日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
腎性副甲状腺機能亢進症の手術適応について
渡邊 紳一郎三上 洋副島 一晃町田 二郎副島 秀久
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2017 年 34 巻 3 号 p. 182-186

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抄録

2008年にわれわれの施設も参加した「二次性副甲状腺機能亢進症に対するPTx研究会:PSSJ」が立ち上がった。その統計では,2006年に日本透析医学会からCKD-MBDに関するガイドラインが発表されるとPTx症例数が増加し,2007年には1,771例となった。その後2008年にシナカルセトが発売されると,PTx症例数が激減し,2015年には303例となった。さらに2017年にエテルカルセチドが発売され,その効果・副作用が今後明らかとなるとさらにPTxが減少する可能性がある。しかし,副作用などによりカルシミメティクスが使用できない症例および移植患者のHPTなどにより,一定数のPTxはなくならないと判断している。文献から,生命予後や医療経済においてはPTxの優位性は明らかと言ってもよい。以上を考慮し,今回,様々な病態の腎性HPTにおけるPTxの適応ついて検討した。

1.はじめに

2008年にわれわれの施設も参加した「二次性副甲状腺機能亢進症に対するPTx研究会(Parathyroid Surgeonʼs Society of Japan:PSSJ)」が立ち上がり,日常的に副甲状腺摘除術(以下PTx)を施行している109施設が参加した。

その目的は

1.PTxの効果,適応について内科医側に外科医側から統一して提言する。

2.わが国の二次性副甲状腺機能亢進症(以下SHPT)に対するPTxの実態調査,登録制の確立

3.内科医,患者に満足していただける手術手技の提供,手術手技の研鑽

4.わが国のどこでも満足できるPTxが提供できるネットワークの確立

5.PTx技術の伝承,後進の育成

6.日本から世界に発信できる共同臨床研究

とした。

PSSJでは2004年までさかのぼって4,036施設にアンケート調査を実施し,PTx症例数を登録した(表1)。2006年には日本透析医学会(以下JSDT)からCKD-MBDに関するガイドラインが発表され,PTx症例数が増加し,2007年には1,771例となった。その後,2008年にシナカルセトが発売されると,以後PTx症例数が激減し,2015年には303例となった。2015年に年間20例以上のPTxを施行している施設は当院を含めて3施設のみとなった。PSSJへの症例登録施設割合も2010年93.7%から2015年49.5%となり,症例数の減少とともにPTxを施行する施設も減少していることが推測される。

表1.

PTx症例数の年次推移

また,2017年エテルカルセチドが発売された。この製剤は静脈注射製剤で,透析終了時に回路内に注入でき,患者の服薬コンプライアンスに左右されないという特徴がある。新たな内服のカルシミメティクスであるKHK7580(エボカルセト)も2017年4月に国内医薬品製造販売承認申請が行われている。この薬剤も,シナカルセトを対照薬とした二重盲検比較試験で上部消化管に関する有害自称の発症頻度が有意に減少していることが確認されており,シナカルセトよりも服薬率が上昇する可能性が考慮される。

さらに,最近の慢性血液浄化療法導入の原疾患は慢性糸球体腎炎が減少し,糖尿病,腎硬化症が増加している。その特徴として,患者の高齢化および長期生存の減少があり,今後PTxを必要とする患者がさらに減少する可能性が考えられる。

しかしPTxの利点は多数報告され,最も劇的にSHPTを改善し,骨折・心血管イベントを減少し,特に生命予後に関してLower risk of death, improved survival of HD patientsと報告されている[]。JSDTの統計を基にした報告でもPTxの予後は良好である[]。U.S.Renal Database System(USRDS)の報告ではPTx後90日以内の死亡率が対象と比べて高いとされ,PTx周術期の死亡率は2.0%と報告されている[]。ただし,PSSJではPTx後30日以内の死亡率は0.4%と極めて低いことを報告している[]。われわれも700例を超えるPTxの経験があり,対象となった患者の状態が異なる可能性があるが周術期の死亡例の経験はなく,PTxの手技および血液浄化療法を含めた医療技術の向上により,死亡症例が減少していることが推測される。

医療経済の観点では,シナカルセトと比較してPTxが経済性に優れるという報告が複数あり[,],最近ではPTxにおけるevidenceとoutcomeから,その復活を唱える報告もある[]。

以上のような状況を考慮し,様々な病態の腎性HPTにおけるPTxの適応について検討した。

2.維持透析患者の腎性HPTに対するPTx

PTxにおいては,骨折や心血管イベントへの効果のみならず,貧血・免疫力の改善,感染症による死亡の減少,筋肉量の増加などが報告されている[]。JSDTガイドライン2012年では,副甲状腺インターベンションの適応と方法について,「内科的治療に抵抗する高度のSHPTに対しては,PTxを推奨する」としている。冨永によるシナカルセト時代のPTxの適応を以下に示す[]。

1)Vit.D製剤にてSHPTの治療が困難な症例で,長期生命予後が期待できる症例:i-PTH>300~500pg/ml,副甲状腺体積>300~500mm3 または長径>1cm(結節性過形成)で,内科的治療で管理できない高Ca血症(>10mg/dl),高P血症(>6mg/dl)

2)SHPTの臨床症状が高度で早期の改善が必要:骨・関節痛,高度な異所性石灰化,高度な高回転骨,calciphylaxis,EPO抵抗性貧血,DCM like heartなど

3)シナカルセトで充分にPTHが低下しない(i-PTH>300pg/ml)

4)シナカルセト使用にても高Ca血症,高P血症の管理が困難

5)シナカルセトの内服継続が困難:消化器症状,低Ca血症,薬物相互作用,内服コンプライアンス不良など)

6)甲状腺腫瘍の摘出が必要な症例

初回PTx時の患者背景として,PSSJの2015年統計では,平均で年齢54.8歳,透析歴11.0年,i-PTH846.1pg/ml,sCa9.8mg/dl,P6.0mg/dl,ALP464.2IU/L,Alb4.0g/dlであった。シナカルセトは74.1%の患者で投与されていた。

カルシミメティクスとして,2008年のシナカルセトに続き,2017年にエテルカルセチドが発売された。効果,副作用など詳細は他稿に譲るが,エテルカルセチドの第Ⅲ相臨床試験の結果は,エテルカルセチドの長期投与はSHPT治療として有効で,忍容性は良好であった[]。ただし薬価は,エテルカルセチド25mg:1,283円,シナカルセト25mg:549.8円,1カ月に換算すると,エテルカルセチド15,396円,シナカルセト15,394.4円でほぼ同等であり,医療経済的なPTxの有用性に変化はないと思われる。以上を考慮して,今後のPTxの適応をカルシミメティクス投与の有無で検討すると,①副作用などによるカルシミメティクス中止例,②シナカルセト無効例,③エテルカルセチド無効例,④シナカルセト無効→エテルカルセチド無効例,⑤カルシミメティクス投与なし,となると思われる。当科では,PTxの効果や医療経済を考慮し,画像診断で副甲状腺1腺以上が径1cm以上,即ち結節性過形成が強く疑われる症例では,カルシミメティクス未投与でも患者の希望があればPTxを施行している。

内科的治療の発展に対抗し,さらなるPTxおよび術後カルシウムコントロールにおけるリスクの最小化が必要である。当科では,1999年にPTxのクリニカルパスを導入し,その検証・改訂を繰り返してきた。現在のパスは入院日数5日で,DPC入院期間Ⅰと同じである。手術当日に入院し,ドレーンなしとしている。当科の術後カルシウムコントロールプロトコールを表2に示した。現在は中心静脈確保およびグルコン酸カルシウム持続静注は行わず,sCa低下時および低Ca症状出現時に末梢静脈からグルコン酸カルシウム(850mg/1A)を投与している。なお,観察研究により,PTx後の極めて低いPTH値が予後に与える利点が報告されている[]。将来,腎移植を考えていない患者では,自家移植の量を減らす,あるいは自家移植をしない選択もあると思われる。

表2.

PTx後カルシウムコントロールプロトコール

①POD1の朝から,CaCO3 1.5g/日、カルシトリオール1.5μg/日 内服開始

②sCa測定

POD1:6:00・16:00

POD2以降:6:00

③下表に沿って,グルコン酸カルシウム静注量およびCaCO3増量の有無を決定

3.PTx後の再発

PTx後の再発として,残存腺(過剰腺)腫大,初回手術時の副甲状腺播種および自家移植腺腫大がある。

a)残存腺(過剰腺)再発

PTx後のi-PTH最小値が60pg/ml以下に低下しない場合,残存腺(過剰腺)の腫大による再発率は15.3%との報告がある[]。その存在部位は,通常の甲状腺周囲,甲状腺内,胸腺舌部,縦隔,下降不全,頸動脈周囲,食道周囲などがあるが,われわれが経験した症例としては,創部皮下の単発腺腫大があり,初回PTxによる播種が疑われる。

再手術の適応は,①PTHの再上昇,②画像診断:CT,超音波,MIBIシンチで腫大腺を同定,③カルシミメティクスでコントロール困難な症例である。2012年以降に当科で経験した残存腺再腫大症例10例でのi-PTHは中央値565.5pg/ml(範囲150~1,250pg/ml)であった。画像診断では,通常の甲状腺周囲の腫瘤は,MIBIシンチで集積がなくても副甲状腺であることが多い。甲状腺内の腫瘤は,MIBIシンチで集積がなくても,超音波検査で明らかに甲状腺腫や囊胞でない場合は切除するようにしている。胸腺舌部から縦隔内の腫瘤が副甲状腺かどうかの鑑別においても,MIBIシンチが有用であるが,ある程度大きくならないとアイソトープの集積は認められず,リンパ節などとの鑑別が困難である。その場合われわれは,造影CTによる造影効果があれば副甲状腺として切除対象としている。なお頸部の再手術の際,初回手術で嗄声の出現がなくても声帯の動きを観察している。

b)自家移植腺再発

自家移植腺再発は初回手術後10年で20%と報告されている[]。その診断には,PTH gradient,触診,超音波検査,単純MRI,MIBIシンチが有用である。PTH gradient=移植側PTH/非移植側PTHであり,移植側は上腕を5分間駆血後に肘部皮静脈から採血する。非移植側はバスキュラーアクセスが作成されていることが多く,透析開始時の採血で測定している。当科で直近に行った自家移植腺摘出術症例9例のPTH gradientは,中央値12.1(範囲4.9~38.4)であった。

修正カサノバテストは,自家移植側の上腕をマンシェットでまき,最高血圧+200mHgで20分加圧し,対側の肘部で採血してPTHの低下の有無を判断する。腫大部位が頸部・縦隔内腺か,自家移植腺かの鑑別に有用である。ただしPTH gradient,カサノバテストとも,自家移植側にバスキュラーアクセスが作成されてしまえば,施行できない。

手術は,腫大腺を触知and/orいずれかの画像診断で同定できれば腫大腺を摘出する。触診・画像診断で不明瞭でもPTH gradientが上記の様に高値である場合,積極的にではないが患者の同意があれば筋組織を一塊として摘出している。通常,局所麻酔での外来手術が可能であるが,当科で腕橈骨筋を広範囲に摘出した症例は,全身麻酔下に整形外科とともに入院手術で行った。前腕の運動・知覚障害は認めなかった。いずれも再度の自家移植は行っていない。

4.移植患者の三次性副甲状腺機能亢進症(THPT)に対するPTx

THPTに対するPTxは,JSDTガイドライン2012年では「移植1年以降も高Ca血症(補正Ca≧10.5mg/dL)および高PTH血症(基準値上限以上)が遷延する場合は副甲状腺インターベンションの適応を検討することが望ましい」とされている。ただし,移植後3カ月までにはTHPTに移行しない副甲状腺機能をもっている症例の大部分が正常化するため,この時期のPTxを推奨する報告もある[10]。当科でも,結節性過形成が疑われ,自覚症状:掻痒感,骨関節痛,筋力低下,倦怠感,精神症状など,が強い患者では,1年以内でも希望があればPTxを施行している。なお,PTx後の移植腎機能は一過性の低下はあるが,変化しないとの報告が多い。

術式は,移植患者の腎機能がCKD3~4相当であることを考慮する必要がある。腫大腺のみの摘出では長期成績では再発が多いため,亜全摘術と全摘+自家移植術が広く行われている。亜全摘術は4腺を確認し,最も正常に近い腺を残す方法である。全摘+自家移植術とともに十分なエビデンスのある報告はないが,当科でも全摘+自家移植を第一選択としている。ただし全摘+自家移植術では術後のCaが低下しやすいため,自家移植量をSHPTよりも増加し,術後低Ca血症の予防が必要との報告がある[11]。

シナカルセトは,移植患者のTHPTに対しては,本邦・海外ともに保険適応はないが,報告では,Ca1.14mg/dl低下,Pi0.46mg/dl上昇,i-PTH102pg/ml低下,Crの変化なし,と効果を認めている[12]。ただし,尿中Ca排泄が増加し,移植腎・尿管結石のリスクが増加するとの報告があるため注意を要する[13]。その他高Ca血症を改善する薬剤として,ビスホスホネート,カルシトニン製剤,デノスマブがあるが,腫大した副甲状腺を縮小する効果はなく,Vit.Dは高Ca血症のため使用が困難である。エテルカルセチドはシナカルセトと異なり肝代謝を受けず,尿中排泄のため,THPTではSHPTと異なり,血中濃度が維持されない。現時点において,保険適応外である。

5.保存期CKD患者のHPTに対するPTx

保存期CKD患者のPTxに関しては,検索しえた限りではまとまった報告はなく,症例報告がほとんどである。JSDTガイドライン2012年では「保存期CKDの段階で,SHPTが進展し,重度の副甲状腺過形成に至ることは極めて稀であり,保存期CKDにおける副甲状腺インターベンションに関するエビデンスは乏しい」とされている。

透析導入時の副甲状腺機能に関する検討では,超音波検査で16.1%の患者で副甲状腺の腫大を認め,i-PTHはCGNと比較してDM,腎硬化症で有意に低いとの報告がある[14]。現在保存期CKDは長期化しており,保存期のSHPTは増加する可能性がある。保存期では使用できる薬剤も限られており,PTxを検討する患者も増加する可能性があるが,最近の透析導入の原疾患はDM,腎硬化症が増加しており,予測はできない。また保存期CKDで,画像で副甲状腺腫大が1腺のみの場合,原発性副甲状腺機能亢進症との鑑別が困難である[15]。

手術方法については,THPTと同様に亜全摘術,全腺摘出+自家移植術が考えられる。当科では2例を経験した。1例はi-PTH1,210pg/ml,sCa9.9mg/dl,Cr4.52mg/dlで,画像で腫大した2腺のみを摘出したが,術後i-PTH825pg/mlまでしか低下しなかった。PTxの7カ月後に血液透析導入となり,i-PTH200台で推移し,CTで残存した副甲状腺1腺が12mm大に腫大している。他の1例はi-PTH175pg/ml,sCa10.8mg/dl,Cr2.42mg/dlで,原発性も考慮され紹介となった。画像で副甲状腺1腺腫大および甲状腺乳頭癌も疑われ,甲状腺左葉切除,副甲状腺4腺摘出+自家移植術を行った。術直後i-PTH17pg/ml,術後1年目i-PTH21pg/ml,sCa8.8mg/dl,Cr3.17mg/dlとなった。

なお,全腺摘出+自家移植術後の低Ca血症による透析導入の報告があり,注意を要する[16]。

6.おわりに

シナカルセトの導入によりPTxが減少した。エテルカルセチドの効果・副作用が今後明らかとなっていき,エボカルセトも導入予定であり,さらにPTxが減少する可能性が考慮される。しかし副作用などによりカルシミメティクスが使用できない症例および移植・保存期CKD患者のHPTなどにより,これまでのPSSJでの患者統計を考慮すると,一定数のPTxはなくならないと判断している。また生命予後や医療経済においては,PTxの優位性は明らかと言ってもよい状況だと判断している。

このため外科サイドとしては,様々な病態でのPTxの適応を確立し,PTxの劇的な効果を発現するための確実な副甲状腺の摘出,および術中・術後のリスクを減少するためのエビデンスを発信していくことが必要である。

【文 献】
 

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