日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集1
甲状腺切除検体の取扱いと濾胞性腫瘍について
長沼 廣
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2016 年 33 巻 2 号 p. 69-72

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抄録

甲状腺結節性病変の鑑別診断についてはガイドラインなどが示されている[]。甲状腺結節性病変は術前の超音波,CT,MRI,細胞診などでかなり質的に診断が出来ているが,手術適応に関しては画像診断と併せて細胞診の診断が重要である。さまざまな組織像を示す結節性病変の中で濾胞性腫瘍の良悪性の診断は依然として容易ではない。正確に病理診断をするためには切除甲状腺の取扱いも大切である。濾胞腺腫と微少浸潤型濾胞癌の鑑別は肉眼所見にはきわめてむずかしい。適確な濾胞性腫瘍の診断には良好な固定状態で検査することが望まれ,濾胞癌の診断基準を標準化することが重要である。甲状腺癌取扱い規約第7版では切除検体の取扱いは簡略化したが,濾胞癌の診断基準である脈管浸潤,被膜外浸潤ついて前版より詳細に記載した。濾胞性腫瘍の鑑別診断に役立てていただきたい。

はじめに

切除甲状腺の取扱い方,濾胞腺腫,濾胞癌の診断基準についての変更点を述べる。第6版規約では固定法,切開法,標本採取法を詳細に記載したが,標本の扱い方は十分に浸透しているので,改訂版では簡略化した。濾胞腺腫の解説に関して大きな変更はない。濾胞癌では微少浸潤型の診断において重要な因子である被膜浸潤,脈管浸潤について一定の診断基準を示した。以下に変更点,注意点を述べる。

切除甲状腺の固定,切開および病理診断用組織標本採取の方法の変更点概要

1.切除された甲状腺の固定法

切除された甲状腺は割をいれずに固定するのが望ましい。術者が①摘出された甲状腺の腫瘍を確認する,②患者家族などに標本を提示する,③病理組織診断以外の検索のために腫瘍を採取するなどの理由で術後腫瘍に割を入れることが多いが,割を入れてそのままの状態で固定すると甲状腺組織が変形し,病理組織検査の際に切り出しにくいことがある。ホルマリンの浸透など固定条件をよくするためには大きい腫瘤には割を入れた方が良いが,割を入れた面を張り合わせて,腫瘤が変形しないように十分注意する。他の臓器と同様に切除された甲状腺は速やかに十分量の固定液で固定する。

2.固定組織の切開および組織標本の採取法

固定された甲状腺は矢状断あるいは水平断で割を入れる。一般的には矢状断であるが,周囲組織との関係,CTなどの画像との対比の場合は水平断でよい。切り出しの詳細については甲状腺癌取扱い規約第6版[]や他のアトラス[,]などを参照していただきたい。濾胞癌との鑑別を要する腫瘍が疑われる場合は最大割面に平行して厚さ3~5mm間隔のスライスに切り,腫瘍被膜部分をすべて検索する。小さな腫瘤は全割することが望まれ,大きな腫瘤は多数切り出す必要がある[]。切り出し個数については特に記載しなかった。

腫瘍の組織所見についての変更点概要

1.濾胞腺腫 Follicular adenoma

腺腫の組織診断については従来通りの診断基準である。稀に淡明細胞を持つ腺腫を見ることがある[]が,淡明細胞型濾胞癌と淡明細胞腎細胞癌との鑑別を要する。また,細胞診において異型の強い濾胞細胞が得られた場合は,異型腺腫や低分化癌が疑われる。組織学的には細胞異型,索状配列などの構造異型,Ki67標識率高値が見られても被膜外浸潤や脈管浸潤の所見が得られなければ,異型腺腫と診断される。したがって,異型の強い濾胞性腫瘍を観察した場合は両者を区別するために,正常甲状腺部を含む腫瘍被膜から多数のブロックを作って検索する必要がある。異型腺腫は非浸潤性,低分化癌は明らかな浸潤性増殖を示すことを認識する。

2.濾胞癌 Follicular carcinoma

1)定義;濾胞癌の定義,診断基準は従来通りで,大きな変更はないが,改定版では被膜外浸潤,脈管浸潤の用語を用いることにした。理由はWHO組織分類書[]に記載されているcapsular invasion, vascular invasionに準じた。組織的には濾胞構造を基本とし,正常甲状腺のそれと区別が困難なほどよく分化したものも含まれ,多少の乳頭構造を示すことがある。細胞の異型度は良性・悪性の区別に関与しないが,乳頭癌に特徴的な核所見を認めれば,濾胞型乳頭癌の診断となる。悪性基準は腫瘍細胞の被膜外浸潤,脈管浸潤,あるいは甲状腺外への転移のいずれか少なくとも一つを組織学的に確認することである。被膜外浸潤や脈管浸潤の見方も診断者によって異なることがあり,濾胞癌の診断にぶれが生じるので,被膜外浸潤や脈管浸潤の定義については以前より明確にした。

①脈管浸潤の判定;被膜内もしくは被膜近くの非腫瘍部の血管を観察して行う。腫瘍内部の血管には刃物で割を入れる際に人工的に血管内に腫瘍を押し込むことがあり,脈管浸潤を過剰に判定するからである。脈管浸潤はa)腫瘍細胞集塊が腫瘍から連続性である,b)血管壁に付着している,c)腫瘍集塊を内皮細胞が覆っている(図1)など他臓器の腫瘍における脈管浸潤より厳密に定義した。他臓器の癌では脈管浸潤は予後評価などに重要であるが,微少浸潤型濾胞癌は脈管浸潤が癌の診断基準となるためである。血管内皮細胞の確認にはCD34の免疫染色を用いる。

図1.

脈管浸潤の模式図

厚い線維性被膜付近ではスリット状の亀裂が血管腔に見えることがあるので,内皮細胞で被われている管腔のみを対象血管とし,その管腔内に存在する腫瘍細胞集塊に内皮細胞が付着している場合と血栓が付着している場合に脈管浸潤像と断定する。濾胞癌は発育が緩徐であることから血管内の腫瘍細胞は内皮細胞に覆われたり,腫瘍細胞に血栓形成を見る。これらの所見を重視した。被膜壁内の毛細血管内に腫瘍細胞,リンパ球などが混在してみられる像は脈管浸潤と断定しない。

②被膜(外)浸潤の判定;図2に示すように被膜外浸潤とは,被膜を完全に突き破って周囲の被膜の位置よりも突出している状態を意味する。被膜を腫瘍細胞が貫通することを原則としている。図の定義ではa)被膜を貫通した腫瘍細胞を薄い線維性被膜が覆っている,b)被膜外に孤立性に腫瘍集塊を見る場合も被膜外浸潤と判断する。提示する症例は被膜外腫瘍細胞集塊が連続切片作製により腫瘍本体と連続性であることを確認した例である(図3a,b)。注意することは穿刺吸引細胞診後に穿刺部位に被膜浸潤様の像を見ることがある。いかにも貫通性病変に見えるが,炎症性細胞浸潤が強いなど判断に苦慮することがある。

図2.

被膜外浸潤の模式図

図3.

被膜外浸潤像 a:腫瘍被膜外に濾胞性腫瘍を見る。b:連続切片作成後,腫瘍細胞が被膜を貫く像が確認された。

③転移の確認;甲状腺内の病巣が悪性と診断できない場合でも,転移の存在が組織学的に明らかになれば,甲状腺内の病変部が原発腫瘍と認定される。前述のように濾胞癌は被膜外浸潤や脈管浸潤を確認出来なければ,良性と判断せざるを得ない。実際は濾胞癌でも濾胞腺腫や腺腫様甲状腺腫と診断される例もある。従来,転移性甲状腺腫metastasizing goiter,悪性腺腫malignant adenomaなどと呼ばれていた異型の明らかでない腫瘍がこれに相当する。転移巣ではサイログロブリン,TTF-1の免疫染色で,甲状腺由来であることを確認する必要もある。

2)分類;浸潤様式,細胞の性状による分類に大きな変更点はない。

⑴浸潤様式からみた分類の変更点概要

①微少浸潤型濾胞癌 Follicular carcinoma, minimally invasive

定義,診断基準の変更はない。前述の被膜外浸潤,脈管浸潤を把握して診断することが望まれる。多数の切片作製でも組織学的に被膜浸潤,脈管浸潤のいずれかを見出すことができなければ,腺腫と判断せざるをえない。

②広汎浸潤型濾胞癌 Follicular carcinoma, widely invasive

定義,診断基準に大きな変更はない。周囲に広範に浸潤する場合は診断に苦慮しないが,周囲甲状腺組織や脈管内に広範囲の浸潤を示し,全周性の腫瘍被膜が不明瞭な例も少なくない。図4に示すように多数の脈管浸潤を見る場合は腫瘍細胞が被膜外に広範囲に浸潤していなくとも広汎浸潤型に分類する。広汎浸潤型は微少浸潤型に比べ予後不良であるため,注意する必要がある。

図4.

広汎浸潤型濾胞癌組織像;被膜内に多数の脈管浸潤像を認める。

⑵亜型分類(特殊型)Variantsの変更点概要

①好酸性細胞型濾胞癌 Follicular carcinoma, oxyphilic(oncocytic)cell variant

腫瘍の大部分(75%以上)が好酸性顆粒状の細胞質を有する腫瘍細胞より構成される濾胞癌である。具体的に好酸性細胞の割合を示した。充実性,索状,乳頭構造を示すことがある。好酸性腫瘍すべてに悪性性格が認められるという立場もあるが,本規約では,濾胞癌としての基準である被膜浸潤,脈管浸潤を認めた場合に本型に分類する。好酸性細胞は顆粒状胞体を示し,豊富なミトコンドリアを有するが,現在では抗ミトコンドリア抗体で確認することができる。

②明細胞型濾胞癌 Follicular carcinoma, clear cell variant

腫瘍のほぼ全体が淡明な細胞質を有する腫瘍細胞より構成される濾胞癌である[]。明細胞化はミトコンドリアの風船化,脂肪あるいはグリコーゲンの蓄積,サイログロブリンの貯留などによる。組織学的に腎細胞癌の転移との鑑別が必要とされる。明細胞型濾胞癌は,免疫組織化学によりサイログロブリン陽性,CD10陰性を示すことが診断の有力な指標となる。

まとめ

甲状腺組織の取扱い方,濾胞性腫瘍の診断のポイントを簡単に述べた。予後良好な甲状腺濾胞癌の診断には腫瘍の固定,切り出し,診断基準の標準化が重要であることを再認識していただきたい。

【文 献】
  • 1.  日本甲状腺学会編:フローチャートによる診断・治療の具体的方法.甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013 南江堂,東京,2013,p174-175.
  • 2.  甲状腺外科研究会編:甲状腺癌取扱い規約第6版 金原出版,東京,2005.
  • 3.   廣川 満良, 前川 観察世子, 森田 新二:甲状腺・副甲状腺.外科病理マニュアル 病理と臨 26:232-237,2008
  • 4.   長沼  廣:病理標本の取り扱い方.腫瘍病理鑑別診断アトラス甲状腺癌  坂本 穆彦, 廣川 満良(編),文光堂,東京,2009,p7-13.
  • 5.   Yamashina  M: Follicular neoplasms of the thyroid. Total circumferential evaluation of the fibrous capsule. Am J Surg Pathol 2: 101-102, 1992
  • 6.   廣川 満良:濾胞腺腫.腫瘍病理鑑別診断アトラス甲状腺癌  坂本 穆彦, 廣川 満良(編),文光堂,東京,2009,p90-99.
  • 7.   DeLellis  RA,  Lloyd  RV,  Heitz  PU, et al.(eds): World Health Organization Classification of Tumours.Pathology & Genetics. Tumours of Endocrine Organs. IARC Press, Lyon, 2004, p68.
  • 8.   DeLellis  RA,  Lloyd  RV,  Heitz  PU, et al.(eds): World Health Organization Classification of Tumours.Pathology & Genetics. Tumours of Endocrine Organs. IARC Press, Lyon, 2004, p70.
 

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