2021 年 19 巻 p. 1-26
最適資産配分問題において収益率分布の推定はパフォーマンスに大きく影響する重要なプロセスである.これまでに様々な推定方法が提案されてきたが,近年特に注目を集めているのがRoss (2015)のRecovery Theorem (RT)を用いる方法である.この方法では過去データを利用せずに,推定時点のオプションの市場価格からフォワードルッキングな分布を推定できることから,資産配分において高いパフォーマンスを獲得できることが期待されている.そこで,本研究では株式と無リスク資産の2資産に対する最適資産配分問題を対象として,米国および日本における約20年間のバックテストの結果をもとに推定方法の特徴を整理し,パフォーマンスを比較する.分析結果からRTを用いた方法は多くのケースにおいて相対的に高いパフォーマンスを獲得できることが確認できた.また,RTを用いた方法とその他の方法の大きな違いは分布の平均(期待リターン)の推定値に現れ,その違いがRTを用いた方法の高いパフォーマンスに大きく寄与していることもわかった.これらの結果は資産配分においてフォワードルッキングな方法で期待リターンを推定することの重要性を示唆するものである.
投資家が株式や債券などの資産クラスに対する投資比率を決める問題を最適資産配分問題という.最適資産配分問題において投資比率を決定するプロセスは,(1)投資資産の収益率分布の予測,(2)投資家の効用(リスク回避度)の把握,(3)投資家の期待効用を最大化する投資比率の計算,の3つに分けられる(Sharpe(1987)).この中でも投資資産の収益率分布の予測は投資パフォーマンスに大きく影響する重要なプロセスである.先行研究においては収益率分布を推定するための様々な方法が提案・検証されているが,それらの方法は大まかに以下で説明する4つのタイプに分類できる.
1つ目は過去に実現した収益率分布(経験分布)を平滑化して将来の予測分布として用いる方法である.基本的に過去データの観測順序は考慮せず,分布が定常であることを前提として推定を行う.具体的には,カーネル密度推定によってノンパラメトリックに経験分布を平滑化する方法や,何らかの分布形を仮定して過去データからパラメータを推定する方法がある.感覚的にわかりやすく,実装も比較的容易であることから実務においてもよく利用されている.
2つ目は時系列モデルを用いる方法である.金融資産リターンのモデル化にはボラティリティクラスタリング(リターン変動の大きい時期が集中して現れる傾向)を表現可能なGARCH(generalized autoregressive conditional heteroscedasticity)モデル(Bollerslev(1986))や,それにボラティリティクラスタリングの非対称性(レバレッジ効果)を表現する項を加えたGJR-GARCHモデル(Glosten et al.(1993))などが利用されることが多い.実際の金融市場で観測される非定常性をモデル化し,過去データの観測順序を考慮して推定を行うことで,分布の時系列的な変化をよりダイナミックに捕捉できる方法である.
1つ目と2つ目の方法のように過去データから推定した分布は総称してヒストリカル分布と呼ばれる.それに対してオプションの市場価格から推定した分布はインプライド分布と呼ばれる.オプション市場参加者は推定時点において利用可能な全ての情報を利用して将来の収益率分布を予想し取引を行う.市場参加者の予測をオプション価格から逆算したものがインプライド分布である.このため,インプライド分布は推定時点において利用可能な全ての情報が反映されたフォワードルッキングな分布といえる.ただし,オプション価格から直接計算できる分布はリスク中立確率測度の下での分布(インプライドリスク中立分布)であり,資産配分に利用する場合には投資家のリスク選好を考慮して実確率測度の下での分布(インプライド実分布)へ変換(リスク調整)する必要がある.3つ目と4つ目の方法はどちらもインプライド実分布を推定するという点では同じであるが,リスク調整に用いる投資家のリスク選好の推定方法が異なる.
3つ目は過去データを組み合わせて投資家のリスク選好を推定し,インプライド実分布を計算する方法である.リスク中立分布をもとに実現リターンの予測を行った場合に生じる予測のバイアスが投資家のリスク選好に起因すると考えて,そのバイアスが小さくなるようにリスク調整のパラメータを推定する.例えば,Bliss and Panigirtzoglou(2004)は代表的投資家の効用関数にCRRA(constant relative risk aversion)型もしくはCARA(constant absolute risk aversion)型を仮定し,過去の実現リターンに対する整合性が最も高くなるリスク回避度を推定している.また,Shackleton et al.(2010)は確率測度を調整する関数(キャリブレーション関数)を,カーネル密度推定で過去の実現リターンと整合的になるように推定している.
4つ目はRoss(2015)の導出したRecovery Theorem(RT)と呼ばれる定理を用いてオプション価格に内包されている投資家のリスク選好を推定し,インプライド実分布を計算する方法である.RTが導出される以前はオプション価格から投資家のリスク選好を推定することは難しいと考えられていたが,Ross(2015)は複数の満期に対する価格情報を用いることでそれが可能であることを示した.過去データを一切用いることなく,推定時点の市場価格の情報のみを用いてフォワードルッキングな分布を推定できるという点で注目されている,比較的新しい推定方法である.
表記を簡潔にするため,以降ではこれら4タイプの推定方法を順に,ヒストリカル(経験分布)法,ヒストリカル(時系列モデル)法,インプライド(ヒストリカル)法,インプライド(RT)法と記載する.
収益率分布の推定方法と資産配分のパフォーマンスの関係を検証している先行研究として,Kostakis et al.(2011),Zdorovenin and Pézier(2011),木村・枇々木(2010),霧生・枇々木(2014)が挙げられる.Kostakis et al.(2011)は米国株式と無リスク資産の2資産に対する最適資産配分問題を対象に1992年3月から2007年8月までの期間のデータを用いて,ヒストリカル(経験分布)法とインプライド(ヒストリカル)法を比較し,インプライド(ヒストリカル)法を用いた場合により高いパフォーマンスが得られることを示している.また,ヒストリカル(経験分布)法の代わりにヒストリカル(時系列モデル)法を用いても同様の結果であることを確認し,資産配分においてはインプライド(ヒストリカル)法を用いることが有効であると結論づけている.ただし,2007年9月から2009 年12月までの金融危機前後のデータを用いて検証を行った場合はヒストリカル(経験分布)法のパフォーマンスが高くなり,局面による違いが存在することも示している.
Zdorovenin and Pézier(2011)も米国株式と無リスク資産の2資産に対する最適資産配分問題を対象に,ヒストリカル(時系列モデル)法とインプライド(ヒストリカル)法のパフォーマンスを比較している.結果は分析期間によって異なっており,前半期間(1994年1月から2000年3月)はインプライド(ヒストリカル)法のパフォーマンスが高く,金融危機の局面を含む後半期間(2000年4月から2009年9月)はヒストリカル(時系列モデル)法のパフォーマンスが高くなることを示している.
木村・枇々木(2010)および霧生・枇々木(2014)は日本の機関投資家(年金基金など)を想定した伝統的4資産(国内株式・海外株式・国内債券・海外債券)に対する資産配分問題を対象としてヒストリカル(経験分布)法とインプライド(ヒストリカル)法のパフォーマンスを比較している.どちらの研究においてもインプライド(ヒストリカル)法のパフォーマンスが高くなるという結果が得られている.特に,霧生・枇々木(2014)はインプライド(ヒストリカル)法におけるリスク調整が運用パフォーマンスに与える影響に関しても検証を行い,過去データから投資家のリスク選好を適切に推定することは難しく,過去データを用いたリスク調整はパフォーマンスを低下させる要因であることを示している.
このように先行研究では,インプライド実分布(インプライド(ヒストリカル)法)を用いた場合とヒストリカル分布(ヒストリカル(経験分布)法やヒストリカル(時系列モデル)法)を用いた場合のパフォーマンスを比較することに重点が置かれているものが多く,インプライド(RT)法を含めて分布の推定方法を包括的に比較している研究は筆者らの知る限り存在しない3.先行研究においてはインプライド(ヒストリカル)法がフォワードルッキングな推定方法として扱われていることも多いが,この方法はリスク調整に過去データを用いる必要があり完全にフォワードルッキングな方法とはいえない.それに対してインプライド(RT)法はリスク調整にも過去データを使用しない完全にフォワードルッキングな推定方法であるため,推定に過去データを用いる方法に比べて高いパフォーマンスを獲得できることが期待される.さらに,Audrino et al.(2019),Flint and Maré(2017),森川(2018)はそれぞれ米国株式市場,南アフリカ株式市場,為替市場においてインプライド(RT)法で推定した分布のモーメントを用いた単純なルールベースの取引戦略の有効性を示しており,この点からもインプライド(RT)法の高いパフォーマンスの獲得が期待される.
以上のことから,分布推定方法が資産配分のパフォーマンスに与える影響に関してインプライド(RT)法を含めて比較を行うことは重要である.また,インプライド(RT)法を用いた場合の分布のモーメント統計量や投資比率に関して他の推定方法とどのような違いがあるのかということも明らかになっていない.実務においてどの推定方法を用いるか検討するためには,それぞれの推定方法の特徴とその違いに関して整理しておく必要がある.
そこで本研究では,インプライド(RT)法を含めた上記4タイプの推定方法を比較することで,分布推定方法が資産配分のパフォーマンスに与える影響を検証する.分析は株式と無リスク資産の2資産に対する資産配分問題を対象とし,Kostakis et al.(2011)および Zdorovenin and Pézier(2011)と同様の枠組みで検証を行う.米国および日本における2000年1月から2019年9月までのバックテストの結果をもとに資産配分の特徴の違いを整理し,パフォーマンスを比較する.表1に主な先行研究との違いをまとめておく.
Kostakis et al. (2011) | Zdorovenin and Pézier(2011) | 霧生・枇々木(2014) | 本研究 | |
投資資産 | 株式・ 無リスク資産 |
株式・ 無リスク資産 |
株式・債券 | 株式・ 無リスク資産 |
目的関数 | 期待効用 最大化 |
期待効用 最大化 |
CVaR 最小化 |
期待効用 最大化 |
市場(国) | 米国 | 米国 | 米国・日本† | 米国・日本 |
バックテスト期間 | 1992–2009 | 1994–2010 | 2000–2013 | 2000–2019 |
ヒストリカル(経験分布) | 〇 | × | 〇 | 〇 |
ヒストリカル(時系列モデル) | 〇 | 〇 | × | 〇 |
インプライド(ヒストリカル) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
インプライド(RT) | × | × | × | 〇 |
† 日本の投資家を想定しているが,米国株式と米国債券も投資対象に含めて検証を行っている.
分析結果から,米国と日本のどちらにおいてもインプライド(RT)法を用いた方法が相対的に高いパフォーマンスを獲得できることがわかった.この結果は複数の効用関数のタイプ,複数のリスク回避度,複数のパフォーマンス評価尺度,取引コストの有無,各タイプ内における推定方法の違いに依らず同様であった.また,インプライド(RT)法とその他の方法の大きな違いは分布の平均(期待リターン)の推定値に現れ,その違いがインプライド(RT)法の高いパフォーマンスに大きく寄与していることもわかった.これらの結果は資産配分においてフォワードルッキングな方法で期待リターンを推定することの重要性を示唆するものである.
本稿の構成は次の通りである.2節では本研究で比較する収益率分布の推定方法を4つのタイプに分けて説明する.3節で最適資産配分の決定方法や分析に利用するデータを示す.4節でそれぞれの推定方法によるモーメント統計量や投資比率の違いから各推定方法の特徴を考察し,バックテストのパフォーマンスを比較する.また,分布のどのモーメントがパフォーマンスの違いに寄与していたのかに関しても分析を行う.5節では様々な条件のもとで検証を行い,4節で得られた結果のロバスト性に関して検討する.最後に6節で結論と今後の課題を述べる.
本節では株式の収益率分布を推定する方法に関して1節で説明した4つのタイプに分けて説明する.これまでに非常に多くの推定方法が提案されており,各タイプ内でも様々な推定方法が存在するが,本研究では4つのタイプの違いに関して分析するため,それぞれの代表的な方法を用いて推定を行う.各タイプ内での推定方法の違いが分析結果に与える影響に関しては5節で議論する.
2.1 ヒストリカル(経験分布)法ヒストリカル(経験分布)法の代表的な方法としてKostakis et al.(2011)でも用いられている,ガウシアンカーネルによる密度推定法がある.パラメータ推定期間数を
\begin{align} f^P_t(r) = \frac{1}{LB}\sum_{l=0}^{L-1} \phi \left( \frac{r - r_{t-l}}{B}\right) \end{align} | (1) |
ヒストリカル(時系列モデル)法に関しては,Zdorovenin and Pézier(2011)でも利用されている,GJR-GARCH(1,1)モデルを用いて推定を行う.GJR-GARCH(1,1)モデルは (2)-(4) 式で表される,ボラティリティクラスタリングの非対称性(レバレッジ効果)を考慮可能な時系列モデルである.
\begin{align} \tilde{r}_{t+1}&=\mu + \tilde{u}_{t+1} \\ \end{align} | (2) |
\begin{align} \tilde{u}_{t+1}&=\sigma_{t+1} \tilde{\epsilon}_{t+1} \\ \end{align} | (3) |
\begin{align} \sigma_{t+1}^2 & =\omega + \alpha u_t^2 + \beta\sigma_t^2 + \zeta u_t^2 I_t \quad (\omega>0,\ \alpha \geq 0,\ \beta\geq 0,\ \alpha+\zeta \geq 0 ) \end{align} | (4) |
インプライド(ヒストリカル)法で分布を推定する場合,(1)オプション価格からリスク中立分布を推定し,(2)過去データを組み合わせて投資家のリスク選好を推定し,リスク中立分布を実分布にリスク調整する,という 2 つの手順が必要になる.
まず,オプション価格からリスク中立分布を推定する方法に関して説明する.ここでは,推定時点を表す添字
\begin{align} c(k,\tau)=e^{-r^f \tau}\int_0^\infty f_{\tau}^Q(x)\max(x-k,0)dx \end{align} | (5) |
(5) 式の両辺を
\begin{align} f_{\tau}^Q(x)=\left.e^{r^f \tau}\frac{\partial^2 c(k,\tau)}{\partial k^2}\right|_{k=x} \end{align} | (6) |
市場で取引されているオプションは満期,行使価格の両方に関して離散的であるため,(6)式を用いてリスク中立分布を計算するにはオプション価格を
次にリスク中立分布を実分布にリスク調整する方法に関して説明する.本研究ではKostakis et al.(2011)や Zdorovenin and Pézier(2011)と同様に,Bliss and Panigirtzoglou(2004)によって提案された代表的投資家の効用に CRRA型を仮定する方法を用いる.この方法ではリスク中立分布をもとに実現リターンの予測を行った場合に生じるバイアスが投資家のリスク選好に起因すると考えて,最適なリスク調整のパラメータを推定する.市場は完備で裁定機会は存在しないものとし,時間分離可能な効用を持つ代表的投資家の存在を仮定すると,リスク中立分布
\begin{align} e^{-r^f \tau}f_{\tau}^Q(x)= e^{-r^s \tau}h(x)f_{\tau}^P(x) \end{align} | (7) |
ここで
\begin{align} \int _{0}^\infty f_{\tau}^P(x)dx=1 \end{align} | (8) |
が成り立つ.また,市場参加者の効用関数にCRRA型効用を仮定した場合には,
\begin{align} f_{\tau}^P(x)=\frac{x^\gamma f_{\tau}^Q(x)}{\int _{0}^\infty y^\gamma f_{\tau}^Q(y)dy} \end{align} | (9) |
(9)式は資産価格
\begin{align} f_{\tau}^P(r)=\frac{(1+r)^\gamma f_{\tau}^Q(r)}{\int _{-1}^\infty (1+u)^\gamma f_{\tau}^Q(u)du} \end{align} | (10) |
この式は代表的投資家のリスク回避度
\begin{align} z_{t+1}=\rho z_t+\epsilon _t, \quad \epsilon_t \sim N(\mu ,\sigma) \end{align} | (11) |
Berkowitz検定の検定統計量である尤度比
\begin{align} LR= -2(LL(0,1,0)-LL(\hat{\mu},\hat{\sigma},\hat{\rho})) \end{align} | (12) |
と定義される.このとき,
インプライド(RT)法で分布を推定する場合も(1)オプション価格からリスク中立分布を推定し,(2)投資家のリスク選好を推定し,リスク中立分布を実分布にリスク調整する,という手順が必要になる.リスク中立分布を推定する方法はインプライド(ヒストリカル)法の場合と同じであるため,ここではRTを用いたリスク調整の方法に関して説明する.Ross(2015)は状態価格が時間的に一様なマルコフ性を持つという仮定を置いてRTを導出しているが,その仮定を必要としない形に一般化された定理がJackwerth and Menner(2020)およびJensen et al.(2019)によって導出されている.本研究ではこの一般化された定理をもとに推定を行う8.
RTは離散時間離散状態の多期間モデルの枠組みで導かれている. (7) 式を離散化して表現すると
\begin{align} e^{-r^f \tau_i}f_{i,s}^Q=e^{-r^s \tau_i}h_sf_{i,s}^P \quad (i=1,\ldots,I ; \: s=1,\ldots,S) \end{align} | (13) |
となる.ここで
\begin{align} \pi_{i,s}=\delta^{\tau_i}h_sf_{i,s}^P \quad (i=1,\ldots,I ; \: s=1,\ldots,S) \end{align} | (14) |
となる.(14) 式は行列表現
\begin{align} \begin{bmatrix} \pi_{1,1} & \cdots & \pi_{1,S} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ \pi_{I,1} & \cdots & \pi_{I,S} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} h^{-1}_{1} \\ \vdots \\ h^{-1}_{S} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} \delta^{\tau_1} \\ \vdots \\ \delta^{\tau_I} \end{bmatrix} \end{align} | (15) |
となる.方程式の数は
\begin{align} \delta^{\tau_{i}} \approx a_{i} + b_{i} \delta \quad \mbox{ただし,}\quad a_i=-(\tau_{i}-1)\delta_0^{\tau_{i}},\quad b_i=\tau_{i} \delta_0^{\tau_i-1} \quad (i=1,\ldots,I) \end{align} | (16) |
(16)式および
\begin{align} \begin{bmatrix} -b_1& \pi_{1,1} & \cdots & \pi_{1,s_{0}-1} & \pi_{1,s_{0}+1} & \cdots & \pi_{1,S} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ -b_I& \pi_{I,1} & \cdots & \pi_{I,s_{0}-1} & \pi_{I,s_{0}+1} & \cdots & \pi_{I,S} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \delta \\ h^{-1}_{1} \\ \vdots \\ h^{-1}_{s_{0}-1}\\ h^{-1}_{s_{0}+1}\\ \vdots \\ h^{-1}_{S} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} a_1 - \pi_{1,s_{0}} \\ \vdots \\ a_I - \pi_{I,s_{0}} \end{bmatrix} \end{align} | (17) |
を得る.さらに,この式を行列
\begin{align} \boldsymbol{B h_\delta} = \boldsymbol{a_{\pi}} \end{align} | (18) |
主観的割引係数に関する制約の下で(18)式の両辺の差を小さくするように
\begin{align} \min_{\boldsymbol{h_\delta}} \qquad &||\boldsymbol{B}\boldsymbol{h_\delta}-\boldsymbol{a_{\pi}}||_2^2\\ \label{eq:original_c1} \end{align} | (19) |
\begin{align} \text{subject to} \qquad & 0<\delta \leq 1 \end{align} | (20) |
本研究ではインプライド(ヒストリカル)法の場合と同様に代表的投資家の効用関数にCRRA型
なお,推定においては満期はその間隔を次の月末日までの日数で一定とし,最大満期
本研究では株式の従う収益率分布を様々な方法で推定し,株式と無リスク資産の2資産に対する資産配分のアウトサンプルのパフォーマンスを比較する.検証は米国と日本の2つの市場で行い,バックテスト期間は2000年1月31日から2019年9月30日までの236ヶ月間とする.また,リバランスは月次(各月の最終営業日)で行うものとし,極端な投資比率による影響を避けるため,Kostakis et al.(2011)に倣い,株式への投資比率に
2節で説明した4タイプの推定方法(ヒストリカル(経験分布)法,ヒストリカル(時系列モデル)法,インプライド(ヒストリカル)法,インプライド(RT)法)を比較する.ただし,インプライド(RT)法以外の推定に過去データを用いる方法に関しては,パラメータ推定期間によって推定結果が変化することが想定されるため,Kostakis et al.(2011)と同様に
Kostakis et al.(2011)およびZdorovenin and Pézier(2011)と同様の枠組みで株式と無リスク資産の2資産に対する資産配分問題を考える.リスク資産を株式の1資産のみとすることで他の資産の影響を考える必要がなく,分布推定方法がパフォーマンスに与える影響をより直接的に計測できる.比較的シンプルな設定であるが,株式と無リスク資産の2資産に対する資産配分は実務でも多く扱われている.例えば,マーケット・タイミング戦略は将来見通しをもとにリスク資産に対する投資比率を機動的にコントロールする戦略である.また,個別株式ポートフォリオの市場エクスポージャー(ベータ)のコントロールも広い意味では株式に対する投資比率を決定する問題といえる.また,投資家の効用関数としてはCRRA型を想定し,リスク回避度が
時点
\begin{align} \max_{w_t}\quad E_t\left[U\left(\tilde{W}_{t+1}\right)\right] \qquad \mbox{ただし,} \ \tilde{W}_{t+1}=1+{r^f_t+(\tilde{r}_{t+1}-r^f_t)w_t} \end{align} | (21) |
計算を簡単にするため,最適投資比率の計算には(21)式を期待富
\begin{align} \max_{w_t}\quad &E_t\left[U\left(\tilde{W}_{t+1}\right)\right]\nonumber \\ &\approx \frac{\overline{W}_{t+1}^{1-\gamma}-1}{1-\gamma}-\frac{\gamma}{2} \overline{W}_{t+1}^{(-\gamma-1)} M^2_{t+1}+\frac{\gamma(\gamma+1)}{6} \overline{W}_{t+1}^{(-\gamma-2)} M^3_{t+1} - \frac{\gamma(\gamma+1)(\gamma+2)\overline{W}_{t+1}^{(-\gamma-3)}}{24} M^4_{t+1}\\ \end{align} | (22) |
\begin{align} &\mbox{ただし,}\quad \overline{W}_{t+1} = E_t[\tilde{W}_{t+1}]=1+{r^f_t+(E_t\left[\tilde{r}_{t+1}\right]-r^f_t)w_t} \end{align} | (23) |
ここで,
\begin{align} &M^2_{t+1}=w_t^2E_t\left[\left(\tilde{r}_{t+1}-E_t\left[\tilde{r}_{t+1}\right]\right)^{2}\right]\label{eq:moment2}\\ \end{align} | (24) |
\begin{align} &M^3_{t+1}=w_t^3E_t\left[\left(\tilde{r}_{t+1}-E_t\left[\tilde{r}_{t+1}\right]\right)^{3}\right]\label{eq:moment3}\\ \end{align} | (25) |
\begin{align} &M^4_{t+1}=w_t^4E_t\left[\left(\tilde{r}_{t+1}-E_t\left[\tilde{r}_{t+1}\right]\right)^{4}\right]\label{eq:moment4} \end{align} | (26) |
パフォーマンスは最適資産配分問題の目的関数と整合的な評価指標である,確実性等価リターン(CER)を用いて評価する.CERはポートフォリオの実現リターンと同等の効用が得られる無リスクリターンの水準を表す指標であり,次のように定義される.ここで
\begin{align} CER=U^{-1}\left( \frac{1}{T}\sum_{t=1}^T U\left(R_t\right)\right) \end{align} | (27) |
また,実務でよく使用される指標としてシャープレシオの観点からもパフォーマンス評価を行う.シャープレシオ
\begin{align} SR = \frac{\overline{R}-\overline{r}^f}{\sigma_R} \end{align} | (28) |
株式と無リスク資産の2資産に対する資産配分を考える場合,シャープレシオによる評価ではCERによる評価とは異なり平均的な投資比率の水準にはほとんど影響されず,投資比率変更タイミングの優劣を評価する指標となる13.また,パフォーマンス評価にあたり,取引コストの影響は特に考慮しないが,この点に関しては5節で議論する.
3.4 データ米国における株式のリターンはS&P500指数,無リスク資産のリターンはLIBOR USD 1Mをもとに計算する.日本における株式のリターンは日経平均株価(日経225)指数,無リスク資産のリターンはLIBOR JPY 1Mをもとに計算する.バックテスト期間における各投資対象の月次リターンの統計量を表2に示す.米国と日本のどちらにおいても株式の分布は無リスク資産の分布と比較して,平均が高く,標準偏差が大きく,歪度が小さくなっている.
米国 | 日本 | ||||
株式(S&P500) | 無リスク資産 (LIBOR USD 1M) |
株式 (日経225) |
無リスク資産 (LIBOR JPY 1M) |
||
サンプル数 | 236 | 236 | 236 | 236 | |
平均(年率) | 4.93% | 1.93% | 2.41% | 0.15% | |
標準偏差(年率) | 14.52% | 0.56% | 19.10% | 0.06% | |
歪度 | -0.602 | 1.009 | -0.551 | 1.713 | |
超過尖度 | 1.173 | -0.202 | 0.783 | 2.269 | |
最大値 | 10.77% | 0.56% | 12.85% | 0.08% | |
最小値 | -16.94% | 0.01% | -23.83% | -0.01% | |
シャープレシオ(年率) | 0.206 | 0 | 0.118 | 0 | |
相関係数 | -0.131 | -0.186 |
インプライド分布を推定する場合にはオプション価格データを用いるが,米国市場における分析にはシカゴ・オプション取引所(CBOE)で取引されているS&P500指数オプション,日本市場における分析には大阪取引所で取引されている日経225オプションの価格データを用いる.なお,S&P500指数オプションの価格には取引終了時点におけるbid価格とask価格の平均値(仲値)を利用して分析を行った.日経225オプションの価格に関しては,今回分析に利用したデータセットではbid価格やask価格の情報が利用できなかったため,終値を利用して分析を行った.終値を用いて分析を行う場合には最後に取引成立した時点が取引終了時点付近であるとは限らず,データの非同期性の問題が発生するため,仲値を用いて分析した場合に比べてノイズが大きくなる可能性がある.流動性が低いオプションデータによるノイズの影響を緩和するため,以下の条件に当てはまるデータを除外した上で分析を行う.
また,インプライドボラティリティを計算する際の無リスク金利としてはLIBOR USD(米国)もしくはLIBOR JPY(日本)を線形補間して利用する.
分布を推定する際に最大で72ヶ月前のデータを用いる必要があるため,1994年1月31日から2019年9月30日のデータを分析に利用している.
各方法で推定した分布の特徴を確認するため,図1に分布のモーメント統計量の推移を示す.平均と標準偏差は年率換算した値,尖度は正規分布の尖度を0とした場合の値(超過尖度)を示している.また,紙面の都合上,推定に過去データを用いる方法のパラメータ推定期間は
図1 分布のモーメント統計量
各推定方法に関して米国と日本の両方において概ね共通の特徴が見られた.まず,平均はインプライド(RT)法のみがその他の3つの方法とは大きく異なった動きをしており,それ以外の3つの方法は類似した動きをしている.この点についてより詳しく考察するため,表3に各分布の平均と過去60ヶ月ローリング平均リターンおよびボラティリティインデックス(VI)15との相関係数(スピアマンの順位相関)を計算した結果を示す.
米国 | 日本 | ||||
リターン60M | VI | リターン60M | VI | ||
ヒストリカル (経験分布) | 1.00 | -0.19 | 1.00 | -0.28 | |
ヒストリカル(時系列モデル) | 0.67 | -0.01 | 0.93 | -0.27 | |
インプライド (ヒストリカル) | 0.79 | -0.06 | 0.90 | -0.20 | |
インプライド (RT) | -0.28 | 0.54 | 0.28 | 0.31 |
まず,過去60ヶ月ローリング平均リターンとの相関を確認すると,ヒストリカル(経験分布)法はその推定方法から必然的に分布の平均と過去60ヶ月ローリング平均リターンが常に一致するため,相関係数は1となる.ヒストリカル(時系列モデル)法を用いた場合の相関は米国で0.67,日本で0.93,インプライド(ヒストリカル)法の場合は米国で0.79,日本で0.90と比較的高い値となっている.一方で,インプライド(RT)法の過去リターンとの相関に関しては米国で−0.28,日本で0.28と他の3つと比べると大幅に低い値となっている.このことから,インプライド(RT)法を除いた3つの方法は推定に過去データを利用する方法であるため,いずれの方法も分布の平均が推定期間の平均リターンに近い値となり,互いに類似した動きをしていたと考えられる.一方で,インプライド(RT)法に関してはVIとの相関係数が米国で0.54,日本で0.31と正の相関が見られた.これは市場参加者がリスクに対するプレミアムを期待していることを示している.インプライド(RT)法を用いた場合にリスク中立分布の標準偏差とリスク調整後の分布の平均が正の相関を持つという結果はAudrino et al.(2019)や伊藤ら(2019)と整合的である.ただし,相関係数の値はそれほど高い値ではないことから,分布の平均の変化にはリスク以外の要素も相応に寄与しているといえる.なお,インプライド(RT)法を除いた3つの方法に関してはVIとの相関係数がいずれもマイナスとなっているが,これは株価の下落局面(過去リターンの低い局面)でVIが上昇する傾向があるためである.
標準偏差,歪度,超過尖度に関してはインプライド(ヒストリカル)法とインプライド(RT)法が非常に近い動きをしている.このことからインプライド分布のリスク調整の方法が平均以外のモーメントに与える影響は小さいことがわかる.また,これら2つの方法とヒストリカル(時系列モデル)法の間にも動きに類似性が見られる.特に,ヒストリカル(時系列モデル)法は過去データのみ,インプライド(RT)法はオプション価格のみを利用して推定していることを踏まえるとこれらの間に類似性が見られるという結果は意外であった.しかし,オプションの市場価格との整合性に関して,ヒストリカル(経験分布)法(対数正規分布を仮定)とヒストリカル(時系列モデル)法(GARCH モデル)を比較した場合に後者の方が整合性が高いという先行研究の結果(渡部(2003))を踏まえると,この類似性はオプション市場参加者が時系列モデルから推定したパラメータを参考に価格付けしていることによって生じている可能性が高い16.また,インプライド分布の歪度は2009年以降徐々に低下しており,この現象は政治的不確実性が高まっていることによるものとして解釈されることがある(崎山ら(2017)).しかし,ヒストリカル(時系列モデル)法においても同様の期間で歪度の低下傾向が観察できることを踏まえると,近年のアルゴリズム取引の拡大などの要因により,リターンの時系列特性が変化していることが原因である可能性もある.本研究の目的から逸れるためこれ以上の議論は行わないが,この点に関して調べることは興味深く,今後の課題としたい.
4.2 投資比率図2はリスク回避度が
図2 株式への投資比率(
米国 | 日本 | ||||||||
平均 | 標準偏差 | 最小 | 最大 | 平均 | 標準偏差 | 最小 | 最大 | ||
ヒストリカル (経験分布)() |
45.5 | 65.3 | -76.6 | 197.4 | 16.5 | 42.8 | -47.7 | 99.1 | |
ヒストリカル (時系列モデル)() |
45.3 | 74.8 | -100.0 | 200.0 | 28.5 | 51.2 | -59.6 | 159.2 | |
インプライド (ヒストリカル)() |
28.6 | 52.7 | -63.3 | 179.8 | 8.7 | 30.7 | -41.3 | 65.2 | |
インプライド (RT) |
12.6 | 12.7 | -37.6 | 48.7 | 17.0 | 14.7 | -25.8 | 50.2 |
図3にリスク回避度が
図3 ポートフォリオの累積リターン(
表5は米国と日本のそれぞれにおいて5通りのリスク回避度
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
無リスク資産 | 1.93 | 1.93 | 1.92 | 1.92 | 1.92 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | |
株式 | 2.77 | 0.52 | -1.84 | -4.33 | -6.95 | -1.36 | -5.36 | -9.63 | -14.24 | -19.27 | |
ヒストリカル(経験分布)36 | 3.74 | 1.2 | -0.22 | -0.49 | -0.14 | -0.79 | -3.56 | -4 | -3.05 | -2.39 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | 0.11 | 0.79 | 0.77 | 1.06 | 1.24 | -0.21 | -2.53 | -1.62 | -1.17 | -0.9 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | -3.38 | -2.61 | -1.22 | -0.43 | 0.05 | -6.16 | -3.84 | -2.5 | -1.83 | -1.43 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | -3.34 | -2.07 | -0.99 | -0.25 | 0.19 | -5.66 | -3.34 | -2.17 | -1.59 | -1.24 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 5.91 | 3.1 | 1.73 | 1.54 | 1.5 | -0.42 | -1.57 | -1.38 | -1.18 | -0.91 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 4.41 | 2.28 | 1.77 | 1.74 | 1.77 | 2.75 | -0.25 | -0.29 | -0.17 | -0.11 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 0.98 | 0.18 | 0.38 | 0.72 | 0.96 | -2.89 | -2.74 | -1.77 | -1.29 | -1.01 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | 1.57 | 0.66 | 0.47 | 0.76 | 0.99 | -2.82 | -2.57 | -1.65 | -1.2 | -0.93 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 2.9 | -0.09 | -0.31 | 0.06 | 0.43 | -1.5 | -2.62 | -1.71 | -1.24 | -0.96 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | 1.15 | 0.3 | 0.81 | 1.09 | 1.25 | -2.36 | -1.48 | -0.94 | -0.67 | -0.51 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | -2.89 | -1.8 | -0.63 | 0.01 | 0.39 | -4.8 | -2.5 | -1.62 | -1.18 | -0.91 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | -3.74 | -2.95 | -1.44 | -0.6 | -0.09 | -5.03 | -2.43 | -1.58 | -1.15 | -0.88 | |
インプライド(RT) | 4.59 | 3.26 | 2.82 | 2.59 | 2.46 | 4.18 | 2.17 | 1.5 | 1.16 | 0.96 |
米国の
インプライド(RT)法以外の方法に関してはパラメータ推定期間やリスク回避度によって結果が大きく異なっており,一概にどの方法が良いとはいえない.ただし,その中でもヒストリカル(時系列モデル)法の推定期間が36 ヶ月や48ヶ月の場合のパフォーマンスが比較的高い傾向にあった.ヒストリカル(時系列モデル)法のパフォーマンスがインプライド(ヒストリカル)法と比較して高くなるという結果は,Zdorovenin and Pézier (2011)の2000年3月から2009年9月における分析の結果と整合的である.
表6はシャープレシオを用いてパフォーマンスを比較した結果を示している.日本と米国の全てのケースに対してインプライド(RT)法のシャープレシオが最も高くなっている.3.3節で述べたようにシャープレシオは平均的な投資比率の影響を受けない指標である.すなわち,インプライド(RT)法は投資比率の変更を適切なタイミングで行うことによって高いパフォーマンスを獲得しているといえる.これはフォワードルッキングな推定による投資比率の変更が適切に機能していることを示唆する結果である.
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
無リスク資産 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
株式 | 0.21 | 0.21 | 0.21 | 0.21 | 0.21 | 0.12 | 0.12 | 0.12 | 0.12 | 0.12 | |
ヒストリカル(経験分布)36 | 0.29 | 0.27 | 0.19 | 0.16 | 0.15 | 0.19 | 0.12 | 0.05 | 0.05 | 0.05 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | 0.09 | 0.2 | 0.19 | 0.19 | 0.19 | 0.21 | 0.08 | 0.08 | 0.08 | 0.08 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | -0.1 | -0.05 | -0.03 | -0.03 | -0.03 | -0.08 | -0.1 | -0.1 | -0.1 | -0.1 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | -0.12 | -0.06 | -0.04 | -0.04 | -0.04 | -0.15 | -0.15 | -0.15 | -0.15 | -0.15 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 0.4 | 0.35 | 0.29 | 0.26 | 0.25 | 0.23 | 0.24 | 0.24 | 0.23 | 0.23 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 0.32 | 0.28 | 0.25 | 0.25 | 0.25 | 0.35 | 0.29 | 0.28 | 0.28 | 0.28 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 0.14 | 0.12 | 0.11 | 0.1 | 0.1 | 0.09 | 0.08 | 0.09 | 0.09 | 0.09 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | 0.17 | 0.15 | 0.12 | 0.11 | 0.11 | 0.07 | 0.04 | 0.05 | 0.05 | 0.05 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 0.23 | 0.12 | 0.08 | 0.06 | 0.06 | 0.12 | 0.05 | 0.05 | 0.05 | 0.05 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | 0.13 | 0.06 | 0.06 | 0.06 | 0.06 | 0.05 | 0.03 | 0.03 | 0.03 | 0.03 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | -0.11 | -0.11 | -0.1 | -0.1 | -0.1 | -0.14 | -0.16 | -0.16 | -0.16 | -0.16 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | -0.18 | -0.15 | -0.15 | -0.15 | -0.15 | -0.23 | -0.22 | -0.22 | -0.22 | -0.22 | |
インプライド(RT) | 0.45 | 0.44 | 0.44 | 0.43 | 0.42 | 0.45 | 0.45 | 0.45 | 0.45 | 0.45 |
推定方法によるパフォーマンスの違いが分布のどのモーメントに起因するのかを明らかにするため,各モーメントがパフォーマンスに与える影響を分析する.具体的には平均,標準偏差,歪度,超過尖度の4つのモーメントのうち,いずれか1つを各方法で推定した値を利用し,それ以外は分析期間における実現リターンから計算した値(表 2の値)で一定かつ共通としてパフォーマンスを比較する17.
表7に平均のみを変化させた場合の結果,表8に標準偏差のみを変化させた場合の結果を示す.なお,歪度および超過尖度を変化させた場合に関してはパフォーマンスに与える影響が小さく,推定方法によるCERの違いはほとんどなかったため,結果は省略する.平均のみを変化させて資産配分を行った場合に関しては全てのケースでインプライド(RT)法のパフォーマンスが最も高くなっている.標準偏差のみを変化させて資産配分を行った場合に関しては米国と日本で結果が若干異なっており,米国の場合は多くのケースでインプライド(ヒストリカル)法のパフォーマンスが最も高く,日本の場合は全てのケースでインプライド(RT)法のパフォーマンスが最も高くなっていた.ただし,標準偏差のみを変化させた場合のCERの差は平均のみを変化させた場合のCERの差に比べて小さく,パフォーマンスの違いへの影響は限定的であった.これらの結果からインプライド(RT)法の高パフォーマンスの要因は分布の平均の推定値にあることがわかった.これは特に期待リターン(分布の平均)の推定に関してフォワードルッキングな方法を用いることの重要性を示す結果といえる.
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
無リスク資産 | 1.93 | 1.93 | 1.92 | 1.92 | 1.92 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | |
株式 | 2.77 | 0.52 | -1.84 | -4.33 | -6.95 | -1.36 | -5.36 | -9.63 | -14.24 | -19.27 | |
ヒストリカル(経験分布)36 | 2.26 | -0.16 | -0.59 | -0.75 | -0.42 | 0.53 | -2.63 | -2.76 | -2.23 | -1.74 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | -0.25 | -0.6 | -0.14 | 0.39 | 0.7 | 1.82 | -1.27 | -0.9 | -0.63 | -0.48 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | -4.43 | -2.41 | -0.98 | -0.25 | 0.19 | -5.01 | -2.93 | -1.9 | -1.39 | -1.08 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | -3.36 | -2.06 | -0.73 | -0.06 | 0.34 | -5.34 | -3.22 | -2.09 | -1.53 | -1.19 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 3.84 | 2.22 | 1.34 | 0.91 | 0.57 | -1.19 | -3.34 | -2.99 | -2.75 | -2.55 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 3.51 | 1.96 | 1.17 | 0.67 | 0.56 | 0.47 | -1.78 | -1.4 | -1.01 | -0.77 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 0.5 | -0.76 | -0.3 | 0.2 | 0.55 | -5.39 | -3.56 | -2.35 | -1.72 | -1.34 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | -0.03 | -0.65 | 0.22 | 0.65 | 0.92 | -3.99 | -3.03 | -2.09 | -1.53 | -1.19 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 2.3 | 0.12 | -0.95 | -1.63 | -1.99 | -3.04 | -4.29 | -4.64 | -4.24 | -3.83 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | -4.53 | -4.35 | -3.67 | -3.32 | -3.08 | -6.53 | -6.53 | -5.13 | -4.31 | -3.93 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | -9.39 | -9.72 | -6.83 | -5 | -3.94 | -11.36 | -8.11 | -5.7 | -4.47 | -3.67 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | -9.31 | -10.26 | -7.86 | -5.42 | -3.91 | -10.56 | -8.87 | -5.93 | -4.45 | -3.5 | |
インプライド(RT) | 4.19 | 3.06 | 2.66 | 2.48 | 2.36 | 4.38 | 2.69 | 1.99 | 1.59 | 1.31 |
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
無リスク資産 | 1.93 | 1.93 | 1.92 | 1.92 | 1.92 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | |
株式 | 2.77 | 0.52 | -1.84 | -4.33 | -6.95 | -1.36 | -5.36 | -9.63 | -14.24 | -19.27 | |
ヒストリカル(経験分布)36 | 4.75 | 3.23 | 2.8 | 2.58 | 2.45 | 0.81 | 0.48 | 0.37 | 0.32 | 0.29 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | 5.04 | 3.5 | 2.98 | 2.72 | 2.56 | 0.66 | 0.4 | 0.32 | 0.28 | 0.25 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | 4.82 | 3.39 | 2.9 | 2.66 | 2.51 | 0.37 | 0.26 | 0.22 | 0.21 | 0.2 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | 5.22 | 3.58 | 3.04 | 2.76 | 2.59 | 0.52 | 0.33 | 0.28 | 0.24 | 0.23 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 5.99 | 3.97 | 3.3 | 2.95 | 2.75 | 1.31 | 0.73 | 0.54 | 0.44 | 0.39 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 6.09 | 4.04 | 3.34 | 2.99 | 2.77 | 1.23 | 0.7 | 0.51 | 0.42 | 0.37 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 6.06 | 4.05 | 3.35 | 2.99 | 2.78 | 1.07 | 0.61 | 0.46 | 0.38 | 0.34 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | 6.17 | 4.11 | 3.38 | 3.02 | 2.8 | 1.09 | 0.62 | 0.47 | 0.38 | 0.34 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 5.74 | 3.86 | 3.22 | 2.89 | 2.7 | 1.54 | 0.85 | 0.61 | 0.5 | 0.43 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | 5.92 | 4.15 | 3.42 | 3.04 | 2.82 | 1.61 | 0.88 | 0.64 | 0.52 | 0.44 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | 5.63 | 4.15 | 3.41 | 3.04 | 2.82 | 1.56 | 0.86 | 0.62 | 0.51 | 0.44 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | 5.53 | 4.06 | 3.35 | 2.99 | 2.78 | 1.55 | 0.85 | 0.62 | 0.5 | 0.43 | |
インプライド(RT) | 5.98 | 4.02 | 3.32 | 2.98 | 2.76 | 1.66 | 0.91 | 0.66 | 0.53 | 0.46 |
本節では「インプライド(RT)法を用いた場合に他の方法を用いた場合と比較して高いパフォーマンスが得られる傾向にある」という結果のロバスト性に関して様々な観点から検討する.
5.1 効用関数の影響4節ではCRRA型の効用関数を持つ投資家を想定して検証を行った.ここでは効用関数のタイプの影響に関して検討するため,CARA型の効用関数(
\begin{align} \max_{w_t}\quad E\left[U\left(\tilde{W}_{t+1}\right)\right] \approx-\frac{1}{\gamma} \exp \left(-\gamma \overline{W}_{t+1}\right)\left(1+\frac{\gamma^{2}}{2} M^2_{t+1}-\frac{\gamma^{3}}{6} M^3_{t+1}+\frac{\gamma^{4}}{24} M^4_{t+1}\right) \end{align} | (31) |
ただし,
表9は投資家の効用関数がCARA型の場合に関して,CERの比較を行った結果である.日本と米国いずれの場合も得られた結果は概ね表5のCRRA型の場合と同様であり,米国の
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
無リスク資産 | 1.93 | 1.93 | 1.92 | 1.92 | 1.92 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | |
株式 | 2.79 | 0.58 | -1.72 | -4.12 | -6.63 | -1.3 | -5.18 | -9.24 | -13.53 | -18.07 | |
ヒストリカル(経験分布)36 | 3.74 | 1.23 | -0.16 | -0.41 | -0.08 | -0.69 | -3.48 | -3.84 | -2.93 | -2.31 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | 0.12 | 0.81 | 0.78 | 1.07 | 1.24 | -0.07 | -2.46 | -1.59 | -1.15 | -0.89 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | -3.36 | -2.58 | -1.19 | -0.41 | 0.07 | -6.06 | -3.8 | -2.48 | -1.82 | -1.42 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | -3.35 | -2.04 | -0.97 | -0.24 | 0.2 | -5.59 | -3.31 | -2.16 | -1.58 | -1.23 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 5.94 | 3.2 | 1.71 | 1.53 | 1.49 | -0.32 | -1.61 | -1.4 | -1.19 | -0.91 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 4.43 | 2.33 | 1.76 | 1.74 | 1.77 | 2.88 | -0.3 | -0.31 | -0.18 | -0.11 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 1 | 0.29 | 0.39 | 0.72 | 0.97 | -2.76 | -2.79 | -1.79 | -1.3 | -1.01 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | 1.64 | 0.67 | 0.46 | 0.76 | 0.99 | -2.73 | -2.61 | -1.66 | -1.21 | -0.94 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 3.07 | -0.02 | -0.27 | 0.05 | 0.42 | -1.62 | -2.59 | -1.69 | -1.23 | -0.96 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | 1.26 | 0.3 | 0.8 | 1.09 | 1.25 | -2.32 | -1.51 | -0.95 | -0.68 | -0.51 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | -2.8 | -1.78 | -0.66 | -0.01 | 0.38 | -4.96 | -2.52 | -1.63 | -1.18 | -0.92 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | -3.75 | -2.96 | -1.48 | -0.62 | -0.1 | -5.09 | -2.45 | -1.58 | -1.15 | -0.89 | |
インプライド(RT) | 4.64 | 3.28 | 2.82 | 2.6 | 2.46 | 4.18 | 2.17 | 1.49 | 1.16 | 0.96 |
4節の分析では取引コストは考慮していないが,実際に運用を行う場合には株式の売買に対して取引コスト(証券会社への手数料やマーケットインパクト)を支払う必要がある.取引コストの影響に関して検討するため,ここではDeMiguel et al.(2009)やKostakis et al.(2011)と同様に株式の売買に対して一回転あたり0.5%の比例コストがかかると想定してパフォーマンスを比較する.
表10に投資家の効用関数がCRRA型と想定して資産配分を行った場合の,株式の回転率(投資比率の変化の絶対値)の期間平均値を示す.推定に過去データを用いる方法に関してはパラメータ推定期間が長いほど,回転率が抑制される傾向が見られた.ヒストリカル(時系列モデル)法の回転率が他の方法と比較してやや高い傾向が見られた.インプライド(RT)法の回転率の水準はヒストリカル(時系列モデル)法やインプライド(ヒストリカル)法の場合と大きな違いはなかった.
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
ヒストリカル(経験分布)36 | 12.2 | 15.5 | 13.5 | 11.3 | 9.5 | 16.6 | 12.7 | 10.1 | 7.7 | 6.2 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | 12.8 | 11.7 | 10.5 | 7.9 | 6.3 | 13.4 | 10.2 | 6.9 | 5.2 | 4.2 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | 11.2 | 10.7 | 8.6 | 6.4 | 5.2 | 12 | 8.2 | 5.5 | 4.1 | 3.3 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | 9.9 | 8.1 | 6.5 | 4.8 | 3.9 | 10.8 | 6.5 | 4.4 | 3.3 | 2.6 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 32 | 37 | 31 | 24.4 | 20 | 27 | 28.2 | 23.3 | 18.1 | 14.5 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 27.4 | 34 | 29.4 | 23.2 | 18.7 | 28.1 | 28.5 | 20.5 | 15.6 | 12.5 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 24.8 | 33.8 | 30.2 | 23.6 | 19 | 30.5 | 27.6 | 18.9 | 14.2 | 11.4 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | 26.7 | 35.9 | 30.4 | 23.7 | 19.1 | 34.7 | 26.8 | 18.2 | 13.7 | 10.9 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 21.8 | 17.8 | 14.5 | 11.1 | 8.9 | 13.8 | 10.4 | 7.1 | 5.3 | 4.3 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | 18.4 | 17.2 | 11.7 | 8.8 | 7.1 | 13.4 | 7.8 | 5.2 | 3.9 | 3.2 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | 17.7 | 16.5 | 11.6 | 8.7 | 7 | 11.8 | 6.3 | 4.2 | 3.2 | 2.6 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | 20.6 | 15.4 | 10.9 | 8.2 | 6.6 | 10.2 | 5.2 | 3.5 | 2.6 | 2.1 | |
インプライド(RT) | 28.3 | 14.4 | 9.7 | 7.3 | 5.8 | 20.3 | 10.3 | 6.9 | 5.2 | 4.2 |
表11は取引コストを含めてCERを計算した結果である.表5の取引コストを考慮しない場合と比較して全体的な傾向に大きな違いはなく,米国の
米国 | 日本 | ||||||||||
γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | γ=2 | 4 | 6 | 8 | 10 | ||
無リスク資産 | 1.93 | 1.93 | 1.92 | 1.92 | 1.92 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | |
株式 | 2.77 | 0.52 | -1.84 | -4.33 | -6.95 | -1.36 | -5.36 | -9.63 | -14.24 | -19.27 | |
ヒストリカル(経験分布)36 | 2.74 | 0.17 | -1.09 | -1.21 | -0.74 | -2.05 | -4.45 | -4.69 | -3.56 | -2.79 | |
ヒストリカル(経験分布)48 | -0.87 | 0.01 | 0.1 | 0.58 | 0.86 | -1.28 | -3.22 | -2.07 | -1.5 | -1.16 | |
ヒストリカル(経験分布)60 | -4.23 | -3.32 | -1.76 | -0.81 | -0.25 | -7.12 | -4.38 | -2.84 | -2.08 | -1.63 | |
ヒストリカル(経験分布)72 | -4.07 | -2.59 | -1.38 | -0.53 | -0.03 | -6.47 | -3.77 | -2.45 | -1.79 | -1.4 | |
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 3.83 | 0.85 | -0.14 | 0.08 | 0.3 | -2.28 | -3.35 | -2.8 | -2.26 | -1.77 | |
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 2.62 | 0.21 | 0.01 | 0.37 | 0.66 | 0.87 | -2 | -1.54 | -1.11 | -0.85 | |
ヒストリカル(時系列モデル)60 | -0.73 | -1.92 | -1.45 | -0.7 | -0.17 | -4.94 | -4.46 | -2.92 | -2.15 | -1.69 | |
ヒストリカル(時系列モデル)72 | -0.22 | -1.55 | -1.38 | -0.67 | -0.15 | -5.05 | -4.22 | -2.75 | -2.02 | -1.59 | |
インプライド(ヒストリカル)36 | 1.39 | -1.24 | -1.21 | -0.62 | -0.11 | -2.57 | -3.31 | -2.16 | -1.57 | -1.22 | |
インプライド(ヒストリカル)48 | -0.11 | -0.75 | 0.12 | 0.57 | 0.84 | -3.33 | -1.99 | -1.27 | -0.92 | -0.7 | |
インプライド(ヒストリカル)60 | -4.09 | -2.8 | -1.31 | -0.5 | -0.02 | -5.62 | -2.9 | -1.88 | -1.37 | -1.07 | |
インプライド(ヒストリカル)72 | -5.06 | -3.87 | -2.08 | -1.08 | -0.48 | -5.73 | -2.76 | -1.79 | -1.31 | -1.01 | |
インプライド(RT) | 2.91 | 2.41 | 2.25 | 2.16 | 2.11 | 2.99 | 1.56 | 1.09 | 0.85 | 0.71 |
インプライド(RT)法の高いパフォーマンスがごく一部の限られた局面の結果によるものではないか,また,各方法の得意・不得意な局面はどのような局面であるかを確認するために,バックテスト期間を以下のように4つのサブサンプルに区切り,パフォーマンスの比較を行う.
分析結果を表12(米国の場合)および表13(日本の場合)に示す.紙面の都合上,リスク回避度に関しては
期間A (60ヶ月) | 期間B (60ヶ月) | 期間C (60ヶ月) | 期間D (56ヶ月) | ||||||||||||
γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | ||||
無リスク資産 | 2.93 | 2.92 | 2.91 | 3.34 | 3.33 | 3.33 | 0.22 | 0.22 | 0.22 | 1.18 | 1.18 | 1.18 | |||
株式 | -4.62 | -9.92 | -15.3 | -3.28 | -9.4 | -16.71 | 11.63 | 8.25 | 4.74 | 7.87 | 4.81 | 1.58 | |||
ヒストリカル(経験分布)36 | -6.88 | -2.03 | -0.05 | -1.29 | -0.3 | 0.86 | 12.57 | 5.13 | 2.97 | 11.29 | -3.79 | -4.52 | |||
ヒストリカル(経験分布)48 | -12.84 | -2.98 | -0.62 | -5 | -1.5 | 0.42 | 9.62 | 4.72 | 2.92 | 9.59 | 3.09 | 2.34 | |||
ヒストリカル(経験分布)60 | -17.1 | -4.35 | -1.44 | -10.71 | -5.3 | -1.85 | 4.86 | 2.48 | 1.58 | 10.76 | 2.67 | 2.09 | |||
ヒストリカル(経験分布)72 | -17.51 | -5.29 | -2 | -8.96 | -0.98 | 0.74 | 3 | 0.99 | 0.68 | 11.5 | 1.54 | 1.44 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)36 | 0.28 | -0.38 | -0.31 | -1.69 | 1.63 | 2.31 | 16.94 | 6.74 | 4.18 | 8.47 | -1.15 | -0.25 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)48 | -8.41 | -5.49 | -2.46 | -1.08 | 1.48 | 2.22 | 20.05 | 9.52 | 5.87 | 7.69 | 1.84 | 1.57 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)60 | -17.44 | -6.74 | -2.89 | -4.72 | -0.27 | 1.04 | 19.45 | 8.21 | 4.98 | 7.69 | 0.59 | 0.83 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)72 | -19.87 | -7.08 | -3.07 | -0.6 | 0.49 | 1.34 | 19.62 | 7.99 | 4.91 | 8.29 | 0.78 | 0.92 | |||
インプライド(ヒストリカル)36 | -2.92 | -0.59 | 0.81 | -1.61 | 0.75 | 1.76 | 8.54 | 2.4 | 1.5 | 8.02 | -4 | -2.51 | |||
インプライド(ヒストリカル)48 | -6.47 | -1.62 | 0.19 | -5.33 | 0.32 | 1.51 | 6.71 | 2.14 | 1.38 | 10.5 | 2.57 | 2 | |||
インプライド(ヒストリカル)60 | -13.96 | -4.32 | -1.42 | -8.16 | -0.8 | 0.84 | 2.17 | 0.61 | 0.46 | 9.46 | 2.24 | 1.81 | |||
インプライド(ヒストリカル)72 | -17.26 | -6.97 | -3 | -5.31 | 0.25 | 1.48 | -0.74 | -0.25 | -0.07 | 9.55 | 1.51 | 1.36 | |||
インプライド(RT) | 4.06 | 3.26 | 3.12 | 3.46 | 3.38 | 3.36 | 6.89 | 2.48 | 1.58 | 3.93 | 2.11 | 1.74 |
期間A (60ヶ月) | 期間B (60ヶ月) | 期間C (60ヶ月) | 期間D (56ヶ月) | ||||||||||||
γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | ||||
無リスク資産 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.13 | 0.13 | 0.13 | -0.03 | -0.03 | -0.03 | |||
株式 | -12.61 | -20.06 | -27.4 | -4.78 | -16.81 | -32.84 | 9.39 | 2.55 | -4.57 | 3.06 | -2.87 | -9.23 | |||
ヒストリカル(経験分布)36 | -3.1 | -2.46 | -1.43 | -4.69 | -8.23 | -4.7 | 9.86 | 3.82 | 2.34 | -5.42 | -9.21 | -5.82 | |||
ヒストリカル(経験分布)48 | 0.48 | -1.67 | -0.96 | -13.81 | -6 | -3.43 | 13.47 | 4.68 | 2.86 | -0.7 | -3.45 | -2.07 | |||
ヒストリカル(経験分布)60 | -0.81 | -0.41 | -0.21 | -22.2 | -8.48 | -4.91 | 0.02 | -0.02 | 0.04 | -0.99 | -0.85 | -0.52 | |||
ヒストリカル(経験分布)72 | -2.96 | -1.33 | -0.75 | -16.41 | -5.2 | -2.96 | -3.93 | -1.21 | -0.67 | 1.25 | -0.84 | -0.51 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)36 | -0.05 | -3.38 | -2.54 | -11.67 | -1.62 | -0.78 | 13.74 | 4.16 | 2.5 | -3.61 | -4.8 | -2.89 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)48 | 4.42 | 0.18 | 0.15 | -6.92 | -1.97 | -0.97 | 16.61 | 5.37 | 3.29 | -3.22 | -4.92 | -2.99 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)60 | 2.04 | 0.64 | 0.42 | -13.11 | -4.86 | -2.75 | 2.68 | 0.55 | 0.38 | -3.03 | -3.48 | -2.12 | |||
ヒストリカル(時系列モデル)72 | 1.4 | -0.04 | 0.02 | -6.11 | -1.95 | -1.01 | -3.38 | -1.12 | -0.62 | -3.19 | -3.59 | -2.18 | |||
インプライド(ヒストリカル)36 | -3 | -1.11 | -0.62 | -3.37 | -3.85 | -2.13 | 4.54 | 1.44 | 0.92 | -4.33 | -3.38 | -2.06 | |||
インプライド(ヒストリカル)48 | 0.34 | -0.11 | -0.03 | -11.05 | -3.55 | -1.98 | 4.93 | 1.72 | 1.09 | -3.61 | -1.85 | -1.14 | |||
インプライド(ヒストリカル)60 | 1.5 | 0.49 | 0.33 | -16.42 | -5.3 | -3.03 | -4.55 | -1.7 | -0.96 | 0.8 | 0.2 | 0.1 | |||
インプライド(ヒストリカル)72 | 1.18 | 0.51 | 0.35 | -13.57 | -4.31 | -2.43 | -7.18 | -2.27 | -1.31 | -0.09 | -0.1 | -0.08 | |||
インプライド(RT) | 1.2 | 0.47 | 0.32 | 5.12 | 1.97 | 1.34 | 8.45 | 2.9 | 1.8 | 1.83 | 0.59 | 0.34 |
また,各期間における株式のリターン(年率)は期間Aから順に,−2.0%,−0.6%,13.3%,9.3%(米国)と−8.9%,0.2%,12.7%,5.8%(日本)であり,インプライド(RT)法のパフォーマンスが最も高くなる時期はリターンの絶対値が小さい時期と一致している.これは相場に明確なトレンドがある局面では過去データを用いた推定方法のパフォーマンスが高くなる傾向にあり,トレンドが転換する局面でフォワードルッキングな推定方法のパフォーマンスが高くなる傾向があることを表している.過去データからトレンドの転換局面を適切に捉えることは難しいと考えられ,こうした局面でフォワードルッキングな推定方法のパフォーマンスが相対的に高くなることは直感に沿った結果といえる.
5.4 推定方法の影響ここまでの分析では収益率分布の推定方法を4つのタイプに分け,各タイプにおける代表的な方法を用いて推定を行った結果を比較してきた.しかし,それぞれのタイプ内でも様々な推定方法が存在するため,2節で説明した方法と異なる方法を用いた場合には同じ結論が得られない可能性がある.そこで推定方法を2節で説明した方法と異なる方法も含めて比較を行う.具体的には,表14に示すように各タイプ内においてそれぞれ新たに2つの方法を用意し,2節で説明した方法を含めた計12通りの推定方法で比較を行った.以下ではそれぞれの推定方法に関して説明する.
タイプ | 名称 | 推定方法の概要 |
ヒストリカル (経験分布) | Hist_Direct | 過去データから直接モーメント計算 |
Hist_Kernel | カーネル密度推定(ガウシアンカーネル) | |
Hist_GH | GH分布に含まれる11通りの分布からAIC最小の分布を選択 | |
ヒストリカル (時系列モデル) | Hist_GARCH | GARCHモデル(誤差項:正規分布) |
Hist_GARCH-t | GARCHモデル(誤差項:t分布) | |
Hist_GJR-GARCH-t | GJR-GARCHモデル(誤差項:t分布) | |
インプライド (ヒストリカル) | Imp_Hist_CRRA | CRRA型効用を仮定 |
Imp_Hist_CARA | CARA型効用を仮定 | |
Imp_Hist_Kernel | カーネル密度推定を利用したノンパラメトリックな方法 | |
インプライド (RT) | Imp_RT_CRRA | CRRA型効用を仮定 |
Imp_RT_CARA | CARA型効用を仮定 | |
Imp_RT_IKH | 伊藤ら(2019)の2段階推定法 |
[ヒストリカル(経験分布)法]
2節で説明したカーネル密度推定を用いる方法(Hist_Kernel)に加えて,過去のリターンから直接モーメントを計算する方法(Hist_Direct)および木村・枇々木(2010)や霧生・枇々木(2014)で利用されているGH(一般化双曲型)分布を仮定してパラメータ推定を行う方法(Hist_GH)を用いた場合に関して検証を行う.ここでGH分布はリターンの非対称性やファットテールを表現可能な分布であり,パラメータの設定によって正規分布,t分布,H分布,VG分布,NIG分布などの複数の確率分布を内包している.t分布,H分布,VG分布,NIG分布,GH分布の5つにおいて非対称性パラメータを0と固定するかどうかの
[ヒストリカル(時系列モデル)法]
2 節で説明した
[インプライド(ヒストリカル)法]
2 節で説明した代表的投資家の効用関数にCRRA型効用を仮定する方法(Imp_Hist_CRRA)に加え,CARA型効用を仮定する方法(Imp_Hist_CARA),Shackleton et al.(2010)や霧生・枇々木(2014)で利用されているキャリブレーション関数をカーネル密度推定する方法20(Imp_Hist_Kernel)に関して検証を行う.
[インプライド(RT)法]
2節で説明した代表的投資家の効用関数にCRRA型効用を仮定して推定する方法(Imp_RT_CRRA)に加え,CARA 型効用を仮定する方法(Imp_RT_CARA)および伊藤ら(2019)で提案されている2段階推定法(Imp_RT_IKH)で推定を行う.伊藤ら(2019)の2段階推定法は効用関数形を仮定せずに (19),(20) 式の最適化問題を解くと解が非常に不安定になるという問題が指摘されている(Jackwerth and Menner(2020),Audrino et al.(2019),Kiriu and Hibiki(2019))ことを受けて提案された方法である.この方法では最初に何らかの効用関数形を仮定してパラメトリックに解を大まかに推定し,その解を先験情報としてもう一度解を推定し直すことでパラメトリックな仮定によるバイアスを修正する21.今回はCRRA型効用を仮定した場合(Imp_RT_CRRA)の解を先験情報として用いて分析を行った.
表14の比較対象に対してCERの比較を行った結果を表15に示す.紙面の都合上,リスク回避度に関しては
インプライド(RT)法に分類される方法内でパフォーマンスの違いに関しては,Imp_RT_CRRAとImp_RT_CARAを比較すると米国ではImp_RT_CRRAのパフォーマンスが高く,日本ではImp_RT_CARAのパフォーマンスが高い傾向にあった.また,Imp_RT_IKHはImp_RT_CRRAと比較してパフォーマンスが低い傾向にあり,伊藤ら(2019)の2段階推定法はパフォーマンスの観点からは有効な方法であるとはいえなかった.ただし,いずれの場合も推定方法の違いによるパフォーマンスの差は小さく,タイプ内における推定方法の違いの影響は限定的であると考えられる.
タイプ | 推定方法 | 米国 | 日本 | |||||
γ=2 | 6 | 10 | γ=2 | 6 | 10 | |||
ベンチマーク | 無リスク資産 | 1.93 | 1.92 | 1.92 | 0.15 | 0.15 | 0.15 | |
株式 | 2.77 | -1.84 | -6.95 | -1.36 | -9.63 | -19.27 | ||
ヒストリカル (経験分布) | Hist_Direct 36 | 3.16 | -0.86 | -1.34 | -0.28 | -5.07 | -6 | |
Hist_Direct 48 | -0.5 | 0.3 | 0.9 | 0.28 | -2.51 | -1.39 | ||
Hist_Direct 60 | -4.06 | -2.2 | -0.5 | -6.58 | -3.23 | -1.85 | ||
Hist_Direct 72 | -3.93 | -1.81 | -0.27 | -6.8 | -2.74 | -1.57 | ||
Hist_Kernel 36 | 3.74 | -0.22 | -0.14 | -0.79 | -4 | -2.39 | ||
Hist_Kernel 48 | 0.11 | 0.77 | 1.24 | -0.21 | -1.62 | -0.9 | ||
Hist_Kernel 60 | -3.38 | -1.22 | 0.05 | -6.16 | -2.5 | -1.43 | ||
Hist_Kernel 72 | -3.34 | -0.99 | 0.19 | -5.66 | -2.17 | -1.24 | ||
Hist_GH 36 | 3.75 | -0.16 | -0.59 | -1.29 | -3.84 | -2.69 | ||
Hist_GH 48 | 2.27 | 1.51 | 1.71 | 0.83 | -2.05 | -1.16 | ||
Hist_GH 60 | -6.83 | -3.25 | -1.17 | -5.95 | -2.8 | -1.61 | ||
Hist_GH 72 | -3.14 | -2.39 | -0.67 | -5.55 | -2.28 | -1.3 | ||
ヒストリカル (時系列モデル) | Hist_GARCH 36 | 5.54 | 1.92 | 0.81 | -1.84 | -2.92 | -1.65 | |
Hist_GARCH 48 | 2.79 | 1.64 | 1.04 | 0.38 | -1.95 | -1.07 | ||
Hist_GARCH 60 | 1.88 | 0.49 | 0.46 | -3.22 | -2.81 | -1.6 | ||
Hist_GARCH 72 | 2.42 | 0.47 | 0.57 | -3.79 | -2.99 | -1.72 | ||
Hist_GARCH-t 36 | 5.45 | 1.49 | 0.59 | -0.65 | -2.86 | -1.71 | ||
Hist_GARCH-t 48 | 2.72 | 1.22 | 1.23 | 1.26 | -1.57 | -0.96 | ||
Hist_GARCH-t 60 | 1.83 | 0.36 | 0.41 | -2.93 | -3.05 | -1.76 | ||
Hist_GARCH-t 72 | 2 | 0.36 | 0.45 | -2.94 | -3.2 | -1.84 | ||
Hist_GJR-GARCH-t 36 | 5.91 | 1.73 | 1.5 | -0.42 | -1.38 | -0.91 | ||
Hist_GJR-GARCH-t 48 | 4.41 | 1.77 | 1.77 | 2.75 | -0.29 | -0.11 | ||
Hist_GJR-GARCH-t 60 | 0.98 | 0.38 | 0.96 | -2.89 | -1.77 | -1.01 | ||
Hist_GJR-GARCH-t 72 | 1.57 | 0.47 | 0.99 | -2.82 | -1.65 | -0.93 | ||
インプライド (ヒストリカル) | Imp_Hist_CRRA 36 | 2.9 | -0.31 | 0.43 | -1.5 | -1.71 | -0.96 | |
Imp_Hist_CRRA 48 | 1.15 | 0.81 | 1.25 | -2.36 | -0.94 | -0.51 | ||
Imp_Hist_CRRA 60 | -2.89 | -0.63 | 0.39 | -4.8 | -1.62 | -0.91 | ||
Imp_Hist_CRRA 72 | -3.74 | -1.44 | -0.09 | -5.03 | -1.58 | -0.88 | ||
Imp_Hist_CARA 36 | 2.91 | -0.36 | 0.48 | -1.29 | -1.54 | -0.86 | ||
Imp_Hist_CARA 48 | 1.07 | 0.76 | 1.22 | -2.1 | -0.86 | -0.46 | ||
Imp_Hist_CARA 60 | -2.95 | -0.61 | 0.4 | -4.42 | -1.52 | -0.85 | ||
Imp_Hist_CARA 72 | -3.77 | -1.34 | -0.03 | -4.93 | -1.56 | -0.88 | ||
Imp_Hist_Kernel 36 | 3.66 | -0.04 | 0.27 | -0.99 | -3.15 | -2.55 | ||
Imp_Hist_Kernel 48 | 2.37 | 0.68 | 1.12 | 0.45 | -1.39 | -0.77 | ||
Imp_Hist_Kernel 60 | -2.58 | -0.97 | 0.22 | -5.27 | -2.45 | -1.41 | ||
Imp_Hist_Kernel 72 | -2.98 | -1.2 | 0.13 | -6.68 | -2.88 | -1.67 | ||
インプライド (RT) | Imp_RT_CRRA | 4.59 | 2.82 | 2.46 | 4.18 | 1.5 | 0.96 | |
Imp_RT_CARA | 4.58 | 2.82 | 2.45 | 4.28 | 1.53 | 0.98 | ||
Imp_RT_IKH | 4.26 | 2.69 | 2.38 | 1.66 | 0.66 | 0.46 |
本研究では株式と無リスク資産の2資産に対する最適資産配分問題を対象として,米国および日本における2000 年1月から2019年9月までの約20年間のバックテストの結果をもとに分布推定方法の特徴を整理し,分布推定方法がパフォーマンスに与える影響に関して分析を行った.先行研究においてインプライド(RT)法を含めて推定方法に関して比較している先行研究は存在せず,どの推定方法が資産配分をする上で適しているのか定かではなかったが,今回の分析結果からインプライド(RT)法が多くの場合において相対的に高いパフォーマンスを獲得できることが明らかになった.この結果は複数の効用関数のタイプ,複数のリスク回避度,複数のパフォーマンス評価尺度,取引コストの有無,各タイプ内における推定方法の違いに関わらず同様であった.インプライド(RT)法とその他の方法の大きな違いは分布の平均の推定値に現れ,その違いがインプライド(RT)法の高いパフォーマンスに大きく寄与していることもわかった.これは特に期待リターンの推定に関してフォワードルッキングな方法を用いることの重要性を示す結果といえる.また,インプライド(RT)法は多くの局面において安定的にリターンを獲得できており,特に相場の転換局面において他の方法と比較して高いパフォーマンスを獲得できるという特徴があることもわかった.
インプライド(RT)法は比較的新しい推定方法ということもあり,今のところ実務において利用されている例は少ないように思われる.しかし,より資産配分の効率性を高めていくために,こうした方法を含めて分布の推定方法を検討する必要があるだろう.今後の課題としては債券や為替といった株式以外の資産に対する資産配分を考えた場合でもインプライド(RT)法が有効であるのかを検証することや,Shackleton et al. (2010)のように実現リターンに対する予測力に関して統計的な観点から分布の推定方法を比較することが挙げられる.
霧生・枇々木(2014)で提案された薄板平滑化スプラインを利用してオプション価格を行使価格と満期に関して補間する方法を簡潔に説明する.この方法は Bliss and Panigirtzoglou(2002)のオプション価格を行使価格に関して補間する方法を行使価格と満期に関して補間する形に拡張した方法である.
まず,補間を行いやすくするために,{行使価格,満期,オプション価格}のデータの組をBlack-Scholes公式を利用して,{デルタ,満期,インプライドボラティリティ}の組に変換する.この際に配当の影響によってアット・ザ・マネーのプットオプションとコールオプションの価格でインプライドボラティリティの水準にずれが生じるため,プット・コール・パリティの関係式から計算したインプライド配当率を利用してインプライドボラティリティを計算することでその影響を調整する.ただし,日経225オプションの場合には,満期の長いオプションに関してアット・ザ・マネーのコールオプションもしくはプットオプションの価格が欠損しているため,インプライド配当率が計算できないケースが多くあった.このため,日経225オプションの場合にはインプライド配当率の代わりに過去1年間の実績配当率を利用して調整を行った.変換後のデータに対してデルタ
\begin{align} \dfrac{1}{N}\sum_{n=1}^N(\sigma_n-g(\delta_n,\tau_n))^2+\lambda\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}\left(\left(\dfrac{\partial^2 g(\delta,\tau)}{\partial \delta^2}\right)^2+2\left(\dfrac{\partial^2 g(\delta,\tau)}{\partial \delta \partial \tau}\right)^2+\left(\dfrac{\partial^2 g(\delta,\tau)}{\partial \tau^2}\right)^2\right)d\delta d\tau \end{align} | (32) |
ここで,
1 本稿で示された内容は,株式会社三菱UFJトラスト投資工学研究所としての見解をいかなる意味でも表さない.
2 本研究は慶應義塾大学大学院理工学研究科に所属していたときに行われたものである.本稿で示された内容は,アセットマネジメントOne株式会社としての見解をいかなる意味でも表さない.
3 資産配分以外の観点から分布推定方法の比較を行っている研究として,統計的な観点から実現リターンとの整合性を検証した田中ら(2009),Shackleton et al.(2010),田中・宮崎(2011),Crisóstomo and Couso(2018)などがある.資産配分以外の観点からの研究を含めてもインプライド(RT)法を含めて分布推定方法の比較を行っている研究は筆者らの知る限り存在しない.
4 統計解析ソフトRのrugarchパッケージのugarchfit関数とugarchsim関数を利用してそれぞれパラメータ推定とシミュレーションを行った.なお,シミュレーションパス数は10,000とした.
5 月次のS&P500オプションの満期日は各月の第3金曜日,月次の日経225オプションの満期日は各月の第2金曜日である.このため,月末でリバランスを行う場合にはオプション価格を
6 具体的な方法はAppendixを参照.
7 Liu et al.(2007)は代表的投資家のリスク選好にCRRA型を仮定し,
8 Jensen et al.(2019)はRoss(2015)の導いたRecovery Theoremと区別するために,この一般化した定理をGeneralized Recovery Theoremと呼んでいるが,本稿ではこれらを特に区別せず単にRTと表記する.
9 本研究では近似の展開位置
10 例えば,リスク中立分布の密度関数
11 資産配分を行う投資家の効用関数はインプライド分布のリスク調整を行う際に推定する代表的投資家の効用とは独立であり,期間を通じて一定とする.これはKostakis et al.(2011)やZdorovenin and Pézier(2011)をはじめとする多くの先行研究で採用されている仮定である.
12 Jondeau and Rokinger(2006)は4次モーメントまで含めてTaylor近似した場合に,(21)式を用いて投資比率を計算した場合とほとんど同じ結果が得られることを示している.
13 バックテスト期間の株式に対する投資比率が
\begin{align} \overline{R}&= w\overline{r}+(1-w)\overline{r}^f=\overline{r}^f+(\overline{r}-\overline{r}^f)w\\ \end{align} | (29) |
\begin{align} \sigma_R&=\sqrt{w^2\sigma_r^2+2w(1-w)\sigma_{r}\sigma_{f}\rho_{rf}+{(1-w)}^2\sigma_{f}^2} \end{align} | (30) |
となる.ここで
14
15 VIはインプライドリスク中立分布の標準偏差を表す指標である.米国に関してはCBOEの算出しているVIX指数,日本に関しては日本経済新聞社の算出する日経VI指数を利用した.
16 なお,具体的な結果は省略するが時系列モデルにレバレッジ効果を考慮しないGARCHモデル((4) 式における
17 具体的な結果は省略するが,4つのモーメントのうち,いずれか1つのみを分析期間における実現リターンから計算した値で置き換え,残りの3つは推定した値を利用するという形でも分析を行った.この場合でも得られる結論は同様であった.
18 インプライド(ヒストリカル)法やインプライド(RT)法でリスク調整を行う場合の代表的投資家の効用関数はこれまでの分析と同様にCRRA型を想定する.リスク調整の際の効用関数のタイプの影響に関しては5.4節で検討する.
19 統計解析ソフトRのghypパッケージのstepAIC.ghyp関数を利用してパラメータ推定とモデル選択を行った.
20 具体的な方法は,Shackleton et al.(2010)や霧生・枇々木(2014)を参照.
21 具体的な方法は伊藤ら (2019) を参照.
22 日経225オプションを用いた場合に平滑化パラメータを大きく設定したのは,以下の3つの理由によりS&P500オプションを用いた場合と比較してデータに含まれるノイズが大きくなったためである.(1)流動性がS&P500オプションと比較して小さいこと,(2)仲値ではなく,終値を用いて計算を行ったこと,(3)インプライド配当率ではなく,実績配当率を用いて計算を行ったこと.