本論は,「増田レポート」によって「消滅可能性自治体」のひとつとされた東京都利島村を事例に,高齢者の農業とその意義を明らかにすることを目的とする。利島は,東京都心の南方約130kmに位置する人口300人の離島である。主要農作物は,生産量日本一のツバキ油で,そのほかアシタバ・シドケなどの葉物がわずかながら栽培されている。利島村の農家に聞き取り調査を実施したところ,農家は主に60~80歳代の高齢夫婦であった。高齢夫婦は,ツバキ油の原料となるツバキ実を拾うことと,葉物を生産することで年間100万円程度の所得を得ていた。こうした年間100万円程度の「小さな農業」は,青壮年層ではなく,年金を生計の基盤としている高齢者だからこそ可能である。つまり,高齢者による「小さな農業」が,利島村の地域農業を支えている。