2022 年 39 巻 2 号 p. 127-130
症例は75歳,男性。約3年前より右肺上葉の結節影で定期的な経過観察を受け,その際のCTで増大する左副腎腫瘍を指摘。既往歴として,肝細胞癌にて約4年前,肝後区域切除術施行,限局性前立腺癌にて約2年前より,内分泌療法施行中。右肺上葉の結節影は18mmで,3年間でほとんど変化なし。左副腎腫瘍は内分泌非活性であり,3年前は25mmであったが,42mmに増大していた。また左腎門部に20mmのリンパ節腫大も新しく出現。PET-CT検査では左副腎および左腎門部リンパ節に著明な集積を認め,右肺上葉の結節への集積はわずかであった。副腎腫瘍は原発性か転移性かの術前診断は困難であった。腹腔鏡下左副腎摘除術および左腎門部リンパ節摘除術施行。病理組織の結果は,腺癌であり,免疫染色の結果から肺癌の副腎転移およびリンパ節転移と診断された。転移巣切除で診断された肺癌副腎転移の1例を経験したので報告する。
担癌患者に副腎腫瘍を認めた場合,転移性腫瘍と良性の腺腫との鑑別が問題となるが,副腎腫瘍が増大傾向にある場合は原発性の副腎悪性腫瘍との鑑別が問題となる。今回,肝細胞癌と前立腺癌の既往があり,肺結節影の経過観察中に増大する副腎腫瘍を認め,原発性の副腎皮質癌も疑われたが,腹腔鏡下副腎摘除術後の病理組織診断にて肺癌の副腎転移と診断された1例を経験したので報告する。
患 者:75歳,男性
主 訴:食欲不振
既往歴:心房細動,糖尿病,高血圧,腎機能障害。肝細胞癌にて約4年前,肝後区域切除術および胆囊摘出術施行。病理組織は中分化型肝細胞癌 pT2N0M0 stageⅡ,術後は補助療法なしで経過観察。中リスク群の限局性前立腺癌(Gleason score 3+4=7 cT1cN0M0治療前PSA 10.3ng/ml)にて約2年前より内分泌療法施行中であり,PSAのコントロールは良好。
現病歴:約3年前,肝細胞癌術後の定期的なCT検査で,右肺上葉S1aに最大径18mmの辺縁に境界明瞭なすりガラス影を伴う結節影を指摘。内部にはair bronchogramを認め,胸膜陥入像を伴い,肺腺癌が疑われ,当院呼吸器内科にて精査。気管支鏡検査では擦過細胞診および洗浄細胞診ともにclassⅠであり,定期的な胸部CT検査で経過観察となっていた。その際のCTで増大する左副腎腫瘍を指摘。左副腎の腫瘍径は,約3年前は25mmであったが,4カ月前は27mm,今回42mmに増大し,左腎門部に20mmのリンパ節腫大も新しく出現したため,精査加療目的に当科紹介。
検査所見:血糖 209mg/dl,HbA1c 8.6%,Cr 1.14mg/dl 以外は血液生化学的所見で特記事項なし。
腫瘍マーカー:CEA 5.6ng/ml(基準値0~5,CYFRA 3.0ng/ml (基準値1.0~3.5),ProGRP 67.6pg/ml(基準値0~81),CA 19-9 396.1IU/L(基準値 0~37),AFP 2.9ng/ml(基準値0~8.5),PSA 0.693ng/ml。CA 19-9が明らかに高値であった。
内分泌学的検査:ACTH 30.7pg/ml,コルチゾール 11.5μg/dl,レニン 62.6ng/ml/hr,アルドステロン 20.2ng/dl,DHEA-S 978ng/ml,尿中メタネフィリン 0.07mg/day(0.04~0.18),ノルメタネフィリン 0.38mg/day(0.1~0.28)。左腎動脈の狭窄があり,レニン活性は上昇していたが,副腎腫瘍は内分泌非活性であった。
画像検査:CT検査では右肺上葉S1aの結節影は最大径18mmで約3年前のCTと比較して,明らかな増大傾向や形状の変化は認めなかった。左副腎の腫瘤は42mm,CT値10HU以上で,左腎門部リンパ節は20mmで,ともに内部不均一に造影された(図1)。MRIではT1強調画像およびT2強調画像で低信号を呈し,拡散強調画像では高信号を示していた。辺縁不正で,内部に出血や壊死像は認めなかった。PET-CT検査では右肺上葉の結節のFDG集積はSUV max 1.1~1.4であったが,左副腎にはSUV max 16.7~18.5の集積,左腎門部リンパ節にはSUV max 11.6~13.1の集積を認めた(図2)。

CT検査
A:右肺上葉の結節影(矢印)は3年前と比較して変化なし
B:左副腎腫瘍(矢印)は42mmに増大
C:左腎門部に20mmのリンパ節腫大出現(矢印)

FDG-PET-CT検査
A:右肺上葉の結節影(矢印)への淡い集積
B:左副腎および左腎門部リンパ節(矢印)に著明なFDGの集積
入院後経過:臨床経過と画像所見を総合的に判断したが,副腎腫瘍は原発性か転移性かの術前診断は困難であった。副腎腫瘍およびリンパ節腫大に関しては周囲への浸潤傾向はなく,手術治療で摘除可能と判断した。腹腔鏡下左副腎摘除術および左腎門部リンパ節摘除術施行。経腹膜的アプローチで左副腎腫瘍を摘出後,左腎門部リンパ節を摘出した(図3)。病理組織の結果は,腺癌であり(図4),免疫染色の結果,TTF-1+Napsin A陽性,cytokeratin 7陽性,cytokeratin 20陰性,PSA陰性,hepatocyte陰性であり,肺癌の副腎転移と診断された(図5)。リンパ節も肺癌の転移であった。また,術後のCEAおよびCA 19-9は正常範囲となった。その後は呼吸器内科にて精査加療を行った。右上葉肺癌(腺癌,cT1bN0M1c stage ⅣB)の診断となり,腫瘍組織の免疫染色の結果,PD-L1 TPS(Tumor Proportion Score)70%であり,ペンブロリズマブ投与開始。5クール投与後,敗血症,二次性副腎皮質機能低下症を発症し,加療により症状は軽快したが,患者より積極的治療中止の希望あり,かかりつけ医での緩和ケアの方針となった。術後1年3カ月後のCTでは肺の病変は変化なく,局所再発や転移は認めていない。

摘出標本
A:左副腎腫瘍および左腎門部リンパ節
左副腎は周囲脂肪織を十分つけて摘出
B:ホルマリン固定後の割面像
灰白色調の内部充実性の腫瘍

病理組織像(HE,×40)
腫瘍は中心方向から増殖し,周辺に副腎組織が圧排されている。腫瘍組織は異型のある核を有し,腺管を形成して増殖している。

免疫組織化学染色
TTF-1+Napsin Aおよびcytokeratin 7が陽性であり,肺腺癌の副腎転移と診断された。
転移性副腎腫瘍は副腎偶発腫瘍の3%程度を占め[1],転移性副腎腫瘍の原発巣として,Lamらの報告では,肺が35%と一番多く,続いて胃(14%),食道(12%),肝・胆管(10%),膵臓(7%),大腸(5%),腎臓(4%),乳腺(3%)と報告されている[2]。一方,肺癌の副腎転移は肺,肝,骨,脳に次いで多く,原発性肺癌の副腎転移の頻度は,臨床例では5~10%,剖検例では40%とされ[3,4],臨床的には肺癌の初診時に副腎転移を伴っている同時性の症例や,術後再発での異時性の症例,癌の末期などで遭遇する可能性が高い。
担癌患者に副腎腫瘤が認められた場合は,30~70%は転移性副腎腫瘍であり,残りの大部分は非機能性副腎腺腫であるため,通常は腺腫との鑑別が問題となる[5,6]。転移性副腎腫瘍は単純CTでは10HUを超える吸収値を示し,腺腫との鑑別に役立つ。本症例では腫瘍径が40mmを超える副腎腫瘍であるため,原発性副腎皮質癌との鑑別が問題となった。副腎皮質癌の画像上の特徴としては,70%は径6cm以上で,より大きな腫瘍で浸潤傾向があり,MRIにて出血や壊死を伴い内部不均一である[7]。一方,転移性副腎腫瘍は小さい場合は内部均一で類円形であるが,大きくなると壊死変性を伴って内部不均一かつ辺縁不正となり,画像所見での両者の鑑別は困難である[8]。本症例では担癌患者に発生した増大する副腎腫瘍のため,第一に転移性副腎腫瘍が疑われる。しかしながら,①肺の結節影は確定診断がつかず,胸部CT検査では3年間増大傾向がなかったこと,②PET/CTでのFDGの集積が肺の結節影と副腎腫瘍で明らかに異なっていたことから,肺癌の転移の可能性は低いと判断した。また腫瘍マーカーは上昇なく経過し,前立腺癌や肝細胞癌からの転移も考えにくく,典型的な画像所見ではないが,原発性副腎皮質癌の可能性を否定できなかった。安福ら[9]は,副腎腫瘍は5cm大で,多発肺腫瘍が1cmおよび1.5cmと小さいため副腎腫瘍の多発肺転移と診断し,副腎腫瘍摘出後の病理組織で肺腺癌の副腎転移が疑われた症例を報告している。米田ら[10]は,転移性副腎腫瘍の術後4年経過して診断された肺腺癌症例の報告をしており,肺腺癌症例では原発巣が小さい場合や確認できない場合でも,副腎転移をきたす症例があることは留意すべきである。また,Paulsenら[11]は,転移性副腎腫瘍が疑われる症例に対する経皮的な副腎腫瘤生検の有効性を報告している。しかし副腎皮質癌であった場合は生検による腫瘍の播種の危険性が懸念される[7]。生検は手術が不可能な症例など一部の限られた症例において考慮されるが,その適応は慎重に判断すべきである。
本症例のように臨床的に転移性副腎腫瘍か原発性副腎皮質癌の鑑別が困難でも,完全切除が見込める場合は,手術適応と判断され,治療方針は妥当であったと考える。近年では副腎悪性疾患にも腹腔鏡手術の適応が拡がりつつあるが,良性疾患に対する手術とは異なり,悪性あるいは悪性が疑われる腫瘍に対して腹腔鏡手術を行う場合は,経験豊富な術者が実施することが推奨されている[12,13]。副腎皮質癌に対する欧州内分泌学会のガイドラインでは浸潤傾向がある場合や腫瘍径が6cmを超える場合は,開腹手術を考慮すべきとされている[14]。自験例でも腫瘍は6cm未満で,周囲への浸潤傾向も認めなかった。リンパ節腫大に関しても副腎腫瘍と同側で孤立性であり,同時手術で摘出可能と判断した。当然ではあるが,術中の癒着が強い場合は腹腔鏡手術に固執することなく開腹手術へ移行する準備も整えて腹腔鏡手術に望んだ。
転移巣切除により肺癌の副腎転移が明らかとなった稀な1例を経験した。術前診断では原発性副腎皮質癌と転移性副腎腫瘍との鑑別が困難であった。悪性の副腎疾患に対する腹腔鏡手術の有用性も報告されているが,腫瘍の大きさや周囲臓器との関連だけではなく,術者の技量や施設の経験指数なども含めて,個々の症例に応じて慎重に検討する必要がある。