日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
甲状腺乳頭癌における術前,術中所見に基づく予後因子
伊藤 康弘宮内 昭赤水 尚史
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2022 年 39 巻 3 号 p. 178-183

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抄録

本項では,乳頭癌の術前術中に評価する予後因子について述べる。中でも年齢は大きな予後因子であり,若年者は再発をきたしやすく,高齢者は再発および癌死をきたしやすい。日本内分泌外科学会編の「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」では,乳頭癌を超低リスク,低リスク,中リスク,高リスクに分類している。これに55歳という年齢のカットオフ値を設けて解析すると,超低/低リスクは年齢に関係なく予後良好である反面,中および高リスクは高齢者の方が予後不良であった。超低/低リスク症例に対しては,広範囲な手術や放射性ヨウ素治療は勧められない。一方で生命予後が良好である若年者の症例でも遠隔再発の可能性が見込まれる場合は,将来的に放射性ヨウ素治療を行うことを見越して治療に当たるべきである。また,高齢者の高リスク症例の治療方針は,全身状態やperformance statusなどを見極めながら個別に決定していくのが妥当と考えられる。

はじめに

今回の特集のテーマとなる甲状腺分化癌は,甲状腺乳頭癌および濾胞癌の総称である。これらは適切に治療されれば概ね予後良好であるが,一部は再発し,時として生命を脅かすことになる。従って治療する側としては,どういう症例の予後が不良となりうるかを知っておく必要がある。乳頭癌と濾胞癌は,その診断までの過程や性質に大きな違いがある。乳頭癌はほとんどの場合,術前に施行される細胞診によって診断がつく。また,術前の画像検査や術中所見によって少なくとも手術時にはある程度予後を推測でき,それに応じた手術および術後の治療を行うことが可能である。一方濾胞癌は遠隔転移がすでにある場合などを除き,術前に診断することが困難である。ほとんどの症例は術後の病理検査で診断がつくのであるが,それによって予後が大きく左右される。従って甲状腺濾胞癌の予後因子は別項に委ね,本項では甲状腺乳頭癌における術前術中の予後因子について述べる。

甲状腺乳頭癌における術前または術中に評価できる予後因子

1)手術時年齢

術前に評価できる予後因子として重要なのは,なんといっても年齢である。年齢は乳頭癌を含む分化癌に対する主なclassification systemすべてに,何らかの形で採用されている。もっとも一般的なUnion for International Cancer Control(UICC)におけるTumor-node-metastasis(TNM)分類においても[],55歳未満の症例は遠隔転移がない限りすべてStageⅠに分類されている。

2)性別

男性であることが予後に影響するかどうかは,過去の文献をみても結果が分かれている。次項に示すように,当院の検討ではさほど強くはないが,予後因子と考えてよいと思われる,TNM分類には採用されていない。

3)腫瘍径

腫瘍径も重要な予後因子として,UICC TNM分類はじめ様々なclassification systemに採用されている。UICC TNM分類ではT因子に属し,55歳以上で4cm以上の症例をT3aとしてStageⅡにupstagingしている[]。

4)腫瘍の甲状腺外浸潤

TNM分類では腫瘍径とともにT因子の中に組み込まれ,癌の浸潤にともなう反回神経麻痺などで術前にわかるものもあるが,基本的には術中所見に基づいて判断される[]。前頸筋群への浸潤はT3b,皮下脂肪組織,喉頭,気管,食道,反回神経のいずれかに浸潤する場合はT4a,椎骨前筋群の筋膜,縱隔の大血管に浸潤するあるいは頸動脈を取り囲む場合はT4bにそれぞれ分類される。55歳以上の症例では,それぞれStageⅡ,Ⅲ,ⅣAにupstagingされる。日本の甲状腺癌取扱い規約では,T3a相当の浸潤をEx1,それ以外をEx2に分類する[]。

5)リンパ節転移

術前の超音波検査やCTで発見される頸部および上縦隔リンパ節転移は,TNM分類ではN因子として採用されている[]。中央区域および上縦隔リンパ節転移をN1a,外側区域への転移をN1bに分類する。55歳以上でN1の症例は転移の場所にかかわらず,StageⅡにupstagingとなる。後述するが日本の研究で,サイズの大きなリンパ節転移や腫瘍のリンパ節の節外浸潤のある症例は特に予後不良であることが報告されている[]。これらはTNM分類には採用されていないが,後述する「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」のリスク分類には組み込まれている[]。

6)遠隔転移

手術時に肺や骨などの遠隔臓器に転移のある症例の予後は,当然不良である。TNM分類ではM因子として採用されており,M1症例の場合,55歳未満はStageⅡ,55歳以上はStageⅣBにそれぞれ分類される[]。

当院における予後因子の検討結果

当院では,今まで乳頭癌の予後因子について検討を重ねてきた。表1aおよび表1bに,乳頭癌5,897例における疾患関連生存および全生存に対する解析結果を示す[]。高齢であること(≥55歳),そして遠隔転移が手術時に存在することはハザード比をみても,強い生命予後因子と考えられる。それ以外にも,Ex2相当の腺外浸潤あるいは節外浸潤,4cmを越える腫瘍径,3cm以上のリンパ節転移も独立した予後因子である。男性であることも,さほど強くはないが予後因子と考えられる。

表1a.

乳頭癌5,897症例の疾患関連生存率に対する単変量および多変量解析

表1b.

乳頭癌5,897症例の全生存率に対する単変量および多変量解析

実はすべての症例がそうというわけではないが(これについては後述する),高齢者であることが予後不良因子であることは過去の報告と矛盾しない。しかしここで覚えておくべきことは,若年者の予後が手放しによいというわけではないことである。表2ab,および表2cは上とは別のシリーズを用いた,術前に遠隔転移を認めなかった(M0)乳頭癌5,733例の予後研究の結果である[]。多変量解析のデータのみを示すが,30歳未満の若年者であることは,独立した局所再発および遠隔再発に対する予後不良因子である。しかし60歳以上と異なり,疾患関連生存予後も不良ということではない。若年者の転移再発は再手術や放射性ヨウ素治療などで比較的コントロールしやすく,高齢者のそれはコントロールが困難であることが,両者の生命予後の差となっていると考えられる。

表2a.

M0乳頭癌5,733症例における局所再発予後因子の多変量解析

表2b.

M0乳頭癌5,733症例における遠隔再発予後因子の多変量解析

表2c.

M0乳頭癌5,733症例における疾患関連生命予後因子の多変量解析

「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」に基づくリスク分類

2018年に出版された当時の日本内分泌外科学会および日本甲状腺外科学会編の「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」では,上述の術前術中因子を取り上げ,それに基づき乳頭癌のリスク分類を行った。本項では,それの意義と問題点について解説する。

表3に,「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」における甲状腺乳頭癌のリスク分類を示す[]。実は超低リスク症例と低リスク症例の予後は変わらないが,超低リスク症例はいわゆる低リスク微小癌であり,アクティブサーベイランスの適応となるため敢えて区別している。高リスクに取り上げられている因子はすべて過去に強い予後因子であるとされたもので,実際に解析してみると確かに,超低および低リスク,中リスク,高リスクの順に予後不良となっていく(図1)[]。しかし,この分類には患者の年齢が含まれていない。前述したように年齢は実に重要な予後因子である。このリスク分類に年齢を加えて再分類した予後曲線を,図2a2bに示す[10]。興味深いことに超低/低リスク症例において,年齢は予後因子にならなかった(図2a)。すなわち年齢に関係なく,これらの予後は非常に良好であった。反面,中リスクおよび高リスクのサブセットでは年齢は大きく予後に影響した(図2b)。どちらのサブセットでも55歳以上の症例は55歳未満の症例に比べて,有意に予後不良であった。そして55歳未満の高リスク症例の予後は,55歳以上の中リスク症例の予後と変わらなかった。さらに,55歳以上の症例で検討すると,中リスク症例の予後は55~64歳,65~74歳,そして75歳以上の三群で差はなかったが,高リスク症例の場合は高齢になるほど有意に疾患関連生存率は低値であった[11]。従って高齢者の高リスク症例の治療は患者の全身状態や平均余命などを考慮し,慎重に行っていかなくてはならない。

表3.

「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」に基づく乳頭癌のリスク分類

図1.

ガイドラインリスク分類と疾患関連生命予後との相関

図2a.

超低/低リスク症例における年齢と疾患関連生命予後との相関

図2b.

中および高リスク症例における年齢と疾患関連生命予後との相関

おわりに

甲状腺乳頭癌の,術前術中所見に基づく予後因子について詳述した。年齢が何といっても,非常に強い予後因子であることがわかる。若年者は再発をきたしやすく,高齢者は再発のみならず癌死をきたしやすい。ただし,臨床的なリンパ節転移や遠隔転移,そして腫瘍の腺外浸潤のような高リスク因子がない症例の予後は年齢に関係なくおしなべて良好であり,拡大手術も含めて過剰な治療は勧められない。どういう症例にどういう術式の手術を行うか,そして放射性ヨウ素治療をどうするかについては現在ガイドラインが改訂中であることもあり,今回は詳述しない。しかし,現時点では局所再発に対しては再手術,遠隔再発に対しては放射性ヨウ素治療が治療の第一選択となる。放射性ヨウ素治療は,特に若年者によく奏効するのは周知の事実である。従って遠隔再発をきたす可能性があると考えられる若年者については,再発時にすみやかに放射性ヨウ素治療が行えるように,甲状腺全摘術を選択するべきである。高齢者の高リスク症例にどういう治療を行うかについては,全身状態やperformance status,そして平均余命を見極めながら個別に決定していくのが妥当である。

【文 献】
 

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