2020 年 62 巻 3 号 p. 449-471
福島県北部沿岸域とその周辺地域を対象として2014年4月~2017年10月に地下水,自噴井,湧水等,計124地点で調査を行い,水質や安定同位体の分析を行った。浅層の地下水や湧水,河川水ではCa-HCO3型が卓越し,深層の地下水や自噴井ではNa-HCO3型が多く,津波の被害を受けた浅層地下水や湧水ではNa-Cl型を示し,その他Ca-SO4型や混合型などの組成が確認でき,滞留時間の違いや地質,土地利用などの影響を受け,複数の水質組成が形成されていると考えられる。また,湧水の同位体比を用いて涵養直線を作成して各地点の涵養標高を求めたところ,特に南相馬市南部の沿岸域に近い中~深層の地下水・自噴井では阿武隈高地周辺で涵養されたと予想される相対的に滞留時間の長い水の存在が確認された。一方で,同市内の浅層の地下水や湧水では沿岸から比較的近い台地部で涵養されたと思われる地点も認められ,複数の帯水層の存在が示唆された。