日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
原発性アルドステロン症の診断―最新のコンセンサスステートメントより―
氏家 剛植村 元秀向井 康祐小澤 純二大月 道夫高尾 徹也宮川 康野々村 祝夫
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2018 年 35 巻 1 号 p. 2-7

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抄録

原発性アルドステロン症は,高血圧患者の3~10%と高頻度に認められ,適切な診断・治療を行えば治癒可能な疾患である。心腎などの標的臓器障害の頻度も高く,早期診断の臨床的意義は高い。本邦では長らく,日本高血圧学会,日本内分泌学会の両学会が別の診療ガイドラインを策定していた。各ガイドラインにおいて診断手順に相違があり,専門医・施設間で,診断の指標・検査方法・判定基準などの詳細は十分に標準化されていなかった。本邦における診療指針の統一化を図るため,2016年4月に日本内分泌学会より「わが国の原発性アルドステロン症の診療に関するコンセンサス・ステートメント」が策定された。

外科医(泌尿器科医,内分泌外科医)も診断過程を熟知しておく必要がある。本稿では,副腎手術に携わる外科医の視点から,最新の診療指針の整理を行いたいと思っている。

はじめに

原発性アルドステロン症(primary aldosteronism;PA)は,アルドステロンの自律的過剰分泌をきたすため,①水・Na貯留による体液依存性高血圧②低カリウム血症,代謝性アルカローシスを呈する疾患である。高血圧患者において,3~10%と高頻度に認められ,適切な診断および治療を行えば治癒可能である。高アルドステロン血症自体が心血管障害のリスクとなるため,心腎などの標的臓器障害の頻度も高いことから,早期診断・早期治療介入の臨床的意義は高い。最新の米国内分泌学会の2016年の診療ガイドライン[]では,スクリーニングを増やすように求めている。本邦においても,米国内分泌学会による2008年の初版の診療ガイドライン[]に続き,2009年に日本高血圧学会[]が,2010年に日本内分泌学会が診療ガイドライン[]を策定している。各ガイドラインにおいて診断手順に相違があり,専門医ならびに施設間において,長年にわたり,診断の指標・検査方法・判定基準などの詳細は十分に標準化されていなかった。本邦における診療ガイドラインの統一化を図るため,2016年4月に日本内分泌学会より「わが国の原発性アルドステロン症の診療に関するコンセンサス・ステートメント[]」が策定された(図1)。本ステートメントは,両学会のガイドラインをupdateした上で,診療指針の統一化を目指す内容となっている。

図 1 .

各学会の原発性アルドステロン症ガイドラインの変遷

われわれ外科医(泌尿器科医,内分泌外科医)は,内分泌内科医によって手術適応と判断されてからPA診療に携わることが多いと思われる。PAを呈する腺腫に関しては,機能性副腎腫瘍のなかでも,褐色細胞腫やクッシング症候群のように厳重な周術期管理が必要ではなく,また,腫瘍径も大きくないので,摘除は容易である印象がある。だたし局在診断が必ずしも容易でない症例もあり,個々の診断過程を外科医も十分に理解した上で治療に当たるべきであると考える。

最新のコンセンサスステートメントに関しては,従来のガイドラインとは相違する点も認められている。その点についてもまとめていきたい。

検査の選択と進め方

大阪大学においては,2016年のコンセンサスステートメント[]が策定されてからは,こちらをベースとして診療を行っている。現在の診断フローチャートを作成した(図2)。これに従い,順に検査の内容について紹介する。

図 2 .

原発性アルドステロン症の診断の流れPA;原発性アルドステロン症(文献より引用 一部改変)

1.PAC値・PAC/PRA比

高血圧患者全員がPAのスクリーニング対象とはなるが,特に①低カリウム血症②若年性の高血圧③Ⅱ度以上の高血圧③治療抵抗性高血圧④副腎偶発腫瘍の存在⑤40歳以下で脳心血管合併症を認める患者に対しては,特に注意を払う必要がある。スクリーニング検査で最も簡便な検査は,血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration;PAC)および血漿レニン活性(plasma renin activity;PRA)を同時に測定することである。PAでは原則として,PACが上昇し,PRAが減少するため,ARR(Aldosterone Renin Ratio=PAC/PRA)が上昇する。ARR単独では偽陽性となる可能性があることから,ARRに加え,PAC 120pg/ml以上であることを組み合わせることが推奨されている。ARRのカットオフ値に関しては議論の分かれるところではあるが,日本内分泌学会[],日本高血圧学会[]のいずれもがARR>200を陽性として推奨している。PACおよびPRAに関しては,種々の条件から測定ごとの変動を示すことがある。日常臨床においては,簡便さが求められるスクリーニング検査としては,実施条件を厳密化することは望ましくないので,まずは随時条件で測定を行い,適宜,厳密な条件(早朝,空腹,安静臥床後)での追加検査を行う[]。

2.機能確認検査

スクリーニング検査にてPAを疑った患者については,アルドステロンの自律性ならびに過剰分泌を確認するため,機能確認検査(カプトプリル試験,生理食塩水負荷試験,フロセミド立位試験,経口食塩負荷試験)(表1)を行う。従来の日本内分泌学会の診断指針においては,経口食塩負荷試験を除く3つの機能確認検査のうちで,2つ以上陽性となった場合,PAとの確定診断を行っていた。しかし,陽性数と診断の感度・特異度を検証した報告はなく,今回のステートメントでは,上記4種類の検査のうちで,少なくとも1種類の陽性の確認を推奨している[]。以下,順を追って説明を行う。

表 1 .

機能確認検査とその診断陽性基準(文献より)

2―1.カプトプリル試験

外来でも実施可能な簡便な検査である。アルドステロン自律分泌を確認することを目的としている。すなわち,ACE阻害薬であるカプトプリルによりアンギオテンシンⅡを低下させても,PACが低下しないことを確認する。カプトプリル内服前,内服60分後,90分後に採血を行い,ARR(60分ないし90分後)>200を陽性と判定する。感度は優れるものの,特異度はやや低い。

2―2.生理食塩水負荷試験

本試験もアルドステロン自律分泌を確認することを目的とする。本邦以外ではゴールドスタンダードとされている試験である。生食2Lを4時間で点滴静注を行い,投与前後でPRAおよびPACを測定する。PAでは循環血漿量を増加させてもPACが低下しないことを確認する。すなわち,負荷後のPACが60pg/mlを下回らない場合に陽性と判断する。心・腎機能を検査前に十分に評価を行い,高血圧ならびに低カリウム血症のコントロールが必要である。

2―3.フロセミド立位試験

レニン分泌を刺激し,レニン分泌抑制の程度を評価することでアルドステロン過剰分泌を機能的に評価することを目的とした試験である。フロセミド40mgを静注後,2時間立位を保持し,立位のまま採血を行う。循環血漿量が減少してもレニンが抑制されたままであることを確認する。2時間後のPRA値が2.0ng/ml/h未満で陽性と診断する。脳心血管イベントリスクの高い症例・不整脈が誘発されうる症例に対しては行わない。

2―4.経口食塩負荷試験

アルドステロン自律分泌を確認する試験である。経口的に食塩負荷を行い,循環血漿量を増加させたときに,正常ではPAC値は低下するが,PAでは低下しない。入院中の患者であれば,食塩負荷食(10~12g/day)を3日間負荷後に24時間畜尿を行い,24時間尿中アルドステロン値で判定を行う。生食負荷試験に比較すれば,外来検査でも実施可能ではあるが,合併症の多い症例では入院下での検査が望ましい。

3.病型・局在診断

PAの確定診断が得られた場合,病型・局在診断目的で画像診断を行う。PAの原因が,アルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma:APA)をはじめとする片側性であるのか,特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)をはじめとする両側性であるのかの鑑別が必要である(表2;文献[]より引用)。両側性分泌であれば,手術による根治は困難であり,スピロノラクトンやエプレレノンなどの薬物療法が適応となる。

表 2 .

原発性アルドステロン症の病型分類と頻度(文献より)

両者の鑑別のために,まずはCT/MRIといった非侵襲的検査を行う。通常のAPAは径が1.5cm未満のものが多いことから,thin sliceでのCT検査が推奨されている[]。また,腫瘍の病型診断および後の副腎静脈サンプリング(Adrenal venous sampling:AVS)のためにも,可能であれば造影CTが望ましい。副腎腺腫検出におけるCTおよびMRIの感度・特異度の差を示すエビデンスはなく,CT実施に制限がない限り,まずはCT検査を第一としている。片側性分泌の可能性が高いと判断し,手術希望のある症例はAVSへと進む。

4.副腎静脈サンプリング

PAの最終的な手術適応の判断に際しては,AVSが必須である。必須であるとする理由として,950例の症例を用いたmeta-analysisで,AVSとCT/MRIの結果を比較すると,37.8%の不一致があったとの報告があり[],CTなどで指摘される副腎結節が必ずしもアルドステロンを過剰分泌しているとは限らないからである。AVSの省略の可否に関しては,副腎偶発腫が少ない若年者に限り,一定の要件(35歳以下,低カリウム血症,片側腫瘍を確認できていることなど)を満たせば,AVSの省略を考慮してもよいが,十分なインフォームドコンセントが必要である[]。

AVSの手法として,左右副腎中心静脈でACTH刺激後に確実に採血を行う(図3)。迅速コルチゾール濃度測定を用いて即時に判定を行うことも可能である。SI(Selectivity Index;副腎静脈と下大静脈または末梢静脈とのコルチゾール濃度比)および副腎静脈血中コルチゾール濃度を考慮して,カテーテル挿入の成否を判定する(図4)。アルドステロン過剰分泌の判定においては,PAC絶対値,LR(lateralized ratio;PAC/コルチゾールの左右比),CR(contralateral ratio;PAC/コルチゾールの副腎静脈・下大静脈比)を用いる(表3)。今回のステートメントでも明記されていることではあるが,LR,CRのカットオフ値に関しては,LR>4かつCR<1が最も一般的である[]。PAC絶対値の評価基準に関しては,副腎静脈PAC>14,000pg/mlによって過剰側判定を行うことが推奨されているものの[],今後も検討が必要とされている。

図 3 .

副腎静脈サンプリングの実際 右;右副腎静脈 左;左副腎静脈

図 4 .

副腎静脈サンプリング時の測定部位

表 3 .

副腎静脈サンプリングで用いられる指標(文献より)

5.副腎皮質シンチグラフィー

副腎皮質シンチグラフィー(131I-アドステロール®シンチ)がAVSの代替となりうるかどうかに関しては,131I-アドステロール®の集積が主に腫瘍径と相関し,アルドステロン産生性との相関性が弱いため,微小腺腫では偽陰性を呈する可能性がある[10]。また,両側性病変でも集積に左右差があれば片側性と診断してしまうこと,サブクリニカルクッシング症候群を合併していた場合,その集積をPAと判断してしまうこと,などの理由により,AVSを上回るようなものではないとされている[]。

また,近年ではシンチグラフィーの断層撮影であるSPECTが一般的となっているが,米国内分泌学会の策定したガイドラインには記載がない[]。以上より,AVSが実施困難症例・サンプリングエラーが生じた症例ならびにAVSを希望しない症例に対してのみ,デキサメサゾン抑制下副腎シンチグラフィーSPECTの施行を検討する。

PAの治療

副腎腺腫に代表されるPA片側病変に関しては,血中アルドステロン濃度の正常化および高血圧の治癒や改善が期待できるため,病側副腎摘除術が推奨される[]。しかし,副腎腺腫によるPA治療においても,副腎摘除術がミネラルコルチコイド拮抗薬(MR拮抗薬)よりも長期的な臓器障害改善や生命予後に優れていることを示す明確なエビデンスはないので,治療選択に関しては,患者に十分なインフォームドコンセントを得た上で決定すべき事項である。PA両側症例や手術を希望されない片側症例に対しては,MR拮抗薬を中心とする薬物治療を行う[]。しかし,長期予後への影響は明らかではないため,個別の患者ごとに治療法を選択する必要がある。

PA治療後には,手術療法でも薬物治療でも,腎機能が悪化する場合があることには注意が必要である[11]。

おわりに

PA診断の最新の指針である,日本内分泌学会編「わが国の原発性アルドステロン症の診療に関するコンセンサス・ステートメント」に沿った形で,診断過程・治療指針について解説を行った。特徴としては,診断のプロセスを明文化し,エビデンスの蓄積を図っていくことに重点をおいた内容と理解できる。また,AVSの重要性についても共通の理解として明記されている。今回の策定によってエビデンスが蓄積されていけば,更なるガイドラインの改訂も予想される。外科的治療を行う立場であっても,診断過程指針の変遷に関して,今後も注意が必要である。

【文 献】
 

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