抄録
生活上の困難を抱えている認知症の患者本人が,家族介護者との相互作用のなかで,なにを思い,介護の必要な自分をどのようにとらえ,家族介護者との関係をどのように構築しているのかを明らかにするために,軽度〜中度の認知症の患者9人に対し半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを使用し分析した.【崩れていく自己像】を自覚している認知症の患者本人は,【自分を生かす】と【譲歩を引き受ける】という対照的な行為のバランスを保ちながら新たな関係性を育もうとしていた.このバランスを保つうえで,認知症の専門家や家族介護者の支えにより【生かされている】と実感することが重要であった.譲歩には不満感や不本意な心情などを残存させているため,譲歩が度重なると,【譲歩への抵抗】が強まる不安定さがみられた.【譲歩への抵抗】【病に操られている】《できること探しの断念》が絡み合うと,心の孤立化へと陥る危険とともに関係性構築を困難にさせていた.