地下水学会誌
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技術報告
里山湧水における年代トレーサーの挙動
-温度変動がCFCs, SF6濃度に与える影響-
浅井 和由辻村 真貴加藤 勇治
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キーワード: 湧水, 滞留時間, CFCs, SF6, 水温
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2020 年 62 巻 4 号 p. 589-599

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抄録

小規模な湧水における年代トレーサーの挙動を把握するために,名古屋市内の里山湧水を対象として,1年間にわたって毎週の試料採取と主要溶存化学成分・安定同位体比・CFCs・SF6の分析を実施した。化学成分と安定同位体比の結果は,湧水は滞留時間が数年以内の比較的若い地下水によって形成されていることを示唆した。一方湧水のCFC-12とSF6濃度は,冬期において顕著に低下する明瞭な季節変動を示し,これらに基づき滞留時間を推定すると,夏季のそれは,冬季よりも少なくとも10年以上長くなると見積もられた。この滞留時間の変動は,化学成分および安定同位体比から考察される流域の水文プロセスとは整合的ではなかった。湧水のCFC-12とSF6濃度は水温と明瞭な負の相関が認められ,これは流出時において大気と接触することにより生じているものと判断された。これらの結果は,ガス態のトレーサーを水温が変動する小規模な湧水に適用する際には,注意が必要であることを示唆している。

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© 2020 公益社団法人 日本地下水学会
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