日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
腎移植後三次性副甲状腺機能亢進症への治療介入のアウトカム
中村 道郎富田 祐介滝口 進也上原 咲恵子
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2021 年 38 巻 3 号 p. 152-157

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抄録

腎移植後に合併する三次性副甲状腺機能亢進症は,透析期からの病態を引継ぎ,移植腎機能によって変化し複雑な病態を呈する。治療はcalcimimeticsを中心とする内科的治療と副甲状腺摘出術があるが,本邦では現時点でcalcimimeticsに保険医療の適応はない。

副甲状腺摘出術の術式には,亜全摘術と全摘出+部分自家移植術があり,高Ca血症の改善効果を期待することができるが,本邦特有の長期透析や二次腎移植の機会が少ないことを考慮すると後者の術式が望ましいと考えている。懸念される術後の移植腎機能の悪化に関しては,術前の腎機能が影響し,腎移植後早期の手術では影響を受けやすい。一般的には術後一過性に悪化した腎機能は中長期では生着率に影響がないと考えられる。腎移植患者の三次性副甲状腺機能亢進症は,移植腎や生命予後に悪影響があり,副甲状腺摘出術は,透析期と同様に予後改善効果が期待できると考えるがエビデンスレベルの高い報告はないのが現状である。

はじめに

慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常の概念の中で最も重要な副甲状腺機能亢進症(HPT:hyperparathyroidism)について,腎移植後における病態や副甲状腺摘出術(PTx:parathyroidectomy)を中心とした治療とそのアウトカムについて詳述する。

1)腎移植後における副甲状腺機能亢進症

●腎移植後の副甲状腺機能亢進症の特殊性

腎移植後の骨ミネラル代謝異常の病態には,「改善する異常」,「改善しない(悪化する)異常」,「新たな異常」が存在する[]。腎原性に発症する透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT:secondary HPT)の病態は腎機能の回復とともに変化するが,腎移植前の病態 のキャリーオーバーや,低移植腎機能・移植腎機能低下に伴う影響などが複雑に絡み合って腎移植後は特殊な病態を示す。腎移植後にもHPTが遷延する病態をここでは三次性副甲状腺機能亢進症(THPT:tertiary HPT)と称する。

●THPTの病態

腎移植後の腎機能回復とともにSHPTが改善する場合もあるが,1年以上経過しても17~50%で遷延することが報告されている[]。腎移植後に遷延するTHPTの危険因子として,移植時の副甲状腺ホルモン(PTH:parathyroid hormone),カルシウム(Ca),リン高値および長期透析があげられている[]。またYamamotoらは,単施設の臨床研究ではあるが同様のリスク因子の解析とともに,術前の副甲状腺サイズが関連していると報告している[]。最近の報告では,腎移植前にSHPTを合併しPTxを受けて治療した患者は,cinacalcetで内科的治療した患者よりも,腎移植後THPTの罹患リスクが有意に低く,SHPT患者で3年以上の維持透析後に腎移植を受ける場合は,PTxを推奨している[]。

腎移植後に摘出した副甲状腺を組織学的に研究した結果,polyclonalでびまん性過形成の段階であれば,アポトーシスをおこしやすく縮小傾向を示すが,組織学的に結節性過形成に進展した副甲状腺細胞は,腎移植後においてもアポトーシスの頻度が少なく[],これは結節性過形成腺における発現密度が低下した各種レセプターの機能低下が病因と考えられている[]。腎移植後に副甲状腺サイズが縮小しても,腺内に結節性過形成に進展した部分が残存し,THPTの病態をおこすと考えられる[](図1)。

図1.

腎移植後に遷延する副甲状腺機能亢進症の機序(仮説)

びまん性過形成腺は腎移植後に可逆的に退縮するが,結節性過形成腺は不可逆的で退縮しない。結節性過形成腺においては,副甲状腺細胞の各種レセプター(ビタミンDレセプター,Ca感受性レセプター,FGFR:FGF23レセプターなど)の密度が低下しているためと考えられている。

2)THPTの治療介入の種類

●内科的治療

HPTに対する内科的治療の中心となっているCalcimimeticsは,本邦では移植患者への使用は保険上認められていないが,海外からは前向き研究にて,高Ca血症を伴ったTHPTに有効性が報告されている[]。本邦からの腎移植患者への投与の報告はいずれも少数例であり,長期的な結果は示されていない。活性型ビタミン製剤は副甲状腺に働きPTHの産生を抑制する効果があるが,高Ca血症を合併しているTHPTの症例への投与は難しい。

●外科的治療

THPTに対して内科的治療が無効の場合手術が行われるが,その術式としては,腫大腺のみを摘出する術式,亜全摘術,全摘+自家移植術,全摘術のみの4種類が考えられる。腎移植患者は,正常腎機能を獲得することは珍しく,慢性腎臓病 stageG3 or G4と同程度の腎機能で経過することが多い。したがってTHPTの病態を考えた場合,腫大腺のみの摘出では残存腺に過形成があるため改善は難しい。また自家移植をしない全摘術のみの術式は,重篤な副甲状腺機能低下症が予想され推奨されない。欧米では亜全摘術が広く採用されているが,本邦では,移植腎機能低下と将来の透析再導入までを含めて再発の少ない全摘+自家移植術が主流となっている。表1はわれわれの施設の腎移植後のPTxの適応を表す。

表1.

腎移植後三次性副甲状腺機能亢進症の手術適応

3)THPTに対する治療介入の短期的アウトカム

THPTに対する治療介入のアウトカムには,短期的アウトカムと長期的アウトカムがある。前者は,高Ca血症の改善に代表されるように治療介入の有効性・効果が主となるが,腎移植後患者の場合,移植腎機能に与える影響も考慮すべきである。また,後者は,治療介入後長期的な視点での移植腎の生着率,患者生存率,骨折への影響などが考えられる。内科的あるいは外科的介入か,外科的介入ならば術式や手術の時期によってアウトカムに相違があるのかについて文献に基づいて詳述する。

3-1)有効性・効果

THPTに対して,PTxの適応と効果を分析する目的で論じられたreview[]によれば,採用された全ての報告において,PTxは正Ca血症の達成に効果的であったと述べられている。また,PTxに因る合併症は僅かであり,その一つである反回神経麻痺は約2.1%に認められたと報告されている[]。

●内科的治療との比較の視点から

日本では,THPTの内科的治療としてのCalcimimeticsの使用が腎移植後は保険適応外であることもあり,THPTにおいて内科的治療と外科治療の比較検討した報告はない。海外からの報告も極めて少ないが,Yang RLらは,後ろ向きコホート研究にてPTxの有効性を報告している[10]。また,THPT患者30例に対して,シナカルセト15名,PTx(亜全摘術)15名を比較した前向き研究においては,12カ月の時点で正Ca血症達成率は,シナカルセト群が67%,PTx群は100%であり,PTx群でPTH低下率が大きかったと報告されている[11]。期間を5年に延長し再解析が行われ,再発率(Ca値の再上昇)がシナカルセト群で高いことが最近追加報告された[12]。

その他にもPTxとcalcimimeticsによる治療の比較においては,PTxの方がCa,PTH値をより低下させ再発の頻度も少ないとの報告が散見される[1013]。一方,PEITに関しての成績は不確実で長期成績は不良と述べられている[14]。内科的治療と外科的治療をランダム化した直接的な比較研究は難しいが,高Ca血症に対する確実なPTxの有効性は疑う余地はないと考える。

●術式の視点から

THPTに対して,欧米からの報告は亜全摘での成績が主体となっているが,全摘+自家移植術も代表的な術式である。

SHPTに対する術式を比較した報告はあるが[15],THPTではランダム化された報告はない[16]。亜全摘術について短期間の有効性に関しては良好な成績が報告されている[1117]。亜全摘術の長所は,低Ca血症や副甲状腺機能低下症になりにくい点が挙げられている。Retrospectiveな解析であるが,30名のTHPT患者に対してPTx(亜全摘:83%)を施行し,3名(10%)に再発が認められ再手術が必要であったが,すべて亜全摘術あるいは亜全摘術以下の切除術であったと報告されている[18]。Dulfer RR[]によるreviewでは,術式を直接比較検討した研究はないが,全摘,亜全摘,限定的切除の3つの術式による,HPT遷延の頻度・再発率はそれぞれ,4%,8.9%,91%とまとめられ限定的切除は避けるべきと述べられている。

本邦では,SHPTにおいて全摘術+自家移植術が主流であり,その主たる理由は,慢性腎不全の病態が継続することによる再発のリスクを少なくするためである。腎移植後においても腎機能は正常ではなくHPT増悪の病因が消失していない点や,移植腎機能廃絶後の2次移植が本邦では難しく透析療法の継続を長期に行うことが強いられることを考えると,THPTに対しても再発率が低い全摘+自家移植を行うことを推奨する。

3-2)PTx後の移植腎機能

腎移植患者を診療する臨床医の懸念としてPTx後の移植腎機能への影響がある。THPTでPTxを受けた69名のうち19名の推算糸球体濾過値(eGFR:estimated glomerular filtration rate)が20%以上低下し,1年以上継続したという報告がある[19]。一方,PTx後はeGFRが低下するが,6カ月,1年後には有意な差がないとする報告もある[2021]。

この議論では,手術を行わず高Ca血症の状態を持続させることによる移植腎機能低下も考慮しなければならないポイントである。

●内科的治療との比較の視点から:

PTx後の腎機能への影響についてのメタ解析によると[22],Calcimimeticsによる内科的治療とともに,PTxに関しても術後の腎機能に影響を与えないとする報告が多い。しかし,各研究報告は,THPTの定義を含めて様々な項目で一律ではなく,エビデンスレベルの高い結論とはいえない。

●術式の視点から:

ある術式に関する文献では,THPTに対する初回PTxの47名中35名が全摘+自家移植の術式であったが,亜全摘術の症例より術後有意にeGFR低下を認めたという報告がある[19]。ベースラインのeGFRが低い症例はさらに低下率が顕著であり,この筆者らはTHPTの術式に亜全摘を推奨している。また,PTx後の腎機能低下のリスク因子を解析した研究では,術前eGFRとともに術後の低PTH値が有意なリスク因子であるとの報告もある[23]。この低PTH値が全摘術後の移植腎機能低下の一つの原因と考えられる。

いずれも十分な症例数におけるエビデンスレベルの高い研究デザインではなく,術式の推奨は積極的には行えない。亜全摘あるいはそれ以下の切除でCa値が正常化しても21-46%の症例で術後もPTH値が遷延高値を示しているという報告があるほか[2425],本邦における全摘+自家移植術における解析では,腎機能への影響はないと報告されており[],後に述べるように長期的な視点で移植腎機能の予後を考える必要がある。

4)THPTに対する治療介入の長期的なアウトカム

4-1)PTx後の長期的腎機能

PTx後の移植腎機能を長期的にフォローされた研究が散見される。腎移植後PTxを受けた患者105名と,受けていない患者180名を対象にした後ろ向き研究では,術後1カ月に低下した腎機能が,6カ月,1年の経過では同等で5年生着率に有意差がなかったと報告されている[21]。その他にもPTxで一過性に低下した腎機能は,3年,10年という長期的なフォローにおいて生着率に有意差を認めたかったという報告もあり[1720],術式が異なっても長期的視点では同様の結果だと報告されている[26]。

●PTx施行時期の視点から

PTxを施行する時期を腎移植前,移植後早期,晩期の3つに分けて移植腎機能を5年間観察した多施設共同研究では,移植後1年以内のPTx症例は5年間の経過で腎機能が有意に低く,1年以降と移植前のPTx症例の腎機能は同等であった。これにより腎移植後のPTxにおける腎機能障害は,移植後早期に行うPTx症例に頻度が高いことが示唆される[23]。また,別の研究では,腎移植前PTxと腎移植後PTxに分類し,後者はさらに1年以内18例,1年以上65例でグループ分けを行い,移植腎機能に与える影響を解析した結果,影響がなかったと報告されている[27]。但しHPTの重症度は明記されていない。その他にも腎移植前PTx67例,腎移植後PTx56例(さらに1年以内と以降)にグループ分けし,約7年間の腎機能を追跡した研究があり,移植後1年以内のPTx症例は,術後低下した腎機能が回復せず,移植後1年以降のPTx症例では手術時のレベルに回復することを報告している文献もある[28]。PTxは移植前か,可能ならば1年以降が望ましいと結論づけている。

移植後早期にPTxをしなければならないような症例,すなわち重症例は,移植前にPTxを済ませて移植に臨み,軽症例は腎移植後の経過を見ながら1年を超えてから介入することが望ましい。Dreamら[29]は,観察研究ではあるが,腎移植後のPTx時期の遅れが腎機能の悪化につながることを報告しており,判断に迷う中等症程度は移植前のPTxが無難と考える。

●PTx前のベースラインの移植腎機能の視点から

PTx前の腎機能を3群に分け術後の腎機能低下率を解析しているが,その低下率は,-25,-8,+1%という結果で,低腎機能の群で腎機能低下が顕著であったと報告している[30]。また,PTx後の腎機能障害のリスク因子を多変量解析した研究では,ベースラインの腎機能が有意であることが報告されている[23]。

以上より,腎移植後のPTxで腎機能に影響を与えるのは,ベースラインの腎機能が不良で,術後早期にPTxを行わなければならない病勢の進んだ症例と考えられ,副甲状腺機能には腎移植前から注目しPTxの時期を逸しないようにすることが必要である[31](表1)。

4-2)移植腎および生命予後

THPT合併患者の移植腎・生命予後に与える影響について報告が散見される。腎移植後におけるTHPT患者568名とnon-THPT患者343名を平均47カ月追跡し生着率を比較した研究では,THPT患者の移植腎予後が有意に不良なことが報告されている[32]。また,Norwegian Registryを対象にした腎機能良好な患者522名の後ろ向き研究では,腎移植後10週目のPTH値で分類し,複合エンドポイント(心血管イベント,生着率,全死亡率)を解析しているが,PTH値135pg/ml以上の患者の予後が最も不良であった[33]。同様に,移植時のPTH値が測定されていた1,840名を5分位に分類し,移植腎や生命予後を比較すると,PTH値が低値に管理された症例の方が良好であった[34]。これらは臨床的に極めて重要な研究結果であるが,腎移植後のTHPTに対する治療介入の予後改善効果を直接例証しているわけではない。

一方,透析期におけるSHPTではPTxによる全死亡率,心血管系罹患率・死亡率などに改善効果があるとの報告が多数あり,それらは世界の各地域から広く報告されている[35]。

Swedenから,PTxを受けた透析患者423名および腎移植患者156名を対象に,PTxのそれぞれの予後に与える影響を検討した研究では,透析患者は既報通り予後改善効果が認められたのに対し,腎移植患者の場合は有意差が認められなかった[36]。理由として考えられる点をlimitationで述べているが,腎移植患者の内訳は様々な腎機能,BKウイルス合併症,移植後糖尿病,原疾患再発などを含む不均衡な集団であったからだと考えられる。

以上より,SHPTではPTxの様々な予後改善効果が示されているが,THPTに対するPTxの予後改善効果を解析したエビデンスレベルの高い報告はなく,今後の臨床研究に注目しなければならない。但しここで重要なことはTHPTの状態が長く継続することの悪影響は想像に難くないということである。

4-3)その他の長期的アウトカム

THPTに対するPTxのアウトカムとして骨折や骨密度への影響がある。THPTの骨折に対する悪影響は報告されているが[37],PTxの効果に関する報告はない。一方,PTxが骨密度に与える影響は研究されており,内科的治療との比較も散見される。THPT患者において,PTx後の骨密度は,calcimimetics投与に比較してより改善することが数多く報告されており,内科的治療の継続よりもPTxが効果的である可能性が示されている[1138]。

おわりに

腎移植後に起こるTHPTの病態から治療法を述べ,主にそのアウトカムについて詳述した。治療介入することで高Ca血症の改善という短期的な効果は十分期待することができる。懸念されるPTx後の移植腎機能の悪化に関しては,ベースラインの腎機能が影響すること,また腎移植後早期のPTxは影響を受けやすい。一方で,腎機能不良例や,重症HPTで移植後早期に手術が必要な症例を除けば,一過性に悪化した腎機能も中長期で観察すると生着率や生命予後には影響がないと考える。SHPTに対するPTxでは,エビデンスレベルの高い研究により,生着率・生命予後改善効果が示されている。THPTについては臨床研究を俟たねばならないが,腎移植患者におけるTHPT合併症例のハードアウトカムは不良であり,PTxによる治療介入が効果的であることは想像に難くないと思われる。

【文 献】
 

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