日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
経過観察法
野田 諭小野田 尚佳
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2019 年 36 巻 4 号 p. 225-228

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抄録

2018年に甲状腺腫瘍診療ガイドラインが改訂され,甲状腺乳頭癌のリスク分類が刷新された。それに伴いリスク分類に応じた標準的初期治療が示され,治療が均てん化されつつある。しかしながら,本項のテーマである術後の経過観察法についてはガイドラインでは触れられておらず,担当医の裁量に任される部分が大きい。一方で海外では以前より甲状腺乳頭癌のリスク分類がなされ,術後の経過観察法も系統立てて行われている。本稿ではそれらを参考に,本邦での経過観察法につき過去の知見も交えて考察する。

はじめに

甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018[]において,術後のサーベイランスに関するCQは設けられていない。系統だった術後経過観察法は本邦において構築されておらず,各施設,各担当医の裁量に依存している。本稿では,海外のガイドラインにおける術後サーベイランスを参考に,我が国の現状と照らし合わせて考察する。

1.術後サーベイランスの目的

術後のサーベイランスの目的は完全完解の確認と早期の転移・再発の発見である。甲状腺分化癌では転移・再発を早期発見することで,再完解へ導入できる症例も多いため,再治療により治癒可能な段階で再発診断をすることは肝要である。

2.再発部位と治療法から見た術後経過観察法

乳頭癌において再発治療の選択肢の主なものとして外科的治療,放射性ヨウ素(RAI)内用療法,放射線外照射,分子標的治療があげられる。補完全摘やリンパ節切除,転移巣切除などの手術療法以外の治療手段として第一に考慮できるのはRAI内用療法である。

主な転移・再発は局所,頸部リンパ節,縦隔リンパ節,肺,骨であり,それぞれについて手術や放射性ヨウ素内用療法の適応の観点から経過観察法につき考察する。

(1)局所再発・リンパ節再発

通常の画像診断で判断できる大きさの局所再発やリンパ節転移は,内用療法での制御は困難であるといわれ,外科的切除が第一選択となる[]。局所再発やリンパ節転移で問題となるのは,気管,血管,神経などへの浸潤と,病巣へのアプローチによりそれらの損傷や合併切除を余儀なくされることである。損傷を回避するには浸潤をきたす前に診断し,治療を行うことにつきる。一般的に行われているのは頸部超音波検査である。外側区域のリンパ節領域の観察には超音波検査は有用であるが,腕頭静脈・気道近くの中央区域のリンパ節や局所浸潤巣は鎖骨頭や気管・喉頭により観察が不十分になる場合があり,同部位での再発が懸念されるような局所進行癌や中央区域のリンパ節非郭清例では頸部CTも経過観察に役立つと思われる。嗄声・誤嚥がある場合は,画像診断とともに喉頭ファイバーにより反回神経への影響を確認することが診断に役立つ。

(2)肺転移

微小肺結節でI-131集積が認められる場合には内用療法の効果が最も期待できるとされており[],粗大結節型の転移では内用療法の効果は低下するとされる[]。I-131集積がある場合の肺転移患者の予後は良好であるため,微小結節のうちに診断し,I-131の集積を確認することが肝要である。微小肺結節を診断するのには肺CT検査が必要であるが,一律に全例に行うべきものではなく,高リスク患者,局所・リンパ節再発時の追加診断として行われるものと考えられる。RAI内用療法を施行していない症例や低~中リスクに相当する症例では高齢,男性,被膜浸潤やリンパ節転移などの再発リスク因子[]や血清サイログロブリン値などを参考に個々に対応すべきと思われる。

(3)骨転移

骨転移再発単独に対する放射性ヨウ素内用療法の効果を検証した報告はないため,骨転移を早期に診断する意義は不明である。肺転移などの多臓器転移の部分症状として骨転移を診断することが多く,骨転移の合併があると肺単独転移と比較して予後が不良である。肺転移に対する放射性ヨウ素内用療法や放射性ヨウ素補助療法で発見されることも多い。その他の有用なスクリーニングとしては骨シンチグラフィやPET検査であると思われ,肺転移の診断後に付加する位置づけの検査である。脊椎転移による脊髄圧迫はQOLを著しく低下させる要因になるので,神経症状出現前の緊急の脊椎MRI検査が治療方法の選択のためにも必須の検査である。

(4)脳転移

脳転移に対しては外科的切除や放射線外照射が第一選択の治療である。脳転移へのI-131集積は不良とされ,集積した場合には脳浮腫を惹起するため放射性内用療法は困難である[]。神経症状発現時や肺転移時の追加検索でよいと思われる。

(5)他の臓器転移

肝,腎,副腎などに転移することがあるが,放射性ヨウ素内用療法の効果は不明であり,症状出現前に診断することが,生命予後に寄与するという報告はないため,定期的な転移検索の対象部位とはならない。

3.モダリティからみた経過観察法

転移・再発の検索手段として,どのようなモダリティが適しているかATAガイドライン[]を参考に述べる。

(1)触 診

患者自身でも,また外来再診時に機器を必要とせず行いえるため有用である。頸部腫瘤を発見し,検査の契機にはなるが,局所再発や頸部リンパ節再発が触知可能なまでに増大してしまうと,周囲の神経や血管への浸潤をきたしている可能性があるため,再発巣が触知可能になるまで放置することは現実的ではない。

(2)血液検査

ATAガイドラインにおいては甲状腺全摘術施行後に6~12カ月ごとの測定間隔での血清サイログロブリン値と抗サイログロブリン抗体の測定は推奨されており,高リスク患者はそれより間隔を短くするのが望ましく,低~中リスク患者では6~18カ月での比較的長い間隔での測定が推奨されている。また,甲状腺全摘を施行されていない症例や残存甲状腺のアブレーションを受けていない症例に対しても血清サイログロブリンの測定は強く推奨されている[]。本邦においてもほぼ同様の対処が行われていると思われる。

(3)頸部超音波検査

ATAガイドラインでは甲状腺床と中央・外側区域の領域リンパ節の観察に6~12カ月間隔で再発リスクに応じて超音波検査を行うことが推奨されている[]。また短径8~10mm以上のリンパ節腫大に対する細胞診と穿刺針の洗浄液中サイログロブリン測定が推奨されており,それ以下のリンパ節は細胞診を施行せず,増大傾向や周囲への浸潤を観察することが推奨されている。われわれの施設でも同様の基準で対処している。

(4)CT検査,MRI検査

ATAガイドラインでは頸部や上縦隔のCT・MRI検査は,頸部超音波検査で評価できない場所のリンパ節病変や食道浸潤が疑われる病変の評価や血清サイログロブリンが高値にも関わらず,頸部超音波検査で病変を指摘できない場合に推奨されている[]。胸部CTは高リスク分化癌症例で,血清サイログロブリン値が上昇,抗サイログロブリン抗体が高い場合に推奨される検査である。脳MRI,骨MRI,腹部CT・MRIなどの他の部位の検索は,上記の頸部・上縦隔・胸部の検査で病変を指摘できない場合に付加される。いずれも一律にすべての患者に適用することはない。

(5)全身RAIスキャン

ATAガイドラインでは低~中リスク症例では初期治療後のサイログロブリン測定や頸部超音波検査に加えての全身RAIスキャンは推奨されていない。高リスク症例や転移症例の経過観察には6~12カ月ごとの全身スキャンが推奨されている[]。タイロゲン試験で代用できる可能性はあるが,施行可能な施設に限りがある本邦では現実的ではない。

(6)FDG-PET検査

血清サイログロブリンが上昇した分化癌症例でRAIスキャンが陰性である場合に推奨されている[]が,FDG-PETによる甲状腺分化癌の診断は特異度が低いことや本邦では保険適用上の制限から同様の対応は不可能である。

4.リスク分類からみた術後経過観察法

甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018の大きな改訂点として,乳頭癌のリスク分類を明確に定義したことがあげられる。さらにリスクに応じた外科的治療や放射性内用療法などの初期治療が推奨された[]。リスク分類は再発予後・生命予後を反映しているため,一律な経過観察を行うより,リスクに応じた経過観察法が肝要と思われる。

(1)超低リスク(T1aN0M0)

近年では手術をせずに経過観察を行う症例も多いが,その場合は頸部超音波検査による腫瘍の大きさ・形状・甲状腺被膜との関連やリンパ節転移出現の観察が必要である。観察の間隔は,報告[10]を参考にすると,初回は6カ月以内に一度変化を確認し,変化を認めなかった場合でも1年に1回以上の経過観察が必要である。

手術加療がなされた症例では,片葉切除+中央区域郭清が標準術式であるため,経過観察として,頸部超音波検査が妥当である。片葉切除が施行される症例が多く,10年無再発生存率が97%という低い再発率[10]からみると血清サイログロブリン値測定は不要であるかもしれない。間隔は海外のガイドラインに準ずると6~12カ月ごとであるが[],非常に良好な予後を想定すると,1年に1回が現実的であると思われる。

(2)低リスク(T1bN0M0)

超低リスクの切除症例と予後は変わらないので[11],経過観察法も超低リスク症例と同様でよいと思われる。

(3)中リスク(超低,低,高リスクのいずれにも属さない症例)

腫瘍径が比較的大きい症例やリンパ節転移の存在する症例が含まれるため,甲状腺全摘症例やRAIによるアブレーションや補助療法が施行される症例もあると思われ,血清サイログロブリン値測定や頸部超音波検査は必須と思われる。年齢,性別,被膜浸潤,リンパ節転移個数や組織型をもとに個々の状況に応じて6~12カ月ごとの施行が望まれる。初回手術時の術中所見,血清サイログロブリン値の増加やリンパ節腫大の出現に応じて,検査間隔の短縮やCT検査の追加を考慮すべきと思われる。

(4)高リスク(以下のうち少なくとも一つの因子をもつ症例。1)手術時に存在する遠隔転移,2)4cmを超える腫瘍径,高度の甲状腺外進展,3)3cmを超える転移リンパ節,4)隣接臓器に浸潤する転移リンパ節)

遠隔転移が手術時に存在する症例では,CT検査やMRI検査による病変の観察が3~6カ月ごとに必要となる。甲状腺全摘+予防的または治療的頸部郭清が行われている症例が多いため,血清サイログロブリン値や頸部超音波検査は6~12カ月ごとに必須である。超音波検査で観察不十分な部位に手術時に大きいまたは浸潤リンパ節が存在していた場合は,頸部~上縦隔CT検査も追加することを考慮すべきである。腫瘍が気管浸潤をきたしていた症例も,局所再発の診断にはCT検査が有用であると考えられる。

おわりに

分化型甲状腺癌の術後には,リスク,再発好発部位,再発後の治療を考慮した術後経過観察が必要である。適切な治療の機会を逸しない術後経過観察法の整備が望まれる。

【文 献】
 

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