2004 年 8 巻 2 号 p. 35-43
本研究の目的は,老いを生きる人が自己のライフストーリーをどのように語るのかを記述し,過去の体験と残された人生にどのように意味づけをしていくのかを明らかにすることである.対象は介護老人保健施設を利用している79歳の女性で,3回の非構造化面接を通じてデータ収集し,得られたデータは量的・質的な内容分析を行った.語られたライフストーリーについては,そのアウトラインを提示し,要約を記述した.そのライフストーリーは,他者との関係性のストーリーを語るという女性の発達の様相を呈し,残された人生に対しても,人とのつながりを通して自己の存在に意味づけをしていくことが示されていた.ライフストーリーの語られ方に関する分析結果では,過去の各人生時期の語りにかけられた時間には密度の濃淡があることや,ライフストーリーにおける空自の時間の存在が確認され,聞き手が空白の時間をも共有しながら聞くことの重要性が示唆された.