抄録
本研究では,沖縄本島南部地域の琉球石灰岩帯水層において,地下水水質データと硝酸中の窒素及び酸素同位体比(δ15NNO3,δ18ONO3)を測定することで脱窒ポイントを推定し,PCR法を組み合わせた変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(以下,PCR-DGGE法)及びリアルタイムPCR等を用いた微生物相解析等を実施して,帯水層中の優占種および分離菌株の分子系統解析と脱窒関連遺伝子の検出と定量を試みると共に,その結果とδ15NNO3,δ18ONO3の結果を比較し,地下水中の脱窒の有無やその程度の推定に対する微生物相解析の有効性について検討した。
その結果,細菌種は異なるものの,脱窒ポイント,その他のポイントに係わらず,全観測地点で脱窒能を持つと報告されている属と同じ属の細菌が検出された。リアルタイムPCRを用いて脱窒関連遺伝子(nirS/nirK)の定量を行ったところ,nirK遺伝子に比べnirS遺伝子の方が多く検出され,本地域の脱窒にはnirS遺伝子をもつ微生物が優先的にかかわっていることが明らかとなった。さらに,nirS及びnirK遺伝子のDNA コピー数とδ15NNO3,δ18ONO3の値との間には比較的高い相関がみられ,δ15NNO3,δ18ONO3を用いた同位体的手法とリアルタイムPCRを用いた脱窒関連遺伝子の定量手法を併用することが,地下水中における脱窒環境やその程度を推定する有効な手法となる可能性が示唆された。