2021 年 38 巻 3 号 p. 196-200
甲状腺乳頭癌の42歳女性に対して甲状腺全摘術を施行したが,腫瘍の右反回神経への癒着を認めたために甲状腺組織を一部残さざるを得ず,術後に放射性ヨウ素内用療法を行った。その際に,右卵巣への放射性ヨウ素の集積を認めたため,腹部MRI検査を施行したところ右卵巣に多房性囊胞性病変を認め,悪性を否定できない所見であった。また,経過中に血清サイログロブリン(Tg)値の上昇を認めたために右卵巣切除術を施行した。卵巣甲状腺腫の病理診断であった。
卵巣甲状腺腫はすべて,あるいは大部分が甲状腺組織よりなる奇形腫と定義される。甲状腺癌全摘後の放射性ヨウ素シンチグラフィ検査で卵巣への集積を伴う際には,遠隔転移など悪性病変の可能性も考慮しなければならないが,画像検査のみでの鑑別は困難とされる。また,卵巣甲状腺腫を合併する症例は血清Tg値が甲状腺癌全摘後の再発指標として有用性を欠く可能性も示唆された。本症例では確定診断のため卵巣切除が必要であった。