日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集1
甲状腺内視鏡手術・今後の展望における問題点と課題
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2016 年 33 巻 4 号 p. 205-209

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抄録

2016年4月内視鏡甲状腺手術が良性疾患に対して念願の保険収載が認められた。しかし,質の担保などの課題は残る。今後の最大目標は今回見送られた悪性腫瘍に対する内視鏡甲状腺手術の保険適応である。しかし,難解な問題点と課題が山積みである。そして将来は日本独自のロボット支援手術機器の開発が望まれると考える。これら今後の展望における問題点と課題についての考えを述べる。

はじめに

甲状腺内視鏡手術は本邦において,清水らをはじめとして世界のほぼ先頭をきって臨床例を報告,様々なアプローチも開発紹介されてきた[]。比較的早い時期から高度先進医療(その後先進医療)として認められたが,保険収載に認められない時期が長らく続いた。今春念願かなって保険収載が認められたが良性腫瘍を対象とするものと非進行例の悪性腫瘍に対するものの二つの先進医療が対象となっていたが,良性腫瘍に対する甲状腺内視鏡手術のみが認められた。悪性腫瘍に対する甲状腺内視鏡手術は,引き続き先進医療を継続し次回2年後の改定において保険収載を目指す。

1.認可された内視鏡良性手術に対する問題点と課題

当初他臓器での例にあったように通常手術と手術点数が同じ,つまり保険収載は認めるが技術料としてのインセンティブが与えられないのでは,という危惧があった。結果は表1に示すように一定の評価が得られたことは喜ぶべきことである。ただし残念なことに内視鏡下手術に必須のエネルギーデバイス加算は認められなかった。内視鏡下手術は通常手術に比べ付加的医療材料を要することと,技術料を加味した将来的な手術点数の見直しに向けて,ワーキンググループを中心とした学会単位でのデータ集積が必要となる。

表 1 .

甲状腺手術 副甲状腺手術点数表

次の問題として挙げられるのが,質の担保である。現在示されている施設基準を表2に示す。比較的緩い基準ではあるが,新たに始める施設では必要経験5例をいかにするか検討しなくてはいけない。手術を施行する外科医は移動の可能性があり専門医と同じように,手術を行う医師,施設,教育制度も同様にワーキンググループ中心として学会を挙げて取り組むべき課題である。

表 2 .

内視鏡下甲状腺副甲状腺手術に関する施設基準

術前診断と最終病理診断の乖離も今後問題となってくる可能性が高い。術前診断で濾胞腺腫,腺腫様結節また腺腫様甲状腺腫という判断で良性腫瘍に適応となっている内視鏡下手術が施行された場合である。稀に術後の最終病理組織診断で濾胞癌と判定されることがある。この場合悪性腫瘍に対しては保険適応となっていないため,保険請求はどういう扱いになるか取り決めが必要になる懸念がある。同時に事項で述べる悪性腫瘍に対する内視鏡下手術は当院も含めて先進医療として行っているため,先進医療として認められていない医療機関では齟齬が生じる。

厳密には逆のケースも想定される。頻度は極めて少ないが,術前悪性腫瘍の診断のもと,先進医療で手術を施行した場合,何らかの理由で術後の最終病理組織診断が良性と判定された場合,先進医療の自費請求から保険診療への変更が問題となる。

通常の臓器や甲状腺でも乳頭癌の場合は術前の組織診断や細胞診で確定診断可能なため,術前術後の最終診断の不一致は例外的なケースとして問題視されることは多くない。しかし,甲状腺濾胞性腫瘍では濾胞癌と濾胞腺腫の術前確定診断は細胞診でも,たとえ針生検などの組織診断を加えても,不可能である。そのため甲状腺濾胞性腫瘍に対しては保険上独自の対応が検討されるべきではないだろうか。

2.今回見送られた悪性腫瘍(非進行例)に対する問題点と課題

前述のように昨年度まで先進医療Aとして,良性腫瘍に対する内視鏡下甲状腺手術と悪性腫瘍(リンパ節転移を伴わない非進行例)に対する内視鏡下甲状腺手術が継続していた。二つの術式が同時に保険収載されることが望ましかったが,残念ながら良性腫瘍に対するもののみ認められ,悪性腫瘍に対するものは認められず,悪性腫瘍に対するものは先進医療のまま継続,2年後の改定時に再度保険収載を目指すことになった。

そこで現時点の課題として,今回見送られた原因の分析が必要となる。の原因の分析において次の二項目について検討が必要であろう。

・今回ワーキンググループでまとめて提出したデータが十分であったか

・癌の治療としての評価が必要ではないか

後者は次の項目で一緒に述べることとし,まず前者についての考察を述べる。

悪性腫瘍に対する内視鏡下甲状腺手術は試行している施設が限られており,非進行例というしばりがあり,症例数も少なくなる。非進行例の乳頭癌では特に1cm未満の微小癌においては経過観察も可能であり症例の登録が難しくなる,また熟練した外科医は非進行例の乳頭癌に対しては皮膚切開をかなり小さくして手術可能である。このため内視鏡下甲状腺手術の大きなメリットである美容的観点での需要が多少制限されてしまう。

以上より,保険収載を目指すためには需要の側面からもデータ集積の点からもハンデをおうことになり,事項の進行例にも範囲を広げた対策が必要になるかもしれない。事項と重複するが,癌の治療としての評価は生命予後,再発期間など臨床指標に窮する。郭清リンパ節個数などの数的データにも制限が生じる。

3.今後検討されるべき悪性腫瘍(進行例)に対する問題点と課題

ここでいう進行例とは高危険群の乳頭癌ではなく,あくまでも日常診療でしばしば遭遇するリンパ節転移を伴う乳頭癌である。高齢者に多くみられる高危険群の乳頭癌はその後の再発予防,転移巣のマネジメント含め,個人的には内視鏡下手術は原則として適応にならず,視野をしっかり確保して安全かつ確実な根治手術が望ましいと考える。一方低危険群,特に若年者ではリンパ節転移は術前評価でも明らかであっても生命予後良好で,美容的観点での需要も多く,内視鏡下手術の適応となるものは多く存在すると考える。この甲状腺乳頭癌における特殊性,つまりリンパ節転移など一見進行例でも予後が極めてよく,癌に対する治療としての手術の根治性を証明することが重要となる。

このような新しい術式に関して,必ず問われるのが安全性と有効性である。安全性を証明するためには,多施設のもと多数例のデータで,手術時間,出血量,合併症の頻度を示すことで容易に行える,これは良性腫瘍でも非進行悪性腫瘍でも進行悪性腫瘍が対象であっても共通である。有効性の証明は同様に共通して整容性の証明として創部の位置,大きさ,患者満足度などで得られる。一方有効性として重要な低侵襲性は患者満足度などである程度示せるが,もともと在院日数の少ない甲状腺手術では入院期間の有意差をだすのは難しい。

さらに問題となるのは,安全性有効性どちらにも関わる癌治療としての安全性有効性つまりは根治性の確保の証明である。

まず術式により予後に差がないことを証明する問題である。非進行例はもちろんのこと,リンパ節転移のある進行例であっても,特に若年者を中心とした低危険群乳頭癌ではもともと極めて予後が良いため比較が不可能である。ただし,この問題は他臓器でも内視鏡手術の適応は予後良好なものに対するものが大半で,予後の差は求められることは考えにくい。

しかし,再発率再発期間に差がないことを求められる可能性はありうる。そもそも非進行例はリンパ節転移もないため再発がほぼ皆無で比較検討ができない。リンパ節転移を伴う進行例ではリンパ節再発は若干ありうるため比較検討は可能であるが,かなりの長期間観察を要し結論がでにくい。

やはり容易に入手できる臨床指標が必要となるのではないであろうか。唯一可能性があるのは,郭清リンパ節の個数であろう。ただし,これも予防的郭清と治療的郭清ではずいぶん意味合いが異なること,リンパ節の郭清個数の同定は検体を処理する手術医師や病理医の熱意により差がでる事実は注意を要すべきであろう。

前向き臨床研究,それに伴うエビデンスの構築を求められることも想定すべきである。筆者が先進医療のもと,甲状腺乳頭癌に対して広汎なリンパ節郭清を伴う内視鏡補助下甲状腺手術の安全性・有効性を厚生労働省から求められた際に苦労した経験を少し紹介する[]。当初図1に示すようなランダム化比較試験を試みた。手術決定の際内視鏡下手術または従来の手術の希望があるかを聞き,希望のない患者においてランダム化する予定であったが,そもそも手術方法の希望のない患者は皆無でランダム化は成り立たず,変更を余儀なくされ,図2に示す並行群間比較オープン試験に落ち着いた。

図 1 .

当初の試験デザイン

図 2 .

改正試験デザイン:並行群間比較オープン試験

もう一つの難解な課題は前述の癌根治性に対する証明であった。当時,内視鏡下では郭清範囲が不十分ではないかと懸念された理由と,プロトコール作成協力者から操作不能である手術中に証拠写真が撮れる臨床指標を勧められたことより,リンパ節郭清範囲を幅で示すという苦肉の策にでた。実際には図3a,bに示すように郭清終了後メジャーを差し込み,輪状軟骨下縁のレベルで気管側壁から郭清範囲の距離を測定し記録にとどめた。結果のまとめを表3に示すがエビデンスレベルは低く,前向き臨床試験の困難さを痛感した。このように手術に対する臨床試験はバイアスも多く,ランダム化比較試験は極めて困難であることをわきまえ今後の対策を立てる必要がある。

図 3 .

a)輪状軟骨下縁のレベルで気管側壁から郭清範囲の距離を測定。

b)術中写真:メジャーを差し込み輪状軟骨下縁のレベルで気管側壁から郭清範囲の距離を測定。

表 3 .

結果のまとめ

4.ロボット支援下甲状腺手術の問題点と課題

「甲状腺に対するロボット支援手術」は本雑誌第31巻第2号の特集1としてまとめられており,その特集からの報告を参考に個人的意見を追加したい[]。その特集の中で福原らの報告では,現在機器の進歩で視覚性や操作性が格段に改善されているとのことである[]。武中は利点と問題点をまとめているが,体的な問題点として硬性鏡の交換に時間を要し軟性鏡の必要性や,力覚および触覚を有するものの開発を説いている[]。藤原らは頭頸部外科領域手術[],伊藤らは甲状腺手術についてアプローチに触れているが[],本来腹腔内手術を目的としているため,大きな空間を確保しなければならない。そのため腋窩から前胸部にかけて広い皮下トンネルを要し,整容性に優れていても,侵襲性には問題があるように感じる。体格の大きな人には適応できないことも問題である。高見によるまとめも同様の指摘に加え,手術時間,費用など問題点が山積みである[10]。低侵襲性を目指した狭い視野でも操作可能な軟性鏡と小さななアームを備え,可能であれば力覚触覚を持つ甲状腺手術に適したロボット手術機器を日本独自で国産品を開発することが望ましいという趣旨を前述のすべてで述べられているが大いに賛成である[10]。

日本独自の国産品を開発するにあたって重要な研究所はもちろんのこと国や企業との連携が不可欠である。その際最も問われるのが,国内だけでなく全世界的な需要となる。個人的な考えとしては,甲状腺に特化したロボット支援手術機器は理想であるが国内外の需要に限界があると感じる。やはり対象を頭頸部領域に広げるだけでなく,もっと広げ乳腺手術,形成外科手術など体表臓器全般,さらには整形外科手術などにも使用されるような様々な需要に対応できる機器を考案すべきであると考える。そのためには甲状腺関連の学会にとどまらず,様々な学会を通じた需要の探索をすべきではないだろうか。

【文 献】
 

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