日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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原著
当科における甲状腺全摘術後の副甲状腺機能低下症の発生率
浜口 寛子笹井 久徳中村 彰子小池 良典
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2022 年 39 巻 4 号 p. 272-275

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抄録

甲状腺専門病院を除く施設で耳鼻科医が執刀する甲状腺術後の副甲状腺機能低下症の発生率が高い印象を受けるとともに,カルシウム(Ca)製剤の長期補充による弊害も散見される。当施設における術後副甲状腺機能低下症の頻度を検討し,積極的に副甲状腺およびその血流を温存する術中操作を定型化する意義について考察した。

2019年7月から2020年11月まで,住友病院耳鼻咽喉科において行った甲状腺全摘術50例について術後副甲状腺機能低下症の頻度を検討した。副甲状腺の局在と血流から機能温存を意識した術中操作および自家移植を定型的に実施した。副甲状腺機能低下は,アルブミン補正Ca値が基準値未満と定義し,一過性機能低下症の定義は術後2カ月以内に補充を中止できたもの,永続性機能低下はそれ以降も補充を要したものとした。

永続性機能低下症は,乳頭癌両側外側区域郭清施行の1症例のみであり,積極副甲状腺機能温存を意識した術中操作を定型的に行うことが高い機能温存率に寄与すると考える。

はじめに

バセドウ病,結節性甲状腺腫などの良性疾患,甲状腺悪性リンパ腫や甲状腺癌を含む悪性疾患が甲状腺全摘術の適応となるが,術後副甲状腺機能低下症は甲状腺全摘術において,できる限り回避すべき重要な術後合併症の一つである。

過去の報告によると副甲状腺の血流を1腺以上維持したまま温存できれば機能も温存される[,]が,甲状腺全摘術後の永続性副甲状腺機能低下症の発症率は1~30%と幅がある[]。また,甲状腺癌手術において甲状腺全摘に加えて頸部中央区域リンパ節郭清を同時に行うことが多く,この術式では術後副甲状腺機能低下症の頻度が高いことが報告されている[]。副甲状腺温存するための術中アプローチに一定の基準がなく,施設ごとにその術式が異なることが,副甲状腺機能低下症の発生率の差につながっていると想像される。

当科で2019年7月から2021年7月までの約2年間に甲状腺全摘術を施行した67例について,術後副甲状腺機能低下症の発生率を後方視的に研究した。

対象と方法

対象症例は2019年7月から2021年7月までの2年間に住友病院耳鼻咽喉科において初回で甲状腺全摘術を施行した76例である。甲状腺手術のうち,再手術症例および片葉切除例,術前に骨粗鬆症などで既に活性型ビタミンD製剤の補充がある症例,およびビスフォスフォネートなどの骨代謝に関連する薬剤を使用していた症例は除外した。全摘のみ施行例が27症例と全摘および中央区域郭清(外側区域郭清の追加症例も含む)施行例が49例であった。

観察項目として,対象疾患名,術後の血清Ca・リン(P)・intactPTH・アルブミン・クレアチニン値,術式,副甲状腺温存数および温存方法について電子カルテおよび手術記録からデータ収集した。術式については,甲状腺全摘のみ例と全摘および中央区域郭清施行例(外側区域郭清の追加症例も含む)の2群に大別した。

本研究では,副甲状腺機能低下症の定義を補充の有無に関わらず術後全経過において,血清intactPTH値10未満かつ血清カルシウム濃度が基準値より継続的に低下しているものとし,具体的にはアルブミン補正カルシウム濃度が8.2mg/dLを継続的に下回るものとした。また一過性と永続性の定義について,当科での術後観察期間と副甲状腺の温存方法に関わらず一過性機能低下症例のアルブミン補正Ca値は術3日後にnadirとなり術2週間後の外来血液検査において基準値内へ(ビタミンD製剤の補充がある症例を含むが)回復していた経過および過去の報告[]の基準を考慮し,2カ月以内に乳酸カルシウムおよびビタミンD製剤の補充なしで血中カルシウムを維持できたものを一過性,2カ月以上継続して補充を要したものを永続性と定義した。

当科では上下副甲状腺解剖学的局在と栄養血流を意識し,積極的にin situでの副甲状腺温存を心がけた手順で手術を行った。具体的には,上喉頭神経外枝を確実に温存するよう上極血管を処理した後,甲状腺を飜転させた際に,輪状軟骨のレベルより(右側ではZuckerkandlの結節がある場合はその)頭側の甲状腺裏面に副甲状腺が存在する小脂肪塊を確認し,それを温存するように甲状腺外側の切離ラインをその内側とした。下副甲状腺についてはその局在は上副甲状腺に比べ一定しないが,中央区域郭清を行う場合には郭清組織内から摘出し健側胸鎖乳突筋内に自家移植した。郭清組織内での副甲状腺の見つけ方として,共通の発生学的起源をもつ胸腺の最も頭側先端付着部の甲状腺被膜上を重点的に探索した。中央区域郭清を行わない場合には,小脂肪塊内に存在しうる下副甲状腺をin situに温存すべく,甲状腺飜転した状態で反回神経同定後に甲状腺下極端裏面に突出する小脂肪塊を温存するように甲状腺の切離ラインを決定した。また同時に,副甲状腺の主な栄養血管である下甲状腺動脈およびその枝から副甲状腺への血流を担保するよう留意した。ウニの色をした副甲状腺そのものが目視できる場合には,変色がなくその血流の担保されていることを確認した。上副甲状腺動脈は時に上甲状腺動脈から分枝することも考慮するとともに,副甲状腺が暗赤色に変色した場合には,摘出し生食ガーゼに保存しておき閉創前に細断のうえ健側胸鎖乳突筋内に自家移植した。

術後のCaおよび活性型ビタミンDの補充に関して,術後当日は500mlの維持液にカルチコール注8.5%・5ml(グルコン酸Ca水和物425mg,Caとして3.9mEq)・2Aを混注して8時間で投与し,テタニー時には同カルチコール2Aを生食100mlで1時間かけて追加投与,または乳酸Ca2g/回の内服投与を行った。入院中は術翌日と術後3日目に血液検査を行い,術翌日のCa値とP値を受けてアルファカルシドール(活性型ビタミンD3製剤)カプセル0~2μg,乳酸Ca0~6g/日の内服を開始した。術後2日目にドレーン抜去,術後5~6日目に退院とし,術2週間後,術2カ月後の外来診察時に血液検査を行った。尚,当院のintactPTH測定は外注検査(ECLIA)であるため結果までに時間を要したが,術4~7日目の退院時には術翌日採取血液のintactPTH値を受けてCa・活性型ビタミンD補充量を決定した。

術後副甲状腺機能低下症の発生率を主な評価項目とし,一過性・永続性機能低下についても,術式および温存副甲状腺数別に評価した。尚,当科では近赤外線自家発光やメチレンブルー点滴投与,術中迅速病理診断などの補助的診断法は施行しておらず,リンパ節との判断に迷う場合には移植は控えた。実際に副甲状腺が温存されたか否かについては,摘出病理標本内の副甲状腺の確認も判断材料とした。統計学的解析はEZRソフトを用い,in situに温存した副甲状腺数と術翌日intactPTH値との相関についてKruskal-Wallis検定およびJonckheere-Terpstra検定を行った。尚,本研究は住友病院倫理委員会による承認を得た。

結 果

本研究の対象症例の術前診断は,甲状腺全摘術単独施行ではバセドウ病16例,悪性リンパ腫2例,結節性甲状腺腫4例,巨大甲状腺腫を伴う橋本病2例,中毒性多結節性甲状腺腫3例であった。また,中央区域郭清同時施行は全例甲状腺乳頭癌であり49例であった(表1)。

表1.

甲状腺全摘術の対象疾患別症例数

一過性副甲状腺機能低下症の発生率は43.4%(33例),永続的副甲状腺機能低下症は,全摘のみ施行症例はなく,甲状腺全摘にリンパ節郭清(中央区域および両外側区域郭清)を加えた1例に認め,発生率は1.3%であった。術式・温存副甲状腺数別の一過性および永続性副甲状腺機能低下について,大半の症例で4腺をin situあるいは自家移植にて温存できた結果であった。in situに温存した副甲状腺数と術翌日intactPTH値には相関がみられた(表2)。

表2.

術後副甲状腺機能低下症の発生率(左上)

in situに温存した副甲状腺数と術翌日intact PTH値(右上)

術式・温存副甲状腺数別の一過性・永続性機能低下症例数(下)

考 察

当科の一過性機能低下症の発症率は過去の報告と差異はなく,永久的機能低下症の発症率については,過去の報告と比較して低めに位置する結果であった[]。前述のように甲状腺の解剖学的局在とその栄養血流の温存を意識した術中操作をルーチンに行っていることが高い機能温存率に寄与したと考える。過去の報告によると少なくとも1腺を温存することで永続性機能低下症は回避でき[,],機能低下発生率は温存数に逆相関する[]。当科では定型化したアプローチのもとで大半の症例で4腺を温存できた。このことから,積極的に副甲状腺およびその血流を温存することを意識した術中操作を定型化することによって,安定して術後の副甲状腺機能を担保することが可能であると考える。

尚,2腺in situ温存かつ2腺自家移植例で一過性機能低下が多い結果であり,また永続性となった1例も上2腺はin situに温存したはずであった。これらin situに温存した腺の機能低下の要因は血流障害であろう。上副甲状腺の血流に関して,上副甲状腺動脈は下甲状腺動脈からの分枝であることが多いことはよく知られるが,上甲状腺動脈から分枝する場合,上甲状腺動脈と下甲状腺動脈間の吻合から分枝する場合がある[]。当科では積極的に副甲状腺およびその血流を温存する定型的なアプローチを行っているが,当科で永続性機能低下を生じた症例に関しては,過去の報告にも両側外側区域郭清がリスク因子とあるように[],両側外側区域郭清を行うことを受けて,上甲状腺動脈から上副甲状腺動脈が分枝する前での結紮処理,上下甲状腺動脈の吻合血管を結紮処理,下甲状腺動脈を結紮する操作が入ったことが影響したのではないかと考える。様々な血管支配のパターンを考慮のうえ,血流温存の確率が上がる手技が重要である。

本研究のlimitationとして,米国および欧州でのアンケート調査[],および日本での2017年のアンケート調査[]の基準では6カ月以内に軽快するものは一過性副甲状腺機能低下症とし,6カ月を越えて継続するものは永続性副甲状腺機能低下症としているが,本研究では観察期間が短いため長期の副甲状腺機能については検討できていないことが挙げられる。

おわりに

当科では積極的な副甲状腺機能温存を意識した術式,すなわち左右の上副甲状腺は解剖学的局在・血流を意識してin situに温存,下副甲状腺は中央区域郭清を行った場合であってもその解剖学的位置を意識した探索を行い積極的な自家移植をルーチンに行っており,永続的副甲状腺機能低下症の発生率を低く抑えることができた。

副甲状腺の解剖学的局在を意識し積極的に副甲状腺機能を温存する術式を定型的に行うことが,術後副甲状腺機能低下症を予防する上で重要となると考える。

【文 献】
 

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