日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
術中神経モニタリングのセットアップ
鈴木 眞一松本 佳子塩 功貴長谷川 翔岩舘 学鈴木 聡中野 恵一水沼 廣
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2020 年 37 巻 3 号 p. 171-175

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抄録

甲状腺・副甲状腺外科ではいまでも反回神経麻痺が最も特徴的な合併症であり,残念ながら現在においても完全には避けられない合併症の一つである。術中神経モニタリング(intraoperative nerve monitoring;IONM)は甲状腺手術に対して本邦で保険適応になり,広く利用されるようになってきた。セットアップではまずEMG(electromyography)気管内チューブの挿管と適切な位置での固定,さらに種々電極の刺入とコードの接続固定があり,術前から術後まで一貫して外科医師ないし臨床工学技士,看護師などのメディカルスタッフが管理することが望まれる。さらにEMG気管チューブの管理や筋弛緩剤を入れないなど麻酔科医との連携,情報共有が重要である。

はじめに

甲状腺・副甲状腺外科ではいまでも反回神経麻痺が最も特徴的な合併症であり,残念ながら現在においても完全には避けられない合併症の一つである。術中神経モニタリング(intraoperative nerve monitoring;IONM)は甲状腺手術に対して本邦で保険適応になり,広く利用されるようになってきた。本稿ではIONMのセットアップについて解説する。

1.NIM-Response® 3.0(日本メドトロニックス株式会社)[

IONM装置としては日本メドトロニックス株式会社製のみが本邦では採用・販売されており,また,国際ガイドライン[]でもほぼ同様の機器での解説であり,今回はNIM-Response® 3.0につき解説する。

2.機器の解説

1)NIMコンソール(図1

図1.

NIM-Response®3.0の本体(NIMコンソール)

a:NIMコンソール

b:STIM1刺激調節ダイアル

c:STIM2刺激調節ダイアル

d:ボリューム調節ダイアル

e:スピーカー

f:専用架台

g:ミューティングプローブ

NIMの本体であり,大きな液晶画面の周辺にはSTIM1刺激調節ダイアル(図1b),STIM2刺激調節ダイアル(図1c),ボリューム調節ダイアル(図1d)が右側面に,下面にスピーカー(図1e)が配置され,背面に電源スイッチ,電源コネクター,患者インターフェースコネクター,ミューティングプローブ入力端子などが配置されている。

2)患者インターフェース(図2

図2.

患者インターフェース

a,b:EMG気管内チューブ(またはTriVantage EMG気管内チューブ)からのコードを接続。

青,赤各2本あり,それぞれの色のところに接続。

c:接地電極接続(コードもプラグも緑)。

d:リターン電極接続(コード白,プラグ赤)。

e:刺激電極接続;モノポーラープローブを接続(コード青,プラグ黒)。

NIM3.0 Response 4chでは本体に接続用のインターフェースコネクターと本体部にはEMG(electromyography)挿管チューブの(-)ジャック(青,赤)(図2a, b),接地電極(緑)用ジャック(図2c),リターン電極(赤)用ジャック(図2d),刺激プローブ用刺激ジャック(黒)(図2e)などがある。

3)ミューティングプローブ

EMGモニターに干渉する可能性のある電気焼灼器や電気手術ユニットなどからの電子ノイズの存在を検出する(図1g)。

4)カート

コンソールを載せる専用架台(図1f)。

5)刺激プローブ(モノポーラープローブ)

通常はこれで神経を刺激する。

6)針電極

接地電極(緑)(図2c),リターン電極(赤)がある(図2d)。

7)APS(Automatic Periodic Stimulation)電極

迷走神経に装着し,持続刺激により反回神経の健全性を持続的に検討できる。

8)気管内チューブ電極

TriVantage EMG気管内チューブ。

3.セットアップとモニタリングの注意点[

1)モニタリング時に筋弛緩剤を使用しない。EMGモニタリング反応を大幅に減少。

2)カフ圧の監視,調整。

3)NIM本体の電源は単独でコンセントに差し込む。

4)NIM本体は他の電気機器から離す。

5)プローブ刺激と電気手術機器を使用しない。

4.セッティング手順

手術ドレープを患者にかける前に行う。

1)NIM本体背面への接続

電源コード,患者インターフェース,ミューティングプローブをNIM背面に接続する。

2)NIM本体電源ボタンをONにする。

3)NIMシステムの自動チェック

電源ON後自動的にシステムの機能チェックが開始される。

手術ドレープをかけた後に刺激用プローブを患者インターフェースにしっかり接続,固定する。

4)セットアップ画面

a)手術種類の選択

Head/Neckを選択。

b)詳細な手術の選択

ⅰ)Neck Dissection

ⅱ)Parotid

ⅲ)Thyroid

ⅳ)Thyroid with APS

通常の甲状腺手術ではⅲ)を,APSを使用し持続的に刺激の場合にはⅳ)を選択する。

5.電極装画面(Place Electrode)

1)患者側セッティング

設置電極(緑色)を胸骨の軟部組織に挿入,その数cm下にリターン電極(プラグ赤,コード白)を挿入する。針電極の先端部は根元までしっかり差し込む[]。実際は甲状腺手術で消毒野に入ってしまうので,肩(図3a)や鎖骨下前胸部外側に挿入する(図3b),また,かなり細い針で操作者自身に刺入しないよう注意する。消毒野から離れている場合には当然であるが酒精綿にて消毒後刺入し,脱落防止と感染予防に透明のシールを貼付しておく。術者が患者右側に立つことが多く,両電極の刺入箇所およびコードは左側から出し,手術台左側に吊り下げた患者インターフェースにしっかりと接続する(図2)。

図3.

患者側セッティング,接地電極とリターン電極針を刺入

a:左肩に刺入。

b:左鎖骨下軟部組織に刺入(矢印),結果的にこのまま使用可能であったが,植皮の場合には刺入部を変更する可能性がある。広範な術野が予想される場合には肩を使用している。術中の確認も消毒野外であり都合がいい。

2)患者インターフェース側セッティング

a)記録電極(挿管チューブ)接続

赤,青のコードが挿管チューブから続くが2列に赤は赤のジャックに,青は青のジャックに接続する(図4)。

図4.

Trivantage EMG 気管内チューブ

同チューブを挿管後固定,チューブからの青コード(電極が左側),赤コード(電極は右側)を其々2本づつを患者インターフェースに接続(図2a, b)。

b)接地電極・リターン電極接続

患者側からセッティングされた接地電極(コード,プラグも緑)(図2c),リターン電極(コード白,プラグ赤)(図2d)をそれぞれのプラグの色のところに接続する。

c)刺激電極

刺激プローブを使用の場合青いコードで黒いプラグをSTIM1の黒いジャックのところに接続する(図2e)。

6.電極チェックパネル

NIM本体画面にて接続の検証する。

7.電極チェック詳細パネル

さらに実際のインピーダンス値も確認できる。

8.モニタリングモード

画面上部にある「Monitoring」ボタンを押し,モニタリングを開始する。

9.電極付き挿管チューブの挿管(図4

IONMには麻酔科医の協力と理解が不可欠である。

青ケーブルは患者気管左側の電極,赤ケーブルは患者気管右側の電極に位置することが望ましい(図5a)。

図5.

気管内挿管チューブ(Trivantage EMG 気管内チューブ )の設置[

a:気管内挿管図 ブルークロスマークが声帯に接触させる位置で固定する。

b:ブルークロスと声帯の位置:左側:適切な位置,右側:ブルークロスが声帯より深めになっており不適切。

挿管後頭部固定後再度挿管チューブが深く入りすぎないかに注意する(図5b)。甲状腺手術では頸部伸展目的で片枕など入れるのでその後再度確認が必要。

ブルークロスマークの交差部分が声帯に接触するように留置する(図5a, b)。

10.セットアップ時の注意点

図6にセットアップ全体のシェーマを示す。

図6.

IONMセットアップ時の全体図

マニュアル[]では胸骨の軟部組織に(*)と記載されているが,甲状腺手術の場合術野に近く,鎖骨下外側(**)(図3b)ないし肩(***)に穿刺している(図3a)。

****術者が患者右側に立つことが多くコンソールや患者インターフェースは左側に設置することが多い。コンソールはすべての術者が見えるように患者尾側に設置することもある。

1)挿管前にある程度の機器の設置を行う。

2)挿管後の頭部固定の後にチューブ位置を再確認する。やや深くなることがある。

3)接地,リターン両電極の刺入と固定そして対側を患者インターフェースに固定する。

4)刺激用プローブの接続もわすれずに。

5)術中反応がなくなったときに患者インターフェースが直ちに確認できる位置にしっかり固定する。

6)医師ないし臨床工学技士などのメディカルスタッフが最初のセットアップから術中,術後まで一貫して管理することが望ましい。

7)腫瘍を気管から脱転する際にEMG気管チューブの位置がずれることがあり,外科医と麻酔科医の連携が必要。

おわりに

IONMは甲状腺手術では今やなくてはならないものになったが,標準的なセットアップにつき解説した。セットアップ操作に習熟し,本技術の恩恵として神経損傷の有無を直ちに知ることで合併症の少ない手術手術と術者教育があげられ,今後さらに本技術が甲状腺手術での標準手技として確立されることを期待したい。

【文 献】
 

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
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