日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
原著
甲状腺乳頭癌全摘術後の放射性ヨウ素内用療法の現状に関する後ろ向きコホート調査研究
小野田 尚佳神森 眞岡本 高宏中島 範昭伊藤 研一宮崎 眞和吉田 明
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 33 巻 2 号 p. 110-114

詳細
抄録

甲状腺乳頭癌(PTC)に対する放射性ヨウ素内用療法の現状を把握し,意義を見出すため,多施設共同の後ろ向き研究を行った。ʼ03~ʼ12年に初発のPTCに対し全摘術を受けた患者1,324例のデータを7施設から集積した。全摘,内用療法施行とも増加傾向にありʼ12年には全初発PTC手術例の60%,25%を越えた。内用療法は480例に施行され全摘例の36%に相当,M1,Stage ⅣB,ⅣC症例の2/3に施行されていた。疾患特異的生存率は内用療法施行群で有意に不良であった。予後リスクによって層別化すると内用療法施行により生命予後に差は認めなかったが,中間リスクの施行例は非施行例に比し術後診断の進行度が有意に高かった。本研究により内用療法の現状が明らかとなり,中間リスク患者での効果が示唆されたが,適応や治療法の問題点も確認され,内用療法の意義を見出すためにはさらなる症例集積研究が必要と考えられた。

はじめに

甲状腺分化癌に対して行われる放射性ヨウ素(131I)内用療法は,癌の遺残がない例を対象に行われるremnant ablation(ablation),微小病変残存が疑われる例を対象とするadjuvant therapy(adjuvant),明らかに癌が遺残する症例を対象に行われるcancer treatment(treatment)に分類できる[]。

諸外国では,甲状腺乳頭癌(PTC)に対して甲状腺全摘術を施行後にablationを行い,TSH抑制療法を行いつつ血中サイログロブリン値での経過観察が一般的であったが,2015年に改訂された米国甲状腺学会のガイドラインではablationの推奨は選択的となり[],adjuvantの意義に関する検討が進められている[,]。本邦では,131I取扱いの制限や診療報酬が抑えられているため施行可能施設が不足し,独特な食文化のために必要なヨード制限が不十分になることも多く,放射線に対する国民の嫌悪感もあることから,これまで内用療法が行われることは少なかった[]。とくにablationは非常に少なく,ほとんどadjuvantやtreatmentであったためその成績は興味深い。しかし,症例数が少なく適用基準も施設や時期により異なるため,単施設の症例集積ではPTC治療全体における内用療法の現状把握や問題点を見出すことは困難であった。本研究は,PTCに対し全摘術を施行された多施設の症例を集積し,本邦での内用療法の現状と意義を明らかにすることを目的とした。

対象と方法

本研究は多施設共同,後ろ向き観察研究である(大阪市立大学IRB承認#2798)。ʼ03~ʼ12年に初発のPTCに対し全摘術を受けたすべての患者の匿名化したデータを,各施設のIRBの承認を得て集積した。再発後の全摘手術,過去に甲状腺手術を受けている,他臓器癌の治療中である患者は検討から除外した。初発PTC治療総数,全摘術の総数,内用療法の総数,投与目的(adjuvantかtreatmentか),量と回数を求めた。内用療法施行例で非施行例と比較して再発リスク毎の生命予後を解析した。再発リスクは術前診断を基準として甲状腺腫瘍診療ガイドライン[]の記載に準じて低リスク(T1,N0,M0),中間リスク(低リスク,高リスク以外),高リスク(T4(EX2)あるいは,cN1b,あるいはM1)に分類した。統計解析はSPSS(SPSS Inc,Chicago,IL)を用い,生存率はKaplan-Meier法で推定,差はLog-lank testを用いて解析した。2群間の平均値の差はχ2検定を用いた。5%の危険度をもって有意差ありと判定した。

結 果

7施設から全初発PTC手術3,238例が集積された。全摘は1,324例(41%),増加傾向にありʼ10年に40%,ʼ12年に60%に達した。内用療法はʼ10年から増加し,ʼ11年以降は全初発PTC手術例の25%を越えた(図1)。全摘例は,男316:女1,008,6~91(中央値57)歳,観察期間は0~173(中央値44)月。62例が死亡,うち37例は原病死。1,147例が生存,うち112例は担癌状態であった。

図1.

年ごとのPTC手術症例に対する全摘症例,内用療法施行症例の比率

内用療法は480例に施行され全摘例の36%に相当した。進行症例が有意に多く,N1b症例の51%,M1症例の66%,Stage ⅣB,ⅣC症例の63%に施行されていた(表1)。

表1.

症例の内訳

施行回数は,1~12(中央値1)回,投与量0.37~40.0(中央値3.7)GBqであった(表2)。Adjuvantは390例。うち330例(85%)が2回までの投与で,3.7GBq程度の投与が中心であった。うち74例(19%)では甲状腺床以外の集積が認められ,55例(14%)が3回目以降の投与が行われていた。Treatmentが行われた90症例では,19例(21%)で3回以上の投与となり,投与量中央値も5.6GBqであった。1回のみの投与であった35例中22例(63%)では甲状腺外に集積がなかった。

表2.

投与目的別内用療法回数と投与量

全摘例全体で内用療法施行群と,非施行群の予後を検討すると,全生存率(OS)に統計学的有意差は認められず(図2a),疾患特異的生存率(CSS)が内用療法施行群で有意に不良であった(p=0.011)(図2b)。予後リスクによって層別化しても,内用療法の施行,非施行によってOS,CSSともに有意差は認められなかった(図2c-h)。中間リスク患者のうち内用療法施行例では非施行に比べて術後病理診断がより進行した病期である症例の頻度が有意に高かった(表3)。

図2.

放射性ヨウ素内用療法の有無による全摘症例の全生存率(a),疾患特異的生存率(b)。予後リスクによる層別化後の全生存率(c,d,e),疾患特異的生存率(f,g,h)。低リスク(c,f),中間リスク(d,g),高リスク(e,h)。

表3.

中間リスクと層別された症例における内用療法施行の有無別病理学的診断

考 察

本邦でも外来アブレーションが可能となり,ホルモン剤の休薬を必要としないrhTSHが認可されablationやadjuvantの適応が拡大している。本研究でもPTC患者に占める全摘,内用療法施行例の比率の明確な増加が示され,系統的治療が広まっていることが明らかとなった。一方で,一般的に内用療法の適応であると考えられるM1,Stage ⅣB,ⅣC例の2/3にしか実際には施行されていなかった。また,treatmentの3例では0.37GBqのみの少ない投与量であった。さらに,treatmentのうち35例(39%)では1回のみの投与しか行われておらず,集積を認めなかった例を除いても13例では治療が完遂されていない可能性がある。このように進行PTC症例にも内用療法の適応頻度は高くなく,不十分なtreatment例も存在している可能性が示された。

内用療法は進行例に多く施行されており,CSSは非施行例よりも不良であった。OSに差がなかったことを考えると,合併疾患を持った症例や高齢者では内用療法が行われなかった可能性がある。リスク分類別にみても予後に差はなく,高リスク症例での内用療法の予後延長効果を示すことはできなかったが,同様の理由と推測される。

リスク分類は術前診断により行ったが,中間リスク例で最終診断の進行度を解析すると内用療法が施行されていた症例では,表3に示したように有意に進行した病期となっていた。術後再発の危険が高いと判断した症例に内用療法が選択適応されていた状態を反映していると考えられる。それにも関わらず,OS,CSSとも非施行例と比較し差がなかったことは中間リスク患者へのadjuvantが奏効していることを示す結果とも考えられる。本検討は,多施設共同の後ろ向き研究であり,内用療法に積極的な施設が参加したこと,内用療法の適応基準が一定していないこと,全摘以外の治療を受けた症例が予後解析に含まれていないこと,treatmentの治療効果が勘案できなかったこと,予後調査期間が10年間と短期であることなどがあり,今回の結果を以って治療効果を評価することは困難である。しかし,多施設の多数例の解析から,中間リスク例に対するadjuvantの効果を示唆した結果と考えられる。治療成績を明らかにするためには,理想的には治療されたすべての患者を登録し,20年以上をかけて解析を行うことが望まれるが現行ではそのシステムがなく,NCDなどを踏まえたデータ収集システムの構築が課題である。

国内外での大規模試験から,内用療法抵抗性の甲状腺分化癌に対する分子標的治療が有意に病勢の進行を抑えることが明らかにされ[,],使用可能となった。今後PTCの治療は,手術一辺倒から,再発リスクを勘案した手術術式の選択,再発予防(adjuvant)や残存病変の治療(treatment)を目的とした内用療法,内用療法抵抗性の病変に対する薬剤を逐次用いた系統的治療へのターニングポイントを迎えている。現状の内用療法は,1990年代の症例集積研究の結果[]を根拠に施行されているが,近年治療されている症例はより再発リスクの低い患者の比率が高い[]。最新の2万人以上の患者を解析したデータ[]では中間リスクの患者に対する内用療法の生存延長効果が示されており,内用療法の症例選択基準,治療方法,効果予測,評価方法についてはUp-dateが必要と考えられる。本邦においても,選択基準や投与目的を明確にし,治療効果を正確に判定した大規模なデータを構築,解析する必要があると思われた。

おわりに

多施設共同研究から大規模なデータベースを作成し,本邦におけるPTCに対する内用療法の現状を確認した。内用療法は多くの症例で行われるようになり,adjuvant効果が示唆された反面,適応や治療法の問題点も確認され,さらなる検討課題と考えられた。

謝 辞

本研究結果の一部は,第48回日本甲状腺外科学会学術集会(東京)において発表した。本研究の一部は,公益財団法人放射線影響協会から研究助成を受けた(小野田尚佳)。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top