東京都に位置する武蔵野台地の不圧地下水を対象として,大まかに東に向けて広域的に流動する過程で起こる水質組成変化の要因について検討を行った。地下水流動にともなって陽イオン組成についてはCa2+濃度が減少する一方で,Mg2+およびNa+濃度が増加する傾向が認められた。このような陽イオン組成変化はTDS 値の顕著な増加をともなわないこと,飽和指数(SIc)が方解石に対して不飽和を示したことから,陽イオン交換反応に起因するものと考えられる。このような考えは関東ロームから抽出した交換性陽イオン組成,および地下水の長期的な水質組成変化に関するこれまでの報告とも整合している。一方で陰イオン組成については本域東部に位置する都区部においてNO3-濃度およびSO42-の急激な減少・増加傾向がそれぞれ認められた。このような変化は,都区部の高い土地被覆率により嫌気的環境が発達することで脱窒反応が生じた一方で,酸素を多く含む降水や上水道管からの漏水が局所的に生じることで海成粘土中の硫化物酸化が起きたためと結論づけられた。さらに,都区部における武蔵野帯水層への供給源について従来の報告と水理パラメーターをもとに検討を行った結果,降水と漏水成分の寄与率は16% 程度であり,残りは上流域からの移流によるものと求められた。このような低い降水・漏水成分の寄与率は都区部の帯水層において嫌気的環境が十分に発達しうるという点で整合的な値といえる。