抄録
本稿は,愛媛県鬼北町における座敷雛がいかにして発生し,その後の中止と復活を経たうえで地域行事の一つとして継承されてきた過程を分析した。これらにより,鬼北町の地域文化としての座敷雛の特徴や役割を明らかにすることを目的とした。
八幡浜市真穴地区が発祥とされる座敷雛は,20世紀前半に,同地区と鬼北町旧広見町の住民との間での婚姻関係の成立により伝播した。1990年代になって,きほく座敷雛保存会のメンバーが座敷雛展示を復活させ,その造園技術やメンバーの継続的確保などによって,座敷雛展示は次第に鬼北町における代表的な地域行事の一つとして定着した。さらに,道の駅での展示の開始や,鬼北町内外の組織と連携したイベントの実施など,座敷雛展示の拡大や継続は,地域に活力を与える一助として貢献した。
メンバーの高齢化を理由に,2019年にこの活動は終了したが,座敷雛展示は25年間にわたって継続されたことに加え,約100年前の地域間交流や人の往来を浮き彫りにしたことも評価されるべきである。