利尻島は北海道に位置する火山島であり,日本の最大級の海底湧水が分布することで知られる。 著者らは利尻島の海底湧水と陸域湧水の滞留時間を見積もるために,3種類の年代トレーサー(3H, CFCs, SF6)を適用した。全ての湧水は天然レベル以上の3H を含んでおり,利尻島の表層系地下水が主に大気内核実験開始以降の降水によって涵養されていることを示した。CFCs とSF6の濃度は陸域湧水と北東部の海底湧水で相対的に高く,南西部の海底湧水で低い値を示した。3H・CFCs・SF6のTracerplot の結果,利尻島の表層系地下水の流動様式は指数関数モデル(EMM)とピストン流モデル(PFM)の2種類の流動モデルで近似可能であった。陸域湧水と北東部の海底湧水は涵養年代の異なる地下水の混合によって形成されており,EMM に基づく平均通過時間は約10~45年となった。 南西部の大規模な海底湧水は,埋積谷の底部をピストン流的に流れる地下水によって形成されてい る可能性があり,通過時間は約40年と見積もられた。湧水の滞留時間は涵養標高と正の相関があり, 地下水流動系の規模は,陸域湧水よりも海底湧水の方が大きくなることが示唆された。