日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
甲状腺超音波検査で発見される微小癌の取扱い
志村 浩己
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2018 年 35 巻 2 号 p. 82-86

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抄録

東日本大震災の半年後より,福島県において小児・若年者に対する甲状腺超音波検診が開始されたのに伴い,他の地域においても甲状腺に対する関心が高まっており,甲状腺超音波検査が行われる機会が増加していると考えられる。また,近年の画像診断技術の進歩に伴い,他疾患のスクリーニングや診断を目的とした頸動脈超音波検査,胸部CT,PET検査などでも甲状腺病変が指摘されることも増加している。

成人において甲状腺超音波検査を実施することにより,0.5%前後に甲状腺癌が発見されうることが報告されている。これらのうち,微小癌に相当する甲状腺癌には生涯にわたり健康に影響を及ぼさない低リスク癌も多く含まれていると考えられている。従って,甲状腺検診の実施に当たっては,高頻度に発見される結節性病変の精査基準あるいは細胞診実施基準をあらかじめ定めてから行うべきであろう。

甲状腺微小癌の超音波所見としては,比較的悪性所見が乏しいものから,悪性所見が揃っている一見して悪性結節と考えられるものまで多様性に富む。日本乳腺甲状腺超音波医学会では,結節の超音波所見に基づく甲状腺結節性病変の取り扱い基準を提唱しており,日本甲状腺学会の診療ガイドラインにおいてもこれが踏襲されている。この基準により,比較的低リスクの微小癌は細胞診が行われないことになり,比較的高リスクの微小癌のみが甲状腺癌として臨床的検討の俎上に載ることになる。本稿においては,微小癌の診断方針について現状の基準について議論したい。

はじめに

世界的に甲状腺癌の罹患率が上昇しているが,その一因として高性能の超音波診断装置の普及よる甲状腺癌の偶発的発見の増加が指摘されている。 特に日本では,東日本大震災により原子力発電所事故が発生したことを契機に,甲状腺超音波検査への関心が高まっており,甲状腺結節の診療機会が増加傾向にあると考えられる。そのため,最近では甲状腺癌に対する過剰診療や細胞診の実施基準の設定など,活発な議論が交わされている。

本稿では,超音波検査などにより発見される甲状腺結節および甲状腺癌の頻度とその特徴について概説したい。

1.スクリーニングにおける甲状腺癌の発見率

従来,甲状腺疾患のスクリーニングは,集団健診の際の医師による触診により行われてきた。触診による甲状腺癌の発見率は,日本での報告によると0.08~0.23%(男性0.05~0.13%,女性0.14~0.36%)と報告されており,10,000名以上を対象者とした報告において性別頻度が記載された日本の論文において,検討対象となった対象者数と有所見者数の総和を求め,触診による甲状腺腫瘤の発見頻度を求めた結果,触診での甲状腺癌の発見率は,男性0.08%,女性0.18%であった(表1)[,]。

表1.

スクリーニングにおける甲状腺癌の発見頻度

一方,超音波検査による検討では,甲状腺癌は0.1~1.5%(男性0.12~0.53%,女性0.15~1.5%)と報告されており,1,000名以上を対象者とした報告に限定した上記と同様の集計では,超音波検査では男性0.26%,女性0.66%であった(表1)[,]。以上より,甲状腺癌は,触診,超音波検査にかかわらず,スクリーニングによる発見率は高く,極めて低リスクの甲状腺癌までも拾い上げている可能性が指摘されている。

2.ラテント癌の発見率とその特徴

甲状腺は,剖検によって初めて発見されるラテント癌の多い臓器の1つである。ラテント癌の頻度に関しては,1~3mmスライスでの検討報告に限定しても1.5~35.6%とばらつきが大きいが,触診や超音波検査によるスクリーニングにおける発見率と比べ高い頻度で発見されることが知られている。日本人を対象とした検討においても,甲状腺癌発見率は11.3~28.4%と報告されている[,]。

ラテント癌の詳細な腫瘍径を報告しているHarachらの報告によると,剖検にて発見された甲状腺癌の96.2%は5mm以下であり,特に1mm以下の癌がその多くを占めることが明らかとなっている[]。また,年齢別頻度を詳細に検討されている高橋による報告によると,19歳以下の小児ではほとんどラテント癌は発見されていないが,20歳以上は年齢の上昇に比例したラテント癌発見頻度の上昇が認められている[]。

3.超音波検査異常所見の取り扱い基準

近年の超音波診断装置の普及に伴い,頸動脈エコー検査や超音波乳癌検診が行われることが多くなっており,それらと同時に甲状腺超音波検診も実施されることが増えている。これまで述べてきた通り,特に超音波検査によるスクリーニングでは比較的高頻度に甲状腺癌が発見され,さらに剖検では極めて高頻度に潜在的な癌が発見されることが知られている。そこで,日本乳腺甲状腺超音波医学会では超音波診断後の有所見者の取り扱い基準を発表し,結節性病変あるいはびまん性病変が発見された場合の精査・診断の基準となる結節性甲状腺疾患の診断フローチャートを提示した[]。これでは,結節性病変を,充実性結節と囊胞性結節に分類し,それぞれの取扱い基準を示している。これらは,日本甲状腺学会による甲状腺疾患ガイドラインにおいても踏襲されている[]。日本乳腺甲状腺超音波医学会では2016年,甲状腺超音波診断ガイドブックを改訂し(第3版),囊胞性結節の取扱い基準のみ改訂した。

本基準では充実性結節が認められた場合,5.0mm以下は原則的には経過観察,5.1mm以上10.0mm以下は超音波診断にて悪性が強く疑われる場合のみ穿刺吸引細胞診(FNAC),10.1mm以上20mm以下は悪性所見が認められる場合FNAC,20.1mm以上は原則的にFNACを実施するとしている(図1)。悪性所見の判定は,2011年に日本超音波医学会から公示された甲状腺結節(腫瘤)超音波診断基準[]を用いる。

図1.

充実性結節の超音波診断フローチャート[14

*:甲状腺結節超音波診断基準[]に照らし合わせて,悪性を強く疑う場合(ほぼ全項目が悪性に該当する場合)

**:甲状腺結節超音波診断基準[]に照らし合わせて,いずれかの所見が悪性であった場合(spongiform patternなどを呈するいわゆる過形成結節を除く),あるいは結節内血流(貫通血管)を認めた場合

一方,のう胞性病変が認められた場合は,充実部分の有無で分類し,充実部分を伴わない場合は,20.0mm以下では経過観察とし,20.1mm以上は圧迫症状軽減のための穿刺吸引も考慮する(図2)。充実性部分を伴う場合には,最大断面で充実部が占める割合を50%以上と50%未満に分け,前者は前述の充実性結節の取扱い基準に従う。後者では,囊胞部分を含む最大径が5mm以下では経過観察,最大径が5.1mm以上20.0mm以下では,壁外浸潤を疑う場合はFNACを実施し,充実部分が10.0mm以下では充実部分の形状不整,微細多発高エコー,血流増加のうち複数の所見が存在するような場合にFNACを勧奨する。充実部分が10mmを超え,上記所見のいずれかが存在する場合にFNACを行う。それ以外は経過観察とする。また,最大径が20.1mm以上の場合は,原則的にFNACを実施する。

図2.

囊胞性結節の超音波診断フローチャート[14

*:充実部分の形状不整,微細多発高エコー,血流増加

著者は,成人に対する人間ドックにおいて上記取扱い基準を用いて精密検査の要否を決定した所,5.1mm以上10.0mm以下の結節の9%,10.1mm以上20mm以下の結節の47%を要精査と判定した(図3)。このようにサイズ別の細胞診あるいは精査基準を設けることにより,過剰な細胞診を回避することが可能になると考えられる。

図3.

人間ドックの甲状腺検診における腫瘍径別要精査率

A:各腫瘍径群内の対象者に対する要精査者および経過観察勧奨者の割合

B:全対象者に対する要精査者および経過観察勧奨者の割合

4.超音波所見による微小癌のリスク評価

日本においては,これまで甲状腺癌に対し,諸外国と比較して抑制的な外科的治療が行われてきた。さらに,10mm以下の微小癌に対しては,転移や増大傾向,反回神経や気管への浸潤所見がない場合,積極的な経過観察(active surveillance)が行われてきた[10]。これらの取り組みから甲状腺微小癌の経過観察からいくつかの超音波所見は腫瘍増大のリスク因子となり得るものがあることが報告されている。Fukuokaらは,多変量解析により腫瘍増大リスク因子を検討した結果,高エコー無しあるいは微細な高エコーのみであることと腫瘍内血流亢進は腫瘍増大と関連していることを示している[11]。また,Itoらは,外科的治療が行われた微小乳頭癌症例において,超音波画像上の不明瞭な腫瘍境界と微細多発高エコーの所見が甲状腺癌の再発や外側リンパ節転移と関連性があることを示している[12]。これらの報告から,乳頭癌などと診断された微小甲状腺癌の取扱い方針を決定する際には,注意深く超音波所見を検討し,治療や経過観察の方針決定の参考とすべきと考えられる。

5.海外の細胞診実施基準との比較

これまで,海外では甲状腺癌に対しては,その良性との境界病変を含めて積極的に甲状腺全摘および放射性ヨウ素内用療法が実施されてきた。しかし,日本における抑制的な外科治療,Active surveillanceの取り組み,細胞診実施基準策定などの成果が集積されてきたことにより,最近海外の甲状腺癌取扱いガイドラインにおいても,日本の実態に近いガイドラインが発表されるようになってきた。American Thyroid Association(ATA)では,甲状腺結節の超音波所見から,high suspicion,intermediate suspicion,low suspicion,very low suspicion,benignに分け,それぞれの細胞診実施基準を提唱している[13]。日本における細胞診実施基準と比較すると,ATAの基準は日本における基準とほぼ同様であると考えられる(表2)。

表2.

日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)の細胞診基準[14]とアメリカ甲状腺学会(ATA)のガイドライン[13]における細胞診基準との比較

結 語

甲状腺癌は,剖検において初めて発見されるような潜在的腫瘍が極めて高頻度にみられる特質があり,診断およびスクリーニングの手段によって,その発見率は大きく左右される。そのため,甲状腺癌の検診および臨床における診断においては,詳細な超音波診断を行い,腫瘍径や超音波所見などによるリスク評価を行った上で,穿刺吸引細胞診の適応,さらには外科的治療の適応を判断することが求められる。本稿が甲状腺微小癌の取扱い方法のさらなる理解と今後の議論に資することができれば幸甚である。

【文 献】
 

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