日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
進行再発乳癌の治療戦略:oligometastatic乳癌の治療戦略
永崎 栄次郎
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2020 年 37 巻 2 号 p. 92-96

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抄録

Oligometastatic Breast Cancer(少数転移乳癌,OMBC)は転移部位や個数が限られた乳癌のことである。転移乳癌は一般的に治癒困難であり,治療の目的は生存期間の延長とQOLの維持・改善となる。一方でOMBCは腫瘍が限局しており,手術や放射線療法などの局所療法や,局所療法に薬物療法を加えた集学的治療が有効な可能性があり,治癒の可能性がある群として注目されている。

以前より当院では少数転移乳癌に注目し,積極的な集学的治療を行ってきた。当院で治療したOMBC 75症例の後ろ向き解析では20年生存率34.1%,20年無再発率27.4%であった。10年を超えると生存曲線がプラトーとなっていた。また,転移が1臓器に限局していることが予後良好因子であった。

OMBCに対する集学的治療の報告はランダム化試験がなく結果の解釈には限界があり,今後さらなる研究が必要である。しかし長期生存者が無視できない数で存在することは確かであり,治療選択肢の一つとなりうる。

はじめに

Oligometastatic Breast Cancer(少数転移乳癌,OMBC)は転移部位や個数が限られた乳癌のことで,Hellmanにより提唱された[]。割合は新規に診断される転移性乳癌の約1~10%程度と考えられている[]。定義は報告により異なるが,2017年にESOとESMO の共同による進行乳癌ガイドライン(ABC 3)で「転移巣の数が少なく腫瘍径が小さく(5個以下で同一臓器に必ずしも限定しない),局所療法によりComplete response(CR)の可能性がある状態」と定義された[]。例えば孤立性の肺転移のみの症例はOMBCである。

転移乳癌は通常は全身病であり,治療の基本は薬物療法となる。治癒することは稀で,20年を超えてCRが持続するのは2~3%である[,]。そのため治療は治癒を目指したものではなく,「生存期間の延長」と「QOLの改善」を目的として行われる。しかし,OMBCは転移とはいえ局所病的な性質を持つと考えられ,手術や放射線療法などの局所療法や,局所療法に薬物療法を加えた集学的治療で治癒可能性があるとして注目されている[]。本稿ではOMBC治療のレビューと当院の症例解析を提示し,治療戦略の考察を行う。

OMBCに対する手術療法

遠隔転移がない局所・所属リンパ節再発(Isolated Locoregional Recurrence:ILRR)では根治的な手術や放射線療法が標準的であり,NCCNガイドライン[]や日本乳癌学会のガイドライン[]でも勧められている。

一方で,遠隔転移に対する手術療法については議論が分かれる。日本乳癌学会のガイドラインでは,生存期間を延長するエビデンスがないため限られたケースを除いて勧めていない。しかし,「単一臓器の少数転移に対して切除することで生存率の延長に寄与するとの考え方もあり,今後のデータが注目されている」と記載しており[],有効である可能性に触れている。

過去に肺,肝転移に対する手術療法の報告がなされているが,すべて後ろ向き研究である[12]。肺転移切除後のOverall survival(OS)中央値は32~97カ月,5年OSは27~80%[10],肝転移切除後のOS中央値は29.5~116カ月,5年OSは25~78%と報告されている[11]。

肺転移に対する肺切除術の後ろ向き研究で最も大きなものが2002年に報告されており,467例の検討で,OS中央値35カ月,5年OS 35%,10年OS 20%,15年OS 18%であった。再発までの期間が長いこと,完全切除出来たこと,転移個数が少ないことが予後良好因子であった[12]。

肝転移に対する肝切除術のシステマティックレビューでは,肺転移と同様に,再発までの期間が長いこと,完全切除出来たことが予後良好因子であった[11]。

これらの報告は有望な成績を示しているが,選択バイアスがあるため有効性は明確ではない。そのため,現状ではOMBCに対する手術療法は標準的治療とは言えない。しかし,内視鏡手術など手術技術の向上から侵襲度は低下しており,症例を選べば考慮されてよいと考える。

OMBCに対する放射線療法

近年,放射線技術の向上に伴い報告が増えている。特に病変に焦点を合わせ高用量の放射線を当てる定位放射線治療(Stereotactic Radiation Therapy:SRT)の報告が多い[101314]。ランダム化試験は少ないが,局所コントロール率70~90%と良好な成績が報告されている。

Milanoらの前向き単群試験では,40例の検討で,4年OS 59%,Progression-free survival(PFS) 38%,局所コントロール率 89%であり,転移数・腫瘍量が少ない,骨転移のみ,SRT前に全身療法が効果あった場合に予後良好であった[13]。

2019年に様々な癌の少数転移に対するSRTの多施設共同ランダム化第Ⅱ相試験が報告された[14]。症例は99例で,そのうち乳癌は16例であった。その他大腸癌,肺癌,前立腺癌などが含まれていた。OS中央値はSRT群41カ月,対照群28カ月(p=0.09)で有意差はなかったが,PFS中央値はSRT群12カ月,対照群6カ月(p=0.0012)で有意に良い結果であった。SRT群では放射線関連の副作用を有意に多く認め,G2以上はSRT群29%,対照群9%(p=0.026)であった。

SRTは有望な治療成績が報告されているが,安全性については今後も検討が必要である。特に転移個数が多いと周囲の正常組織に放射線が多く照射されるため注意が必要と考えられる。治療効果も転移数・腫瘍量が少ない場合に良好であり,症例を選んで治療を行う事が重要であると考える。

OMBCに対する化学療法

OMBCに対する化学療法単独の研究はないが,腫瘍量が少ないと化学療法への感受性が高いというデータがあり効果が高い可能性がある[15]。

ドキソルビシンベースの化学療法を行った進行乳癌症例1,581例の長期成績の報告では,5年以上CRが持続した症例を3.1%認め,その92%がOMBCであった[]。

転移乳癌の薬物療法は一般的に「生存期間の延長」と「QOLの維持・改善」を目的に行われる。Hortobagyiのアルゴリズムがよく用いられ,内分泌療法感受性がある場合で差し迫った生命の危機がない時には,まず副作用の少ない内分泌療法を行う[16]。OMBCは腫瘍量が少なく差し迫った生命の危機がないため内分泌療法の適応となる。しかし,内分泌療法と化学療法の投与順番が予後に寄与するか明確ではなく,CRを目指した治療を行う場合は化学療法も治療選択肢と考える。

OMBCに対する集学的治療

集学的治療について代表的な3つの研究についてまとめる(表1)。

表 1 .

集学的治療の報告まとめ

最も観察期間が長く症例数も多いのは,MDアンダーソンがんセンター(MDACC)のHanrahanらによる単群第Ⅱ相試験の報告である[17]。この試験では手術で転移病変を完全切除できた症例に対しアジュバント様に化学療法を上乗せしている。 化学療法はドキソルビシンベース(259例)とドセタキセルベース(26例)の2つを行っている。ドキソルビシン群では観察期間中央値が121.5カ月と長期であり,20年OS 26%,20年 Disease-free survival(DFS) 26%であった。

Blumenscheinらは59例のOMBCに集学的治療を行った後ろ向き研究を報告している[18]。手術可能例ではまず手術を行い,その後にドキソルビシンを含む化学療法を行い,可能であればその後に放射線療法を行った。骨転移に対してはまず化学療法を行い,その後に放射線療法を行った。OS中央値132カ月,5年OS 85%,5年PFS 53%であった。

Nietoらは自家末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法(HDCT)の単群第Ⅱ相試験の報告をしている[19]。手術または根治的放射線療法を行った後にHDCTを行った。OS中央値80カ月,5年OS 62%,RFS中央値 52カ月, 5年RFS 52%であった。

当院のOMBC症例の解析

当院では以前からOMBCに対して積極的な集学的治療を行ってきた。当院の治療戦略は,まず化学療法を行い,CRもしくはpartial response(PR)となった場合に可能であれば手術や放射線療法を行い,その後さらに化学療法・内分泌療法・抗HER2療法で維持療法を行うというものである。2012年に後ろ向き解析を報告しており紹介する[20]。

[方 法]1980年から2010年に治療したOMBC症例について解析を行った。選択基準は2臓器以下,臓器あたり5個以下,5cm以下である。これはABC3で提唱された定義よりもやや広い。

[症 例]表2に症例を示す。75例で,観察期間中央値は103カ月,年齢中央値48歳,ホルモン受容体陽性64%,HER2陽性17%であった。転移臓器数1カ所のみ59%であった。48%で内臓転移を認めた。

表 2 .

患者

表3に治療内容を示す。66例で最初に化学療法が行われ,9例で最初に局所療法が行われていた。化学療法はアンスラサイクリンとタキサンが多く行われていた。35例(47%)で局所療法が行われていた。そのうち放射線療法が18例(51%),手術が12例(34%)であった。

表 3 .

治療

[結 果]集学的治療の奏効率は,ORR 94.7%,CR率64.0%,PR率30.7%であった。

図1にOS,Progression-free interval (PFI),無再発期間(CRの持続期間)のKaplan-Meier曲線を示す。OS中央値185.0カ月,PFI中央値68.5カ月,無再発期間中央値48.0カ月であった。OSは5年79.2%,10年59.2%,20年34.1%,無再発期間は5年45.0%,10年27.4%,20年27.4%であった。無再発期間は10年を超えるとプラトーとなっていた。

図 1 .

OS,PFI,無再発期間(RFI)のKaplan-Meier曲線

予後因子について多変量解析をおこなったところ転移臓器数が1個のみであること,局所療法が施行されていることが無再発期間の予後良好因子であった。一方で,年齢,サブタイプ分類は有意な関連がなかった。

集学的治療についての考察

過去の報告や当院の解析はいずれも良い成績を示しているがランダム化試験ではなく,治療にかかわらずOMBCは予後良好な性質を持つのではないかという疑問がある。しかし当院やMDACCのデータ[17]で生存曲線が10~20年でプラトーとなっており,25~30%が治癒に近い状態であると考えられる。転移乳癌はほぼ治癒しないことを考えると,これは無視できない数字である。このことからわれわれは積極的な集学的治療は治療選択肢の一つと考えている。ただし,治療の順番,薬剤の種類,期間が報告により異なるため,最適化のための研究が今後も必要である。

今後の展望

アジア臨床腫瘍機構(FACO)が母体となり日中韓共同の後ろ向きコホート試験を行っている(OLIGO-BC試験)。この試験では700例以上の症例が登録され,局所療法の有無,内容,薬物療法の内容と予後の調査しており,今後の報告が待たれる。

今後の研究の展望として,微小転移を評価する上で,末梢循環腫瘍細胞(CTC)や循環腫瘍DNA(ctDNA)が有望ではないかと考える。また,治療効果や予後を予測する分子生物学的マーカーの研究も必要と考える。

近年乳癌の薬物療法の進歩は目覚ましく,CDK4/6阻害薬や抗HER2治療薬など効果的な分子標的薬が登場している。これら新規治療薬をいかに治療に組み合わせていくかも課題である。

おわりに

OMBCは局所療法と薬物療法を組み合わせた集学的治療によりCRとなり長期生存する可能性がある。特に過去の報告や当院の解析から,「1臓器に限局している」,「転移個数が少ない」,「手術で取り切れた」など,より限局している症例で予後がよかった。前向き試験,ランダム化比較試験が少ないため結果の解釈には限界があり,さらなる研究が必要である。しかし,治癒と言っても差し支えない症例が一定数存在することは無視できず,積極的な集学的治療も治療選択肢の一つと考える。

【文 献】
 

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