日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
CASTLE(carcinoma showing thymus-like element)の臨床病理像
大橋 隆治
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2022 年 39 巻 3 号 p. 161-164

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抄録

CASTLE(carcinoma showing thymus-like element)は胸腺上皮性腫瘍に類似した組織像を呈する稀な腫瘍である。 甲状腺内の異所性胸腺組織または胎生期胸腺遺残組織を起源とし,甲状腺下極に発生し易い。50歳代の女性に多く,無痛性の頸部腫瘤や反回神経麻痺を伴う。組織学的に比較的境界明瞭な腫瘤を形成し,大型の充実性胞巣や島状構築を示し,リンパ球浸潤を伴うことが多い。細胞は多角形あるいは紡錘形で,大型の類円型核と明瞭な核小体を持つ。免疫染色ではCD5,Bcl-2,p63,サイトケラチン,c-kitなどが陽性となり,特にCD5は他の甲状腺悪性腫瘍との鑑別に有用である。治療の第一選択は根治切除であり,術後放射線照射や化学療法を追加する場合もある。扁平上皮癌や未分化癌と比較すると,CASTLEの発育,進展は緩徐であり,予後良好な症例が多い。

はじめに

CASTLE(carcinoma showing thymus-like element)は胸腺上皮性腫瘍あるいは扁平上皮癌に類似した甲状腺悪性腫瘍の一種であり,甲状腺癌全体のおよそ0.1~0.15%を占める稀な疾患である。CASTLEは,Miyauchiらにより,甲状腺原発の扁平上皮癌との鑑別を要する疾患としてintrathyroidal epithelial thymoma(甲状腺内上皮性胸腺腫)との名称で1985年に報告された[]。その後,1991年にChanらが,鰓囊に由来する腫瘍群を,1)ectopic hamartomatous thymoma,2)ectopic cervical thymoma,3)SETTLE(spindle epithelial tumor with thymus-like differentiation),4)CASTLE の4つに分類し,この概念は2004年から甲状腺腫瘍WHO分類に導入された[]。

以下,病理医の立場からCASTLEの臨床病理学的な側面について概説する。

病 因

CASTLEの発生機序に関しては未だ不明点が多いが,甲状腺内の異所性胸腺組織または胎生期胸腺遺残組織から発生すると考えられている。発生学的には胎生5週に,胸腺と下上皮小体が第3咽頭囊から発生する過程で,胸腺の一部が下上皮小体から分離せず,甲状腺下極に遺残し,それが発生母地になると推測されており,そのため,甲状腺下極に発生し易いとされている。

臨床的事項

50歳代の女性に多く,無痛性の頸部腫瘤や反回神経麻痺による嗄声などを認め易い[,]。画像診断として,超音波,CT,MRIによる評価が必要となる。鑑別となるのは,甲状腺癌の他,頸部由来の扁平上皮癌,転移性の癌腫などである。CASTLEの場合,超音波検査では分葉状で低エコー示す腫瘤として描出される。Yonedaらは,単純CTでは等吸収となり,MRIではT1強調像で低信号,T2強調で中心が等信号,辺縁は高信号となり,dynamic MRIでは周囲より中心へ向けて徐々に造影されると報告している[]。画像的にCASTLEが疑われた場合でも,術前細胞診のみによる確定診断は困難であり(後述),手術標本による病理組織学的評価が必要である。

病理組織像

肉眼的には,灰白色の腫瘤形成がみられ,分葉状かつ周囲組織に対する圧排性増生パターンを示す(図1)。組織学的に腫瘍の境界は比較的明瞭であり,腫瘍細胞は大型の充実性胞巣,あるいは線維性隔壁により島状構築を示す(図23)。構成細胞は多角形あるいは紡錘形の胞体を持ち,細胞境界は不明瞭である。大型類円型,細顆粒状クロマチンと明瞭な核小体を持ち,N/C比は高い(図4)。種々の程度の角化傾向を伴うことは胸腺上皮への分化を窺わせる(図5)。細胞質内小腺腔がみられる場合もある。胞巣内にはリンパ球浸潤がみられるが,隔壁にもリンパ球浸潤を伴うなど,胸腺癌に類似した組織像を特徴とする(図6)。

図1.

CASTLEの手術検体。甲状腺割面の中心部には,灰白色の腫瘤形成を認める。壊死,出血はみられない。

図2.

CASTLEの病理組織像(HE染色,低倍率)。線維性隔壁を持つ複数の腫瘍胞巣が圧排性に増殖している。周囲組織との境界は比較的明瞭である。

図3.

CASTLEの病理組織像(HE染色,中倍率)。胞巣内では異型細胞が充実性に増生している。

図4.

CASTLEの病理組織像(HE染色,高倍率)。多角形あるいは紡錘形の胞体と類円型核を持つ異型細胞が増生している。クロマチンは細顆粒状で核小体は比較的明瞭である。核分裂像はほとんど目立たない。

図5.

CASTLEの病理組織像(HE染色,高倍率)。角化傾向など,胸腺上皮への分化を窺わせる像を認める。

図6.

CASTLEの病理組織像(HE染色,高倍率)。腫瘍胞巣内および周囲の結合組織内にリンパ球浸潤を伴っており,胸腺癌に類似した像を呈している。

疫学的に稀な疾患であることから,CASTLEの穿刺吸引細胞診に関する報告は限られている。Collinsらは,手術検体でCASTLEと組織学的に診断された10症例の術前細胞診を後ろ向きに検討した。リンパ球に富む背景に合胞体様の細胞集塊がみられる像がCASTLEの特徴と報告しているが,細胞像のみでCASTLEと確定することは困難であり,推定病変の一つとして鑑別に挙げられれば十分であると結論づけている[]。

免疫組織化学的特徴

CASTLEの診断には上記の組織学的特徴に加えて,免疫染色が有用である。CASTLEではCD5,Bcl-2,p63,サイトケラチン,c-kit(CD117)などが陽性となり,TTF-1,thyroglobulin,calcitonin,CEA,s-100は陰性となる(図78)[,]。なかでもCD5はCASTLEや低分化型胸腺癌で陽性率が高く,縦隔内リンパ腫,甲状腺扁平上皮癌,未分化癌では陰性であり,鑑別には有用である。Itoらは,CASTLE の診断に対する免疫染色におけるCD5の感度は82%,特異度を100%と報告している[]。p63,サイトケラチン,CEAは腫瘍が胸腺由来であることの証明となるため,他の甲状腺腫瘍と鑑別するマーカーとして優れている[]。稀であるが,神経内分泌細胞への分化を示すCASTLEの報告もある[10]。

図7.

CASTLEの免疫染色像。腫瘍細胞の細胞膜にCD5がびまん性に陽性となる。CASTLEに特徴的な所見である。

図8.

CASTLEの免疫染色像。腫瘍細胞の核にp63が陽性となる。扁平上皮への分化傾向を示している。

鑑別診断

組織学的に甲状腺原発の扁平上皮癌,扁平上皮様分化を示す未分化癌,あるいは頸部由来の扁平上皮癌,他臓器から転移した癌腫との鑑別を要する。これらの腫瘍からは,浸潤性増殖傾向が顕著でなく,線維性間質を背景として島状の充実性胞巣がみられる点で区別される。その他,B型の胸腺腫の浸潤,リンパ上皮腫の転移なども鑑別の対象となる。

治療・予後

組織学的に類似する扁平上皮癌や未分化癌と比較すると,発育,伸展は緩徐であり,全般的には予後良好な症例が多い[1112]。CASTLEの治療に関する研究報告は少ないが,一般的には胸腺癌に準じて行われる。第一選択は根治切除であり,リンパ節転移陽性例や周囲臓器への浸潤陽性例に対しては頸部リンパ節郭清,周囲組織の合併切除と術後放射線照射を行うことが推奨されている[13]。

Itoらによる根治的切除を行ったCASTLE症例の予後調査によると,術後5年,10年の疾患特異生存率(Cause Specific Survival,以下 CSS)はそれぞれ90%,82%と比較的良好であった[]。リンパ節転移陰性群の5年,10年のCSSはいずれも100%であったのに対し,リンパ節転移陽性例ではそれぞれ76%,57%であった。周囲臓器への浸潤に関しては,陰性群の死亡0例に対して,陽性群の5年,10年CSSはそれぞれ92%,79%であった。また,根治的切除後に放射線治療を受けた10症例のいずれにも局所再発は認めなかった。

術後の放射線治療の効果が低い場合や他臓器に遠隔転移した症例に対しては,化学療法が行われる場合が多い。肺に転移した症例に対し,1st lineとしてシスプラチン,ドキソルビシン,ビンクリスチン,シクロホスファミド,2nd lineとして,カルボプラチン,パクリタキセルを投与して効果を得たとの報告もあるが,標準的な化学療法は未だ確立されていない[14]。

おわりに

以上,CASTLEの臨床病理学的な特徴について解説した。CASTLEは極めて稀な腫瘍であるため,日常の臨床業務で実際に遭遇する可能性は低い。だが,内分泌腫瘍の診断,治療に関わる身としては,基本的な疾患概念や他疾患との鑑別点などは,最低限抑えておくべきであると考える。今後,さらなる症例の蓄積とともにCASTLEの臨床病理学的な側面がより明らかとなることが期待される。

謝 辞

CASTLEの貴重な組織標本をご提供くださりました,がん研有明病院・病理部の千葉知宏先生に深謝いたします。

【文 献】
 

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