抄録
本稿では,カナダ国立公園局の史跡情報データベースおよび現地調査にもとづいて,カナダの沿海諸州に居住するフランス語系少数集団アカディアンに関連する史跡を事例に,エスニック集団の文化遺産を活用した地域活性化の試みを検討する。最近まで,アカディアンに関連する国指定史跡は18世紀以前にさかのぼるフランス植民地時代や英仏植民地抗争期の要塞などがその大半をしめていた。 2017年に史跡指定が発表されたノートルダム・ドゥ・ラソンプション大聖堂は20世紀半ばの建築であり,マイノリティとして苦難の歴史を歩んできたアカディアンのレジリエンスの象徴である。大聖堂は,史跡指定により文化遺産としての価値を増したことに加え,最新の技術を活用したデジタル博物館としてよみがえり,とくに北アメリカ各地に居住するアカディアンの末裔によるルーツ・ツーリズムを中心に観光客の増加といった地域活性化への貢献が期待される。