抄録
本報告では,佐賀県脊振山麓の集落を事例に,人口減少・担い手不足の進む中山間地域における高齢者農業の存続実態と意義について検討した。事例集落では,1990年代までハウスを利用した小ネギ生産が盛んであった。その後,小ネギ栽培を行っていたハウスを再利用した軽量野菜を中心とする少量多品目栽培への転換,さらに近年では,稲作への回帰や労働負担の少ない干し柿生産がみられるようになった。こうした変化の背景には,高齢化による限られた労働力と資源を前提とした,あくまで世帯の維持を最低限の主目的とする農業の展開,さらには農作業の受委託や土地の貸借・売買関係にみられるような集落内おいてほぼ完結する地縁的関係に依拠した非経済的動機にもとづく地域社会全体の維持に対する住民の意識が作用していた。