日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
原著
内視鏡下甲状腺手術(VANS法)における術中持続神経モニタリングの経験
能田 拓也岡野 恵一郎小林 義明野村 智下出 祐造辻 裕之
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2020 年 37 巻 2 号 p. 136-142

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抄録

甲状腺手術において,反回神経の損傷は重大な合併症のひとつである。これまでに反回神経の同定や健全性確認を目的とした術中神経モニタリングが普及してきており,最近では手術中に迷走神経を持続的に刺激する術中持続神経モニタリングの有用性も報告されている。当科においては外切開のみならず内視鏡下の甲状腺手術においてもこの持続モニタリングを使用し確実な反回神経の同定温存に努めている。当科ではこれまでに8例の症例を経験している。実際の手術手技に関して輪状軟骨の高さで頸動脈鞘を開放し,APS電極を迷走神経に留置させる。持続神経モニタリングにより圧迫や牽引などで起こりうる視覚ではわからない神経損傷も回避することができる。特に術中のランドマークがつきにくい内視鏡手術においてこの持続モニタリングを導入することは極めて有用であると考える。

はじめに

甲状腺手術において,反回神経の同定と温存は重要な課題である。癌の浸潤による神経の合併切除が避けられない場合などを除き,術後の嚥下機能や音声機能を損なわないために反回神経の走行を確認し温存することが必須である。しかし,肉眼的に神経を温存しても,一部の症例で術後反回神経麻痺が生じるとされる[]。たとえそれが一過性麻痺だとしても,全摘の際の両側麻痺のリスクを考えると避けるべき合併症である。従来の間欠的神経モニタリング(Intermittentlntraoperative Nerve Monitoring : IIONM)では,神経麻痺がおこった場合,その様々な原因(クランプ,圧迫,牽引,熱損傷など)を推測することはできても同定することは不可能であった。一方で,持続神経モニタリング(Continuous Intraoperative Nerve Monitoring : CIONM)では,反回神経の中枢側である迷走神経を手術の開始から終了まで持続的に刺激することができるため,手術操作の神経への影響をその場で判断することが可能になった。そのため術者は術中,どんな操作が神経に影響を及ぼすのかを知ることができ,術中の牽引などにより神経にストレスが加わった際には,神経のダメージが軽度のうちに操作を中断することもできるため,神経機能は速やかに改善することも分かってきた[]。これまでに外切開におけるCIONMの有用性についての報告はあるが[],内視鏡補助下甲状腺手術:Video assisted neck surgery(以下VANS)におけるCIONMの使用経験などは,本邦ではまだ報告されていない。今回当科ではVANS症例に対してCIONMを使用したので,その有用性につき報告する。

当科でのVANSセッティング

全身麻酔下で手術を行い,全例で反回神経刺激モニタリング(NIM3.0, Medtronic社)と専用のEMG挿管チューブを使用し,持続モニタリングのために後述するAPS電極を迷走神経に装着した(図1)。手術体位は通常の甲状腺手術と同様に仰臥位で肩枕を使用して頸部を伸展させた。皮膚切開部位は,胸骨正中線から患側外側に7cm離し,鎖骨下2横指程度下方のLanger皮膚割線に沿って3cmの切開とした。切開部には,創部縁の損傷防止のために創部プロテクター(ラッププロテクターTMSタイプ3.5cm用,八光)を装着した。皮弁の作成は,ヘッドライトを使用しての直視下で電気メスを用いて行った。皮弁の範囲は,鎖鎖骨下の創部から広頸筋下に作成し,外側は健側の胸鎖乳突筋胸骨枝内側縁まで,内側は患側の胸鎖乳突筋鎖骨枝の外側縁まで,頭側は甲状軟骨切痕までとした。皮弁の吊り上げには,皮弁吊り上げ鉤(Mist-Less VANSリトラクタセット,八光)を用いた。吊り上げ鉤はワイヤリトラクター(ケント式牽引器,高砂医科工業)を用いて支柱に固定した。内視鏡は,患側下頸部5mmの皮層切開に挿入したスコープガイド経由で,0度24cm長の硬性鏡(カールストルツジャパン)を使用し,ロックアーム(システムジェービー)に固定した。また胸鎖乳突筋と肩甲舌骨筋を外側に牽引する筋鈎(ゾンネ医科)をアイアンアシスト(ユニメディック)で固定した(図2)。当科ではこのセッティングで片山らの報告にあるような単独術者での手術を行っている[]。手術器械は,主に腹腔鏡手術用把持鉗子(CliCkLineKelly剝離把持鉗子,カールストルツジャパン),ケリー鉗子,ツッペルなどを使用しエナジーデバイスはリユーザブルなバイクランプ(BiClamp:エルベ社)を用いた。血管や筋肉の処理にはバイクランプを用いたが,ベリー靭帯の処理,反回神経近くの血管や上甲状腺動脈など太い血管の処理にはバイポーラプレミアムフォーセプス(エルベ社)やチタン製血管クリップを使用した。

図1.

a :NIM-Response3.0, Medtronic社

b :EMG気管内チューブ

c :APSTM(Automatic Periodic Stimulation)

図2.

当科でのVANS外観

ロックアーム,アイアンアシストを使用することで単独術者での手術を行っている。

CIONMについて

CIONMは反回神経の中枢側である迷走神経を持続的に刺激し,声帯筋の誘発筋電図を電極付きの挿管チューブでモニタリングすることにより反回神経の健全性を術中持統的に評価する方法である。反回神経への手術操作の影響をリアルタイムに判断でき,神経損傷のリスクが高まるとアラームでの注意喚起がなされる。術中操作による神経損傷の予測が可能な点が,IIONMとの相違点とされ,術後反回神経麻痺の出現低下が期待されている[]。

CIONMでは,通常の操作に加えて迷走神経にAPS電極を装着する手技が必要になる。輪状軟骨の高さ付近にて頸動脈鞘を切開し,迷走神経を長軸方向に約1cm,360度露出させる。鉗子でAPS電極を把持し神経走行に対して45度の角度より回旋させ留置する。

その後ベースラインを測定し,連続刺激を開始する。初期のベースラインのamplitude(振幅:μV)は500μV以上が望ましいとされる。

電気刺激(1秒毎,あるいは6秒毎に1回の刺激設定可)による喉頭筋電図波形は,amplitudeとlatency(潜時mS:刺激から波形立ち上がりまでの時間)の時系列グラフと共にreal timeに表示される(図3)。この2つの情報から術中操作による神経のダメージを推測する。迷走神経にて測定したベースライン値よりamplitudeが50%低下かつlatencyが10%延長した時点でアラーム音と表示で警告がなされる。その場合には一旦手術操作を止め,amplitudeおよびlatencyが回復してくるのを待つ。永続的麻痺でない場合は20分以内に回復することが多いとされる。ただこのデバイスはあくまでの外切開での手術を想定しており,頸動脈鞘を剝離し,迷走神経を同定,さらにその迷走神経にAPS電極を装着することを内視鏡下で行うことは約30分程度の手術時間の延長とやや難易度が高い手技が必要となる。

図3.

ベースラインのamplitudeが500/μV以上持続的に保たれている。

症 例

対象は当科でVANSにおいて,CIONMを使用した8例であり,甲状腺乳頭癌5例,バセドウ病3例であった(表1)。性別はすべて女性であり,年齢は20歳から61歳(平均37.3歳),術式は甲状腺全摘が4例,甲状腺葉峡切除が4例であった。全例,一過性含めて反回神経麻痺の出現を1例も認めなかった。症例5を提示する。患者は40歳女性で,病名は両側甲状腺乳頭癌(TlbN1aM0)。術式は甲状腺全摘,両側D1郭清を施行した。なお当科では全摘症例は両側アプローチを採用している。技術的には片側アプローチで全摘は可能であるが,血管処理,神経同定温存,確実な正中領域の郭清のためには両側アプローチが必要であると考えている。CIONMを行うためAPS電極の留置に関しては以下のように行った。

表1.

症例一覧

全例において術中術後反回神経麻痺を認めなかった。またその他の術後合併症も認めなかった。

輪状軟骨の高さで頸動脈鞘を切開し迷走神経を全周性に露出させる。APS電極のコードは細く,また鎖骨下創部からそのまま挿入すると鉗子と干渉するため,コードをシリコンチューブに通し(図4a),ラッププロテクター(八光)の外側から挿入した(図4b)。またAPS電極を胸鎖乳突筋の鎖骨枝と胸骨枝の間を通すことで鉗子類との干渉しないようにする工夫も行っている(図4c)。

図4.

VANSにおけるAPS電極の装着法

a :APS電極のコードをシリコンチューブに通した状態。

b :APSラップリトラクターの外側からコード挿入することで鉗子類と干渉しないようにしている。

c :胸鎖乳突筋の鎖骨枝と胸骨枝の間を剝離し,その間にAPS電極を通している。

d :迷走神経を全周性に露出しAPS電極を装着。ベッセルループで神経を愛護的に牽引している。

迷走神経はベッセルループにて愛護的に確保しAPS電極が装着しやすいように軽く牽引した。こうすることで鉗子と干渉することなく手術操作が可能であった(図4d)。迷走神経の持続刺激を行い,amplitude(振幅〔μV〕)が常時500以上持続的に得られていることを確認しながら手術を施行した。甲状腺脱転の際やBerry靭帯剝離の際にややamplitudeの低下を認めたが,甲状腺摘出後にはベースライン付近まで改善した(図5)。抜管後喉頭ファイバーで声帯運動の左右差が無いことを確認した。

図5.

a :甲状腺脱転時

Amplitudeがベースラインから低下している。

b :甲状腺摘出後

Amplitudeの改善を認めている。

考 察

甲状腺手術において,反回神経を肉眼的に同定し温存する手技は標準術式であり,新鮮例においてはGold standardである[]。もちろん内視鏡手術においてもそれは同様である。ただし,肉眼的に神経を温存しても一過性麻痺を含めると約3%で術後反回神経麻痺が生じるとされており[,],全摘の際の両側反回神経麻痺の可能性を考えると,一過性麻痺を含めてできる限りゼロを目標にするべきと考える。反回神経麻痺の原因として神経の切断の他,圧迫・挫滅損傷,牽引損傷,電気・熱損傷,結紮・絞扼損傷,虚血などがあるとされるが,その中で牽引損傷がその頻度が高く,予後も良いとされる[11]。また反回神経損傷のリスクが最も高い部位はBerry靭帯付近とされChiangらはIONMを用いて,靭帯周囲を剝離する際に反回神経が牽引損傷にさらされている可能性について報告している[]。われわれは少ない症例ではあるがCIONMを使用することで,甲状腺を脱転させる際や,Berry靭帯剝離の際,また正中領域の郭清の際に反回神経にかかるストレスをいち早く察知することができており,一過性麻痺も含め術後に反回神経麻痺をおこした症例を経験していない。

また甲状腺内視鏡手術は慣れるまでは術野のランドマークがつきにくいこともあるため,反回神経を持続的にモニタリングできるCIONMは非常に有用である。

2011年,International IONM Study Groupにより,甲状腺・副甲状腺手術における反回神経モニタリングのガイドラインが発行され,標準と考えられるIONM施行手順が示された(表2)[12]。その中核を成すのはChiangらが提唱した,開創時の迷走神経刺激(V1)→発見時の反回神経刺激(R1)→閉創前の反回神経刺激(R2)→迷走神経刺激(V2)からなる4-step procedureであり[1314],V1とV2,R1とR2の反応が一致することが求められている。この4-step procedureを当科ではVANS症例にも遵守しており,鏡視下に頸動脈鞘を開放し迷走神経を確認しIONMにて甲状腺摘出前後で神経の健全性を確認している(図6)。

表2.

標準的なIONMの施行手順

図6.

迷走神経刺激

APS電極を装着しない場合でも迷走神経を露出し4-step procedureを遵守している。

欧米では甲状腺手術,特に全摘術において術中に片側反回神経のIONM反応が消失した場合には,反対側の操作は行わずにいったん手術を終了し,二期的に考慮するのがよいとするStaged surgeryの概念も報告されているが[15],CIONMを使用することで神経麻痺が起きる前に手術を中止することができるため,二期的手術を回避できる可能性もあるのではないかと考える。またCIONMの使用は手術中に剝離や牽引など,どういった操作が神経に影響が出るかをリアルタイムに知ることができるため,術者自身の手技をフィードバックできるといった利点もある[]。

Schneiderらは甲状腺手術においてCIONMを使用し,amplitudeとlatencyの波形から反回神経損傷のリスクを6種類に分類している(表3)[14]。この表にあるようにcombined EMG events(CE)やLOS(loss of signal)を起こしたとしても術中にamplitudeが50%以上まで改善すれば神経麻痺はないとされる。今回検討ではこのCEやLOSを起こした症例は認めなかった。

表3.

Schneiderらの分類

CIONMが外切開であっても,内視鏡手術であっても有用であることは前述の通りであるが,コスト面を考えると,甲状腺手術全例に使用することは難しい。2014年に(副)甲状腺癌,2018年にはバセドウ病に対するIONMの手術医療機器加算(2,500点)が認められ,さらに2016年には迷走神経刺激によるCIONMの薬事認可もなされており,今後甲状腺手術における神経モニタリングはさらに普及していくだろう。内視鏡手術においても現在,悪性腫瘍手術,バセドウ病全摘において神経刺激装置の医療機器加算が認められているが,全額補填されるわけではないため使用する症例は選ばなくてはいけない(表4)[16]。当科でのVANSにおけるCIONM適応症例は両側反回神経麻痺のリスクのある癌やバセドウ病に対する全摘症例としているが,医療経済上の課題から適応症例に関しては検討の余地がある。

表4.

CIONMを使用する際の費用と補填される医療機器加算

最後に,内視鏡下に迷走神経を露出し,APS電極を装着することは当科の経験上,手技的な難易度は高いと思われる。そのため今後は内視鏡手術に適応したCIONMのデバイスの開発が待たれる。

まとめ

CIONMを内視鏡手術で使用することは手術の際の手間と手術時間の延長を要するが,反回神経の機能温存において,きわめて有用であった。当科ではVANSの際の,“見えない神経麻痺”も含めて一過性麻痺は可能な限りゼロを目標にしたい。

【文 献】
 

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