰化(図7)。

図7.

手術標本での病理所見は,背景にDCISを伴う微小浸潤がん(浸潤径2mm)で,石灰化はDCIS内の壊死型の石灰化であった。赤い点線部はDCISの部分で広がりは15×18mm。左下は微小浸潤部の部分を含むDCISの拡大。右上が浸潤部を含む拡大図。右下は非浸潤部内に存在する壊死型石灰化の拡大図。

考 察

MMG検診では集簇性の微細石灰化像は,しばしば指摘される所見である。これらの所見はMMGの乳癌早期診断に重要な役割をはたしているといえる。しかしMMGの微細石灰化の発見から癌の確定診断,進展範囲の把握,術式選択の決定は容易ではなく,石灰化病変についてMMGでの形態や分布と病理組織像に関して多くの検討がなされてきた[]。サーベイランスにおいても経時的変化で石灰化が消失あるいは減少する場合は,本症例のように精査による経過観察の対象からはずれ検診受診をすすめることが通常である[]。ホルモン療法,化学療法,放射線療法などの治療後に乳癌の石灰化が減少・消失する報告はこれまでも発表されてきたが[13],自然経過で乳癌の石灰化が減少あるいは消失する報告は非常に少ない。乳腺の石灰化所見が消失したという報告は良悪性に関しては確定診断されていないことが多く[1415],石灰化が減少・消失したのちに乳癌と診断された症例は検索する限り欧米ではSeymourらの文献のみであった[16]。本邦でも学会や研究会において自験例を含む3例の症例報告がされているが論文報告は認められなかった[17]。

Seymourらによると,検診マンモグラフィを受けた108,000人中の33症例(全体の0.03%)と他施設の4症例の計37症例において石灰化の減少・消失を認めている。石灰化の形態から15例は良性と判定され,残り22例は偽陽性・悪性と判定された。偽陽性・悪性に分類された22例(すべて集簇性の分布)中8人(34.6%)が乳癌と診断された。この8例では3例が石灰化の減少5例が石灰化の消失を認めており,非浸潤性小葉癌(LCIS)が一名,残りは浸潤性乳管癌(IDC)であった。IDCのうち1例は離れてDCISが存在した。MMGの所見で石灰化の形態が丸く大きさや濃度が一定で良性の石灰化と分類されたもので,石灰化が消失あるいは減少した症例では乳癌の報告は1例もなかった。つまり良性の形態の石灰化と診断された場合には積極的な精査をせずに保存的に見ることが可能であると考えられる。悪性の可能性ありと判定された石灰化所見で石灰化の減少・消失を認めた症例のうち34.6%が乳癌であったということから,MMGの石灰化所見が偽陽性以上のものに対しては,たとえ石灰化が消失あるいは減少しても経過観察を厳密に行っていくことが必要である。

自然経過で乳腺の石灰化が消える現象のメカニズムについてわずかながらの報告があるもののいまだ解明されていない。石灰化が消失する機序として,石灰化が乳頭へ押し出され排泄される,マクロファージが石灰化を貪食する,乳管内で石灰化が消失するような線維化が生じるなどの諸説がある[16]。本例では石灰化病変は乳頭からはかなり離れており乳頭から排泄されたとは考えにくい。またマクロファージの存在や線維化は病理組織像で確認できなかった。

おわりに

経過観察中に乳腺石灰化が一度消失した稀な乳癌の1例を経験した。一旦石灰化が消失・減少した場合でも,悪性の可能性のある石灰化所見だった場合はその石灰化の変化に注目して経過観察をすることは重要であると考えられた。

謝 辞

本趣旨は第17回日本乳癌学会総会にて発表した。

【文 献】
 

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