日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
新しい放射線外照射治療
全田 貞幹
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2021 年 38 巻 2 号 p. 74-76

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抄録

甲状腺癌に対する治療は手術を軸に考えられており,放射線治療は標準治療のメインストリームではない。しかし,近年放射線治療技術の進歩とともに従来の放射線治療の技術を最大限に生かした強度偏重放射線治療(Intensity Modulated Radiotherapy; IMRT),体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy SBRT),さらに粒子線を用いる重粒子線治療(Carbon ion radiotherapy),陽子線治療(Proton Beam Therapy)などが開発され,甲状腺癌患者に対しての選択肢として放射線治療を考慮する機会が増えてきた。

それぞれの技術には違う特性があり,それらを理解して使い分けることができれば治療成績は飛躍的に向上する可能性がある。

ただし手術が可能な場合に放射線治療を選択する理由は乏しく,あくまで手術を中心とした治療方針の中に高齢化や合併症のある患者など標準治療が難しいケースでのオプションとして位置付けていくのが望ましいと考える。

はじめに

甲状腺癌に対する治療は手術を軸に考えられており,放射線治療は標準治療のメインストリームではない。しかし,近年放射線治療技術の進歩とともに甲状腺癌患者に対しての選択肢として放射線治療を考慮する機会が増えてきた。そこで,今回は甲状腺がん治療において放射線治療が必要となる局面および,その際の放射線治療モダリティの選択について考察を加え解説する。

1.甲状腺癌治療における放射線治療の位置づけ

放射線治療にはI131を含む内照射と一般的な外照射があるが,本稿では外照射について述べる。

現在,甲状腺癌に対する治療は手術を中心に展開されており,放射線治療は治療のメインストリームではない[]。甲状腺癌にはいろいろな組織型が存在するが,そのいずれもが放射線感受性が低いため放射線治療というモダリティだけで根治を狙えないということが大きな理由である。

もう一つの理由としては甲状腺自体が脊髄に近接しており,技術的に脊髄を遮蔽しつつ甲状腺癌に高線量を付与することが難しい点が挙げられる。

このように現時点では放射線治療は甲状腺癌に対して積極的に用いるのは難しいと考えられるが一方で,根治線量を付与できた場合での長期生存の報告もあり新規技術を用いた放射線治療であれば従来の放射線治療の立ち位置とは違ったアプローチができる可能性はある。

2.新規放射線技術と粒子線治療

近年,放射線治療の進歩は目覚ましく,従来の放射線治療の技術を最大限に生かした強度偏重放射線治療(Intensity Modulated Radiotherapy; IMRT),体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy SBRT),さらに粒子線を用いる重粒子線治療(Carbon ion radiotherapy),陽子線治療(Proton Beam Therapy)などが開発され臨床でも広く行われている。

IMRTは腫瘍への線量を保ちつつ近接する臓器に高線量がかからないようにする手法で腫瘍の形状がいびつでも対応可能である。ただし,皮膚表面への線量がどうしても不足するため腫瘍が皮膚に近接している場合は効力が発揮できないことがある。

SBRTは1度に高線量を投与できる利点があるため孤在性の転移などに効果を発揮する。ただし腫瘍の形状に制限があることや周囲に心臓や大血管などがある場合は行えないなど利用できる条件が若干厳しい一面もある。

陽子線治療は従来の放射線治療と強さはあまり変らないものの線量集中性が優れており[],重要臓器に近接している腫瘍でも十分な線量を投与することができるため,周辺臓器が多い甲状腺に対する治療として条件が合えば非常に有用である。ただし腫瘍の形状がいびつな場合にはうまく活用できない場合もある(表1)。

表1.

放射線治療の各モダリティ別特性一覧

3.甲状腺癌再発症例に陽子線治療が奏効した1例

患者さんは83歳女性(陽子線治療時)。

2003年 左甲状腺癌に対して甲状腺左葉切除。

2006年 左頸部リンパ節再発あり左頸部郭清。

その後9年間無再発であったが

2015年 期間全面および右鎖骨上リンパ節に再発を認めた(図1)。

図1.

気管全面および右鎖骨上リンパ節転移

腫瘍自体は手術適応と判断されたが83歳と高齢である上に冠動脈疾患でステントを挿入しており抗凝固薬が中止できないため切除は困難と判断された。

2015年 陽子線治療目的で国立がん研究センター東病院を受診。

日本放射線腫瘍学会(JASTRO)粒子線統一治療方針に準拠して陽子線治療 72.6GyE/22frの治療を開始した。

1年後のPET-CTで治療前に集積のあった腫瘍について形態は残存していたが集積は消失していた(図2)。

図2.

陽子線治療前後のPET-CT 画像(左:治療前 右:治療後)

気管前面の腫瘍への集積は消失していた。

以降,経過観察のみで2021年現在に至る。

4.放射線治療が生かせる局面

以上の考察から陽子線治療を含む放射線治療が生かせる局面は以下の場面に限定される。

・局所治療が重要となる局面

甲状腺癌では当初局所治療が重要になるのだが,手術ができる環境では手術を行うべきである。

・他の有望な治療法(主に手術)に制限がかかる局面

近年患者の高齢化により手術自体条件がそろわない場合も想定される。そういった場合には放射線治療は次善の策として有望である。手術への制限は個々のケースで変わってくるが効果が担保されている手術において合併症等のリスクを割り引いたときに放射線治療の余地があるかどうかというところは毎回議論すべきである。

・従来の放射線治療では十分な線量が投与できない局面(皮膚表面に近い/重要臓器が近接しているなど)

手術の適応がなく,従来の放射線治療でも十分な線量が投与できない局面では陽子線治療などが適応になる。

さいごに

放射線治療の技術の進歩は甲状腺癌の治療成績向上に寄与する可能性がある。ただし手術が可能な場合に放射線治療を選択する理由は乏しく,あくまで手術を中心とした治療方針の中に高齢化や合併症のある患者など標準治療が難しいケースでのオプションとして位置付けていくのが望ましいと考える。

【文 献】
 

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