日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
ガイドラインからみたガストリノーマの診断と治療
河本 泉今村 正之
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2016 年 33 巻 2 号 p. 97-100

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抄録

本邦では2015年4月に「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン 2015年第1版」が発刊された[]。ガストリノーマの診断と治療に関してはCQ1-2「ガストリノーマをうたがう症状は何か?」,CQ3-2「ガストリノーマの手術適応と術式は?」,CQ4-2「十二指腸NETに対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?」,CQ4-4「膵・消化管NETの内分泌症状に対して推奨される薬物療法は何か?」に記載されている。またガストリノーマは多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)に伴い発症することが多いこと,転移をきたすことが多く悪性度が高いことが知られており,ガイドラインにはMEN1に伴う膵・消化管NETの手術適応と術式,NET(G1/G2)に対して推奨される抗腫瘍薬についても記載されている。ガイドラインをもとにガストリノーマの診断と治療について解説を行う。

1 はじめに

膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)のWHO病理分類は2010年に改訂されそれまでの組織型・脈管侵襲・Ki67指数・腫瘍径などによる分類からKi67指数によるGrade分類が採用された[]。また,2015年のNCCNのガイドラインからは長年使われてきた消化管・肺・膵の“Carcinoid tumors”の名称が“Neuroendocrine tumors”へと変更になった[]。本邦では2013年11月から日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS)のホームページ上に「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」(以下NETガイドライン)が掲載されており,2015年4月にはそれを改訂する形で「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン 2015年第1版」が発刊された[]。本NETガイドラインではガストリノーマの診断と治療に関してはCQ1-2「ガストリノーマをうたがう症状は何か?」,CQ3-2「ガストリノーマの手術適応と術式は?」,CQ4-2「十二指腸NETに対する内視鏡的治療の適応および推奨される手技は何か?」,CQ4-4「膵・消化管NETの内分泌症状に対して推奨される薬物療法は何か?」に記載されている。また,ガストリノーマは高率に多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)に伴い発症することや高率に転移をきたし悪性度が高いことが知られている[]。第3章のCQ3-14とCQ3-15に「MEN1に伴う膵・消化管NETの手術適応と術式」,第4章のCQ4-5とCQ4-7には膵と消化管の「NET(G1/G2)に対して推奨される抗腫瘍薬」について記載されている。本項ではNETガイドラインをもとにガストリノーマの診断と治療について解説を行う。

2 ガストリノーマの特徴と診断

1)特徴

膵・消化管NETは基本的に悪性腫瘍であるが,なかでもガストリノーマは60~90%が悪性腫瘍であり高率にリンパ節転移をきたす[,]。インスリノーマがほぼ膵からのみ派生するのに対してガストリノーマは十二指腸球部,十二指腸遠位,空腸に多く発生し(ガイドラインP27 1,2),膵からの発生もあるため局在診断に苦慮することが多い。また,MEN1に伴う膵・消化管NETは異時性・同時性に多発する傾向があり散発性NETと異なる診断・治療方針が必要となる。MEN1に伴う機能性NETではガストリノーマが最も多く,一方,ガストリノーマの25%はMEN1に伴うものであり,ガストリノーマと診断した場合,ガストリノーマを疑った場合にはMEN1を考慮する必要がある。ガストリノーマの治療方針を決めるにあたり,その局在やMEN1を伴うものか散発性かなど正確な診断を行うことが重要である。

2)存在・局在診断

NETガイドラインのCQ1-2にガストリノーマの症状からみた診断について解説されており,巻頭には診断のアルゴリズムが記載されている。

先ずは存在診断が重要となる。ガストリノーマは多くの場合胃酸過剰分泌による消化性潰瘍や逆流性食道炎,下痢といった症状で発症する。ガストリノーマを疑った場合,空腹時血清ガストリン測定が行われることが多いが,プロポンプインヒビター(PPI)など制酸剤の長期投与やヘリコバクター・ピロリ感染,慢性腎不全,萎縮性胃炎など他の高ガストリン血症をきたす病態との鑑別が必要である。鑑別診断にはカルシウム静注試験や胃内24時間pHモニタリングも有用である。

存在診断が確立すれば次に局在診断を行うが,腹部超音波検査(US)やCT,MRIなど通常の画像検査を行う。上部消化管内視鏡では十二指腸まで慎重に観察を行うことが重要である。また,微小なガストリノーマでは通常の画像検査では腫瘍の局在診断が困難な場合があり,選択的動脈内刺激薬注入法(SASI test)が有用である。また,ガストリノーマは高率にソマトスタチン受容体type2が発現していることが知られており,海外ではソマトスタチン受容体シンチグラフィーが局在診断・転移巣診断に用いられている。NETガイドラインのCQ1-12とアルゴリズムではソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)は保険未承認となっているが2015年12月にOctreoScan®が保険承認され膵・消化管NETの局在診断・転移巣診断におけるSRS有用性が期待される。図1に下大静脈前面のリンパ節転移をきたしたガストリノーマ症例のOctreoScan®の結果を示す。

図1.

下大静脈リンパ節転移をきたしたガストリノーマ(矢印で腫瘍を示す)

a:CT

b:OctreoScan®とCTとのfusion像

c:OctreoScan®の正面像

3)MEN1に伴うガストリノーマ

NETガイドラインCQ1-8にMEN1に伴うNETの存在診断について記載されている。ガストリノーマの25%はMEN1に伴うものであり,ガストリノーマは単独でMEN1を疑う根拠とされている。またCQ1-11にMEN1に伴う膵・消化管NETの局在診断について記載されており,多発性,小病変,肝転移に対する注意点が記載されている。特にMEN1に伴う機能性NETではガストリノーマが最も多く,十二指腸粘膜下に小さい腫瘍として発生し,半数は多発している。他に非機能性・機能性NETが多発することが多く,手術方針の決定にあたってはどの腫瘍が機能性腫瘍であるかを鑑別する必要がある[]。多発膵・消化管NETの中からガストリノーマを鑑別するために行ったMEN1症例のSASI testの結果を図2に示す。

図2.

同時性に膵尾部と十二指腸NETのあるMEN1に伴うガストリノーマ症例

a:上部消化管内視鏡 矢印で十二指腸粘膜下腫瘍を示す。

b:CT 矢印で膵尾部NETを示す。

c:SASI testの結果を示す。胃十二指腸動脈からの刺激で有意反応を認め,十二指腸NETをガストリノーマと診断した。

3 ガストリノーマの治療

1)散発性ガストリノーマ

ガストリノーマの手術に関してはCQ3-2とアルゴリズム8に記載されている。表1にガストリノーマの原発巣に対する術式の一覧を示す。膵・消化管NETの治療方針の基本は切除であるが,特徴にも記載したようにガストリノーマは高率にリンパ節転移を伴うため,リンパ節郭清を伴う十二指腸切除や膵切除が勧められている。腫瘍が小さく浸潤傾向が乏しい場合には部分切除や核出も選択肢に挙げられるが,リンパ節郭清は必須である[]。周囲臓器に浸潤がある場合でも遠隔転移がない場合では浸潤臓器の合併切除が可能な場合には手術による根治が期待できる[,]。十二指腸NETの内視鏡的治療の適応についてCQ4-2に記載されているが,十二指腸ガストリノーマに関しては開腹によるリンパ節郭清が必須とされている。

表1.

ガストリノーマ原発巣の術式一覧

また,術前の内分泌症状についてはCQ4-4とアルゴリズム18に記載されており,ガストリノーマに対してはソマトスタチンアナログとプロトンポンプインヒビター(PPI)が推奨されている。図3にガストリノーマの治療方針について示す。

図3.

ガストリノーマの治療方針

2)MEN1に伴うガストリノーマ

MEN1に伴うガストリノーマに関してはMEN1に伴う膵・消化管NETの手術としてCQ3-14に記載されている。散発性膵NETと異なり,同時性・異時性多発するという特徴があり[],腫瘍の大きさ・悪性度,内分泌症状,残膵機能を考慮した手術適応と術式選択が必要である[]。機能性NETと非機能性NETに分けて手術適応を考慮する必要がある。非機能性NETに関しては転移,浸潤を予防することが手術の目的であり,大きさにより手術適応が推奨されている[]。ガストリノーマを含め内分泌症状の原因となっている機能性膵NETに関しては大きさにかかわらず症状緩和目的に切除が推奨されている。膵・消化管NETが多発している場合にはSASIテストを行いどの腫瘍が内分泌症状の原因となっているNETの局在を確認する必要がある。術式は定型的な膵切除から核出術までを腫瘍の数と局在などを考慮して組み合わせる必要がある。十二指腸ガストリノーマでは同時性・異時性膵・消化管NETに対して配慮し,膵頭部が温存可能と判断した場合には膵機能温存のために膵温存十二指腸全切除も考慮する。ガストリノーマはリンパ節転移を高率にきたすためリンパ節郭清が必要である。図4にガストリノーマを含め,MEN1に伴う機能性膵・消化管NETの切除方針について示す。

図4.

ガストリノーマを含め,MEN1に伴う機能性NETの外科切除方針

3)転移を伴うガストリノーマおよび再発巣に対する治療

NETガイドラインでは,転移を伴うガストリノーマおよび再発巣に対する治療はCQ3-16~CQ3-19に手術適応について,CQ4-4に内分泌症状に対する薬物治療について,CQ4-5と4-7には抗腫瘍薬について,CQ4-9には切除不能肝転移に対する局所療法について,CQ4-10には集学的治療について記載されている。

他の膵・消化管NETと同様,ガストリノーマにおいても根治的切除不能例においては生命予後の改善と内分泌症状の改善を目的として集学的治療が重要である。

外科切除についてはリンパ節転移・周囲臓器への浸潤を伴う局所進行膵NETや肝転移を有する膵NETのうち外科切除で制御可能場合は切除で良好な予後が得られると報告されている[1011]。このことからガストリノーマにおいても局所進行性の場合や転移巣を有する場合でも外科切除で制御可能な場合は切除の適応と考えられる。しかし,切除不能な肝転移を有する膵NET原発巣の切除に関しては予後を改善するとの報告がある一方,その意義は症状緩和のみであるとする報告もあり[1213],慎重に外科切除の適応を判断する必要がある。

外科切除以外の治療法としては抗腫瘍薬として膵ガストリノーマに対してはスニチニブ,エベロリムス,ストレプトゾシンが,十二指腸ガストリノーマに対してはオクトレオチドLARとストレプトゾシンが適応となっている。内分泌症状の緩和に対してはオクトレオチドLARとPPIが有用である。また,肝転移巣に対する局所療法としては選択的肝動脈(化学)塞栓術(TAE/TACE)やラジオ波焼灼術(RFA)が推奨されている。骨転移に対する治療としてはビスフォスフォネート製剤やデノスマブが推奨されており,疼痛緩和目的には放射線外照射療法が推奨されている。

予後や内分泌症状の改善が得られるよう,外科治療,薬物療法,局所療法を組み合わせた集学的治療が推奨されている。

4 終わりに

ガストリノーマは悪性度が高く高率に転移をきたす。また,MEN1に伴い発生することが多い。これらのことを念頭に置いて慎重に診断,治療を行う必要がある。

【文 献】
 

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