抄録
本稿は,これまであまり着目されてこなかったオーストラリアにおける米産業の動向を明らかにすることを目的とした。また,同国米産業を題材としたESDのあり方を検討した。オーストラリア国内での米の経済的インパクトは小さいものの,米は同国の輸出用作物として栽培されてきた。灌漑地域の形成とともに入植が開始されて商業的米生産が始まり,同国の米生産はほぼNSW州の灌漑地域で行われていた。そこでは水利用制限の下,輪作の導入など環境に配慮しつつ高収量品種を導入することで合理的,かつ大規模にビジネスとしての稲作が展開していた。近年は干ばつによる水制限のため,綿花など市場価格が伸びている作物への転換がみられるなど米農家数が大きく変動していることが明らかとなった。オーストラリアにおける米産業の動向は水利用の視点からESDに活用でき,本研究の結果は資料的価値が高いものといえる。