昨年第50回日本甲状腺外科学会が福島市で開催された。大会会長としてシンポジウムの1つに「検診発見での甲状腺癌の扱い」を企画した。座長は筑波大乳腺甲状腺内分泌外科の原尚人教授と日本医科大学内分泌外科杉谷巌教授にお願いした。記念すべき50周年の大会が開催された福島では,まさに2011年の東日本大震災後の原発事故の健康影響を懸念して開始された超音波による甲状腺検査についての議論がなされている。発見された甲状腺癌は放射線の影響なのか,そうでないとすると検診によるスクリーニング効果なのか,現時点では後者とされているものの,一方では,過剰診断という問題がとりざたされている。福島の状況とは全く異なる米国や韓国で最近の甲状腺癌の急増の原因は超音波スクリーニングによる過剰診断ではないのかと危惧され,福島の検診発見癌と海外での過剰診断論がいささか混同していると思われ,今回の企画をおこなった。まずは,私が,福島での検診で発見された癌に対する手術適応と手術後の臨床病理学的検討から,過剰診断に値するのかどうかを検証し報告した。実は,過剰診断議論は本邦の甲状腺外科領域では20年以上も前にすでに問題視され,その結果微小癌の非手術的経過観察を行ってきた隈病院の宮内昭院長に「非手術積極的経過観察の適応と注意点」について甲状腺癌検診のあり方とともに改めて解説いただいた。さらに,福島県立医科大学臨床検査医学講座志村浩己教授には「甲状腺超音波検査で発見される微小癌の取扱い」について解説いただいた。とくに超音波,細胞診診断の精査基準等からの微小癌の取り扱いについてご説明いただいている。また,仙台市市立病院病理診断科の長沼廣先生からは「微小癌の病理診断」について解説をいただいた。福島の小児若年者の検診発見甲状腺癌との比較検討していただくために,ベラルーシのミンスク市がんセンターのコンドラトービッチ博士にはチェルノブイリ事故後1990年から2005年に癌登録された3,266名の甲状腺癌につき報告いただいた。最後に,大阪大学の祖父江友孝教授には「検診と微小癌:疫学の立場から」と題して,疫学的立場からの見解をいただいた。これは通常のがん検診を行う場合の考え方であり,無症状の成人には甲状腺がん検診を推奨しない,という米国の例をあげその不利益も警鐘されている。それぞれの著者の対象が,必ずしも一致していないこと,本邦と,米国での状況が異なることなど様々な要因があり,丁寧に読み込んでいただきたいが,全てに一貫しているのは患者や受診者の不利益をいかに防ぐかということは共通している。本学会雑誌の特集として様々な側面からの専門家の意見をここに取り上げたことに重要な意味があり,検診発見での甲状腺癌の扱いについて会員の理解を深める一助となれば幸いである。